Volume 26, No.1 Pages 44 - 47
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第4回SPring-8秋の学校を終えて
The 4th SPring-8 Autumn School
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事(秋の学校担当)/(国)量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門 Quantum Beam Science Research Directorate, National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology
秋の学校概要
第4回SPring-8秋の学校が、12月20日(日)~12月23日(水)の3泊4日の日程で開催されました。SPring-8秋の学校はSPring-8ユーザー協同体(SPRUC)と高輝度光科学研究センター(JASRI)が主催し、大学や関係諸機関の協力を得て行われるものです。校長にはSPRUC会長の木村昭夫先生(広島大学教授)が就任し、事務局はJASRI利用推進部にご担当いただきました。第3回から一部大学ではSPring-8秋の学校への参加を単位認定する動きがあり、兵庫県立大学では大学院新設コースでの講義・実習の単位の一部として認定、また、関西学院大学では学部学生用の集中講義科目として単位を認定しています。
「SPring-8秋の学校」は、SPring-8ユーザーの発掘、ひいては次世代の放射光科学に貢献する人材の発掘を目指しています。「SPring-8夏の学校」と違い、放射線業務従事者登録や学年、指定校推薦等の参加資格の制限がなく、誰でも参加でき、卒業研究や大学院進学を控えた方々が進路を考える機会、また、これから放射光の利用を考えている大学院生や企業研究者の方々へ放射光を知っていただく機会等々、となることを趣旨としています。
実施時期についてですが、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で実行委員会の組織が大幅に遅れたことから9月開催を断念し、12月開催としました。募集人数を40名程度とする一方で“密”回避のために講習数を20(1講習当たり受講生2名を目安)程度準備することを決めました。
今回、21校8社(国研、大学含む)から47名の参加を得ました。内訳は次の通りです。学生38名(学部1年生1名、学部2年生1名、学部3年生7名、学部4年生11名、博士課程前期(修士)1年12名、博士課程前期(修士)2年4名、博士課程後期1年1名、博士課程後期2年1名)、社会人9名(企業からの参加3名、大学関係者2名、国研関係者4名)。男性32名、女性15名。33名がSPring-8/SACLAの今年度の放射線業務従事者登録“なし”でした。
図1 講義風景
カリキュラムについて
カリキュラムは、初日に3講座、2日目に4講座の基礎的な講義を行い、その後の2日間に3テーマのグループ講習が行われました。参加者は以下の「グループ講習について」で示す18テーマから希望する3テーマを選択し、受講しました。2日目には、SACLAとSPring-8蓄積リング実験ホール一周の見学が行われました。
第4回SPring-8秋の学校 日程表
基礎講義について
基礎講義内容と担当者(敬称略)は以下の通りです。工夫が凝らされ大変わかりやすく、また、講義中や講義後の質問が多くて時間がおす場面も多くあり、参加者にとって満足のゆく講義であったと思われます。
基礎講義1. 放射光発生の基礎
正木満博(高輝度光科学研究センター)
基礎講義2. ビームライン
~光源と実験ステーションを繋ぐもの~
仙波泰徳(高輝度光科学研究センター)
基礎講義3. X線イメージング
篭島靖(兵庫県立大学)
基礎講義4. X線自由電子レーザー入門
大坂泰斗(理化学研究所)
基礎講義5. 回折・散乱の基礎と構造解析への応用
藤原明比古(関西学院大学)
基礎講義6. XAFSの基礎
伊奈稔哲(高輝度光科学研究センター)
基礎講義7. X線検出器の基礎
上杉健太朗(高輝度光科学研究センター)
グループ講習について
グループ講習のテーマと担当者(敬称略)は以下の通りでした。今回18テーマ20講習を準備することができました。SPring-8施設の停止期間中ではありましたが、現地にて実際の装置やデータを手に取って進めることで効果的な講習になったと思われます。
1. 単結晶構造解析
橋爪大輔(理化学研究所CEMS)
杉本邦久(高輝度光科学研究センター)
2. 粉末X線回折によるその場観測の実際
河口彰吾(高輝度光科学研究センター)
山田大貴(高輝度光科学研究センター)
3. タンパク質結晶構造解析
水島恒裕(兵庫県立大学)
河村高志(高輝度光科学研究センター)
4. 小角X線散乱※
増永啓康(高輝度光科学研究センター)
関口博史(高輝度光科学研究センター)
5. PDF法を用いたガラスの構造解析
尾原幸治(高輝度光科学研究センター)
山田大貴(高輝度光科学研究センター)
廣井慧(高輝度光科学研究センター)
6. X線非弾性散乱入門
筒井智嗣(高輝度光科学研究センター)
Baron Alfred(高輝度光科学研究センター)
7. 応力・ひずみ解析
菖蒲敬久(日本原子力研究開発機構)
冨永亜希(日本原子力研究開発機構)
城鮎美(量子科学技術研究開発機構)
8. X線回折・散乱を用いた薄膜構造評価
小金澤智之(高輝度光科学研究センター)
9. X線反射率法(とその発展形)による界面構造解析
若林裕助(東北大学)
10. X線吸収分光法※
山添誠司(首都大学東京)
新田清文(高輝度光科学研究センター)
別府孝介(龍谷大学)
11. リアルで視る軟X線分光
松田巌(東京大学)
12. 赤外分光分析
池本夕佳(高輝度光科学研究センター)
岡村英一(徳島大学)
13. 光電子分光(HAXPES)
保井晃(高輝度光科学研究センター)
高木康多(高輝度光科学研究センター)
14. メスバウアー分光入門
藤原孝将(量子科学技術研究開発機構)
15. X線CT入門
上杉健太朗(高輝度光科学研究センター)
八木直人(高輝度光科学研究センター)
