Volume 17, No.4 Pages 340 - 342
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第12回SPring-8夏の学校を終えて
The 12th SPring-8 Summer School
SPring-8夏の学校実行委員会 委員長 (公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
「第12回SPring-8夏の学校」は、7月15日(日)〜18日(水)の3泊4日の日程で、全国から63名の学生の参加を得て、普及棟およびSPring-8蓄積リング棟・ニュースバル放射光施設・XFEL実験研究棟を会場として開校されました。この夏の学校は、SPring-8サイトに施設を持つ各機関((公財)高輝度光科学研究センター、(独)理化学研究所播磨研究所、(独)日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門)と、これらの機関と連携大学院協定を持つ大学(兵庫県立大学大学院物質理学研究科・生命理学研究科、関西学院大学大学院理工学研究科、岡山大学)、およびSPring-8サイトにビームラインを持ちそれを教育に生かしたいと考えている大学(兵庫県立大学高度産業科学技術研究所、東京大学放射光連携研究機構)が主催し、(公財)ひょうご科学技術協会の後援を得て、ビームタイムや教官を出し合って行ったものです。校長は昨年に引き続き関西学院大学大学院理工学研究科(日本原子力研究開発機構兼務、日本放射光学会会長)の水木純一郎先生にお願いしました。実行委員会は主催団体のスタッフで構成され、事務はJASRIの研究調整部が行いました。
この夏の学校の開校目的は、「将来の放射光利用研究者の発掘と育成」であり、主として大学院博士課程前期(修士)を対象としています。教育効果を考慮してビームライン実習の参加者を1ビームラインあたり4人に制限したため、募集人員は64名となりました。主催者となっている各大学からの推薦(最大各大学8人)を含めて、北海道から九州にわたる日本全国25の大学から88人の応募がありました。実行委員会で大学や利用分野、利用経験を考慮して64人を選考し、その後参加者の都合でキャンセルもあって、最終的に63人の参加者で開催されました。
今回の夏の学校では、初日に3講座、2日目に4講座の講義があり、その後の2日間に2テーマの実習を行いました。講義題目と講師(敬称略)は以下の通りです。
放射光発生の基礎(理研/兵県大 北村英男)、X線光学の基礎(JASRI 後藤俊治)、X線の強度を測る(JASRI 八木直人)、X線自由電子レーザー(理研 犬伏雄一)、回折散乱の基礎(関学 高橋功)、XAFS(JAEA/関学 西畑保雄)、軟X線スペクトロスコピー入門(東大 松田巌)。
どの講義でも、専門外の学生にも飽きずに聞いてもらえるよう講師の先生方が様々な工夫を行っており、分かりやすい講義となっていました。
写真1 講義風景
また、2日目午前にはSACLAとニュースバルの見学、夜にはSPring-8の見学を行いました。じっくりと時間をかけた見学で、施設の大きさや複雑さに感銘を受けた参加者が多かったようです。SACLAでは利用実験が行われていましたが、ビームラインの見学を快く了解していただきました。ご協力に感謝いたします。
写真2 実習風景
実習のテーマと使用したビームラインおよび担当者(敬称略)は以下の通りです。今年は夏季節電のために蓄積リングを7 GeVで運転して実習を行いました。SPring-8で7 GeVでの利用実験を行うのは試験運転を除けばこれが初めてであり、若干の懸念もありましたが、実習担当者による周到な準備によってトラブル無く実習を行うことができました。
BL01B1 "その場"XAFS計測
(JASRI 宇留賀 朋哉・新田 清文・加藤 和男)
BL02B1 結晶構造解析の入門
(岡山大 池田 直、JASRI 杉本 邦久・安田 伸広)
BL07LSU 合金の合成と光電子分光分析
(東大 原田 慈久・堀場 弘司)
BL11XU 放射光X線回折顕微法による高性能核共鳴分光素子の探索
(JAEA 三井 隆也)
BL13XU マイクロX線回折
(JASRI/岡山大 木村 滋)
BL14B2 その場XAFS計測
(JASRI 本間 徹生・平山 明香・高垣 昌史・谷口 陽介・大渕 博宣)
BL19B2 粉末X線回折
(JASRI 大坂 恵一・宮澤 知孝・松本 拓也、JASRI/岡山大 廣沢 一郎)
BL19LXU 放射光時間分解X線回折法
(理研/関学 田中 義人・大隅 寛幸、理研 伊藤 基巳紀)
BL22XU 高圧下における物質の状態変化
(JAEA 綿貫 徹・大和田 謙二)
BL24XU 微小領域高精度X線回折
(兵県大 津坂 佳幸)
BL25SU 高分解能軟X線光電子分光
(岡山大 横谷 尚睦・村岡 祐治、JASRI 中村 哲也)
BL26B1 単結晶回折(タンパク質)
(理研 上野 剛・引間 孝明)
BL26B2 単結晶回折(タンパク質)
(JASRI/関学 熊坂 崇、JASRI 奥村 英夫)
BL37XU フレネルゾーンプレートを使ったイメージング顕微鏡
(JASRI/関学 寺田 靖子、JASRI 鈴木 芳生)
BL40B2 X線溶液散乱法を用いた蛋白質分子の構造解析
(JASRI 八木 直人・関口博史)
ニュースバル 放射光を用いた半導体用EUVレジスト評価
(兵県大 渡邊 健夫)
参加者は実習テーマの選択希望を出すことができますが、各ビームラインあたりの参加者数を4人に制限したこともあり、すべての希望をかなえるのは無理でした。しかし、第一希望または第二希望の実習は必ず受けられるようにしたので、ある程度希望を満たすことができたと思います。もちろん参加者は専門外の講義や実習を受けることもありますが、講師や実習担当の方々の努力もあって、専門外の分野の技術や研究にも十分に興味を持ってもらえたようです。学生時代に広い研究分野を学ぶことの重要性はしばしば指摘されていますが、一般の講習会では得られないような広範な知識を得られる点こそが、夏の学校の大きな特長となっています。
夏の学校の目的は、放射光の勉強だけではなく、同世代の異なった分野の人たちとの交流を通じて知り合いの輪を広げ、将来の研究につなげることも重要です。初日には参加者の自己紹介と懇親会があり、3日目には萌光館でのバーベキューもあって、教官と参加者が一緒になって会話がはずんでいました。参加者が将来の進路を決める時の参考になることと思います。
写真3 懇親会風景
参加者が熱心に講義や実習を受け、また楽しんでいる様子からも、この夏の学校が有意義なものであったことは明らかでした。ここ数年夏の学校の参加希望者は増加しており、参加をお断りすることが多くなってきました。今年は募集の時点で参加資格者を修士課程の学生に限り、空きがあった場合または主催大学からの推薦がある場合にのみ学部4年生も参加可能としました。それでも参加希望が多く、24人もの方の参加をお断りせざるを得ませんでした。人材育成という観点からは、参加希望者をすべて受け入れられることが理想です。これについては、来年度以降も努力していきたいと思います。
最後になりましたが、熱意のこもった講義をしていただいた講師の先生方、2日間にわたる実習を最後まで熱心に指導していただいた実習担当の皆様、分かりやすい説明で参加者の興味を引きつけてくださった見学引率者の皆様、そして事務局としてウェブ作成から懇親会・バーベキューのお世話までご努力いただいたJASRI事務局担当者に感謝致します。
写真4 記念写真
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
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