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Volume 25, No.3 Pages 259 - 261

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

共用ビームライン再編・高度化(第1弾)について
Public Beamline Upgrades (First Step)

櫻井 吉晴 SAKURAI Yoshiharu[1]、矢橋 牧名 YABASHI Makina[2]

[1](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[2](国)理化学研究所 放射光科学研究センター RIKEN SPring-8 Center

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SPring-8

 

 理研・JASRIは、2019年度より、SPring-8ビームライン再編・高度化の検討を開始した。所内の議論及びSPRUCとの意見交換を経て、再編・高度化の第1弾として、2020年度末から2021年度にかけて、3本の共用ビームラインの改修を実施する。具体的には、HAXPES装置の集約(BL09XU)、核共鳴散乱・非弾性X線散乱の連携強化(BL35XU)、高エネルギーX線イメージング計測基盤の拡充(BL20B2)である。

 

 SPring-8は、供用開始から20年以上が経過した。これまで累計で20万人を超える利用者を迎えながら、我が国の科学技術の基盤を支える大型施設としての役割を継続的に果たしている。一方で、放射光に対する社会のニーズは急速に変化しており、現行のスキームでは合理的な対応が困難な事例が目立つようになってきた。
 2018年度には、文部科学省によるSPring-8/SACLAの5年に1度の中間評価が行われたが、その中でも、既存の(顕在的な)利用者とともに、将来の潜在的利用者のニーズも想定しながら、ビームラインの改廃・高度化の実施や利用制度の見直し等を行っていくよう、踏み込んだ提案がなされている[1][1] https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/090/houkoku/1413947.htm。この提言を受け、理研・JASRIでは、ビームライン再編・高度化の本格的な議論を2019年度に開始した。
 しかしながら、共用運転を継続しながらビームラインの改廃を実施していくためには、優先度(プライオリティ)の設定と実行可能性(フィージビリティ)の評価をきちんとした上で、中期的な実施計画を策定する必要がある。このために、理研・JASRIでは連絡会議(通称RJ会議)を設置し、さらにRJ会議のもと、具体的な内容を検討するため個別のワーキンググループを組織した。この体制のもと、SPring-8ビームライン全体のポートフォリオを構築しながら、装置・計測手法の過度の重複を解消し、ビームライン全体としての機能強化・高度化を図っていく。ポートフォリオ構築に当たっては、将来のSPring-8光源のアップグレード計画(SPring-8-II)における位置づけも十分に考慮する。さらに、利用者のニーズを把握しながら再編を進めるため、夏のSPring-8シンポジウム、春のSPRUC BLsアップグレード検討ワークショップ、SPRUC・理研・JASRIの三者会合等、高い頻度で利用者との議論の場を設けている。
 これまでの進捗状況をまとめる。2019年度前半に、硬X線光電子分光(HAXPES)、核共鳴散乱・非弾性散乱、イメージングに関する3本のビームライン(BL09XU、BL35XU、BL20B2)について、優先して高度化の検討を進めることとなった。前二者については、ワーキンググループを設置して詳細検討が進められた。一方で、SPRUCのHAXPES研究会と核共鳴散乱研究会においても計画案をたたき台として議論がなされ、利用者から多くのフィードバックを頂いた。これらを受けて、具体的な改修プランの策定を進め、理研の特定放射光施設検討員会(2020年5月27日)において実施がオーソライズされた。
 これらのビームラインでは、いずれも高度なX線光学系を光学ハッチに導入することにより、利用者が世界最高性能のX線を簡便に利用できる環境を構築する。また、実験ステーションにおいては装置の最適配置を行うとともに、制御・データ取得システムの高度化を行い、オートメーション化を進める。世界最高水準の性能と、使いやすさ・利便性とを兼ね備えたビームラインの実現を目指す。
 以下、3本のビームライン再編・高度化の概要とスケジュールを示す。

 

