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Volume 26, No.1 Pages 2 - 7

1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH

その場X線ラマン散乱分光によるリチウムイオン電池黒鉛負極の電子状態解析
In situ X-ray Raman Scattering Spectroscopy of a Graphite Electrode for Lithium-Ion Batteries

野中 敬正 NONAKA Takamasa[1]、川浦 宏之 KAWAURA Hiroyuki[2]、牧村 嘉也 MAKIMURA Yoshinari[2]、西村 友作 NISHIMURA Yusaku[3]、堂前 和彦 DOHMAE Kazuhiko[1]

[1](株)豊田中央研究所 分析部 量子ビーム解析研究室 Quantum Beam Analysis Lab., Materials Analysis & Evaluation Dept., Toyota Central R&D Labs., Inc.、[2](株)豊田中央研究所 環境・エネルギー1部 電池材料・プロセス研究室 Battery Materials & Processing Lab., Environment & Energy Dept. I, Toyota Central R&D Labs., Inc.、[3](株)豊田中央研究所 機械1部 パワトレシステム研究室 Powertrain System Lab., Mechanical Engineering Dept. I, Toyota Central R&D Labs., Inc.

Abstract
 X線ラマン散乱分光(X-ray Raman scattering: XRS)は、透過能の高い硬X線をプローブとして軟X線吸収分光と同等の情報を得ることができる手法である。同手法の適用により、軟X線吸収分光では一般的に困難である軽元素の非破壊・その場解析を容易に実現できる。一方、黒鉛は、リチウムイオン電池の負極として最も広く利用されている材料であるが、電池充放電に伴う炭素の電子状態変化については未だ十分には解明されていない。本研究では、充放電可能なセルを用いた黒鉛負極のその場XRS測定手法を開発し、放電中に現れる3種の相(LiC6、LiC12、黒鉛)についてC K吸収端XRS測定を行った。観測された放電に伴うスペクトル変化は先行研究の結果と合致するものであり、開発したその場XRS測定手法が、電池動作中の黒鉛負極の電子状態評価に有用であることがわかった。
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1. はじめに
 黒鉛は、その低コスト、天然資源の豊富さ、高エネルギー密度、長期耐久性などの理由から、リチウムイオン電池の負極として最も広く利用されている材料である[1-3][1] J. M. Tarascon and M. Armand: Nature 414 (2001) 359-367.
[2] N. Nitta, F. Wu, J. T. Lee and G. Yushin: Mater. Today 18 (2015) 252-264.
[3] M. Obrovac and V. Chevrier: Chem. Rev. 114 (2014) 11444-11502.
。黒鉛負極では、充放電に伴いグラフェン層間にリチウムイオンが挿入・脱離され、LiC6、LiC12、LiC18などのlithium-intercalated graphite(LIG)が形成される[4,5][4] J. Dahn: Phys. Rev. B 44 (1991) 9170.
[5] T. Ohzuku, Y. Iwakoshi and K. Sawai: J. Electrochem. Soc. 140 (1993) 2490.
。リチウムイオン挿入・脱離に伴うLIGの結晶構造変化についてはよく知られているが、電子状態変化については未だ十分には解明されていない。LIGの電子状態は、リチウムイオン電池の電子伝導度やイオン伝導度を左右する要因の一つであり[6][6] M. Park, X. Zhang, M. Chung, G. B. Less and A. M. Sastry: J. Power Sources 195 (2010) 7904-7929.、これまでに理論・実験両面から幅広く研究されてきた。特に、軟X線吸収分光(軟X線XAS)[7][7] L. Zhang, X. Li, A. Augustsson, C. Lee, J.