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Volume 26, No.1 Pages 79 - 83

4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

専用ビームラインにおける評価・審査の結果について
Review Results of Contract Beamlines

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 SPring-8に設置されている専用ビームラインは、登録施設利用促進機関であるJASRIの専用施設審査委員会において、「放射光専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に基づき、評価・審査等を実施し、その評価・審査の結果は、SPring-8選定委員会に諮った後に通知・公表されます。
 以下の2機関3本の専用ビームラインについては、2020年12月に専用施設審査委員会(以下、本委員会という)で評価・審査を実施し、その評価審査の結果を2021年2月に開催しましたSPring-8選定委員会に諮り、承認されましたので以下、報告します。

 

 

中間評価
・兵庫県BMビームライン(BL08B2)
・兵庫県IDビームライン(BL24XU)
 (設置者:兵庫県)

利用状況等評価・次期計画審査
・革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発ビームライン(BL28XU)
 (設置者:国立大学法人京都大学)

 

 

 兵庫県が設置した兵庫県BMビームライン(BL08B2)および兵庫県IDビームライン(BL24XU)は、元々は設置時期の異なる専用ビームラインでしたが、前回の契約更新時の結果から、今回は2本同時期に中間評価を実施しました。評価の結果は、ともに今後の運用を「継続」することとなりました。
 国立大学法人京都大学が設置した革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発ビームライン(BL28XU)は、契約上の設置期間満了前に再契約の意思表示があり、本委員会で利用状況等の評価と次期計画の審査を実施しました。
 評価・審査の結果は、5年間の再契約を「承認」することし、2年半後を目途に中間評価を行うこととなりました。

 

 評価・審査結果の詳細については、以下、各施設の報告書を参照ください。

 

 

兵庫県BM・IDビームライン(BL08B2・BL24XU)中間評価報告書

 

 兵庫県ビームラインは1998年にSPring-8最初の専用ビームラインとして稼働したBL24XUと2004年より稼働したBL08B2の二つのビームラインからなり、BL24XUは2018年から第三期の、BL08B2は2016年から第二期の利用期となっている。BL24XUは2018年の契約更新の際、次期計画の方向性、具体性が不十分で満足な利用成果創出の実現に懸念があったため、次期計画開始3年後を目途にBL08B2と共に中間評価を行なうことを勧告されており、今回兵庫県が設置した2本のビームラインであるBL24XUとBL08B2の中間評価を同時に行なうこととなった。
 兵庫県が設置するBL24XU及びBL08B2の2本の兵庫県ビームラインは、産業分野に関わる利用者が放射光を利活用するための専用施設であり、産業界が求めるニーズを捉えて必要な計測機能を整備・提供し、(公財)ひょうご科学技術協会放射光研究センターが兵庫県からの委託を受けて利用者を支援している。主要利用者はものづくり企業であるが、産学官連携の体制で新材料の研究開発に携わる大学等にも供用されている。
 2018年度からの今利用期では、未経験者も利用しやすい利用制度の導入や県放射光利用戦略会議と県ビームライン運営会議の設置、管理運営委託先の変更等の兵庫県によるガバナンス強化により、2020年までの3年間の成果目標である(1)72報の論文と60件の成果報告、(2)12,792千円のビーム料、(3)新分野のユーザー獲得に向けた放射光利用の裾野拡大への貢献、の3項目に関して、今回の中間評価の時点で(1)以外は達成するに至り、成果の進展が見られている他、兵庫県が実施した利用者からのヒヤリングでも企業の事業活動への貢献の声が寄せられていることから、専用施設審査委員会は当該ビームラインの設置と運用を「継続」することを勧告することが妥当であると判断した。
 以下、兵庫県から本委員会に提出された「兵庫県ビームライン(BL24XU・BL08B2)中間評価報告書」と2020年12年4日に開催された本委員会での報告および討議に基づき、以下の点についてその評価と提言を記す。

 

