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Volume 28, No.3 Pages 282 - 283

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

2020A期 採択長期利用課題の事後評価について – 2 –
Post-Project Review of Long-term Proposals Starting in 2020A -2-

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 2020A期に採択された長期利用課題について、2022A期に2年間の実施期間が終了したことを受け、第73、74回SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会(2022年12月13日、12月19日開催)による事後評価が行われました。
 事後評価は、長期利用分科会が実験責任者に対しヒアリングを行った後、評価を行うという形式で実施し、SPring-8利用研究課題審査委員会で評価結果を取りまとめました。以下に評価を受けた課題の評価結果を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」に実験責任者による紹介記事を掲載しています。
 なお、2020A期に採択された長期利用課題5課題のうち4課題の評価結果は2023春号に掲載済みです。

 

課題名 膜輸送体の結晶構造解析
実験責任者(所属) 豊島 近(東京大学)
採択時課題番号 2020A0171
ビームライン BL41XU
利用期間/配分総シフト 2020A~2022A/57シフト

 

[評価結果]
 本課題は、前長期利用課題(イオンポンプの結晶構造解析:2018A0144~2019B0144)を継承しつつ、(1)生物学的に重要なカルシウムポンプ(Ca2+-ATPase)、(2)各種疾患にも関わるNa+/K+-ATPaseを対象に、それらの反応サイクル中に蓄積する各種中間体の結晶構造を決定するとともに、(3)脂質二重膜の可視化および(4)脂質分子の配置を制御するタンパク質の基礎研究をとおして、アミノ酸側鎖から脂質二重膜にわたるマルチスケール構造生物学を展開することを目的としている。
 (1)については、新たに構造決定した4つの中間状態の座標データをもとに、2個あるCa2+結合サイトの段階的形成の構造生物学が完成されつつある。Ca2+非存在下で解かれたATP結合状態の予想外の構造をもとに、Ca2+が結合しないと燐酸転移が起こらないようにする役割をATP(結合)そのものが担っている可能性を示すに至っている。
 (2)については、強心ステロイドとの複合体構造を論文発表している。Na+,K+-ATPaseは高血圧や糖尿病などの各種疾患と深く関わっているため、これらの酵素を強力に阻害する強心ステロイドとの複合体構造の決定は生命科学分野に大きなインパクトを与えるとともに、創薬分野などへの波及効果も十分に期待できる。
 (3)については、重原子クラスタを援用した脂質二重膜の位相決定に向けた要素技術開発について現状報告がなされた。残された課題の解決にはまだ時間を要すると思われるが、実験データの収集と解析プログラムの開発を並行して進めることで、溶媒コントラスト変調法の適用範囲を広げられる可能性を見出しつつある。
 (4)については、対象酵素の構造が他の研究グループから発表されたことを受けて、当初予定していたビームタイムが使用されなかったため、事後評価対象から除外した。
 上記(1)~(3)に関する2編の原著論文、2編の関連する原著論文、延べ14個のPDB座標が発表されており、進捗状況に応じて軌道修正を適宜行うことで、長期利用課題として配分されたビームタイムから有意義な研究成果が引き出されている。現在準備中の(1)に関する論文発表や(3)に関する要素技術開発が滞りなく進捗し、それらがSPring-8利用による成果として世界に向けて発信されることを期待する。

 

[成果リスト]
(査読付き論文)

[1] SPring-8 publication ID = 41256
R. Kanai et al.: "Binding of Cardiotonic Steroids to Na+,K+-ATPase in the E2P State" Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 118 (2021) e2020438118.

[2] SPring-8 publication ID = 44530
R. Kanai et al.: "Cryo-electron Microscopy of Na+,K+-ATPase Reveals How the Extracellular Gate Locks in the E2·2K+ State" FEBS Letters 596 (2022) 2513-2524.

[3] SPring-8 publication ID = 44532
R. Kanai et al.: "Cryoelectron Microscopy of Na+,K+-ATPase in the Two E2P States with and without Cardiotonic Steroids" Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 119 (2022) e2123226119.

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794