Volume 12, No.1 Pages63 - 65
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第10回SPring-8シンポジウム報告
Report of The 10th SPring-8 Symposium
1.はじめに
第10回SPring-8シンポジウムが平成18年11月1日(水)〜2日(木)の期間に、SPring-8放射光普及棟において開催された。参加者は220名(外部:115名、施設内部:105名)であった。10回目となる本シンポジウムは、平成9年にSPring-8が供用を開始してから10年目となる節目の会議となった。この記念すべきシンポジウムをどのように企画するかにあたり、SPring-8シンポジウム実行委員会では、これまで施設側からユーザー側への一方的な情報発信の場であったシンポジウムを、ユーザー側と施設側の双方が情報交換できるような場にできないか検討した。この背景には、最近SPring-8利用者懇談会において大規模な組織改革が行われ、これまでのサブグループが廃止されて新研究会が発足したことがある。そこでSPring-8シンポジウム実行委員会では、これまで行ってきた特定テーマに沿った利用技術に関するワークショップを廃止し、プログラム内容を1.施設側による報告、2.ユーザー側(SPring-8利用者懇談会研究会)による報告、3.総合討論(施設側vs.ユーザー側)による構成とし、ユーザー側と施設側の意見交換を目的とすることにした。また、この他にもうひとつの目玉として、普段あまり交流のない産業利用グループに招待講演をお願いし、お互いの研究交流の場となるように試みた。詳細については本文最後のプログラムを参照されたい。
2.会議内容
シンポジウムは9時30分よりJASRIの吉良理事長の挨拶で開会し、続いてJASRIの大野専務理事より、「特定先端大型放射光施設の共用の促進に関する法律(新SR法)」の内容や、平成18年7月3〜5日に行われた国際諮問委員会によるSPring-8の評価・提言内容、またX線自由電子レーザー(XFEL)の現状と整備計画など、施設全体の管理・運営体制についての報告があった(写真1)。JASRIの高田利用研究促進部門長からは、ビームラインの利用・運転状況や2007A期(平成19年3月2日〜7月19日)の予定などについての報告が行われ、JASRIの熊谷加速器部門長からは、この10年間の加速器・光源の高度化の経緯と、ビームの高性能化と高機能化についての将来計画が示された。上記の施設側による現状報告の後、現在進行中の長期利用課題のうち中間評価を兼ねた3件の報告「100万気圧以上における高温その場観察実験の開発と地球惑星内部物質の相転移の研究」(巽氏(海洋研究開発機構))、「Nuclear Resnance Vibrational Spectroscopy (NRVS)of Hydrogen and Oxygen Activation by Biological Systems」(S.P.Cramer(U.C.Davis))、「多剤排出蛋白質群のX線結晶構造解析」(村上氏(阪大産業科学研究所))が行われ、1日目の前半のセッションを終了した。
写真1 シンポジウム講演の様子
昼食後の14時からは、SPring-8利用者懇談会の坂井会長の挨拶の後、施設側からユーザー側へバトンを交代し、新しく発足したSPring-8利用者懇談会の34の研究会の中の12の分野担当者が、それぞれが所属する研究分野を代表して口頭発表を行った。研究会は7月に2ヵ年計画を提出して活動を開始したとはいえ、実質的には今回のシンポジウムが最初の研究会活動の場であり、分野担当者は25分間の発表時間内に、所属する研究分野の活動計画内容を紹介した。最初にイメージング分野を代表して顕微ナノ材料科学研究会の越川氏(大阪電通大)の発表の後、新産業育成分野代表、赤外光励起による新物質プロセッシング研究会の白井氏(阪大産業科学研究所)、バイオ・ソフトマスター分野代表、小角散乱研究会の佐藤氏(横浜市大)、ポリマーサイエンス分野代表、高分子科学研究会の田代氏(豊田工大)、安全・安心社会構築分野代表、エネルギー機器用構造材料ナノ組織の極微応力・ひずみと組成ゆらぎ解析に基づく損傷クライテリア解明と高信頼材料設計指針の策定に関する研究会の三浦氏(東北大)、地球惑星科学分野代表、地球惑星科学研究会の入舩氏(愛媛大)による発表が行われた。それぞれこれまで交流のない研究分野であるために、初めて聞く発表ばかりであったが、技術やアイデアにおいて共通する部分も多く、議論が活発に行われた。講演終了後、17時からSPring-8利用者懇談会の総会に入り、会計幹事、編集幹事、行事幹事による報告、利用促進委員会の報告、会計予算報告が行われ承認された。その後、食堂に移動して懇親会が開かれ1日目のセッションを終了した。