-E. Rubensson et al.: Appl. Phys. Lett. 110 (2017) 104106.や電子エネルギー損失分光(EELS)[8][8] A. Hightower, C. Ahn, B. Fultz and P. Rez: Appl. Phys. Lett. 77 (2000) 238-240.などの内殻分光は、LIGの電子状態を評価するための有効なツールであることがわかっている。しかしながら、これらの手法では、真空内での測定が必要、分析深さが浅い、などの理由により、一般的にその場(in situ)測定の実施は困難である。電池を解体せずに化学的・物理的特性を直接モニタリングできるその場測定は、今やリチウムイオン電池の研究に欠かせないツールとなっている[9-12][9] P. Harks, F. Mulder and P. Notten: J. Power Sources 288 (2015) 92-105.
[10] X. Liu, W. Yang and Z. Liu: Adv. Mater. 26 (2014) 7710-7729.
[11] T. Nonaka, C. Okuda, Y. Seno, H. Nakano, K. Koumoto et al.: J. Power Sources 162 (2006) 1329-1335.
[12] Y. Makimura, T. Sasaki, H. Oka, C. Okuda, T. Nonaka et al.: J. Electrochem. Soc. 163 (2016) A1450.
。リチウムイオンが挿入された黒鉛負極は空気に対して非常に敏感であるため、LIGの電子状態評価においても大気非暴露のその場測定が望ましい。
 我々は、LIGの電子状態をその場で評価する手法として、X線ラマン散乱(X-ray Raman scattering: XRS)分光に着目した。硬X線を用いたXRSはバルク敏感なX線エネルギー損失分光法であり、双極子近似が成立する条件では、軟X線XASやEELSと同等の情報を得ることができる[13-15][13] H. Hayashi, Y. Udagawa, J.-M. Gillet, W. Caliebe and C.-C. Kao: Chemical Applications of Synchrotron Radiation (World Scientific, Singapore, 2002) 850-908.
[14] U. Bergmann, P. Glatzel and S. P. Cramer: Microchem. J. 71 (2002) 221-230.
[15] C. J. Sahle, A. Mirone, J. Niskanen, J. Inkinen, M. Krisch et al.: J. Synchrotron Radiat. 22 (2015) 400-409.
。同手法では、硬X線の高い透過能を活かして、軽元素の非破壊・その場測定を容易に実現できる。Braunら[16][16] A. Braun, D. Nordlund, S.-W. Song, T.-W. Huang, D. Sokaras et al.: J. Electron. Spectrosc. Relat. Phenom. 200 (2015) 257-263.は、リチウムイオン電池のその場XRS測定により、充放電過程における正極材料中のマンガンの電子状態変化に関する情報が得られることを実証した。LIGについては、Balasubramanianら[17][17] M. Balasubramanian, C. Johnson, J. Cross, G. Seidler, T. Fister et al.: Appl. Phys. Lett. 91 (2007) 031904.、Stutzら[18][18] G. Stutz, M. Otero, S. Ceppi, C. Robledo, G. Luque et al.: Appl. Phys. Lett. 110 (2017) 253901.による非その場(ex situ)XRS測定例が報告されているものの、その場XRS測定の報告例はなかった。本研究では、リチウムイオン電池黒鉛負極のC K吸収端XRSをその場で測定し、電池動作中のLIGの電子状態変化を明らかにするための手法を開発した[19][19] T. Nonaka, H. Kawaura, Y. Makimura, Y. F. Nishimura and K. Dohmae: J. Power Sources 419 (2019) 203-207.。本稿では、開発した手法の詳細と検証実験の結果について述べる。

 

 

