ページトップへ戻る

Volume 21, No.4 Pages 344 - 345

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

2013A期 採択長期利用課題の事後評価について – 2 –
Post-Project Review of Long-term Proposals Starting in 2013A -2-

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

Download PDF (620.33 KB)
SPring-8

 

 2013A期に採択された長期利用課題について、2015B期に3年間の実施期間が終了したことを受け、SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会による事後評価が行われました。
 事後評価は、長期利用分科会が実験責任者に対しヒアリングを行った後、評価を行うという形式で実施し、SPring-8利用研究課題審査委員会で評価結果を取りまとめますが、当該課題の実験責任者は、同一研究テーマの課題を2016A期からの長期利用課題として新たに申請したため、その面接審査と同時に最終期(2015B期)終了前に当該課題のヒアリングを第55回長期利用分科会(平成27年12月)において行いました。その後、当該課題の最終期(2015B期)が終了後、実験責任者より改めて提出された、全期間の研究成果をまとめた最終版の「長期利用課題終了報告書」およびヒアリングの結果を踏まえ、長期利用分科会による最終的な評価結果がとりまとめられました。
 以下に評価を受けた課題の評価結果を示します。研究内容については本誌267ページの「最近の研究から」に実験責任者による紹介記事を掲載しています。
 なお、2013A期に採択された長期利用課題2課題のうち残り1課題の評価結果については、「SPring-8/SACLA利用者情報」Vol.21 No.3(2016年8月号)に掲載済みです。

 

課題名 膜能動輸送体の結晶学的研究
実験責任者(所属) 豊島 近(東京大学)
採択時課題番号 2013A0049
ビームライン BL41XU
利用期間/配分総シフト 2013A~2015B/138シフト

 

[評価結果]
 本課題では、反応サイクル全体にわたる中間体の結晶構造を高分解能で決定し、イオン勾配に逆らってイオンを輸送する(能動輸送)イオンポンプの作動機序を詳細に明らかにすることを目的にしている。対象とするイオンポンプは、1. Ca2+-ATPase、2. Na+,K+-ATPase、3. H+-PPaseの3つであるが、本課題ではさらに、4. 結晶中の脂質二重膜の可視化する手法の開発も試み、膜タンパク質が働く「場」として重要な脂質二重膜との相互作用解析も行った。
 1.では、カルシウムポンプの反応サイクル全体をほぼカバーする10状態の中間体の立体構造を高分解能で決定し、イオンの能動輸送の大略を明らかにしてきた。2.では、Na+,K+-ATPaseがナトリウムポンプであること、Na+に対する親和性はK+よりも低いのにNa+だけを厳密に選別して高効率で輸送する仕組み、K+の輸送にβサブユニットが必要なことや、ほぼ同じ残基が使われているにもかかわらず、Ca2+-ATPaseではK+が結合できない構造基盤、などを原子レベルで詳細に明らかにした。3.のピロリン酸(PPi)を基質とするプロトンポンプであるプロトン輸送性ピロホスファターゼ(H+-PPase)では、PPiの非分解性アナログPNPを結合した状態とPPiの分解産物であるPi結合状態の結晶構造を高分解能で決定し、プロトン輸送を調節するゲートの開閉に関する初期的な構造基盤を得るのに成功した。また、4.については、これまで申請者が独自に開発してきたコントラスト変調剤を含む溶液に浸漬する方法に代わるさらなる新しい方法を開発し、期待できる成果が得られている。
 以上のように、本課題では、1、2、3、4それぞれにおいて、大きな進歩が認められ、その成果はNatureなどのインパクトの高いジャーナルに発表し、予想外の大きな発見と進展を見ることができた。そして、これら一連の結果は世界的にも非常に高く評価され、実験責任者に対して、紫綬褒章およびスウェーデン王立アカデミー協会のGregori Aminoff賞が授与され、長期利用課題の目的が十分に達せられたと判断される。

 

[成果リスト]
(査読付き論文)

[1]SPring-8 publication ID = 29588
H. Ogawa et al.: "Sequential Substitution of K+ Bound to Na+,K+-ATPase Visualized by X-ray Crystallography" Nature Communications 6 (2015) 8004.

[2]SPring-8 publication ID = 29706
M. Morita et al.: "Biselyngbyasides, Cytotoxic Marine Macrolides, are Novel and Potent Inhibitors of the Ca2+ Pumps with a Unique Mode of Binding" FEBS Letters 589 (2015) 1406-1411.

[3]SPring-8 publication ID = 30138
M. Habeck et al.: "Stimulation, Inhibition, or Stabilization of Na,K-ATPase Caused by Specific Lipid Interactions at Distinct Sites" The Journal of Biological Chemistry 290 (2015) 4829-4842.

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794