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Volume 25, No.3 Pages 217 - 220

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第20回SPring-8夏の学校を終えて
The 20th SPring-8 Summer School

八木 直人 YAGI Naoto

SPring-8夏の学校実行委員会 委員長 SPring-8 Summer School Executive Committee, Chair

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SPring-8

 

夏の学校の概要
 「第20回SPring-8夏の学校」は2020年7月12日(日)~7月15日(水)の4日間の日程で、全国12校から32名の学生の参加を得て、放射光普及棟およびSPring-8蓄積リング棟を会場として開校されました。この夏の学校は、SPring-8サイトに施設を持つ各機関((公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)、理化学研究所・放射光科学研究センター、日本原子力研究開発機構・物質科学研究センター)と、これらの機関と連携大学院協定を持つ大学(兵庫県立大学大学院物質理学研究科・生命理学研究科、関西学院大学大学院理工学研究科、岡山大学大学院自然科学研究科、茨城大学大学院理工学研究科)、およびSPring-8サイトにビームラインを持ち、そこで教育を行っている大学(東京大学放射光分野融合国際卓越拠点、大阪大学未来戦略光科学連携センター・蛋白質研究所・核物理研究センター)が主催して、ビームタイムや講師を供出し合って行ったものです。量子科学技術研究開発機構・放射光科学研究センターには、実習でご協力をいただきました。校長は関西学院大学教授の藤原明比古先生にお願いしました。実行委員会は主催団体のスタッフで構成され、事務局はJASRI利用推進部が行いました。なお、主催大学の中には夏の学校への参加を講義として単位認定しているところもあります。

 

図1 講義風景

 

 

カリキュラムについて
 夏の学校では通例として、初日に3講座、2日目に4講座の講義を行い、その後の2日間に2テーマの実習を行っています。また、SACLAとSPring-8実験ホールの見学、さらにはSPring-8蓄積リング(放射光発生装置)の見学が行われました。今年の実施スケジュールは以下の通りでした。

 

第20回SPring-8夏の学校 日程表 − 2020年7月12日(日)~15日(水)

 

ビームライン実習について
 実習は19ビームラインで行われました。実習のテーマと使用したビームラインおよび担当者(敬称略)は以下の通りです。

BL01B1 “その場”XAFS計測
(加藤和男・伊奈稔哲・宇留賀朋哉(JASRI))
BL02B1 単結晶構造解析の入門
(野上由夫(岡山大学)・杉本邦久・安田伸広(JASRI))
BL04B2 高エネルギーX線を用いたガラス・液体の構造解析
(尾原幸治・山田大貴・廣井慧(JASRI))
BL07LSU 推理の放射光元素分析
(松田巌・原田慈久(東京大学))
BL11XU X線回折顕微法で放射光を超単色化できる高品質な核共鳴分光素子を探そう!
(三井隆也(QST))
BL13XU サブミクロン集光放射光ビームによる局所領域回折実験
(木村滋(JASRI/岡山大学)・隅谷和嗣(JASRI))
BL14B2 XAFS分析の基礎
(渡辺剛・本間徹生・大渕博宣・佐藤眞直(JASRI)・廣沢一郎(JASRI/岡山大学))
BL17SU 走査型軟X線分光顕微鏡による埋もれた微細構造の観察
(大浦正樹(理研/関西学院大学)・石原知子(理研))
BL19B2 粉末X線回折
(大坂恵一・佐藤眞直(JASRI)・廣沢一郎(JASRI/岡山大学))
BL20XU 放射光X線イメージングと基礎データ解析
(竹内晃久・上椙真之(JASRI))
BL23SU 放射光光電子分光による物質の電子状態分析
(川崎郁斗・角田一樹・藤森伸一(JAEA))
BL33LEP GeV光ビームの生成と粒子・反粒子対の測定
(與曽井優(大阪大学)・村松憲仁・宮部学・時安敦史(東北大学))
BL35XU X線非弾性散乱
(筒井智嗣(JASRI/茨城大学))
BL39XU 硬X線磁気円二色性分光による磁性体試料の解析
(鈴木基寛・河村直己・水牧仁一朗・大沢仁志(JASRI))
BL40B2 小角X線散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析
(八木直人・関口博史(JASRI))
BL43IR 赤外顕微分光による組成分布と電子状態の解析
(森脇太郎・池本夕佳(JASRI))
BL44XU 単結晶回折(タンパク質)
(中川敦史・山下栄樹・櫻井啓介(大阪大学)・山口峻英(茨城大学))
BL45XU 単結晶回折(タンパク質)
(熊坂崇(JASRI/関西学院大学)・馬場清喜・河村高志・水野伸宏(JASRI)・山口峻英(茨城大学))
BL46XU 硬X線光電子分光
(安野聡・小金澤智之・佐藤眞直(JASRI)・廣沢一郎(JASRI/岡山大学))

 

図2 実習風景

 

 

