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Volume 26, No.3 Pages 281 - 282

4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

2018A期 採択長期利用課題の事後評価について – 2 –
Post-Project Review of Long-term Proposals Starting in 2018A -2-

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 2018A期に採択された長期利用課題について、2019B期に2年間の実施期間が終了したことを受け、第66、67回SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会(2019年12月17日、18日開催)による事後評価が行われました。
 事後評価は、長期利用分科会が実験責任者に対しヒアリングを行った後、評価を行うという形式で実施し、SPring-8利用研究課題審査委員会で評価結果を取りまとめました。以下に評価を受けた課題の評価結果を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」に実験責任者による紹介記事を掲載しています。
 なお、2018A期に採択された長期利用課題8課題のうち4課題の評価結果は、「SPring-8/SACLA利用者情報」Vol.26 No.2(2021年春号)に掲載済です。また残り3課題の評価結果は次号以降に掲載する予定です。

 

課題名 ゼオライトの精密設計を目的とした非周期系原料及び結晶ゼオライトの原子・ナノスケールPDF解析
実験責任者(所属) 脇原 徹(東京大学)
採択時課題番号 2018A0155
ビームライン BL04B2
利用期間/配分総シフト 2018A~2019B/144シフト

 

[評価結果]
 本課題は、2015A~2017B期に実施した長期利用課題に引き続き、高エネルギーX線全散乱法の二体分布関数(PDF)解析を用いて、ゼオライトの原子・ナノスケールの構造理解を飛躍的に高めることを目的としている。ゼオライトは、前駆体が非晶質物質であることから、その合成過程は十分に解明されておらず、経験則に基づいた試行錯誤的な方法により新規材料の合成が行われてきた。本研究では、調製過程中のPDF解析とシミュレーションの併用により導き出した構造情報を深化させることで、常識を超える新材料を創製する基礎とすることを目指している。
 本課題においては、in-situ PDF実験に適した試料の調製、実験条件の改善、データ処理法の確立などを行い、数種類の基礎的なゼオライトの合成過程について、原料調製段階から加熱段階までを包括的に評価した。PDFの僅かな変化を捉えるため、調製過程の中に基準点を設け、その点におけるPDFとの差をとって解析することで、調製過程中におけるPDFの変化を明らかにし、誘導期に形成された短距離秩序が、核形成期を経て、結晶成長期に長距離秩序が形成されることを示した。当初の計画では10に上る型のゼオライトについて生成メカニズムを解明する計画であったが、この内MFI型ゼオライトや測定が容易で無いFAU型ゼオライトなどいくつかの代表的なゼオライトについて実験がなされ、それらの生成過程を明らかにし、5報の論文が出版され、2報の論文が審査段階にあり、4報の論文の投稿が予定されている。また、中性子を相補的に用いて、非晶質中に存在する有機物の構造情報を得ている。
 実験対象としたゼオライトの種類が限られるなど当初計画との差異もあるが、in-situ PDF実験に関して着実な進展を示し、ゼオライト合成過程とPDFの変化の関連を見いだすなどゼオライト科学に貢献する一定の成果を上げたと判断される。

 

[成果リスト]
(査読付き論文)

[1] SPring-8 publication ID = 38597
T. Usui et al.: "Identifying the Factors Governing the Early-Stage Degradation of Cu-Chabazite Zeolite for NH3-SCR" ACS Omega 4 (2019) 3653-3659.

[2] SPring-8 publication ID = 38598
N. Hikichi et al.: "Role of Sodium Cation during Aging Process in the Synthesis of LEV-Type Zeolite" Microporous and Mesoporous Materials 284 (2019) 82-89.

[3] SPring-8 publication ID = 39156
P. Hu et al.: "Synthesis and Characterization of MFI-type Zincosilicate Zeolites with High Zinc Content using Mechanochemically Treated Si–Zn Oxide Composite" Microporous and Mesoporous Materials 288 (2019) 109594.

[4] SPring-8 publication ID = 39157
C. Chen et al.: "Zeolite Crystallization Triggered by Intermediate Stirring" The Journal of Physical Chemistry C 123 (2019) 20304-20313.

[5] SPring-8 publication ID = 39158
H. Yamada et al.: "Structural Evolution of Amorphous Precursors toward Crystalline Zeolites Visualized by an in situ X-ray Pair Distribution Function Approach" The Journal of Physical Chemistry C 123 (2019) 28419-28426.

[6] SPring-8 publication ID = 40997
N. Hikichi et al.: "Superior Ion‐exchange Property of Amorphous Aluminosilicates Prepared by a Co‐precipitation Method" Chemistry - An Asian Journal 15 (2020) 2029-2034.

[7] SPring-8 publication ID = 40998
Y. Shinno et al.: "Toward Efficient Synthesis of Chiral Zeolites: A Rational Strategy for Fluoride‐Free Synthesis of STW‐Type Zeolite" Angewandte Chemie International Edition 59 (2020) 20099-20103.

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794