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Volume 01 ,No.1 Pages 52 - 54

SPring-8/SACLA/NanoTerasu 通信/SPring-8/SACLA/NanoTerasu COMMUNICATIONS

SACLA 利用研究課題審査委員会を終えて
Report on the Proposal Review Committee (PRC) of SACLA

米田 仁紀 YONEDA Hitoki

SACLA利用研究課題審査委員会 委員長/電気通信大学 レーザー新世代研究センター Institute for Laser Science, The University of Electro-Communications

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SACLA

 

1. はじめに
 X線自由電子レーザーSACLAの利用研究は、2011年の発振成功以来、すでに10年を超え、世界でも米国、欧州、スイス、韓国などのXFELが順調に稼働してきたこともあって、多くの提案募集を受け付けることになっている。また、SPring-8などのシンクロトロン放射光施設と違い、基本的には1~3ユーザーが同時使用する限られたマシンタイムを、広範囲の科学研究を行う場として提供していることになり、ここでお話しする課題選定を決める利用研究課題審査委員会(PRC)は、その重要性がますます増加している状況にある。ここでは、日頃はあまり紹介できない審査委員会の状況を紹介したい。

 

2.SACLA利用研究課題審査委員会の状況
 前述したように、SACLAは直線加速器ベースのFELがゆえに制限されたユーザー数を選考していかなければならない。また、従来から行っているようにPRCでは、すべての分野を総括しながら議論し、実験選考を行う必要がある。

 

図1 SACLAにおける各分野の提案数の分布。マテリアルサイエンス(MAT)、バイオサイエンス(BIO)、高エネルギー密度科学(HEDS)、手法・装置開発分野(MI)、化学(CHM)、原子分子物理学(AMO)、X線光学(XOP)、産業利用分野(IND)を表している。

 

 例えば、図1を見ていただきたい。これは、SACLAに提案のあった課題数の分野別数の2018年からの推移を示している。これを見ただけでも分野における変化が出ていることがわかる。この推移は、その時の世界の研究動向、マシンの最新化動向、計測器などの開発動向などが影響した結果となっているが、その状況も選ぶ側のPRCは把握しておく必要がある。そのため、現在のPRC委員会では、まず全体会として現在のSACLAの状況、計測器などの開発・準備状況、世界のXFELの動向の情報を共有できるように、理研・JASRI側に協力を行いつつ、各委員の情報の更新を行うようにしている。

 

図2 SACLAの提案者の所属機関の国内、海外別などの分布。黄色が海外、赤が産業界、緑が国内国立研究所、青が国内大学となっている。

 

 図2には、提案者の所属機関別分布を示している。利用が始まった当時、国内関係者が多かった状況から現在ではほぼ半数を海外からの研究提案となっている。これに対応するようにPRCでは海外レビューアーを行い、海外センスでの審査もお願いしている。ただ、対面を基本として行っているPRC委員会では、国内にいる委員のみで日本語を言語に行っている状況にある。これは、より国内状況を把握しながら選考をお願いしたいという点と、より深い分野間調整などを行うために選択した形となっている。また、この海外からの提案の多さは、同時に海外のマシン状況に影響されることになり、より一層委員の世界のXFEL利用研究の動向理解が必要なことがわかるであろう。

 

3.SACLA利用研究課題審査委員会の仕組み
 さて、SACLA-PRCは、研究状況の変化や委員のリクエスト、利用者からの意見、上部委員会からの指摘などを入れ、フレキシブルに対応できるようにしている。そのため、今回の委員会期間であってもいくつかのシステム変更が取り入れられている状況にしている。これらは、私がPRC委員長として行った前回の委員会[1] からも発展してきている。
 実際に現在の選定委員会のプロセスをフローチャートにしたものを図3に示している。

 



図3 PRCでの審査フロー。上図:書面審査段階のもの。
中段:その後に行われる対面PRC委員会のもの。
下図:PRC委員会後のプロセスを示している。

 

 まず、応募された申請書は、技術審査を受けながらレビュアーを決め、書面審査が行われる。審査はA~Dの4段階が等分布数になるように行われる。それら書面審査結果を受け、技術などの状況を鑑み全体PRC会の前に詳細議論が必要な課題があった場合は、プレ議論会がJASRI、PRC委員長、該当するPRC委員で会議を行い、全体会への提案を別途用意する。次に図3 の中段図に示された全体会へ移行する。ここでは、前述した現在のXFEL施設の状況の共有、応募状況の確認、プレ議論会の報告などを行った後に、各カテゴリでの詳細議論を行う。ここでは、各カテゴリ内での研究動向、応募状況、点数分布などを考慮した上での分野内の意思を反映した課題順位を決定、その理由を後半の全体会で明らかにする準備をしていただく。さらに、その後図3の下段図にあるような、PRC委員会からの申請者へのコメント作成、それらをチェックし最終バージョンの決定、さらには、海外レビューアーへの審査結果の報告文などの作成、報告を行っていく。
 正直、これらの審査過程がスムーズに動いているのはPRC委員の努力や理解、JASRI、理研のサポートから成り立っている。逆に、これらいいPRC委員が抱えられるような委員へのメリットを常に考えながらSACLAの発展を行っていくことが重要なミッションにもなっている。

 

4.まとめ
 現在、PRC委員会であるから議論できる、考えられるシステムへの提案、課題状況への不安や提案などを抱えている状況にある。それらは、しかし、覆面審査として行っていただいている委員ならではの制限もあり、要に表に出せない状況にもあったりする。最近は、この状況を打開するように、PRC委員会として挙げられているリクエストもJASRIや唯一表に出ているPRC委員長が中心となってXFEL研究会、SACLA-USER Meetingなどで議論するようにしている。読者の中でもリクエストがあれば、ぜひお知らせいただけるといいと思います。

 

 

参考文献
[1] 米田仁紀: SPring-8/SACLA 利用者情報 春号 (2023) 183.

 

 

米田 仁紀 YONEDA Hitoki
電気通信大学 レーザー新世代研究センター
〒182-8585 東京都調布市調布ヶ丘1-5-1
TEL : 042-443-5711
e-mail : yoneda@ils.uec.ac.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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