16. 結像型X線顕微鏡による顕微CT
高山裕貴(兵庫県立大学)
17. 高圧力の発生と高圧下の物質科学
石松直樹(広島大学)
町田晃彦(量子科学技術研究開発機構)
18. ドーパント原子配列解析
松下智裕(奈良先端科学技術大学院大学)
※ 2講習実施テーマ
今回、新型コロナウイルス感染拡大のなかでの募集であり、申し込みがあるかどうか不安もありましたが47名の参加を得て開催することができました。参加者や講師の皆様がSPring-8の定める感染防止対策をしっかり守ってくださったおかげで、閉校後3週間経った本稿執筆時点でも体調不良等の報告は届いておりません。
グループ講習は例年と比べると少人数での実施となりましたが、受講者のコメントを見ますと、かえって好評だったようです。一方、講習の先生方からの意見は分かれました。今回残念ながら懇親会、バーベキュー等は感染防止の観点から実施できませんでしたが、代わりに自己紹介の時間等を設け交流の機会を確保しました。参加者同士それなりにコミュニケーションが取れ互いに良い刺激を受けたようでした。
参加者に実施したアンケートによれば、どのようにSPring-8秋の学校を知ったか(複数回答可)については「周囲の勧めで」が最も多く、「ポスター」「募集メール」と続きます。ここに改めて、関係する皆様のご支援に感謝申し上げます。
次回以降、アンケートの分析結果をもとにSPring-8秋の学校をどのような方向に発展させていくかはSPRUC全体の課題です。SPRUC会員の皆様の忌憚のないご意見を賜ることができれば幸いです。
最後に、今回の参加申し込み数は60件あったことを附記します。この件数は過去最高の前回(64件)に近く、「SPring-8秋の学校」が広く認知されてきた結果であると期待します。様々な事情から今回参加を見送らざるを得なかった方々の、次の機会の参加をお待ちします。
図2 グループ講習風景
図3 見学風景
謝辞
新型コロナウイルス感染拡大のなかでの開催となりましたが、このような状況下にあっても、丁寧に講義をしてくださった講師の先生方や2日間にわたる講習を熱心に指導していただいたグループ講習担当の先生方、分かりやすい説明で参加者の興味を引きつけてくださった見学引率者の皆様に感謝申し上げます。
また、事務局として関係各所との調整、ウェブ作成等実に様々な準備・手続等をしていただきましたJASRI事務局担当者の皆様に感謝申し上げます。新型コロナウイルス感染拡大防止対策に御助言いただき、開催期間中も常に気をかけていただきましたJASRIの岡田看護師に感謝申し上げます。新型コロナウイルス感染拡大のなかでの秋の学校実施計画の立案には2020年夏に実施された「第20回SPring-8夏の学校」の経験が大変参考になりました。感謝申し上げます。
受講生の入域や宿泊の管理、また、秋の学校のために本来予定していなかった日時の食堂の営業を決断してくださった理化学研究所に感謝申し上げます。
最後に、講師の選定、テーマの決定にご協力いただいたSPRUC研究会の方々に感謝申し上げます。
(国)量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門
関西光科学研究所 放射光科学研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-1045
e-mail : ohwada.kenji@qst.go.jp
第4回SPring-8秋の学校に参加して
住友電気工業株式会社
解析技術研究センター
髙橋 美郷
住友電気工業株式会社では放射光を用いて研究開発を行っています。私個人は今年の秋から放射光分析に取り組み始めてSPring-8も利用していましたが、放射光分析に関して経験も浅く、まだまだ初心者でした。そのような時に企業の研究者も参加可能で放射光の基礎を学べる「秋の学校」の存在を知り、参加することにしました。
基礎講義では、光源、光学系、検出器の原理から、回折・散乱・吸収・イメージングと実際の測定手法まで網羅的に解説してくださり、放射光科学についての理解が進みました。参加者の中にはこれから放射光を利用したいという方も多く、放射光科学を広範に学べたことは、これから使う手法の勉強に役に立つと共に、モチベーションアップにもなったと思います。私は、特にX線自由電子レーザー入門の講義が印象的でした。全く予備知識がありませんでしたが、レーザーとは何かの話から始まり、X線自由レーザーの仕組みや、それを利用したサイエンスについて面白い例えを交えながら説明していただいたので理解することができました。また、実際の実験の様子も紹介していただき、世界の第一線の研究の話に胸が高鳴りました。
グループ講習ではビームラインに行き、実験の手法を、装置を実際に見て動かしながら解説してくださいました。また、測定データを使用してデータ解析を体験しました。2~3人と少人数の講習であっため疑問点を丁寧に教えていただけ、理解が深まりました。また、SPring-8が停止期間のため、普段は入れない上流のハッチの見学ができ、貴重な経験となりました。
今年は例年開催されている懇親会やバーベキューが中止になってしまいましたが、講義の後やグループ講習の時などに参加者や講師の方とお話しすることができ、交流を深められたと思います。参加者のバックグラウンドは、無機材料、高分子やタンパク質の構造解析や木材や果実などの環境物質の分析など幅広いことに驚きました。放射光施設を利用するという共通点で他分野の研究者と交流ができ、有意義な時間でした。これから放射光施設を利用したいと考えている学生の参加者も多く、彼らにとっても刺激的な経験となったことと思います。今後、SPring-8で再会できることを楽しみにしています。
最後になりますが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で不安が広がるなか、グループ講習も含めた例年と変わらぬカリキュラムで実施していただき、ありがとうございました。充分な感染対策がされていて、安心して参加することができました。開催するにあたり、苦労も多かったことと思います。講師の先生方、ビームライン実習担当の職員の皆様ならびにSPring-8秋の学校事務局の皆様にお礼申し上げます。
図4 集合写真(放射光普及棟前にて撮影)