ページトップへ戻る

Volume 14, No.1 Pages 18 - 19

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

研究交流施設における無線LAN導入および無線LANシステムの将来計画について
Introduction of Wireless LAN Service at the SPring-8 Guest House and Future Plan for Site-Wide Wireless LAN System

(財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門 Controls and Computing Division, JASRI

Download PDF (16.71 KB)

 

1. はじめに

 SPring-8は国内外の研究者に広く開かれた共同利用施設であることから、実験を行うために来所する利用者が所内および研究交流施設にてネットワークを利用できるようになっています。

 従来は有線LAN接続によるネットワーク接続を提供していましたが、昨今のネットワーク接続状況をみると、無線LAN接続によるネットワーク接続が利便性の点で優れています。また、近年では無線LAN接続機能のみが搭載される機器も増えてきていることから、今回、研究交流施設の全建物に無線LANを導入し、平成21年1月より運用を開始しました。

 この機会に、研究交流施設の無線LANサービスの開始と無線LANシステムの将来計画について述べたいと思います。

 

 

2. 研究交流施設の概要と無線LANシステム導入の検討

 研究交流施設はSPring-8建設当時より存在する利用者のための滞在施設として、受付がある管理棟および4棟の滞在棟(A〜D棟、全240室)で構成されています。滞在棟の各部屋までは有線ネットワークが敷設されており、最近まで有線LANによるネットワーク接続を提供していましたが、これらの有線LANは建設当時に敷設したネットワーク設備であり、近年では様々な不具合が生じていました。例えば、情報コンセント接点の劣化による接続不良や、10年以上前に建物の内部に敷設したケーブルが昨今の機器で要求される高速通信に対応できないなど、ネットワークシステム全体の再検討が必要となってきました。

 事務系ネットワークにおいては、平成15年度より無線LAN接続サービスの導入試験を開始しており、正式運用後、サービスエリアも順次拡大してきました。現在ではサイト内に多数の無線LAN用基地局(約100台)が設置されており、多くのエリアで無線LANによるネットワーク接続が可能となっています。一方で研究交流施設においても、利用者より無線LAN経由での接続ができないのか、いつから導入するのかとの問い合わせが日々増えてきており、導入について具体的な検討の必要性が生じていました。そこで、事務系ネットワークにおける無線LAN運用実績を踏まえ、平成19年度末より具体的な導入プランを検討し始めました。

 

 

3. 導入にあたっての懸案事項と解決案

 基地局設置および機器選定にあたり、下記について注意深く検討を行いました。

 

● 基地局設置にあたり、どのくらいの基地局密度があれば電波強度の問題は生じないのか?

● 多数の基地局を設置する場合、各基地局同士の電波干渉は問題ないのか?

● 基地局故障への対策はどうするのか?

● 将来のサービス増強(基地局数の増加、通信規格への対応、IPフォンへの対応など)に対するシステムの柔軟性は?

● 無線LAN上流の広帯域化の検討と導入

 

 前述したように研究交流施設には居室が240室あり、全ての部屋で安定して通信を行うためには十分な電波強度および基地局密度が必要となります。基地局の設置プランを作成するにあたり、各部屋においてどの程度の電波強度および通信速度が得られるかを測定する必要があります。実際の設置状態の具体的な数値を得るために、導入を検討していた無線LAN機器をメーカーより借り受け、居室に仮設置し、近隣の各居室において電波測定(AirMagnet Laptop)および通信帯域測定(Netperf)を行いました。その結果、基地局を3室に1台の割合で系統的に配置することで、全ての部屋で十分な電波強度を得られることが判明しました。また前述の基地局密度であれば、ある基地局に故障が発生した場合においても、近隣基地局からの電波により実用的な帯域(約10 Mbps以上)で通信可能であることも確認できました。

