Volume 29, No.3 Page 171
理事長室から 我が上なる星空と、我が内なる道徳法則
Message from President The starry sky above me and the moral law within me.
標題の言葉は、カント[1][1] Immanuel Kant(1724–1804、プロイセン王国)の哲学者
https://ja.wikipedia.org/wiki/イマヌエル・カントの墓に刻んである言葉で、カントの著作「実践理性批判」の結びの言葉「我が上なる星空と、我が内なる道徳法則、我はこの二つに畏敬の念を抱いてやまない。」からの引用である。カントは若い時、天体の研究をしており、ニュートン力学に精通していた。夜空の星々の美しさと、星々の運行の背後にある普遍的な自然法則に対して畏敬の念を感じていた、といわれる。都市では夜空の星を見るのは難しいが、SPring-8の中央管理棟の屋上からは夜空の星々を楽しむことができ、カントが抱いた畏敬の念を現代においても体験することができる。その光景は不思議そのもので、宇宙・自然の原理や、宇宙の大きさ・始まりへの興味は尽きない。自然科学に関わる多くの研究者は、私自身を含めて、「我が上なる星空」に類する自然への畏敬の念が、その出発点になっている。
ところで、カントは宇宙・自然の原理では説明できないものが、人間行為の中にあることに気が付いた。そして、彼は人文科学へと研究を進めていった。カントは、そこにも原理や法則があると考えた。そして、彼はそれを「道徳法則」、あるいは、「自律(自由)の原理」と言った。人文・社会科学に関わる多くの研究者にとって、「道徳法則」、あるいは、「自律(自由)の原理」に類する法則・原理に対する畏敬の念が、その出発点になっているのではないかと推測する。
かつて文科省の発表が、文系不要論と受け止められ社会的に大きな騒ぎになった。私もそれを目にして大変残念に思ったことを思い出す。私は、理系と文系は同じく重要であると考えている。お互いをパートナーとして、各々が「我が上なる星空の法則」(外的真理)と「我が内なる道徳法則」(内的真理)を探究し、その実践を通してSDGsの目標実現に取り組んで行く必要がある。
現在、人類に対する最も大きな脅威は、「気候変動」と「戦争・紛争」による生存と平和に対する脅威だと考えている。これらの脅威に対しては、自然科学と人文・社会科学の連携による総合力を通して、人類の不変の法則(Immutable Laws of Mankind)[2][2] https://doi.org/10.1007/978-94-007-4183-6・普遍的に共有される価値観(Universally Shared Values)[3][3] https://www.upf.orgを模索して、問題解決に向けて対応して行く必要がある。
では、SPring-8/SACLA/NanoTerasuの運営・利用推進業務に関わるJASRIは、上記の脅威に対して何ができるのか?
できることは限られているかもしれない。たとえそうであったとしても、上記の脅威を他人事だと思ってはならない。地道ではあるが、下記の事柄、即ち、SPring-8・SACLAグリーンファシリティ宣言[4][4] https://new.spring8.or.jp/index.php/component/content/article/343、JASRI設置の目的[5][5] JASRI定款 第3条(中略)「もって人類の持続的発展及び福祉の増進に寄与することを目的とする。」
https://www.jasri.jp/content/files/koukai-jyouhou/gyoumu/teikan2018.6.20.pdf、JASRI VISION 2030における「安全で安心な研究環境と職場環境を創る」[6][6] SPring-8/SACLA利用者情報 2024年冬号
理事長室から「今後に向けてJASRIの成すべきこと - JASRI VISION 2030 -」
https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=42738、「インテグリティ」[7][7] SPring-8/SACLA利用者情報 2023年秋号
理事長室から「インテグリテイ」
https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=42527、の趣旨を心に刻んで、日々の業務に取り組む必要がある。私は、生み出すべき価値を共有してステークホルダーと連携することを今ほど重要と感じることはない。このことを、皆さんと是非共有したい。
参考文献
[1] Immanuel Kant(1724–1804、プロイセン王国)の哲学者
https://ja.wikipedia.org/wiki/イマヌエル・カント
[2] https://doi.org/10.1007/978-94-007-4183-6
[3] https://www.upf.org
[4] https://new.spring8.or.jp/index.php/component/content/article/343
[5] JASRI定款 第3条(中略)「もって人類の持続的発展及び福祉の増進に寄与することを目的とする。」
https://www.jasri.jp/content/files/koukai-jyouhou/gyoumu/teikan2018.6.20.pdf
[6] SPring-8/SACLA利用者情報 2024年冬号
理事長室から「今後に向けてJASRIの成すべきこと - JASRI VISION 2030 -」
https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=42738
[7] SPring-8/SACLA利用者情報 2023年秋号
理事長室から「インテグリテイ」
https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=42527