2. 実験
 図1(a)に、BL33XU(豊田ビームライン)[20][20] T. Nonaka, K. Dohmae, Y. Hayashi, T. Araki, S. Yamaguchi et al.: AIP Conf. Proc. 1741 (2016) 030043.に構築したその場C K吸収端XRS測定用セットアップの概略図を示す。試料から発生する9793 eVの散乱X線を、鉛直方向のRowland円上に配置したSi(660)球面湾曲分光結晶により分光・集光した上で、二次元検出器(Pilatus 300K、Dectris)により計測した。試料から検出器までの光路上に設置した、ヘリウム置換チェンバーおよび鉛板により、バックグラウンド散乱や空気による吸収を低減した。液体窒素冷却のSi(111)二結晶分光器を用いて、入射X線エネルギーを10053~10150 keVの範囲で掃引することにより、C吸収端XRSスペクトルを取得した。本セットアップにおけるXRSスペクトルのエネルギー分解能は約1.6 eVであった。散乱角は40°に設定した。これは運動量移行3.45 Å−1に相当し、双極子近似の成立条件を満足している。本セットアップでは、X線回折(XRD)測定によりXRS測定中の試料の結晶構造をモニターすることができる。XRD測定には、検出器としてフラットパネルセンサー(C10158DK、浜松ホトニクス)を用い、入射X線エネルギーは10000 eVとした。

 

図1 (a) その場C K吸収端XRS測定用実験セットアップの概略図、(b) その場C K吸収端XRS測定用セルの概略図。文献[19]から許可を得て転載。

 

 

 図1(b)にその場C K吸収端XRS測定用に開発されたセル(以下、“セル”と称する)の概略図を示す。セルは、黒鉛負極、多孔質ポリプロピレンセパレータ、リチウム金属対極、電解液により構成される。負極には人造黒鉛と結着材PVDF(ポリフッ化ビニリデン)を95:5(重量%)で混合し銅の集電箔に塗布したもの、対極にはX線透過用の穴を設けた銅集電箔に金属リチウム板を貼付したものを用いた。負極層の厚さは約100 μmであった。これらの部材を重ねた上で、グローブボックス内でアルミラミネートフィルムを用いて密封した。本セルでは、リチウム対極側からX線を入射し、セル内部から発生する散乱X線を反射配置で計測する。本配置により、X線の吸収能が高い銅箔を透過することなくXRS信号を取得することができる。作製したセルは充放電装置を用いて問題なく充放電が可能であることを確認した後、2枚のベリリウム板で挟み、わずかに加圧した状態でXRS測定に供した。

 

 

3. 結果と考察
 上述の通り、セルは複数の部材層の積み重ねにより構成されており、アルミラミネートフィルム、セパレータ、電解液も黒鉛負極と同様に炭素を含有している。黒鉛負極のXRSスペクトルを取得するためには、これらの部材に由来するスペクトルへの影響を可能な限り排除する必要がある。そこで、図2(a)に示すように、集光ビームを用いた共焦点的な測定手法の適用を試みた。高次光除去ミラーの湾曲機構を用いて入射X線の縦方向の幅を24 μm(半値全幅)に集光するとともに、試料面に対する入射X線の角度を5°に設定した。本セットアップにおける球面湾曲分光結晶の受け入れ角は0.0068°であり、これはビーム進行方向の受け入れ幅1.5 mmに相当する。この条件下では、XRS測定の分析領域は入射X線と分光結晶受け入れ幅が重なる領域(図2(a)で緑で示した領域)に制限される。この状態でセルに対するX線の照射位置(試料高さ)を調整すれば、目的とする黒鉛負極のみのXRSスペクトルが取得できると考えた。黒鉛負極の位置を決定するために、セルの弾性散乱強度の試料位置依存性を測定した。また、各構成部材単体(ベリリウム板、アルミラミネートフィルム、セパレータ、黒鉛負極)の弾性散乱強度プロファイルも同様に測定した。得られたセルの試料位置依存性プロファイルを単体で取得したプロファイルと比較することにより黒鉛負極の位置を推定した。推定された位置で取得したセルのC K吸収端XRSスペクトルを、構成部材単体のスペクトルとともに図2(b)に示す。横軸のEnergy Loss(eV)は、入射X線エネルギーから分光X線エネルギー(9793 eV)を差し引いたものである。セルのXRSスペクトルのピーク位置および形状は、黒鉛負極単体のスペクトルと良い一致を示した。一方、セパレータやアルミラミネートフィルムのスペクトルとは一致しなかった。これらの結果から、セルに対するX線照射位置を調整することにより、共存する炭素含有部材の影響を排除した黒鉛負極のXRSスペクトルが取得可能であることがわかった。

