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Volume 01 ,No.1 Pages 22 - 24

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SACLA Users’ Meeting 2025

大和田 成起 OWADA Shigeki

公益財団法人 高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 XFEL Utilization Division, JASRI

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SACLA

 

1. はじめに
 2025年3月3日および4日の2日間にわたり、SACLA Users' Meeting 2025が開催された。本年も昨年に引き続き対面形式(一部Zoomによるオンライン講演)による開催となった。国内外の大学や研究機関、企業から約80名が参加し、2日間の会議を通して、最新のSACLAの性能に関する情報共有や、XFEL利用研究の現状や将来のあり方に関する活発な議論が行われた。

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図1.集合写真

 

 

2.会議の内容
 まず、理化学研究所放射光科学研究センターの石川哲也センター長およびSPRUC XFEL利用研究会代表の米田仁紀教授(電気通信大学)による開会挨拶をもって、本年の会議がスタートした。まず初めに行われた“Facility Session”では、SPring-8/SACLAを取り巻く国内外の情勢や、SACLAの利用研究、硬X線FELビームライン(BL2・BL3)、軟X線FELビームライン(BL1)、光学レーザーシステムの高度化、新型検出器開発の現状などについて報告された。
 続いて、2024年度のSACLA/SPring-8基盤開発プログラムセッションが行われた。本セッションでは、2024年度に採択された提案課題のうち、「採択I」として研究開発予算が割り当てられた5課題の進捗報告が行われた。池田暁彦准教授(電気通信大学)からは、超強磁場発生装置PINK02の開発状況とSACLAでの実験結果が報告され、安定的に110テスラの磁場強度を生成し、合計13ショットのX線回折データの取得に成功したことが報告された。続いて川上恵典博士(理化学研究所) の講演では、X線結晶構造解析とX線発光分光を組み合わせた、金属含有タンパク質結晶の構造解析・反応追跡システムの開発状況に関する報告が行われた。本課題でターゲットにしている光化学システムIIにおける反応追跡は、国内外を問わず活発に研究が行われており、多くの研究グループが競い合っている分野の一つである。本課題で開発されているシステムを利用した成果が今後期待される。南後恵理子教授(東北大学)からは、温度制御機能を持った試料インジェクタの開発に関する報告があった。これまで、シリアルフェムト秒結晶構造解析(serial femtosecond X-ray crystallography; SFX)では、光励起によって進行する様々な生体高分子の反応機構を解明してきたが、そのような生体高分子は限定されており、光に代わる反応トリガーの開発が課題となっていた。本課題によって、温度変化をトリガーとした酵素反応などの分子動画観測が進むことが期待される。本セッション4人目となるBo Brummerstedt Iversen教授(Aarhus University, Denmark)からは、SFXを単位格子の小さい材料科学系試料に適用し、精密構造解析を行った結果が紹介された。現在SACLAで整備が進められている大型検出器CITIUS 20.2Mの試験的な利用実験ということもあり、参加者の関心が高かったように思う。本セッション最後となる5人目の講演は、Bruno Albertazzi博士(Laboratoire pour l'utilisation des lasers intenses, France)からの、大出力ナノ秒レーザーと強磁場発生装置を組み合わせた実験プラットフォーム開発に関するものであった。このプラットフォームは特に核融合や天体物理学の分野での利用が期待され、真空チャンバー内で10テスラ以上の磁場強度を達成した実験結果について報告があった。いずれの課題においても、SACLA独自の実験基盤装置の開発が進められており、今後も施設側と利用者側が密に連携してSACLAの性能を最大限に活用することが重要である。本プログラムでは毎年度課題募集が行われているので、ぜひ応募の検討をお願いしたい。
