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Volume 15, No.4 Pages 270 - 274

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第7回日本加速器学会年会開催報告
The Report of PASJ’7 (The 7th Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan)

鈴木 伸介 SUZUKI Shinsuke、大熊 春夫 OHKUMA Haruo

(財)高輝度光科学研究センター 加速器部門 Accelerator Division, JASRI

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1.はじめに

 記録的な猛暑の中、第7回日本加速器学会年会が2010年8月4日から6日までの3日間、姫路市文化センターに於いて開催された。加速器学会年会は、学会会員(会員数約650名)を中心とする加速器に携わる研究者、技術者が一堂に会し、加速器本体に関する理論、技術開発はもちろん、加速器を用いた利用研究や加速器施設の建設設計に関わる土木工学などの技術検討に至る話題まで、広範囲の研究発表を行う国内最大の会議である。

 

 

2.加速器学会について

 加速器はそれを利用してサイエンスが展開されるのが前提であり、利用のない加速器はあり得ない。放射光光源加速器もその一つである。自由電子レーザーも含めて放射光は電子加速器から発生するが、中性子利用による物質科学の研究を展開することを目的の一つとして建設されたJ-PARCはハドロン加速器である。また、医学利用も加速器の重要な利用の一つであり、非常に多くの陽子あるいは重イオン加速器が全国に続々と建設されている。加速器学会は加速器の種類、その利用分野の違いなどにより細分化される部分と、その違いを越えた共通の問題を議論する部分とが混在する学会である。テーマ、対象を絞り込んで共通の話題を議論する研究会も必要であるが、加速器全般に渡って広く目を向ける機会となるこのような学会も重要である。

 さて、加速器学会はその年会が第7回目と若い学会ではあるが、その前身は古く、1975年にリング型加速器を中心とする加速器科学研究発表会が高エネルギー物理学研究所(当時)で、1976年にはリニアック技術研究会が東北大学核理研(当時)で開催されており、これらの伝統を継承している。1997年の加速器科学研究発表会、2000年のリニアック技術研究会はSPring-8がホストとなり、それぞれ播磨科学公園都市、姫路市で開催された。

 学会年会の主催は日本加速器学会であるが、今回の開催に当たっては、独立行政法人理化学研究所播磨研究所、財団法人高輝度光科学研究センター、兵庫県立大学高度産業科学技術研究所、兵庫県立粒子線医療センターおよび姫路市の共催で開催する体制が組織された。前者4組織は、播磨科学公園都市に加速器を持つ組織、姫路市には開催地の自治体として会場提供や、市民公開講座の広報等に多大な便宜を図っていただいた。本年会の各委員会組織は、大熊春夫組織委員長(JASRI)、新竹積プログラム委員長(理研播磨研究所)、鈴木伸介実行委員長(JASRI)を中心に運営を行った。

 

 

表1 カテゴリー毎の発表申込件数

セッション

全件数

口頭希望者数

最終決定数

電子加速器

16

5

4

ハドロン加速器

21

10

5

シンクロトロン放射光、FEL、ERL

30

8

6

ビームダイナミクス、加速器理論

9

1

1

加速器技術/粒子源

24

7

4

加速器技術/高周波加速空洞

38

10

5

加速器技術/高周波源

17

2

2

加速器技術/電磁石と電源

30

5

4

加速器技術/挿入光源

3

1

1

加速器技術/ビーム診断

33

5

4

加速器技術/制御、LLRF

41

8

6

加速器技術/レーザー

5

2

1

加速器技術/真空

6

0

0

加速器応用、産業利用

26

12

5

加速器土木、放射線防護

25

11

5

324

87

53

 

 

