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Volume 15, No.4 Pages 264 - 266

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第37回真空紫外およびX線物理学国際会議報告
Report on 37th International Conference on Vacuum Ultraviolet and X-ray Physics; VUVX2010

木下 豊彦 KINOSHITA Toyohiko

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

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 7月11日から16日にかけて、第37回真空紫外およびX線物理学国際会議[1][1] 会議のアナウンス、様子など、WEBで閲覧可能。URL: http://www.vuvx2010.ca/が、カナダ、バンクーバーのブリティッシュコロンビア大学キャンパスで開催された。会議のChairpersonsは、McMaster大学のAdam HitchcockとSaskatchewan大学のStephen Urquhartである。

 本会議は、これまで独立に開催されていた、真空紫外線物理に関する国際会議(VUV)[2][2] VUV: Vacuum ultraviolet radiation physics; 1962年のロサンゼルスを第1回とし、2007年のベルリンまで3年ごとに15回開催。石井武比古、放射光 第8巻 (1995), 2号 p.64 & 3号 p.68に1995年以前のVUV国際会議の様子が紹介されている。とX線物理に関する国際会議(X-series)[3][3] こちらのほうは途中でPhysics of X-ray spectraやX-ray and XUV spectroscopyなどといろいろな変遷を経て最近ではX-ray and inner shell processに関する国際会議となっていた。2008年のパリまで都合21回開催されていた。 を統合する形で開催された。それぞれの実施回数を合計すると、今回で37回目となる。真空紫外線よりも高いエネルギーの光を用いた分光に関する最大の国際会議である。特に放射光による分光を行っている研究者にとっては、もっとも重要な会議のひとつとなっている。最近の硬X線領域の分光の進展により、真空紫外線領域の分光と密接なつながりを持ってきており、同一の研究者が両方の波長領域での分光研究を進めるなど、光と物質の相互作用を分光学的に理解するという観点では共通するものがあり、内容的にも統一して行ったほうが良いという判断が下された結果、今回初めて両者が合同で開催された。

 前回のVUV15の際には、今回の会議は冬季オリンピックのスキー競技のメイン会場となり、リゾート地としても名高いウィスラーで開催される旨がアナウンスされていたが、その後世界経済を揺るがすリーマンショックなどの影響により、十分な数の参加者が集まるかどうか懸念されたため、バンクーバー市内の西のはずれにあるブリティッシュコロンビア大学で開催される運びとなった。ブリティッシュコロンビア大学は、バンクーバーのダウンタウンからバスで30分あまり離れた西海岸沿いに位置しており、広大なキャンパスの中に、各学部のほか、カフェテリア、売店などいろいろな施設があり、博物館やブックストアなどは観光名所にもなっている。キャンパスからは太平洋まで歩いていける距離にあり、絶好の天候にも恵まれたこともあり、非常に美しく、過ごしやすいキャンパスであると感じた。会議は、キャンパス内の生命科学研究科(図1)と、森林科学研究科の建物を利用して行われた。30あまりの国から450名以上の参加者があり、盛況な会議となった。

 会議の進行形式は、午前中ひとつの会場でplenary talkや招待講演を行い、その後2つの会場での分野ごとの招待講演や口頭発表、また、ポスターセッションという形であった。前回のベルリンでの会議に引き続き、今回の会議でも、時間分解分光を用いた超高速現象観測に関する発表が目を引いた。さらに、顕微分光、硬X線光電子分光などの手法でも、かなり高度な実験が実現してきており、広がりを見せていた。測定対称物質としてはグラフェンが今回の最大の話題で、初日のplenary talkで、Dr. Lanzara(カリフォルニア大学バークレイ校)が取り上げたほか、後述のDr. Rotenbergの話も関係する話題であった。さらに、金曜日の午前中の招待講演および口頭発表のセッションでは、グラフェンと関連のカーボン物質のセッションがひとつ設けられた。時間分解測定では、ドイツのFLASHからの発表が興味深かった。時間分解測定を手がけているグループは、自由電子レーザー、蓄積リングのバンチのフェムト秒レーザースライシング、実験室レーザーの高次高調波の利用など、複数の光源や手法を積極的に組み合わせた研究を行っていた。気相ばかりでなく、固体分光への応用も進んでおり、特にcharge-density-wave(CDW)による金属—絶縁体相転移を示す系に関する発表では、電荷分布の変化がまず起こり、その後格子の変化が起こっている様子を観測しており、非常に分かりやすく印象深い発表であった。また、BESSYやHamburugの施設で時間分解分光を行ったグループは、メンバーの何人かがその後、SPring-8やスタンフォードなどへも転出し、高いアクティビティと協力関係を示していることも見てとれた。