 第一日目最後のセッションでは、SACLA加速器高度化に携わっている岩井瑛人博士(JASRI)から、加速器のアップグレードに関する報告が行われた。BL2とBL3の電子ビームの独立制御や、様々な電子ビーム/XFEL診断機器を用いた機械学習的手法により高品質XFELパルスの提供が可能になったことなどが発表された。また、電子バンチ圧縮技術の開発や、Xバンドディフレクターを用いたバンチ長モニターの開発など、将来の加速器の高度化につながるプロジェクトについても触れていた。そして続く質疑応答では、参加者から「SACLAの強みは利用者とビームラインスタッフだけでなく、利用者と加速器スタッフとの強い結びつきにある」との発言もあり、利用者、ビームラインスタッフ、加速器スタッフの3者を交えた活発な議論が行われた。
 第二日目にはブレイクアウトセッションとして、午前に2つ(1A/1B)と午後に2つ(2A/2B)の、合計4つのテーマのセッションが開催された。午前中のセッション1Aは、主に生物・化学分野を中心に利用されている液体試料輸送システムに関するセッションで、SACLAで基盤開発プログラムなどを通じて開発されたテープドライブ装置や二液混合インジェクタ、マイクロ液体封入セルや液体ジェット装置などの紹介と、その応用展開をテーマとした議論が行われた。セッション1Bは、実験中のデータ収集・処理や実験機器の制御環境に関するものであった。SACLAにおけるPythonベースのAPI等、データ取得・ハンドリング環境整備状況や、それらを活用して科学的成果を最大化するための方策について、海外のXFEL施設の例も交えた議論が行われた。
 午後にはセッション2Aとして、SACLAで利用されている様々なフェムト秒レーザー光源のなかでも、とくに高強度THz光源とその利用に関するセッションが設けられた。SACLAでは、これまでの大気プラズマ法に代えて、有機結晶を利用した高強度・広帯域THz光源と、その利用実験環境の開発が進められている。本セッションでの議論をもとに、今後のTHz利用実験が促進されることが大いに期待される。セッション2Bでは、高分解能の間接型X線画像検出器の開発やその利用をテーマとした議論が行われた。SPring-8/SACLAで開発された間接型X線画像検出器DIFRASの紹介やXFELインラインホログラフィへの応用、LiF結晶検出器を用いた実験の報告などがあった。さらに、ユーザーのニーズとして真空内試料の高空間分解能イメージングが提案されるなど、今後の検出器開発の方向性について活発な議論が交わされた。
 第二日目の最後には、昨年同様にSACLA利用研究課題審査委員会(PRC)の委員長でもある米田仁紀教授から、PRCから利用者へ向けたメッセージが述べられた。
 最後にポスターセッションについて報告しておく。昨年に引き続き今回もポスターセッションが設けられ、施設報告や利用者から合計13件のポスターが掲示された。そしてポスターセッションの時間になると多くの参加者で賑わいを見せ、やはりここでも利用者、ビームライン担当者、加速器担当者が密接に結びつくSACLAならではの光景を見ることができた。

 

図2.ポスターセッションの様子

 

 

3.まとめ
 SACLA Users' Meetingは、利用者と施設および利用者間の情報共有と意見交換を主な目的として開催され、今回で通算10回目の開催となる。本ミーティングでの利用者からの要望に対する施設側の対応や、施設側からの情報を活かしたSACLA利用研究の展開などの情報は、ホームページ等で随時公開される予定である。今後もSACLA Users' Meetingは開催される予定となっている。次回の開催ついては詳細が決まり次第、SACLAのホームページ(http://xfel.riken.jp)などで情報が公開される予定である。
 今回のSACLA Users' Meetingも盛況のうちに終えることができたのも、国内外の多くの利用者が参加し、活発な議論をしたことに尽きると思われる。ここにSACLA Users' Meeting 2025に関わった皆様に厚く御礼を申し上げる。

 

 

 

大和田 成起 OWADA Shigeki
(公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0992
e-mail : osigeki@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
SPring-8/SACLA利用者情報
Online ISSN 2187-4794
[ - Vol.30 No.1(2025)]
SPring-8/SACLA/NanoTerasu利用者情報
Online ISSN 2760-3245
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