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 BL24XUは8の字アンジュレーターの高輝度光源を用い、産業界がSPring-8の威力を実感する機会の提供と人材育成等、普及の初歩的な役割に主眼が置かれたビームラインであるが、これまでこの高輝度光源によって分光器が受ける熱負荷が増大し、強度の低下や結晶の歪みによるビームの発散、ドリフトによる経時安定性の低下など、種々の問題があった。これらの問題を解決することを目的に、今期において液体窒素冷却式分光器の導入と輸送部光学系機器の最適レイアウトを行なうことで、ビームの安定性を格段に向上させた。一方、産業界からの高難度のイメージングのニーズに応えるために、高ダイナミックレンジ・高フレームレート・高解像度の2次元検出器の導入やSPring-8-IIでの本格利用をめざしX線タイコグラフィの実装を行ない、また、多波回折明視野トポグラフィの開発と実用化を行なうなど、兵庫県ビームラインとして特徴を持つようになった。BL08B2は偏向電磁石を光源とし、XAFS、トポグラフ、CT、X線回折、X線小角散乱など、産業界でニーズの高い計測法を提供するビームラインである。重点産業分野への対応と特徴あるビームラインを目指し、当初、ビームラインの自動化への改造や精密評価技術の新規整備を予定していたが、ビームライン機器の自動アライメント機能の整備や自動計測システムの整備、さらに金属材料向けの実験環境の整備など当初の計画を上回る高度化を実現した。ビームライン機器の自動アライメント機能については、光学系アライメントの全自動化が実現されており、これまで複数人で1時間程度かかっていた光学系のアライメントが一人で、20分ほどでできるなど、省力化、短時間化の両方が実現できている。
 以上示したように、BL24XUはSPring-8の高輝度放射光の特徴を活かした先端的な利用技術を産業応用に展開することを目的としたビームラインであり、一方、BL08B2は産業界における放射光利用のすそ野を広げることを目的としたビームラインであり、2つのビームラインの特徴を活かしながら放射光の産業応用への展開が十分期待できる。

 

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 兵庫県ビームラインは県が作成した8つの基本方針(新方針)により、(公財)ひょうご科学技術協会放射光研究センターが運営主体となり、新分野のユーザー獲得や設置者(兵庫県)によるガバナンスの明確化による他のビームラインとの差別化と成果創出の推進に取り組んでいる。
 この基本方針により、随時利用など企業利用者が利用しやすい制度を以前から実施されているが、さらに今利用期からは放射光未経験者が利用しやすいよう半日単位の利用制度や、中小企業が安く利用しやすいよう1時間単位で利用できる制度も導入し、企業利用に対して他にはない特徴を持って取り組んでいることが評価できる。さらにマテリアルズ・インフォマティクス(MI)と連携してもの作りのプロセスを支援としている取り組みは今後の展開が期待される。産業利用の良き参考モデルとして、一つの方向性を示しているものと評価する。兵庫県は兵庫県放射光利用戦略会議の開催や兵庫県ビームライン運営会議を設置したり、兵庫県ビームラインの管理運営を(公財)ひょうご科学技術協会に一元化するなどしたりして、これまで曖昧であった県によるガバナンスを明確化したことは評価できる。一方で、マンパワーの問題もあると思われるので、兵庫県庁と放射光研究センター間のコミュニケーションを強化して活動を推進する必要があると思われる。

 

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 兵庫県ビームラインが成果の目標と設定した3項目、(1)論文等報告:年間40報、(2)成果専有料:年間4,000千円以上、(3)利用の裾野拡大、に対しては(1)は2018、2019年度共に未達で、現在増加傾向にあるものの目標達成が難しい状況である。(2)は2018、2019両年度共に11,000千円を超える実績があった。(3)は食品・調理分野等での成果が得られている。まだ成果はこれからではあるがMIとの連携での活動が進展している点で目標達成していると言える。(1)の未達の原因については、兵庫県ビームラインの利用者の80%が企業であり事業化後でないと成果を公開しにくく論文発表等までに長期間を要することや、特に兵庫県ビームラインは産業利用の裾野拡大のため企業の単独申請が中心であり、複数課題利用の後に論文発表等の成果公開に至るケースが多い状況によるものと解析している。本ビームラインのこのような目的を考慮すると、成果を共用ビームラインと単純に論文数で比較することは適当ではないと考える。論文数は計画未達ではあるが、成果専有利用料が計画値の2倍以上あることは利用者の要望に応えた成果であると思われる。もちろん、利用者には時間を要しても論文化は進めてもらい、設置者には過去の利用でも兵庫県ビームラインの成果として捕捉して欲しい。また、論文以外の成果の公表方法も検討して欲しい。

 

