Volume 10, No.1 Pages 17 - 18
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
プレス発表の状況(2004年10月〜11月)
Press Releases (October-November, 2004)
1月号は、2004年10月~11月の2ヶ月間にプレス発表されたトピックスを紹介します。各記事の詳細、用語説明等につきましては、SPring-8ホームページ http://www.spring8.or.jp/j/topics/ へ掲載してございますので、そちらをご覧ください。
ナノ細孔に吸着した水素分子の直接観測に成功
-水素貯蔵多孔性物質の設計指針への期待-
平成16年11月26日
大阪女子大学
(財)高輝度光科学研究センター
京都大学
大阪女子大学の久保田佳基グループ、(財)高輝度光科学研究センターの高田昌樹グループ、京都大学の北川進グループは、新しい水素貯蔵材料として有望な物質である多孔性配位高分子のナノスケールの細孔(ナノ細孔)に吸着された、水素分子の直接観測に世界で初めて成功した。
水素は環境負荷の少ないクリーンなエネルギーとして大変期待されており、その利用のために水素を大量にかつ効率的に貯蔵する技術が求められている。金属イオンと有機分子を組み合わせて作られた「多孔性配位高分子」は軽量で、室温・1気圧で合成できることから産業化が容易であり、細孔の大きさや形を自由に設計して合成することができる。設計性に富んだこの物質を合理的に合成していくためには、吸着水素分子の基本的な構造情報は大変重要である。これまで水素貯蔵材料として数多くの多孔性配位高分子の合成が報告されているが、水素分子がナノ細孔内のどのような位置に吸着されているかは全く明らかにされていなかった。
これまで水素の位置決定はX線では難しいとされてきたが、今回、多孔性配位高分子のナノ細孔に水素分子を吸着させ、SPring-8の高輝度放射光を用いて測定したX線回折データを、情報理論に基づく新しい電子密度解析法により解析することで、吸着水素分子の位置決定に成功した。その結果、吸着された水素分子は出し入れが容易な形態で細孔の中にきれいに配列していることを世界で初めて明らかにした。これは、より優れた吸着能をもつ配位高分子を設計していく指針を与え得るものであり、今後の水素エネルギー利用技術の発展に貢献できると考えられる。
この成果は、化学分野で最もインパクトファクターが高いドイツ科学雑誌Angewandte Chemie International Editionに掲載され、その号の表紙を飾ることとなった。印刷に先立って11月22日にインターネット上で公開された。
水素分子を吸着した多孔性配位高分子の電子密度分布
細孔方向の横から(左)と正面から(右)見た図である。緑の矢印は細孔の方向を示している。
吸着水素分子と骨格構造を構成している原子の位置関係
(論文)
“Direct Observation of Hydrogen Molecules Adsorbed onto a Microporous Coordination Polymer”
「ミクロ孔配位高分子に吸着した水素分子の直接観測」