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Volume 14, No.2 Pages 167 - 168

3. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTERS FROM SPring-8 USERS

SPring-8利用者懇談会会長に就任して
The President’s Impressions of the SPring-8 Users Society

SPring-8 利用者懇談会 会長 佐々木 聡   SASAKI Satoshi

東京工業大学 応用セラミックス研究所 Materials and Structures Laboratory, Tokyo Institute of Technology

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 この度、SPring-8利用者懇談会会長という大役を引き受けさせていただくことになりました。SPring-8利用者懇談会(利用懇)の存在意義は、SPring-8での会員の研究活動が円滑に進展すること、SPring-8自身が発展すること、そして会員相互の交流を図ることにあると思っています。利用者と施設とのインターフェースとして最大限の努力をしますので、何卒よろしくお願い致します。

 早いもので、2007年10月の供用開始10周年記念式典から、もう1年半が過ぎようとしています。SPring-8の十年を振り返ってみますと、最初は色々な方面で紆余曲折があったようですが、現在のSPring-8自身や利用の充実ぶりをみて、非常に成功した大型施設という高い評価に誰も異論がないと思います。そして今は、これまでの評価に甘んずることなく、次の十年に向けて取り組むべきことを考え、更には、その先の十年に何をするのかを真剣に議論する時期にきていると思います。幸いなことに、この試みは坂井前会長の下で、すでにスタートしています。すなわち、利用懇の研究者が今後十年間にどのような研究を志向しているのかについて、供用10周年記念冊子「SPring-8における近未来の利用研究の展望」として、この3月にまとめられました。ある一定部数印刷されるようですが、利用懇の会員の皆様には、利用懇のホームページから記念冊子のpdfファイルをダウンロードできるようになると伺っています。

 ところで、その先の十年に目を向けてみますと、SPring-8であっても、現状の設備を維持するだけでは、老朽化が目立ち始め、加速器の性能をフルに利用する研究で国際競争力を失ってしまう、という惨めな光景が浮かんできます。世界に3つある第三世代大型リングを見てみますと、ヨーロッパのESRFには2017年までに約3億ユーロの資金をかけてESRFをアップグレードする計画があり、一方の米国APSにも2020年の実現を目指すAPS改修計画があります。幸いなことに日本のSPring-8キャンパスには、XFELの建設が進行中であり、SPring-8と相補的な新しい実験が生まれると期待されています。しかしXFELのみでは、放射光科学の幅広い領域の研究を全てカバーすることは到底無理であり、多くの実験が同時に進行可能な蓄積リング型の加速器の必要性が再認識されています。このような中で、十年後にSPring-8がどのように輝くのかが問われてきますので、利用懇として、十年後に推進すべき研究の提案をどんどん発信していきたいと思っています。そして、SPring-8アップグレード計画(蓄積リングの改造計画)の立案には、利用者の立場から大いに寄与したいと考えています。皆様のご協力をよろしくお願い致します。

 利用懇では、SPring-8を取り巻く環境に合わせ、会員の研究活動が円滑に進むための工夫がされてきました。その主だったものが研究会組織です。例えば、建設フェーズ(1993年〜2000年)ではサブグループ体制が、その後の利用フェーズ(2001年〜2004年)では、ビームラインサブグループと利用研究会の混成体制が重要な役割を果たしてきました。そして、大型施設での成果が大きく問われる利用の円熟期フェーズ(2005年〜)に突入してからは、ご存知のように、利用促進委員会を中心とした新研究会の活動が始まりました。現在は、第二期利用促進委員会(高原委員長)がスタートして1年を経過した時期にあたりますが、新しい研究会や委員会の姿が見えてきて安堵しているところです。利用促進委員長、坂田第3代・坂井第4代会長をはじめ関係者のご尽力に感謝する次第です。3代にわたるスリーSを通じ、この体制を確固たるものにしたいと考えています。