2日目は9時より前日に引き続いて分野担当者による発表がスタートした。エネルギー・環境分野代表、表界面・薄膜ナノ構造研究会の吉本氏(東工大)、先端科学開拓分野代表、核共鳴散乱研究会の瀬戸氏(京大)、構造物性研究会の北川氏(九大)、凝集体の動的構造研究会の乾氏(広大)、理論研究会の馬越氏(兵庫県立大)、情報・磁性デバイス分野、磁性分光研究会の城氏(広大)の発表が行われ、午前中のセッションにて分野担当者による口頭発表はすべて終了した。午後からは普及棟中講堂において、13時から14時30分までをコアタイムとしてポスターセッションが行われた(写真2)。33の研究会から38件、共用ビームライン14件、理研・専用施設ビームライン11件、パワーユーザー活動報告5件、長期利用課題中間報告6件の合計74件の発表があった。例年に比べてポスター発表件数が多かったこともあり、会場は大変盛況であった。午前中までに各研究会の活動内容が紹介されていたため、ポスターセッションでは、具体的な利用技術やサイエンスの中身に突っ込んだ議論が活発に行われていた。また、施設側からは最先端技術を使った最新の成果についての発表が多く見られ、あちこちでビームラインの高度化や新しい研究の開拓の可能性についての意見交換が、現場レベルで行われていたように感じられた。
ポスターセッションの熱気が冷めないまま、14時30分から大講堂において、堂前氏(豊田中央研究所)による招待講演「自動車用排ガス浄化触媒のin situ XAFS分析」が行われた。この招待講演は、これまで同じ施設を利用していながらほとんど交流のなかった産業利用グループとSPring-8利用者懇談会との間で情報交換し、お互いの研究の裾野拡大や新規ユーザー開拓のきっかけとなることが狙いである。講演では、自動車の排ガスに対する貴金属触媒の特性を調べるためには実際の使用環境下(ガス雰囲気+高温)における測定が必要で、実用触媒の解析においてin situ XAFS測定が大変有用であることが報告された。普段あまり聞くことのない講演に会場の関心は非常に高く、特に測定技術に関しての質疑が活発に行われた。
写真2 ポスター発表の様子
15時からは、今回のシンポジウムのメインとなる総合討論がパネルディスカッション形式によって行われた(写真3)。パネラーはユーザー側からは、松原利用促進委員会委員長、坂田評議委員、佐々木課題選定委員長、施設側からは、高田利用研究促進部門長、山本利用研究促進副部門長、的場利用業務部長の計6名が登壇し、司会進行役の坂井SPring-8利用者懇談会会長より、今回の総合討論の趣旨とテーマ内容についての説明があった。討論はユーザー側、施設側のパネラーによる基調報告をもとに進められ、SPring-8利用者懇談会の新体制とJASRI側との対応についてと、利用課題選定のあり方についてのテーマで話し合われた。討論は研究会のあり方からSPring-8の今後の運営方針、消耗品実費負担制度、新規ビームライン建設など幅広く行われ、登壇を予定していなかったJASRIの吉良理事長も急遽飛び入り参加するなど、活発な意見交換が行われた。1時間という短い時間内では意見を集約するに至らなかったが、今後もこのような議論を継続していく必要性を改めて感じさせられた。最後に青木SPring-8シンポジウム実行委員長による閉会の辞をもって、2日間に渡る全部のセッションを終了した。
写真3 総合討論(パネルディスカッション)の様子
3.おわりに
今回のシンポジウムは、例年と全く方向性を変えて内容を一新したため、直前までプログラムを確定できず、SPring-8利用者懇談会の皆様には大変ご迷惑をおかけしました。SPring-8シンポジウム実行委員会を代表し、この場をお借りしてお詫びします。最大の目的であったユーザー側と施設側との意見交換については、ようやくキャッチボールを始めた程度で必ずしも喧々諤々とまではいかなかったまでも、最初の試みとしてはまずまず成功したのではないかと思う。しかし、プログラムが全体的に利用サイドに偏り過ぎて加速器系の内容が少なかったことや、若手の参加者が少なかったなど、反省すべき点もたくさんあり、今後の改善が期待される。
最後に、例年以上に大変な作業であったにもかかわらず、シンポジウムを無事に終えることができたのは、青木SPring-8シンポジウム実行委員長をはじめとする実行委員の方々と、坂井SPring-8利用者懇談会会長の多大なるご尽力のおかげである。この場をお借りして心よりお礼申し上げます。また、当日の会場設営や撤収作業を快く引き受けてくださった小口拓世さんをはじめとするJASRIのテクニカルスタッフの方々にも深く感謝いたします。
第10回SPring-8シンポジウム実行委員
実行委員長
青木 勝敏 (日本原子力研究開発機構)