 

図2 (a) XRS測定の分析領域、(b) その場XRS測定用セル内の黒鉛負極およびセル構成部材単体(黒鉛負極、セパレータ、アルミラミネートフィルム)のC K吸収端XRSスペクトル。文献[19]から許可を得て転載。

 

 

 本研究では、放電過程に現れる3種のLIG相、すなわちLiC6、LiC12、黒鉛(図3(a))について、次のような手順でC K吸収端XRS測定を実施した。XRS測定中に得られたセルの放電曲線を図3(b)に示す。まず充放電装置を用いてセル電位を0.005 Vまで充電した。本電位においては、全ての黒鉛がLiC6に変化していると予想された[5][5] T. Ohzuku, Y. Iwakoshi and K. Sawai: J. Electrochem. Soc. 140 (1993) 2490.。セル電位を0.005 Vに維持しながら、251分間C吸収端XRSスペクトルを測定した。XRS測定の前後にXRD測定を行い、セル内の黒鉛電極の結晶構造をモニターした。その後、セルを放電する過程において、同様の手順による測定を電位0.12 Vおよび2 Vについても実施した。これらの電位においては、それぞれLiC12、黒鉛の単相として存在していると予想された。これら3つのセル電位において測定したXRDパターンを図3(c)に示す。それぞれの電位について単一の回折ピークが観測され、回折角(2θ)から導出した格子定数の値は文献値[21][21] X.-L. Wang, K. An, L. Cai, Z. Feng, S. E. Nagler et al.: Sci. Rep. 2 (2012) 747.と良い一致を示した。本結果より、セル電位0.005 V、0.12 Vおよび2 Vにおいて、黒鉛負極はそれぞれLiC6、LiC12および黒鉛の単相として存在していることが確認された。

 

図3 (a) LiC6、LiC12および黒鉛の結晶構造、(b) その場XRS測定用セルの放電曲線、(c) XRS測定前に取得したセルのXRDパターン。文献[19]から許可を得て転載。

 

 