 

 

図1 会場となったブリティッシュコロンビア大学の生命科学研究科の建物

 

 

 ポスターセッションも活発に行われた。月曜日、火曜日、木曜日の3回にわけ、それぞれ1時間30分ほどがその時間に当てられた(図2)。特に広島大学のグループの発表が数も多く、質も高い点で、参加者から賞賛の声が上がっていた。

 今回の会議を特徴付けるもうひとつの出来事として、レーザーの実際の発振に成功してから50周年にあたることを記念し、Paul Corkum(オタワ大)の公開講義が行われたことがあげられる。“Catching Electron with Light?”と題した講義で、講義内容は本会議のWEBからも内容がダウンロードできるようになっている。又、会議ではガスの分光関連から1件(ドイツ、マックスプランク研究所のDr. Uwe Hergenhahn)、固体の分光関連から1件(アメリカ、ALSのDr. Eli Rotenberg)、学生賞が1件(理化学研究所および台湾National Chiao Tung University所属のMs. Suet-Yi(Shirley)Liu)選定され、最終日の午前中に表彰式と記念講演が行われた。これも今回初めての試みである。気相分光分野で受賞したDr. Hergenhahnは、主にBESSYIIでのクラスターの光イオン化および自動イオン化の研究成果を中心に紹介した。固体分光分野で受賞したDr. Rotembergは、ALSの高分解能角度分解光電子分光実験を中心に、光電子回折やホログラフィー実験を含めた様々な研究を展開している。記念講演ではグラフェンの詳細な電子状態の研究を中心に発表していた。学生賞を得たMs. Liuは、SPring-8のSCSS試験機を用いて行われた、真空紫外領域の分子の解離現象を超高速分光とイメージングで捕らえた研究について報告し、実験技術開発やデータ解析まで含めた内容が高く評価された。

 

 

図2 ポスターセッションの様子

 

 

 ここまで紹介した講演内容は、すべて会議のホームページ[1][1] 会議のアナウンス、様子など、WEBで閲覧可能。URL: http://www.vuvx2010.ca/からアブストラクトがダウンロード可能となっている。また、講演のうちのいくつかは、Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomenaにプロシーディングスとして出版される予定である。

 エクスカーションは、参加者の希望に応じ、3グループに分かれて行われた。行き先は、ウィスラー、バンクーバー北部でのドラゴンボートレース参加(ペーロンのようなもの)、ブリティッシュコロンビア大学内にあるミューオン施設である、TRIUMF見学である。筆者はそのうち最も参加者の多かったウィスラーに出かけたが、天候にも恵まれ山頂からの雄大な景色、カナダの自然を満喫することができた。会議の始まる前の週までは雪が多く、山頂付近は閉鎖されていたが、会議が始まるのと同時に気温が上昇し、絶好のハイキング日和となった。ハイキングで山を下った参加者の中にはヒグマの親子に遭遇し、貴重な経験をしたものもあった。

 バンケットは、バンクーバー市内の観光名所のひとつである、水族館で行われた。少々窮屈ではあったが、夜の水族館の幻想的な水槽の前で参加者達はくつろいだ雰囲気で楽しんでいた。バンケットの中盤で、次回の開催地が披露された。2013年の夏に中国のHefei(合肥)で行われることとなった。ChairmanはZiyu Wu氏である。また、VUVX会議そのものの国際諮問委員会の委員長は、オーストラリアのF. Larkinsから今回のChairを勤めたHitchcockに交代することがアナウンスされた。

 会期中、最高でも25度程度のしのぎやすい天気で連日快晴の絶好の日和が続いていたが、帰国時には日本の梅雨も明け、猛暑が続いているさなかに空港に到着した日本からの参加者は、皆悲鳴を上げていた。

 

 

 

References

[1] 会議のアナウンス、様子など、WEBで閲覧可能。URL: http://www.vuvx2010.ca/

[2] VUV: Vacuum ultraviolet radiation physics; 1962年のロサンゼルスを第1回とし、2007年のベルリンまで3年ごとに15回開催。石井武比古、放射光 第8巻 (1995), 2号 p.64 & 3号 p.68に1995年以前のVUV国際会議の様子が紹介されている。

[3] こちらのほうは途中でPhysics of X-ray spectraやX-ray and XUV spectroscopyなどといろいろな変遷を経て最近ではX-ray and inner shell processに関する国際会議となっていた。2008年のパリまで都合21回開催されていた。

 

 

 

木下 豊彦 KINOSHITA Toyohiko

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門

〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

TEL:0791-58-0802(内線3129) FAX:0791-58-0830

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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