Volume 30, No.1 Page 1
理事長室から SPring-8-IIの整備開始とNanoTerasuの共用運転開始
Message from President Construction of SPring-8-II begins and public-use operation of NanoTerasu begins.

現行のSPring-8の約100倍の最高輝度を有し世界トップの性能を誇る第4世代放射光源であるSPring-8-IIの整備予算が、2024年度補正予算として170億円措置されました。また、2028年度までの5年マル債として総額499億円が閣議決定されました。
SPring-8-IIは、現行の約100倍の最高輝度を有するだけでなく、磁石システムの一部を電磁石から永久磁石に置き換えることやリングを周回する電子エネルギーを8 GeVから6 GeVに下げることによって、加速器運転にかかる消費電力をこれまでの6割程度にまで削減し、大幅な省エネ化を実現できる放射光源です。
今後、加速器・ビームラインの製作・組立・調整が開始され、2027年後半と2028年前半の運転停止(ブラックアウト)期間を経て、2029年度からSPring-8-IIが共用開始される予定です。ブラックアウト期間に対する善後策を、SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)、SPring-8利用推進協議会、放射光学会、他の放射光施設の方々と早急に練っていきたいと考えています。
SPring-8の設置者である理化学研究所、文科省を始めとする行政のご尽力、そして、SPRUCやSPring-8利用推進協議会の利用者、経済界や地元自治体からの応援があってこそのSPring-8-II計画実現へ向けてのスタートであり、関連する皆様方に厚く御礼申し上げます。SPring-8-IIの利用者選定と利用支援を行うJASRIの役職員一同、SPring-8-IIにおける研究成果の創出の最大化に向けて、これまで以上に粉骨砕身で取り組む所存です。
既にご報告したように[1][1] https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=43043、JASRIは2024年4月1日付で、NanoTerasuの登録施設利用促進機関(登録機関)として承認されました。NanoTerasuは、2024年4月から一般財団法人 光科学イノベーションセンター(PhoSIC)によるコアリション利用、同年5月より量子科学技術研究開発機構(QST)による共用ビームラインの試験的共用が始まりましたが、いよいよ本年3月3日から共用利用(2025A期)を開始しました。それに伴い、SPRUCとNanoTerasuユーザー共同体(NTUC)を統合した新組織「特定放射光施設ユーザー協同体」が3月1日に発足しました。
現在、NanoTerasuには共用ビームライン(BL)が3本あり、各々、軟X線領域における共鳴非弾性X線散乱(RIXS)、角度分解光電子分光(ARPES)、ナノ吸収分光(XAS、XMCD、XMLD)実験用のBLです。昨年9月から実験課題の応募を開始し、本年1月の選定委員会で採択課題が決定されました。多くの実験課題の応募があったため、課題採択率は全体で50%という結果でした。軟X線向けの第4世代放射光源であるNanoTarasuに対する期待の大きさを実感する結果でした。JASRIの研究スタッフが、これら共用BLの利用者をしっかり支援して、NanoTarasuの威力を示す研究成果の早期創出に向けて貢献する所存です。
また、今後の共用BLの増設に向けて、QSTとの議論を進めて行きたいと考えています。そのためにも、今後、JASRIナノテラス事業推進室の再編を視野に入れて、若い研究者人財の確保と組織の効率化に努めていきたいと考えています。特に若い研究者人財の確保に関しては、利用者の皆様からの積極的な人財推薦をお願い致します。
参考文献
[1] https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=43043