3.会場

 これまで、SPring-8がホストになる学術会議を姫路市で開催する場合は、イーグレひめじを会場にすることが多かったが、開催予定日に既に使用予定が入っていたこともあるが、以下に述べる本学会の目的に叶う会場として、姫路市文化センターを選んだ。加速器学会では参加者全員(500名程度)が入ることのできる大きなホールと100〜200名程が余裕を持って入ることができるパラレルセッション用の場所、および200件程度のポスター発表の出来るスペースを併せ持つ必要があり、宿泊の問題も考慮すると、SPring-8サイト内での開催は難しいと考えた。竜野、相生、赤穂などの近隣都市にはそれなりの会場はあるが、宿泊のことも考えると姫路、神戸などを選択肢に入れざるを得なかった。神戸には目的に合った会場はあるが、SPring-8サイトから離れるため、準備などの移動を考えた際には不便だと判断した。姫路市文化センターは大ホール、小ホールとも十分に広く、余裕を持って開催することができるが、今までこのような学術会議を行ったことが無く、最初に文化センターに直接話を聞きに行ったときは三日間も占有する前例もなく大変難しいだろうと、けんもほろろとも言える状況だった。SPring-8は今まで多くの会議を姫路で開いた経験もあり、姫路市に直接話を伺ったところ、姫路市と共催することにより、いろいろと便宜を図って貰い会場として使用することが出来た。姫路市文化センターは大ホールが1500名ほど、小ホールでも500名ほどが入ることの出来る会場であり、少々広すぎるきらいもあったが、余裕を持って座ることが出来たので、参加者には概ね好評だったようである。ポスター会場も十分広く、余裕を持ったポスター配置をすることが出来た。問題は多少複雑な会場レイアウトのために、行きたいところを探すのに手間取った事である。個々のホールの単独利用が前提の建物であり、会場設営を行った我々でも迷うことが多かった会場なので、初日などは掲示された地図を見て首をかしげている人も多かった。

 最近の学会ではロビーなどで無線LAN等が使えるのは当たり前になっているが、今回の会場は大分前に建設された施設であるため、会場内にLAN等も当然用意されておらず、NTTからレンタル回線を引くところから始めたので、十分な回線数を確保できず、繋がりにくく不便を掛けたようである。姫路市に開催報告に伺った折に、今後の要望としてあげた項目のひとつである。

 

 

4.発表講演

 今回は最終的に356件の発表があった。内訳は今回初めての試みの施設現状報告(常設ポスター)37件、口頭発表53件(選定後)、ポスター発表266件(うちポスタープレビュー12件)であった。各カテゴリーの応募数と発表数について表1に示す。

 

4-1 口頭発表

 口頭発表は、初日の午前中に大ホールだけを使った5件の合同セッションと、その後に同時に2会場を使った48件のパラレルセッションが行われた。

 会議の口火を切る合同セッション(写真1)は、プログラム委員会における口頭発表選定の過程で、各カテゴリーから参加者全員の話題とするに相応しいと評価されて選ばれたものであり、X線自由電子レーザー計画の進展(新竹積:XFEL)、ナノビーム方式に基づくSuperKEKBの設計(小磯晴代:KEK)、理研RIビームファクトリーにおける48Caビームの加速(加瀬昌之:理研仁科センター)、HIMAC次世代重粒子線照射システムの建設(白井敏之:放医研)、S1-GlobalにおけるTESLA 改良型超伝導空洞のクライオモジュール試験(加古永治:KEK)の5件であった。これらが現在の加速器業界で注目されている加速器の話題に関係する研究であり、中でもSPring-8で建設中のXFELの報告がオープニングで行われ、加速器の中でも大きな注目を引いていると言える。大型の施設での発表が選ばれることが多いのは、加速器科学が装置主体の研究であることが大きいのであろうか。パラレルセッションで目を引くのは制御、LLRF(Low Level Radio Frequency)のセッションでの発表数の多さである。近年の加速器における制御の重要性を垣間見ることができるが、その割に口頭発表の希望者数が少ないのが面白いところでもある。

 

 

写真1 口頭発表 大ホール会場

 

 

4-2 ポスター発表

 ポスターセッションは初日と二日目に行われ、件数はどちらも133件、計266件であった。会場は展示室(写真2)およびその周辺と大ホール中2階に分かれており、比較的余裕のあるスペースを確保することができた。大ホール中2階は本来、休息用の長椅子が置かれているロビーであるため、ポスター発表には照明が不十分であり、パネル毎に照明を追加したがまだ十分とは言えなかったが、それを吹き飛ばすほど会場一杯に参加者が集まり、熱気ある活発な議論がなされていた。

 

 

写真2 ポスター会場 展示室

 

 

