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Volume 16, No.1 Page 2

理事長室から −SPring-8の原点:利用者本位−
Message from President - Back to the User-Oriented SPring-8 –

白川 哲久 SHIRAKAWA Tetsuhisa

(財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 私が最初にJASRIに勤務していたころの平成6年、JASRIに指定機関としての地位を与える「特定放射光施設の共用の促進に関する法律案」(いわゆる「共用促進法」案)が国会で審議されました。この審議の中で、当時の近江科学技術庁長官は「利用者本位の考え方を原則とした体制整備を図り」、「利用者の意見等に十分配慮しつつ、あらゆる分野の多くの研究者に利用しやすいものとなるよう努力する」と述べ、また当時の新・科学技術振興局長も「国の基本方針の策定とその公示によって利用者本位の考え方を明確にする」考えを示すなど、政府側は繰り返しSPring-8の運営の基本は「利用者本位」であるべきことを強調されました。

 これを受けて「共用促進法」に基づき定められた「特定放射光施設の共用促進に関する基本的な方針」(平成6年9月)では、「施設の運営に当たっては、公平な利用機会の提供や利用者選定の実施のみならず、利用者の意見に十分配慮した放射光施設の整備、さらには特定放射光施設の性能向上といった観点も含め、利用者本位の考え方により実施されなければならない。」として、「利用者本位の考え方による運営の実施」が基本方針の最初に明記されていますし、平成8年3月の航空・電子等技術審議会のいわゆる20号答申(「SPring-8の効果的な利用・運用のあり方について」)でも、「利用者本位の体制の確立」は基本的考え方のいの一番に述べられています。

 以上のように、「利用者本位」の考え方はSPring-8のまさに原点とも言うべきものであり、その後の「共用促進法」の改正等を経てもこの考え方に変更があったとは承知しておりません。現に、ごく最近(2月7日)告示された新しい「基本的な方針」においても、「理化学研究所及び登録機関は、以下の点を基本的な方向として(施設の)共用の促進に努めなければならない」として、「利用者本位の考え方を基本とした施設の整備及び運用を行うこと」が基本方針の第一番に掲げられています。

 私が懸念するのは、年月を経るに従い、またSPring-8に関わる人が変わっていくに連れて、この基本中の基本がややもすると忘れられがちになりつつあるのではないか、ということです。

 特に、平成18年の共用促進法改正によってJASRIの法律上の立場が指定機関から登録機関に変更されて、利用者関係の業務(選定業務と支援業務)と施設等の運営管理業務が法的に分離され、後者は施設の設置者である理化学研究所自らが負う(必ずしも同じ者が行う必要はない)という枠組みとなってから、その懸念が一層強くなって来ていると感じます。言うまでもなく、「利用者本位」の運営は選定業務や支援業務のみによって達成されるものではなく、施設等の運営管理業務が一体的に利用者関係の業務を支えて初めて実現されるものです。そのためには、登録機関としてのJASRIは勿論のこと、施設設置者である理化学研究所にもSPring-8の運営に関してはその原点である「利用者本位」の考え方を貫いていただく必要があります。今回の「基本的な方針」の改正を機に、経営陣の方々を含めて、理化学研究所には今一度この点を拳拳服膺していただくようお願いしたいと思います。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794