4. 「今後の計画」に対する評価
 今後の計画内容は、引き続きSPring-8の産業利用促進に貢献すると共にSPring-8-IIを見据えてソフト面の取り組みを充実させる計画であり、適切なものと考える。中でも放射光利用だけでなく、データ解析や人材育成等の産業支援を組み合わせた「データ駆動型ものづくり支援」は大変ユニークな取り組みであり期待するところが大である。活動の成果目標については、前半3年間の実績を元にして論文数と成果占有利用料を実態に即した値に修正するものであり妥当なものと考える。一方で、兵庫県立大学が運営する軟X線領域の放射光施設であるニュースバルとの連携強化を図ることを期待する。最後に、SPring-8/SACLAの文科省中間評価でも産業利用の促進が期待されており、SPring-8の数少ない産業用ビームラインとして一層の活動促進をお願いしたい。

以上

 

 

革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発ビームライン(BL28XU)
利用状況等評価及び次期計画審査報告書

 

 設置者である国立大学法人京都大学から提出された利用状況等報告書、次期計画書および口頭による報告発表にもとづき、ビームラインとステーションの構成と性能、施設運用及び利用体制、利用成果、今後の計画について、2020年12月4日に開催した第32回専用施設審査委員会で評価・審査を行った。
 その結果、次期計画のための再契約は妥当であると判断した。なお、次期計画は5年間として提案されているが、ビームライン自身の進捗に加えSPring-8の次期計画の進捗に応じた見直し等が必要と考えられることから、2年半後を目途に中間評価を行うことを勧告する。以下、項目毎の評価・審査結果の詳細を記載する。

 

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 BL28XUは、光源としてSPring-8標準真空封止型テーパードアンジュレータを採用しており、時分割測定に対応するために2基の高速動作チャンネルカットモノクロメーター(コンパクトモノクロメーター)を整備している。また、ピンクビームの利用も可能となっている。これらの光学系を利用し、回折測定と分光測定、さらには回折と分光を組み合わせた測定を電池動作下で起こる電気化学反応のその場観察測定に適用するため、異なる時間スケールに対応した計測を実現した点は高く評価できる。
 第1実験ハッチにはグローブボックス付き回折計と多軸回折計が整備されている。実施可能な実験としては、粉末・薄膜・共焦点X線回折、全反射回折・反射率測定、Quick XAFS・異常散乱・DAFS、波長走査型X線回折、全散乱測定(~50 keV)、小角散乱測定、準白色光利用X線回折、など多様であるが、「電池を解体せずに作動条件下で観測する手法」としての共焦点X線回折が実験の中心となっている。一方、嫌気性の蓄電池電極材料の回折実験を目的として開発されたグローブボックス付き回折計は、本ビームラインの目的を象徴的に体現した他に類を見ない特徴的な装置である。
 第2実験ハッチには最下流にフリースペースが設けられ、実験者が独自に開発した装置を持ち込んだ実験に対応できるようになっている。専用施設の利点を生かして実験者の要望に柔軟な対応を目指していることは適切な機器整備といえる。上流にはOperando & imaging HAXPES装置が現状設置されているが、これも持ち込み装置の一つとして位置付けられている。

 

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 BL28XUは、NEDO革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING)で建設と整備が行われ、その後継事業である革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発事業(RISING2)に引き継がれた革新型蓄電池開発の研究のために設計された専用ビームラインである。ビームラインの維持管理、高度化およびユーザー支援は、京都大学のSPring-8に常駐するビームライン担当者とテクニカルスタッフが行っており、当初計画に沿った性能目標を達成している。利用研究は、拠点および参画企業より提出された課題について、運営委員会がプロジェクトの目標を考慮して審査している。このような運用体制は、革新型蓄電池開発の基盤技術開発というプロジェクトの目的に沿ったものであり、ビームラインが安定に利用実験に供され、有効にビームタイムが活用されていることは評価できる。安全面においても、定期的に利用規則や機器利用方法等の講習会を実施するなど、実験の安全確保への配慮も認められ、良好な運用がなされたと評価できる。一方、BL28XUにおいては取り扱いに注意が必要な化学薬品やガスを用いる実験が多数行われるため、実験の円滑な遂行と安全の確保に向けて今後も一層の努力が払われることを期待する。

 

