Volume 22, No.2 Pages 174 - 175
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
SACLA利用研究課題審査委員会を終えて
Report on the PRC (Proposal Review Committee) of SACLA
SACLA利用研究課題審査委員会 委員長/東京大学大学院 新領域創成科学研究科 Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo
1. はじめに
2012年度から供用が開始されたSACLAの第3期利用研究課題審査委員会(2015年4月~2017年3月)(以下、本委員会)の委員長を、第1期、第2期に引き続き仰せつかりました。本委員会では、2015B期、2016A期、2016B期、2017A期のSACLA利用研究課題審査を2年間にわたり行いました。以下に、本委員会での審査の概要を報告します。
2. 審査委員会での審査に関して
2.1 審査方法に関して
審査は、第1期(2011年12月~2013年3月)及び、第2期利用研究課題審査委員会(2013年4月~2015年3月)における審査方法をほぼ踏襲して行いました。具体的には、以下がその骨子です。
1. SPring-8で行っているレフェリー・分科会・審査委員会の3段階の審査を、SACLAでは分科会に分けず、レフェリー・審査委員会の2段階で行う。その理由は、使用できるビームラインが2本(BL2とBL3)であること、応募課題総数は3桁未満と予想されること、従って、分科会に分けるより審査委員会で総合的に議論する方が効率的である、ということである。2016B期からはBL1の共用が開始され、ビームライン数が3本になったが、以前と同様に分科会に分けずに審査を行うこととした。
2. 原則として、本委員会委員が全ての応募課題の審査を行い、本委員会で調整の上、選定案を決定する。
3. 重点戦略課題は、重要な利用研究課題であることを鑑み、ボーダーライン付近の課題については、一般課題に比して優先的な配分を行う。ただし、重点戦略課題は2016B期をもって終了したため、2017A期についてはこの限りではなかった。
4. 年間ビームタイム設定は、SPring-8と同様、24時間連続運転、及び、同時期を想定する。ただし、1シフトは12時間とする。
2.2 レフェリーに関して
本委員会の施設外委員(委員長を除く18名)は、レフェリーとして、応募課題の、1)科学技術的妥当性(絶対評価)、2)SACLAの必要性(絶対評価)、3)総合評価(相対評価)に関する審査を1課題あたり5名で事前に行い、審査委員会に臨みました。施設側委員(6名)は、4)実施可能性評価(絶対評価)、5)奨励シフト数評価、6)安全評価(絶対評価)の審査を事前に行い、審査委員会に臨みました。
2.3 審査委員会での主な議論のポイント
審査委員会では、上記のレフェリーによる審査の結果を踏まえて、総合的に課題の採否に関して議論を行いました。特に、供給できるビームタイムの制約との関係で、レフェリー審査結果が採否のボーダーラインの近傍にある課題に関して詳細に議論を行いました。その際、以下の点に留意しました。
① 委員(=レフェリー)間の評価結果のバラツキの程度:採否ボーダーライン前後の課題(10課題程度)について、個別に各委員間の評価のバラツキを吟味。
② 科学技術的意義及びSACLAの必要性(いずれも絶対評価)と総合評価の相関:上記ボーダーライン前後の課題について、科学技術的意義及びSACLAの必要性と、総合相対評価との相関を吟味。
③ 重点戦略課題:ボーダーライン上の課題で、一般課題と重点戦略課題の評価が同じ場合は後者を優先。文部科学省委託事業(XFEL重点研究課題)に関わる課題については、「XFEL利用推進計画(H24.2.1:XFEL利用推進戦略会議)」における事項(注1)及び、第4回SACLA選定委員会(H24.4.23~4.26メール開催)における審議結果を踏まえ、審査に際し一定の配慮。ただし、重点戦略課題は2016B期をもって終了したため、2017A期についてはこの限りではなかった。
④ 利用機会:申請者の多様性(申請者の重複、所属機関、国内外、産学、等)を確保するための配慮。
また、本委員会での議論の結果、不採択となった課題の申請者に伝える情報の中に、不採択課題の中での評価結果が上位、中位、下位のどの位置にあったかの情報を盛り込むことにした。2016B期以降は、SACLAの産業利用促進の観点から、産業界所属者が実験責任者の不採択課題については、定型コメントに加え、個別の不採択理由等コメントを付することとした。さらに、2017A期以降は、実験責任者の所属如何に関わらず、不採択課題のうちSACLAの技術的な状況等を示すべき課題に対しては個別コメントを付すことにした。
3. 審査結果の概要
2015B期(シフト数=152)では、応募63課題に対して35課題を採択しました(採択率=56%)。採択された35課題におけるシフト配分率(=配分シフト数/要求シフト数)は58%でした。
2016A期(シフト数=158.17)では、応募65課題に対して34課題を採択しました(採択率=52%)。採択された34課題におけるシフト配分率(=配分シフト数/要求シフト数)は66%でした。2016A期からは成果専有課題の受付を開始し、0.17シフト(2時間)を配分しました。
2016B期では、応募85課題に対して42課題を採択しました(採択率=49%。後述の時期指定課題(専有)を除く)。採択された42課題におけるシフト配分率(=配分シフト数/要求シフト数)は63%でした。2016B期からは、BL1の共用が開始され、その結果、BL1とBL2/BL3に対して配分された合計シフト数は、197.17シフトになりました。また、採択された42課題のうち、7課題がBL1、35課題がBL2/BL3でした。2016B期からは常時募集の時期指定課題(専有)の受付を開始し、0.17シフト(2時間)を配分しました。
2017A期では、応募84課題に対して43課題を採択しました(採択率=51%。時期指定課題(専有)を除く)。BL1、BL2/BL3に対しては各々48シフト、162シフト、併せて210シフトを配分しました。また、採択された43課題のうち、7課題がBL1、36課題がBL2/BL3でした。
以上のように、いずれの期においても、採択率、及び、シフト配分率はSPring-8の場合に比べて低く、供用開始以来のSACLA利用に対する要求の強さを感じました。また、国外からの課題申請数は2017A期では全申請課題数の49%に達し、その割合は次第に高まってきており、海外からのSACLAの性能に対する期待の高さを感じます。
4. まとめと今後の課題
SACLAが、2012年(平成24年)3月に共用が開始されて、丸5年が経過しました。SPring-8に比べてビームラインの数が圧倒的に少ないため、課題採択率が低くならざるを得ない状況が続いています。SACLAから価値ある成果が創出されるために、本委員会が果たすべき役割の重要性を改めて実感しています。
SACLA利用研究課題の審査は、公平性と透明性をもって臨むことは大前提ですが、今後、利用できるビームライン数の増加、応募課題数の増加、それに伴う分野の広がり等々が予想されることから、分科会の導入も検討する時期にきているのではないかと感じます。2016B期以降の審査委員会では、委員会の途中で分科に分かれて詳細な議論を行う時間を確保するという試行を行いました。今後はこのような方法が定着していくのではないかと考えています。
最後になりましたが、活発なご議論を頂いた本委員会の委員の皆様のご尽力に感謝いたします。また、本委員会の関係者各位に感謝いたします。
(注1) <XFEL利用推進計画 抜粋>
「また、競争的資金や国のプロジェクトにおいて、審査・採択された課題については、既に科学技術イノベーション推進の観点から重要性が認められているものと考えられることから、その結果を尊重し、登録機関で行う選定においては一定の配慮がなされるべきである。」
東京大学大学院 新領域創成科学研究科
〒277-8561 千葉県柏市柏の葉5-1-5
TEL : 04-7136-3750
e-mail : amemiya@k.u-tokyo.ac.jp