副実行委員長
舟越 賢一 (JASRI利用研究促進部門)
実行委員
小澤 芳樹 (兵庫県立大)
猪子 洋二 (大阪大学大学院)
高橋 功 (関西学院大)
櫻井 伸一 (京都工芸繊維大)
古川 行人 (JASRIビームライン・技術部門)
宇留賀朋哉 (JASRI利用研究促進部門)
鈴木 基寛 (JASRI利用研究促進部門)
為則 雄祐 (JASRI利用研究促進部門)
長谷川和也 (JASRI利用研究促進部門)
高野 史郎 (JASRI加速器部門)
廣沢 一郎 (JASRI産業利用推進室)
高田 恭孝 (理化学研究所)
鈴木 昌世 (JASRI研究調整部長)
垣口 伸二 (JASRI研究調整部)
射延 文 (JASRI研究調整部)
平野 志津 (JASRI利用業務部)
第10回SPring-8シンポジウムプログラム
11月1日(水)
SessionⅠ:SPring-8の現状
9:30-9:40 理事長挨拶
吉良 爽(高輝度光科学研究センター)
9:40-10:00 施設全体の管理・運営
大野英雄(高輝度光科学研究センター)
10:00-10:30 ビームラインの利用・運転状況
高田 昌樹(理化学研究所/高輝度光科学研究センター)
10:30-11:00 加速器・光源の現状
熊谷 教孝(高輝度光科学研究センター)
11:00-11:10 コーヒーブレイク
SessionⅡ:長期利用課題報告
11:10-11:45 100万気圧以上における高温その場観察実験の開発と地球惑星内部物質の相転移の研究
巽 好幸(海洋研究開発機構)
11:45-12:20 Nuclear Resonance Vibrational Spectroscopy
(NRVS) of Small Molecule Activation by
Biological Systems.
Stephen P. Cramer
(University of California, Davis)
12:20-12:55 多剤排出蛋白質群のX線結晶構造解析
村上 聡(大阪大学)
12:55-14:00 昼食
SessionⅢ:利用者懇談会研究会の活動報告Ⅰ
14:00-14:10 利用懇会長挨拶
坂井 信彦(SPring-8利用者懇談会
会長/兵庫県立大学)
14:10-14:35 SPring-8におけるイメージング技術とビームライン新設の重要性
越川 孝範(大阪電気通信大学)
14:35-15:00 赤外光励起を使った新物質プロセッシングと新産業
白井 光雲(大阪大学産業科学研究所)
15:00-15:25 SPring-8が目指すX線小角散乱研究と構造生物学
佐藤 衛(横浜市立大学)
15:25-15:45 コーヒーブレイク
SessionⅣ:利用者懇談会研究会の活動報告Ⅱ
15:45-16:10 SPring-8におけるポリマーサイエンスの新規展開と近未来展望
田代 孝二(豊田工業大学)
16:10-16:35 安全・安心社会構築のための研究課題と放射光用計画
三浦 英生(東北大学)
16:35-17:00 地球惑星科学分野における最近の話題と今後の方向
入舩 徹男(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)
17:00-18:00 SPring-8利用者懇談会総会
18:20-19:30 懇親会
11月2日(木)
SessionⅤ:利用者懇談会研究会の活動報告Ⅲ
9:00-9:25 SPring-8におけるエネルギー・環境関連研究の現状と展開
吉本 護(東京工業大学)
9:25-9:50 先端科学開拓分野2
瀬戸 誠(京都大学)
9:50-10:15 先端科学開拓分野1
北川 宏(九州大学)
10:15-10:35 コーヒーブレイク
SessionⅥ:利用者懇談会研究会の活動報告Ⅳ
10:35-11:00 先端科学開拓分野3
乾 雅祝(広島大学)
11:00-11:25 理論研究会の活動
馬越 健次(兵庫県立大学)
11:25-11:50 磁性体におけるX線分光・散乱
城 健男(広島大学)
11:50-13:00 昼食
13:00-14:30 ポスターセッション
SessionⅦ:招待講演
14:30-15:00 招待講演:自動車用排ガス浄化触媒のin situ XAFS分析
堂前 和彦(豊田中央研究所)
SessionⅧ:総合討論
15:00-16:00 総合討論(パネルディスカッション)
16:00 閉会の辞
青木 勝敏(シンポジウム実行委員長
/日本原子力研究開発機構)
舟越 賢一 FUNAKOSHI Kenichi
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-0919 FAX:0791-58-0830
e-mail : funakosi@spring8.or.jp