 研究会組織以外にも、新風が吹いています。例えば、昨年のSPring-8シンポジウムは東京で初めて開催されました。今年度には、9月3日と4日の2日間にかけて東京ステーションコンファレンスで、SPring-8シンポジウムとSPring-8産業利用報告会との合同開催の形で実施されることが予定されています。今後、産業利用のSPring-8利用推進協議会との連携が進むものと期待しています。

 SPring-8のユーザー数と利用懇会員数のギャップも悩ましい問題です。例えば、ESRFでは過去5年間に実験を行ったユーザー全員がESRF User Organizationの会員として自動的に認められます。APSでも、バッチをもっている全ユーザーがAPS User Organizationの会員です。このような形態がとれると、放射光研究コミュニティとして対外的な連携を図ることが容易ですが、日本では実現がなかなか難しいようです。このような状況の中では、利用懇の会員を増やすことが必須です。SPring-8のユーザーの半数以上が学生であり、その分を棚上げにしたとしても、現状では、登録ユーザー中の会員は3割にも達していないと思われます。任意で加入いただく会員数としては限界かもしれませんが、この問題は歴代の評議員会で議論され、その一端として、研究会活動や会員名簿のweb化が実現しています。しかし、一般のユーザーにとって、2,000円の年会費を払ってまで利用懇に入るメリットとしては、まだまだ魅力に乏しいのかもしれません。ユーザー支援体制を日本の中で比較すると、SPring-8では比較的よく整備されていると実感します。そのような環境では、敢えて利用懇に頼ることもないのかもしれません。そうはいっても、他の施設では実際に損害賠償を求められたという話も聞きますし、利用懇を何か問題が起こった時の精神的な支え、と考えてもらい、ちょっとした保険に入った気分になるのは如何でしょうか。会員相互の交流を深め、魅力的な利用懇を目指します。ぜひ、利用懇に入会ください。

 最後になりましたが、新しい幹事(表1)と評議員(表2)(敬称略)を紹介させていただきます。金融危機とチェンジが直撃している中でのスタートですが、よろしくお願い致します。

 

 

表1 2009年度SPring-8利用者懇談会幹事(仮承認)

庶務幹事  沼子 千弥 (徳島大学)
      奥部 真樹 (東京工業大学)
会計幹事  神谷 信夫 (大阪市立大学)
行事幹事  池田  直 (岡山大学)
      西堀 英治 (名古屋大学)
編集幹事  鳥海幸四郎 (兵庫県立大学)
      小澤 芳樹 (兵庫県立大学)
広報幹事  植草 秀裕 (東京工業大学)
利用幹事  久保田佳基 (大阪府立大学)
運営幹事  雨宮 慶幸 (東京大学)
      高橋 敏男 (東京大学)

 

 

表2 2009年度SPring-8利用者懇談会評議員

青木 勝敏 (日本原子力研究開発機構)
雨宮 慶幸 (東京大学)
池田  直 (岡山大学)
乾  雅祝 (広島大学)
尾嶋 正治 (東京大学)
篭島  靖 (兵庫県立大学)
金谷 利治 (京都大学)
北川  宏 (京都大学)
黒岩 芳弘 (広島大学)
坂田  誠 (高輝度光科学研究センター)
澤   博 (名古屋大学)
大門  寛 (奈良先端科学技術大学院大学)
高原  淳 (九州大学)
鳥海幸四郎 (兵庫県立大学)
中井  泉 (東京理科大学)
野田 幸男 (東北大学)
松井 純爾 (兵庫県放射光ナノテク研究所)
圓山  裕 (広島大学)
村上 洋一 (高エネルギー加速器研究機構)
渡辺  巌 (立命館大学)

 

 

 

佐々木 聡 SASAKI Satoshi

東京工業大学 応用セラミックス研究所

〒226-8503 横浜市緑区長津田町4259番R3-11

TEL : 045-924-5308 FAX : 045-924-5339

e-mail : sasaki@n.cc.titech.ac.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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