 限られた周波数帯域を利用する無線LANでは、基地局同士の電波干渉に起因する通信不良が発生しやすいのですが、今回導入を行ったMeru Networksの無線LAN機器に搭載されている独自技術(多数の基地局を単一チャンネルで構成可能なVirtual Cell技術)を利用することにより、電波干渉を考慮する必要なしに高密度な基地局配置が可能となりました。また、今回導入した機器は集中管理型(コントローラに機能が集約されている)の無線LANシステムであるため、各基地局の稼働・通信状況の把握および故障時の対応についても、コントローラ側で柔軟に対応を行うことができるのも大きなメリットであります。なお、各建物内のケーブル老朽化問題については先に述べたが、研究交流施設までの基幹ネットワーク経路の光ファイバについても同様の問題が発生していました。

 SPring-8の基幹ネットワークスイッチと研究交流施設の間は、建設当初に敷設したマルチモードファイバを用いた10BASE-FL規格(10 Mbps)により接続されており、今日、標準的に使用されている通信規格と比較すると通信帯域の不足は明らかでした。また、光ファイバ切断やネットワーク機器故障に起因する通信障害に対する冗長性も持っていませんでした。そこで、研究交流施設におけるネットワーク帯域を改善するため、現状のマルチモードファイバを利用しつつ広帯域・長距離通信が可能な1000BASESX2を採用して、本規格に対応したネットワーク機器であるNEC UNIVERGE IP8800/S2430-24Tを導入し、ギガビット化しました。さらに通信経路に冗長性を持たせるためLink Aggregationを利用し、通信経路の高速化および冗長化を実現しています。

 

 

4. セキュリティ対策

 無線LANは有線LANのような利用位置の制限がない一方、電波がどこまで飛んでいるかを直接目で確認することができません。つまり、電波の届く範囲であれば誰でも通信内容を傍受することが可能であり、傍受されたことを感知する方法も存在しません。また、有線LANのようにネットワークへ接続するためのケーブルが存在しないため、管理者の意図に反するネットワーク網へのアクセスやサービス不能攻撃を容易に試みることが可能ともいえます。傍受や侵入および攻撃を未然に防ぎ、万が一のセキュリティ障害を検知するための情報セキュリティシステムの導入は最も重要になってきます。

 そこで、無線LANにおけるセキュリティ対策は、個人の認証および通信経路の暗号化と対攻撃性が重要です。認証の観点では、以前より無線LANシステムにユーザ認証システム(Vernier Networks製認証装置)が導入されており、Webブラウザ上でユーザ認証を課することにより無関係の第三者による不正利用を防止していました。

 一方、暗号化・対攻撃性という観点では、旧機器との互換を保つため、従来の無線LANシステムは非暗号化接続しか提供できていませんでした。今回、マルチプルESSID対応無線LAN機器を導入したことにより、旧機器との互換性を保ちながら安全な無線LAN接続(WPA-PSK、WPA2-PSK)を提供でき、通信傍受や攻撃への対策が可能となりました。マルチプルESSIDを活用した暗号化接続は、基地局の更新により今後サイト全体で提供する予定です。さらに無線LAN監視システム(AirMagnet Enterprise)を用いて非管理基地局およびクライアントを常時監視しており、安全・安定な無線LANの提供に貢献しています。

 

 

5. 将来計画

 無線LANの規格は急速に拡張されてきています。特に、高速通信規格(IEEE 802.11n、最大600 Mbps)については2009年中に標準化される予定であり、規格ドラフト2.0版対応機器の普及が始まっています。SPring-8における無線LAN運用についても将来の規格への対応を考慮しながら、製品の選択およびネットワークトポロジーの検討を行っていく必要があります。研究交流施設に導入された無線LANシステムも、IEEE 802.11n規格ドラフト2.0版に準拠し、Wi-Fiアライアンスによる動作認定を受けていることを条件の1つとしました。将来的にはサイト内で展開している全無線LAN機器を本システムへ統合し、IEEE802.11nによる高速接続を提供することを予定しています。

 また、現在行っている認証方法(Webブラウザ上でアカウント情報を入力する)以外にも、MACアドレス認証、暗号化鍵の自動配布とネットワーク選択に対応した高機能認証(IEEE802.1X)、また国際会議のような短期間のネットワーク利用についてはESSID/事前共有鍵のみによる簡易認証など、各種の認証方法を柔軟に提供する予定しています。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794