 今年は新型コロナウイルス流行のため、例年に比べて参加者は大きく減りました。参加申込期間が非常事態宣言の期間と重なっていたため、参加を躊躇した方が多かったものと思われます。参加者の多くは4月以来オンラインでしか講義を受けておらず、直接の講義は新鮮だったようです。参加者が少ないため実習はいつもよりも少人数で行われましたが、かえって密度の高い充実した実習となったことは不幸中の幸いでした。一方で、感染防止策として例年行っている懇親会やバーベキューを実施しなかったため、夏の学校の重要な目的の一つである参加者間の交流は大きく制限されてしまいました。しかし感染防止のためマスクを着用し、距離を空けての夏の学校であっても、終了後のアンケートの回答を見ると参加者同士のコミュニケーションはある程度行われていたようです。幸い期間中や帰宅後に体調不良を訴える参加者はおらず、無事に終了することができました。

 

 

謝辞
 新型コロナウイルスの感染が収まらない中で、熱意のこもった講義をしていただいた講師の先生方、2日間にわたる実習を熱心に指導していただいた実習担当の皆様、分かりやすい説明で参加者の興味を引きつけて下さった見学引率者の皆様、SPring-8蓄積リング(放射光発生装置)の見学を可能にしていただいたJASRI光源基盤部門の方々、SACLAの見学にご尽力いただいた理研およびJASRI関係者の方々に感謝致します。関西学院大学の藤原先生には、校長として会期中ずっとご指導をいただきましたことに御礼申し上げます。また、事務局としてご努力いただいたJASRI事務局担当者の方々にも感謝したいと思います。

 

 

八木 直人 YAGI Naoto
(公財)高輝度光科学研究センター
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-2750
e-mail : yagi@spring8.or.jp

 

 

 

 

第20回SPring-8夏の学校に参加して

 

 

茨城大学 大学院理工学研究科量子線科学専攻
橋本 将太

 

 

 私は、放射光施設を利用して研究を行っています。しかし、SPring-8には、行ったことがありませんでした。やはり、放射光を使う以上は、世界最先端の放射光施設に行って学んでみたいと思い、今回の夏の学校に参加させていただきました。
 SPring-8夏の学校の1日目、2日目は、放射光に関する原理から、放射光を応用した実際の手法について、非常に幅の広い講義を受けることができました。その分野の専門の方が、わかりやすく講義をして下さり、わからないところも、質問すると、丁寧に教えてくれました。様々な分野のプロフェッショナルの方々に質問する機会は、滅多にないので、素晴らしい経験ができたと思います。放射光を利用する身としては、放射光の知識は、絶対にもっておくべきと思うので、このような講義を受けることは、非常に大事だと感じました。2日目の朝にSACLA、夜にSPring-8のビームライン、3日目の夜にSPring-8蓄積リング(放射光発生装置)の見学を行いました。施設を実際に見ながら、説明をしていただくことで、講義で聞いた内容もさらに理解が深まりました。特に印象に残ったことは、SACLAの見学です。SACLAは第4世代の加速器で、世界トップの技術の集大成といっても過言ではない施設です。世界のトップを直接体感できたことは、これからの研究生活において、非常に良い刺激になりました。

 

図3 見学風景

 

 

 3日目と4日目には、ビームラインを使った実習を受け、私はBL45XU(タンパク質の単結晶回折)とBL40B2(X線小角散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析)を選択しました。私は、タンパク質に関する研究を行っているので、自分の分野の知識を深めるために関係する実習を選びました。BL45XUでは、ビームラインの担当者の方々に、結晶作成や結晶ピックアップ時のコツやデータの解析などの具体的なアドバイスを受けることができ、すぐに自分の実験に試すことができる知識を教えていただきました。BL40B2は、X線溶液散乱法を用いて、タンパク質の構造変化を測定しました。X線溶液散乱法の実験はこの時が初めてでしたが、計測の方法や解析の考え方、解釈など、実践的に教えていただいたことで、自分の実験に用いたいと思いました。今回、私はどちらも自分の研究に近い実習を選びましたが、全く違う分野の実習も受けられる点も夏の学校の魅力だと思います。
 夏の学校において、講義や実習と同じく大事なことは、同世代の方々と交流できることであると思います。同世代と言っても、大学や研究分野が違えば発想も様々ですので、自分の研究の話をしたり、他愛のない会話をする中には、新しい発見や刺激がありました。また、コロナで先行きが不安な中で、こういった横の繋がりがあることは大きな支えになりますし、モチベーションになります。これから頑張るぞという、やる気に満ち溢れております。
 最後になりますが、第20回SPring-8夏の学校を開催して下さった運営の皆様、そして、講師の先生方、ビームライン担当者の皆様に、深く御礼申し上げます。今年の夏の学校は、新型コロナの影響で、開催が危ぶまれたと聞いています。しかし、このような中においても、SPring-8や主催大学の皆様のご尽力によってなんとか夏の学校を開催していただき、また、そういった意味でも貴重な夏の学校に参加でき、大変嬉しく思っています。
 今回の経験をもとに、より一層努力して参ります。改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

図4 記念写真

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794