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 蓄電池を対象としたX線回折その場測定技術として、グローブボックス回折装置に加えて2次元検出器を用いた最速3ミリ秒分解能の時分割X線回折測定技術、位置分解能ミリメートル単位のX線回折マッピング技術、X線回折・XAFS同時測定技術、異常散乱測定技術、高速なDAFS測定技術、X線全散乱技術、小角散乱・X線回折・XAFS同時測定など複数の測定技術開発が実施され、充電によるLi正極材料の相変化や格子定数変化の観察、正極材料の構造変化に先んじて発生する含有遷移金属(Fe)イオンの価数変化の発見、充放電に応じた遷移金属(Ni)価数変化の占有サイトによる違いの発見など、複数の成果が得られている。中でも、第2実験ハッチのフリースペースに設置してある防爆チャンバーと3ミリ秒分解能の時分割X線回折測定を組み合わせることで、釘刺し試験時のリチウムイオン電池の不安定化挙動を時分割X線回折測定により観測した結果は蓄電池の不安定化挙動の解明に役立つ成果として評価できる。
 これら蓄電池材料の先端的分析に向けて開発された特徴的な測定技術は、当該分野で高い競争力を有するものと認められる。これらの装置、技術を用いて蓄電池反応解析に関する重要な成果が得られているが、SPring-8に登録された論文数は2013年から2020年で50報程度にとどまり期待する水準以上とは言い難い。BL28XUで実施された実験の成果が十分に捕捉できていない可能性も懸念されるため、利用成果の確実な捕捉への努力とともに、論文発表に代表される利用成果の公開促進に向けた更なる努力を強く期待する。またこの5年間の実施課題数は以前より増加しているものの他の専用ビームラインと比較して少なく、包括的な課題になっていないかという懸念がある。今後本格的な利用フェイズになれば、これまでなかった成果専有利用も増加することが予想されるため、課題実施内容の透明性を確保のために個別的な課題内容として実施数を増やす必要がある。

 

4. 「次期計画」に対する評価
 革新型蓄電池開発とその実用を目指した、2015年度までの革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING)、および、2020年度までの革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発事業(RISING2)で得られた成果に立脚し、NEDOが掲げる次期事業(電気自動車用革新型蓄電池技術開発)のもと、リチウムイオン電池の性能を凌駕する革新的蓄電池の研究をBL28XUで実施する計画が検討されていると判断できる。革新的蓄電池は世界的な研究開発競争にあり、プロジェクトとして速やかに成果を創出する観点から専用BLである意義は高く、BLの有効活用により多くの重要な成果が創出されることが期待できる。また、蓄電池特性の向上を目指す上で、マクロ反応分布・固体内反応・界面反応を解明する必要があり、これに対して、高輝度準白色光を用いた共焦点X線回折の高度化で、オペランド観測を含むマルチスケール測定を目指すことは評価できる。効率的な研究推進を可能とする測定や解析のオートメーション化への取り組みも期待できる。
 一方、プロジェクトテーマ(500 Wh/kgの達成)が挑戦的であり、かつ、様々な研究要素があるため、プロジェクト全体のマネージメントには十分な検討が必要である。プロジェクトのビジョンのもと、目標達成に必要な研究者間、グループ間の連携、および、装置の高度化をロードマップとしてより具体的に示して、フッ化物電池と亜鉛負極電池の研究開発にしっかりと取り組んで頂きたい。同様に、日本が世界をリードする蓄電産業の競争力強化への貢献も期待できるため、計画で掲げたBL28XUを「産業開発ビームラインのモデル」にするという観点からは、ロードマップと整合する企業との連携を具体化することを望む。そのための京都大学の役割とリーダーシップに期待する。
 次期事業での課題として挙げた中性子ビーム研究との連携について、京都大学に「量子ビームコンソーシアム」を設置して推進することは高く評価できる。放射光と中性子の相補利用による優れた成果が多数得られることが予想されるので、その成果が積極的に公開され分野の先駆者たることを望む。また、コンソーシアムが主体となって進めるマルチ量子ビーム科学における人材育成、人材輩出はSPring-8やJ-PARCにおいても重要で、歓迎されるべきものであろう。この取り組みにおいても具体的なアクションプランを立て、強いリーダーシップの元に実施することを大いに期待する。一方で、「外部利用枠」の運用について、どのような利用者・研究テーマを想定し、他とどう差別化を図っていくのかを含めて、次期計画書からは十分に読み取ることができなかった。2018年度の国のSPring-8/SACLA中間評価で指摘されたような専用ビームラインの蛸壺化を避けるためにも、事前に施設側と十分に協議の上、目的・コンセプトを広く共有しながらオープンかつ合理的な運用を目指して頂きたい。

以上

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794