(1)HAXPES装置の集約(BL09XU)
 世界の放射光施設のHAXPES装置のうち、約半数がSPring-8に設置されている。3つの共用ビームライン(BL09XU、BL46XU、BL47XU)にも3台のHAXPESが稼働している。総計では多くの利用機会を提供可能な一方で、各々のシステムは個別に構築されており、ノウハウや知見も共有されておらず、合理的な運用がなされていなかった。
 今回の再編・高度化では、主として学術利用のBL09XUとBL47XUのHAXPES装置をBL09XUに集約し、BL09XUをHAXPES専用の共用ビームラインとして整備しながら、支援体制も強化する。第1実験ハッチに高分解能HAXPES装置、第2実験ハッチにナノHAXPES装置を配置する。また、光学系のアップグレードにより高い性能をもつX線(高エネルギー分解能、広エネルギー帯域、高偏光度、高空間分解能、高フラックス)を安定かつ簡便に提供する。
 スケジュールとしては、2021A期に装置移設、機器設置、コミッショニングを実施し、2021B期からユーザー利用を再開する予定である。
 また、本ビームラインは主に学術利用を想定しているが、産業利用を指向した別の共用HAXPESビームラインの検討も進めている。

 

(2)核共鳴散乱・非弾性X線散乱の連携強化(BL35XU)
 核共鳴散乱と非弾性X線散乱は、(XAFS等の汎用手法と比べると)ともにニッチではあるが、施設の研究水準・技術水準のピーク指標ともなり得る重要な分野である。これまで、SPring-8からはいくつかの大きな成果が報告されており、世界的にも高く評価されている。現在、核共鳴散乱は3つのビームライン[BL09XU(共用)、BL11XU(QST)、BL19LXU(理研)]、高分解能非弾性X線散乱は2つのビームライン[BL35XU(共用)、BL43LXU(理研)]で利用されており、この数は、諸外国の施設と比べて非常に多い。一方で、最近では、所内リソースの分断による非効率性が目立つようになってきており、さらに近い将来にはこれらのビームラインの持続的な運用も困難になるという懸念が生じていた。
 今回の再編・高度化では、共用ビームラインにおける核共鳴散乱と非弾性X線散乱の機能をBL35XUに集約し、性能と利便性の向上を図りながら、所内連携体制と利用支援体制を強化する。具体的には、BL09XU(共用ビームライン)で共用に供している核共鳴散乱装置群のうち、利用ニーズの高い装置(核共鳴準弾性散乱、核共鳴非弾性散乱、エネルギー領域メスバウアー分光)をBL35XUの実験ハッチ内に常設する。また、高分解能モノクロメータ群とミラー集光系を光学ハッチに導入することで、実験核種切り替えの効率化を実現しながら、高精度化を図る。JASRI内にも、新たに「精密分光推進室」を設け、Alfred Baron博士を室長として、核共鳴散乱・非弾性散乱を総合的に俯瞰しながら運用する体制を整えた。
 スケジュールとして、2020年12月末でBL35XUのユーザータイムを終了し、2021年1月から2021A期にかけて、装置移設、機器設置、コミッショニングを実施し、2021B期からユーザー利用を再開する予定である。

 

(3)高エネルギーX線イメージング計測基盤の拡充(BL20B2)
 SPring-8におけるX線イメージング計測基盤の拡充の第1弾として、BL20B2に多層膜モノクロメータを新設することにより、40~100 keV領域の高エネルギーX線の高フラックス化を図る。100倍以上の強度増大を見込んでおり、高速度カメラなどのX線計測系も同時に整備する。これらにより、血管造影、材料の変形・破壊、金属結晶成長などの高速X線イメージング計測を実現する。尚、既設の2結晶モノクロメータも引き続き利用できる。
 スケジュールとして、2020年12月末でユーザータイムを終了し、2021年1月から2021A期にかけて、多層膜モノクロメータの設置、調整・コミッショニングを行う。利用の再開時期については2021A期課題募集時(2020年秋)にアナウンスを行う予定である。

 

 これらの改修の進捗と、第2弾以降の検討状況については、SPring-8シンポジウム、SPRUC BLsアップグレード検討ワークショップ、SPRUC研究会等の場を通して、利用者の皆様と情報共有を図っていく。是非、忌憚のないご意見と将来に向けたご提言を頂きたい。

 

 

 

参考文献
[1] https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/090/houkoku/1413947.htm

 

 

 

櫻井 吉晴 SAKURAI Yoshiharu
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : sakurai@spring8.or.jp

 

矢橋 牧名 YABASHI Makina
(国)理化学研究所 放射光科学研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0802 ext 3811
e-mail : yabashi@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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