4-3 施設現状報告

 昨年までの加速器学会では、各施設の現状報告が初日に口頭発表により行われていたが、発表申込件数が増加する中で、限られた会期に多くの新鮮な口頭発表を質疑応答の時間も確保して出来る限り多く行うべきであるという意見が出され、毎年同じような施設現状報告に多くの講演時間を費やすのは如何か、という意見が出された。一方で「どこの施設がどういう方向を目指して何をしているのか」という情報は、それぞれの加速器施設にとっては重要であり、多くの人の関心を引くものであることも確かである。このような検討の中で、施設現状報告を単に口頭発表から外して一般のポスター発表と同列に扱うことも出来ないという意見も多く、常設ポスターを掲示して貰うという方針が組織委員会、プログラム委員会で決定され、前回第6回までの加速器学会に現状報告をした実績のある26施設に対して、常設ポスター発表の依頼をした。加速器施設の数は依頼をした施設よりはるかに多く、現状報告を希望する施設に対して門戸を閉ざすのではなく、希望する施設には事務局までの連絡をお願いしたところ、新たに11施設からの発表希望があり、計37施設の発表になった。放射光学会のやり方を参考にさせていただいたわけであるが、加速器施設の定義が難しく、カスケード型に加速していくマシンの場合に、個々のマシン毎に報告が出てくる例もあり、また、プロシーディングスの取扱いの問題など、やり方については更に検討していく必要があるだろう。

 

4-4 ポスタープレビュー

 口頭発表の数を制限したため、ポスター発表だけでは物足りない人への宣伝のチャンス、学生の口頭発表経験のチャンス拡大などを目指してポスタープレビューが行われた。初めての試みであり馴染みがない、時間が短い、1枚でまとめるのは難しいなどの問題等からか、今回は12件の発表に留まったが、昼食時間に弁当を食べながら話を聞くというスタイルが功を奏したためか、200名程度の聴衆が集まった。新たな試みであり、ポスタープレビューへの参加を推奨する働きが不足していたためか、皆さん様子見だったのか、申込件数は少なかったが、内容については概ね好評であった。今後は学生のポスター発表にはプレビューを積極的に奨励するなどの工夫を行い、発展的に継続していくことを期待したい。

 

 

5.技術研修会

 加速器学会の前身の一つであるリニアック技術研究会の「大学の技官のような技術の継承・発展を支える人たちも参加しやすい研究会を目指す」という精神継承のために、旧リニアック技術研究会世話人を中心とした企画によって昨年より始まった技術研修会であるが、今回も初日、2日目のポスターセッションと並行して小ホールにて開催された。今回のテーマは「加速器の運転・制御技術」というタイトルでKEKの山本昇氏が「EPICSを中心とした国際協力による運転制御技術のトレンド」、同じくKEKの小田切淳一氏が「LinuxをOSとして採用したPLCの利用」というタイトルで講演を行い、200名ほどの参加があった。テーマの選び方が難しいであろうが、今後も続けて行く価値は大いにあると思っている。

 

 

6.市民公開講座

 学会活動にも社会参加、社会貢献という事が求められるようになり、これまでの加速器学会年会においても、その一環として名称は異なるが同様の催しを行ってきた。今回の年会でも一般の人たち向けの市民公開講座が開催された。講演はSPring-8ユーザーでもある東京大学分子細胞生物学研究所教授豊島近先生にお願いし、「カルシウム・ポンプ・タンパク質ってどんなもの? 〜放射光が解きあかすナノ機械の精緻なしくみ〜」というタイトルで講演(写真3)を行っていただいた。学会の一般講演が終わった17:30からの開催であり、参加者は215名で一般の方が約100名(そのうち事前登録約70名)で、残りが学会関係者であった。

 人体の中でカルシウムが果たす役割を分かりやすく説明しようとする豊島先生の話は、一般の人にも興味を持ってもらえる話題であり、分子生物学は門外漢の加速器専門家も興味を引かれるテーマで、アニメーション動画を多く使い視覚的にも楽しめる講演であった。講演後の質疑応答では研究者よりも一般市民の方から独創的で的を得た質問が多く出て、講演者の豊島先生に講演後に話を伺ったところ、「大学で講義するより楽しかった」と仰っていたのを付記しておく。

 

 

写真3 市民公開講座 豊島先生

 

 