 図4に、セル電位0.005 V、0.12 Vおよび2 Vで測定したセル内黒鉛電極のC K吸収端XRSスペクトルを示す。285.5 eV付近のピークはC 1s軌道からπ*軌道への遷移に相当し、290 eV付近から立ち上がるブロードな構造はC 1s軌道からσ*軌道への遷移に相当する[22][22] P. Batson: Phys. Rev. B 48 (1993) 2608.。セルの放電、すなわちリチウムイオンの脱離に伴って、スペクトルに以下の2つの系統的な変化が認められた。黒鉛負極中のリチウム含有量が減少するにつれて、1s→π*遷移ピークの強度が増大するとともに、1s→σ*遷移の立ち上がり位置が高エネルギー側へシフトした。複数のグループが、XRS[17,18,23][17] M. Balasubramanian, C. Johnson, J. Cross, G. Seidler, T. Fister et al.: Appl. Phys. Lett. 91 (2007) 031904.
[18] G. Stutz, M. Otero, S. Ceppi, C. Robledo, G. Luque et al.: Appl. Phys. Lett. 110 (2017) 253901.
[23] W. Schülke, A. Berthold, A. Kaprolat and H.-J. Güntherodt: Phys. Rev. Lett. 60 (1988) 2217-2220.
、軟X線XAS[7][7] L. Zhang, X. Li, A. Augustsson, C. Lee, J.-E. Rubensson et al.: Appl. Phys. Lett. 110 (2017) 104106.、EELS[8][8] A. Hightower, C. Ahn, B. Fultz and P. Rez: Appl. Phys. Lett. 77 (2000) 238-240.、X線発光分光[24][24] A. Mansour, S. Schnatterly and J. Ritsko: Phys. Rev. Lett. 58 (1987) 614.を用いて、LiC6のπ*ピーク強度が黒鉛と比べて低下することを実験的に明らかにしている。また、XRS[18][18] G. Stutz, M. Otero, S. Ceppi, C. Robledo, G. Luque et al.: Appl. Phys. Lett. 110 (2017) 253901.およびEELS[25][25] J. Titantah, D. Lamoen, M. Schowalter and A. Rosenauer: Carbon 47 (2009) 2501-2510.の密度汎関数理論計算によっても、LiC6のπ*ピーク強度の低下が予測されている。Titantahら[25][25] J. Titantah, D. Lamoen, M. Schowalter and A. Rosenauer: Carbon 47 (2009) 2501-2510.は、この低下の主な原因は、LiC6中の炭素原子の周りにLi 2s伝導電子が集まることによるクーロンポテンシャルの遮蔽効果であると提唱している。今回観測されたπ*ピーク強度の変化は、これらの実験的・理論的研究の結果と良く一致した。LiC12のπ*ピーク強度はLiC6と黒鉛の中間に位置した。この傾向は、文献[18]で報告されたXRS測定の結果と合致するものであった。1s→σ*遷移の立ち上がり位置のシフトについても、複数の先行研究[7,17,18,25][7] L. Zhang, X. Li, A. Augustsson, C. Lee, J.-E. Rubensson et al.: Appl. Phys. Lett. 110 (2017) 104106.
[17] M. Balasubramanian, C. Johnson, J. Cross, G. Seidler, T. Fister et al.: Appl. Phys. Lett. 91 (2007) 031904.
[18] G. Stutz, M. Otero, S. Ceppi, C. Robledo, G. Luque et al.: Appl. Phys. Lett. 110 (2017) 253901.
[25] J. Titantah, D. Lamoen, M. Schowalter and A. Rosenauer: Carbon 47 (2009) 2501-2510.
の結果と一致した。このシフトも、クーロンポテンシャルの遮蔽効果に起因すると考えられている[25][25] J. Titantah, D. Lamoen, M. Schowalter and A. Rosenauer: Carbon 47 (2009) 2501-2510.。以上のように、リチウム含有量の変化に伴うXRSスペクトルの系統的な変化は、先行研究の結果と良く一致した。このことから、観測されたスペクトル変化が電池放電に伴う黒鉛負極の電子状態変化を反映したものであると結論付けた。

 

図4 セル電位0.005 V、0.12 Vおよび2 Vで測定したセル内黒鉛電極のC K吸収端XRSスペクトル、(右上) 吸収端近傍領域(282~296 eV)の拡大図。文献[19]から許可を得て転載。

 

 

4. まとめと展望
 リチウムイオン電池黒鉛負極のその場C K吸収端XRS測定用のセルおよび実験セットアップを開発・確立した。本セットアップでは、共焦点的な手法により、共存する炭素含有部材の影響を排除して黒鉛負極層のみのXRSスペクトルを取得可能である。また、XRS測定中の黒鉛負極の結晶構造変化を同時XRD測定によりモニターできる。放電過程に現れる3種のLIG相(LiC6、LiC12、黒鉛)について、その場C K吸収端XRS測定を実施した結果、リチウム含有量の変化に伴う系統的なスペクトル変化が観測された。この変化は先行研究の結果と合致するものであり、黒鉛負極の電子状態変化に起因していることがわかった。これは、開発したその場XRS測定手法が、電池動作中の黒鉛負極の電子状態評価に有用であることを意味している。本手法を様々な動作条件下のリチウムイオン電池に適用することにより、電池の性能向上に繋がる重要な知見が得られると期待される。また本手法は、XRD、硬X線XAS、蛍光X線分析、X線ラジオグラフィーなど、他の硬X線分析手法と容易に組み合わせることが可能である。例えば、我々は最近、Li[Li0.15Mn1.85]O4正極材料の反応機構を解明すべく、その場O K吸収端XRS測定とその場Mn K吸収端XAS測定を相補的に活用した[26][26] K. Mukai, T. Nonaka, T. Uyama and Y. F. Nishimura: Chem. Commun. 56 (2020) 1701-1704.。今後、その場XRSと他の硬X線手法を組み合わせた解析により、リチウムイオン電池の諸現象に関する理解が大幅に深まると確信している。