7.懇親会

 懇親会は文化センターより徒歩20分ほどの姫路キャッスルホテルで行われた。夕方とはいえ、まだかなり暑い時間に徒歩での移動で、なかなかつらいものであったが、移動にバスを使っても渋滞の時間帯でもあり、かえって時間がかかり、メリットが少ないのでしかたがない。懇親会の参加者は294名でかなりの盛会であった。料理は十分にあり、特にアトラクションもなくとも2時間を超える式時間であったが、飽きることなく久しぶりの人たちとの会話を楽しんだ。

 オープニングでは姫路市内の「奥播磨」と「龍力」で鏡割りが行われた。播磨地区は灘ほど有名ではないが、酒処であり、播磨地区で25軒、姫路市内にも9軒の造り酒屋があるので、懇親会では地元の日本酒を楽しんでもらうことができた。

 

 

8.施設見学ツアー

 会議終了後には加速器学会年会では(と言うよりも、加速器関連の研究会などでは)恒例となっている見学ツアーが開催された。ツアーはSPring-8サイト内の加速器を見学するものである。建設中のXFELを核として、もう一箇所の見学場所としてSPring-8蓄積リング、SPring-8入射器、NewSUBARUのいずれかを選択する形式であった。学会の閉会式後、チャーターバスで文化センターから約1時間移動してSPring-8サイトまで移動し、各施設を見学するのであるが、時間節約のため事前に弁当を購入し、バスの中で食べながら移動する方式をとり、移動に時間がかかる割には十分に見学時間を取ることができた。

 XFELは、この秋からRFエージング運転が開始される予定となっており、全域に自由に入れる最後のチャンスであり、参加者には十分堪能していただけたと思う(写真4)。バス6台を仕立てて準備をしたが、当日キャンセルもあり実際の見学者は163名となったため、座席には大分余裕があった。

 


 

写真4 施設見学ツアーの様子 XFEL棟内にて

 

 

9.企業展示

 企業展示への出展申込は想像以上に増加し、48社49ブースが埋まった。全体のスペースおよび企業展示、ポスター発表の両方に多くの人の足が向くようにとの配慮から、企業展示ブースは大ホールロビーと展示室の2カ所で行われた。大ホールロビーは講演会場の人の流れの途中、展示室はポスター会場の一部と言うことで、多くの人が移動することにより 自然とブースに足が向かうようにすることが出来た。展示ブースの場所は申し込みが早かった順に選べるようにしたが、どちらもうまく人の流れを作ることができ、公平な割り振りが出来たと思っている。

 

 

10.最後に

 今年の5月末に世界加速器学会[1][1] 水野明彦、大熊春夫、稲垣隆宏:SPring-8利用者情報 3(2010)179.が京都で開催されたために、加速器学会への参加者が少なくなるのではないかと危惧したが、結果としては例年を大きく下回ることはなく、会期を通して一般394名、学生49名、計443名の参加登録があった第7回加速器学会年会は、大きなトラブルもなく無事終了することができた。多くのSPring-8関係者に大変御世話になり、この場を借りて御礼を申し上げたい。

 この報告を読んで加速器に興味を持って頂いた方は加速器学会のホームページhttp://www.pasj.jp/を覗いて欲しい。今まで開催された加速器学会のプロシーディングを見ることも出来るので、是非、ご覧いただければと思う。また、SPring-8図書室では、加速器学会誌「加速器」が閲覧できるので、実験の合間などに手に取っていただけると放射光の発生装置である加速器に関心を持って貰えるのではと期待している。

 なお、来年の年会はKEKが中心となってホストを務め、つくば地区で開催される予定である。

 

 

 

参考文献

[1] 水野明彦、大熊春夫、稲垣隆宏:SPring-8利用者情報 3 (2010) 179.

 

 

 

鈴木 伸介 SUZUKI Shinsuke

(財)高輝度光科学研究センター 加速器部門 加速器第1グループ

〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

TEL:0791-58-0851 FAX:0791-51-0850

e-mail:shin@spring8.or.jp

 

大熊 春夫 OHKUMA Haruo

(財)高輝度光科学研究センター 加速器部門

〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

TEL:0791-58-0851 FAX:0791-51-0850

e-mail:ohkuma@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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