 

 

謝辞
 本研究は、課題番号2016A7008、2016B7008、2017A7008、2017B7008のもとで実施された。X線ラマン散乱分光法の導入に際し、日本女子大学 林久史教授から数多くのご指導、ご助言を賜った。この場をお借りして深く感謝申し上げる。

 

 

 

参考文献
[1] J. M. Tarascon and M. Armand: Nature 414 (2001) 359-367.
[2] N. Nitta, F. Wu, J. T. Lee and G. Yushin: Mater. Today 18 (2015) 252-264.
[3] M. Obrovac and V. Chevrier: Chem. Rev. 114 (2014) 11444-11502.
[4] J. Dahn: Phys. Rev. B 44 (1991) 9170.
[5] T. Ohzuku, Y. Iwakoshi and K. Sawai: J. Electrochem. Soc. 140 (1993) 2490.
[6] M. Park, X. Zhang, M. Chung, G. B. Less and A. M. Sastry: J. Power Sources 195 (2010) 7904-7929.
[7] L. Zhang, X. Li, A. Augustsson, C. Lee, J.-E. Rubensson et al.: Appl. Phys. Lett. 110 (2017) 104106.
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[9] P. Harks, F. Mulder and P. Notten: J. Power Sources 288 (2015) 92-105.
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[17] M. Balasubramanian, C. Johnson, J. Cross, G. Seidler, T. Fister et al.: Appl. Phys. Lett. 91 (2007) 031904.
[18] G. Stutz, M. Otero, S. Ceppi, C. Robledo, G. Luque et al.: Appl. Phys. Lett. 110 (2017) 253901.
[19] T. Nonaka, H. Kawaura, Y. Makimura, Y. F. Nishimura and K. Dohmae: J. Power Sources 419 (2019) 203-207.
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[24] A. Mansour, S. Schnatterly and J. Ritsko: Phys. Rev. Lett. 58 (1987) 614.
[25] J. Titantah, D. Lamoen, M. Schowalter and A. Rosenauer: Carbon 47 (2009) 2501-2510.
[26] K. Mukai, T. Nonaka, T. Uyama and Y. F. Nishimura: Chem. Commun. 56 (2020) 1701-1704.

 

 

 

野中 敬正 NONAKA Takamasa
(株)豊田中央研究所 分析部 量子ビーム解析研究室
〒480-1192 愛知県長久手市横道41-1
TEL : 0561-71-7229
e-mail : nonaka@mosk.tytlabs.co.jp

 

川浦 宏之 KAWAURA Hiroyuki
(株)豊田中央研究所 環境・エネルギー1部 電池材料・プロセス研究室
〒480-1192 愛知県長久手市横道41-1
TEL : 0561-71-7564
e-mail : kawaura@mosk.tytlabs.co.jp

 

牧村 嘉也 MAKIMURA Yoshinari
(株)豊田中央研究所 環境・エネルギー1部 電池材料・プロセス研究室
〒480-1192 愛知県長久手市横道41-1
TEL : 0561-71-7561
e-mail : ymakimura@mosk.tytlabs.co.jp

 

西村 友作 NISHIMURA Yusaku
(株)豊田中央研究所 機械1部 パワトレシステム研究室
〒480-1192 愛知県長久手市横道41-1
TEL : 0561-63-4300
e-mail : yusaku-nishimura@mosk.tytlabs.co.jp

 

堂前 和彦 DOHMAE Kazuhiko
(株)豊田中央研究所 分析部 量子ビーム解析研究室
〒480-1192 愛知県長久手市横道41-1
(現所属)
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 産業利用推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0978
e-mail : kdohmae@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794