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Volume 06, No.5 Pages 360 -363

2. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

産業利用ビームラインBL19B2の現状
Current Status of Engineering Science Research Beamline BL19B2

岡島 敏浩 OKAJIMA Toshihiro[1]、本間 徹生 HONMA Tetsuo[1]、梶原 堅太郎 KAJIWARA Kentaro[1]、北野 彰子 KITANO Akiko[1]、池本 夕佳 IKEMOTO Yuka[1]、佐藤 真直 SATO Masugu[1]、廣沢 一郎 HIROSAWA Ichiro[1]、小寺 賢 KOTERA Masaru[2]、伊藤 真義 ITO Masayoshi[2]、竹下 邦和 TAKESHITA Kunikazu[3]

[1](財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用研究促進部門Ⅰ JASRI Materials Science Division、[2](財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用研究促進部門Ⅱ JASRI Life & Environment Division、[3](財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 ビームライン・技術部門 JASRI Beamline Division

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1.はじめに
 産業利用ビームラインBL19B2は、平成11年度補正予算により整備された21本目の共用ビームラインである。平成13年5月のゴールデンウィーク明けの第5サイクルにビームラインに初めて放射光が導入され、その後、光学系の調整およびXAFS測定系の一部実験装置の立ち上げが行われた。夏期シャットダウン明けの第7サイクルからは、残りの光学系の調整・評価、X線反射率測定装置、4軸回折計、粉末回折計、蛍光分析装置等の立ち上げが順次行われ、今年度末には一部の実験装置で試験的な供用開始が行われる予定である。
 本稿では、ビームラインの概要、実験ステーションの概要、およびこれまでの準備状況を含めて報告する。


2.ビームラインの概要
2-1.ビームラインの構成

 本ビームラインは産業界をはじめとする放射光利用の初心者ユーザーの利用拡大を主な目的とした汎用的な偏向電磁石ビームラインである。本ビームラインの仕様については詳細な報告[1][1]後藤俊治 他:「平成12年度整備共用ビームラインの概要」SPring-8利用者情報 Vol. 5, No. 2 (2000)100-103.があるのでそれを参考にしていただきたい。ここでは、ビームラインの概要について簡単に述べることにする。
 本ビームラインの全体および輸送チャンネルの構成を図1に示す。蓄積リング棟に隣接して建設された蓄積リング付属施設Wまでビームラインが延長されている。実験ハッチは、光学ハッチに連結して実験ハッチ1、蓄積リング棟実験ホール内に飛び地の格好で実験ハッチ2、そして蓄積リング付属施設W内に実験ハッチ3が設置されている。




図1 BL19B2の全体構成および輸送部の構成


 光学ハッチ内は標準的な偏向電磁石ビームラインの構成であるが、モノクロメーターの下流側に2枚のミラーをタンデムに配置し、モノクロメーターからのストレート光、およびそれに平行な反射光を選択して利用することが可能である。モノクロメーターはSPring-8標準二結晶分光器で、分光結晶には現在のところSi(311)結晶を使用している。結晶の冷却には第1結晶はフィン式直接冷却で、第2結晶は間接冷却の平板結晶を採用している。2つのミラーは共に1m長の平面鏡で、石英を母材とし白金をコーティングしてある。カットオフエネルギーに応じてミラーの視射角を0〜10mradの範囲で設定可能である。本ミラーは高調波除去を主目的として利用することになるが、子午線方向の湾曲機構を有し、縦方向の集光が可能である。


2-2.光学系の現状と問題点
 本ビームラインは2001年5月10日に運転前検査に合格し、5月15日までに実施された光学ハッチ、および実験ハッチ1、2、3の放射線漏洩検査終了後、光学系の調整を開始した。本ビームラインでは現在、およそ8〜72keV(ブラッグ角(θB)=30°〜3°)の範囲でX線のエネルギーの選択が可能である。
 発光点から40mの位置に置かれた水冷スリットの開口を2mm(W)×1mm(H)にしたときのフラックス(第1実験ハッチの試料位置、100mAに換算)の測定値を図2に示す。フラックスは8〜 30keVの範囲で108(photons/sec)台前半である。フラックスはイオンチャンバーにArガスを流して測定した。図3はθBを振ったときの実験ハッチ1での光軸の水平方向および鉛直方向の動きを示したものである。光軸の確認はスリットスキャンにより行った。θBが5°〜25°の範囲で、水平方向に0.2mm、鉛直方向に0.1mm程度の定位置出射を実現している。この範囲を外れたときには、光軸の位置が急激に変化するので、実験装置のセッティング等に注意を要する。
 今回の調整期間中、モノクロメーターの第1結晶のΔθ1軸が動かないという思わぬ不調に遭遇した。この軸は2つある結晶の結晶面を平行に保つために重要な軸であり、ステッピングモーターとPZTの両方での駆動が可能になっている。エネルギーを大きく変える場合にはステッピングモーターを使用し、XAFS測定等高速の調整が必要な場合にはPZTを使用する。調整開始初期の頃からステッピングモーターによる調整で、モノクロメーターで単色化された光を見失ってしまうことが頻発した。これはPCからパルスを送っても、CCW方向にスッテッピングモーターが回ったり、回らなかったりするためで、メーカーによる原因の調査・調整が行われたが、今のところ原因は不明である。この現象は今でも続いている。また、PZTでの駆動も試みたがPZT自身も不調で動作しなかった。このようなことから、第6サイクル中盤にPZTの代替品を取付けるまで、Δθ1軸の調整をあきらめるしかなく、光学系の調整が大幅に遅れた。現在、メーカーと協力し原因の解明を急いでいる。




図2 BL19B2実験ハッチ1での光子数




図3 モノクロメーターの定位置出射の確認


 図4は下流側ミラーの視射角に対する各エネルギーのX線の反射率を測定したものである。40keVのエネルギーをもつX線では、2mradの視射角で強度は10−3程度に落ちている。上流側ミラーにおいても同様な結果が得られている。ミラーの視射角の設定は実験に使用するX線のエネルギーに応じて適当に選ぶことになるが、本ビームラインでは通常2枚のミラーを同時に使用することになるので、高調波の除去は充分に行うことができる。また、ミラーを光軸上に挿入することで、モノクロメーターからのX線に平行に光軸の高さが変化する。上流側と下流側のミラー中心の距離は設計値では1600mmで、視射角を最大の10mradとした場合、光軸は32mm高くなる。実測で求めた光軸の高さの変化は、設計値から求めた値と一致した。これらの値を使用することで、高調波除去のためにミラーの視射角を変えた場合でも、ミラーから下流に設置する光学機器や実験機器の高さ方向の調整を容易に行うことができる。




図4 下流側ミラーの視射角に対するX線の反射率


3.実験ステーション
 先にも記述したように本ビームラインには3つの実験ハッチがある。最上流の実験ハッチ1には、XAFS、X線反射率、蛍光X線分析の各装置が、第2ハッチには多軸回折計、粉末回折計がそれぞれ設置される予定である。これらは主に初心者ユーザーを対象とした汎用的な実験装置であるが、蓄積リング付属施設W内の第3ハッチは、より高度な、あるいは特有な実験に対応できるよう現在のところはオープンスペースとなっている。この実験ハッチでは、蓄積リング棟では取り扱いが困難なガスを使った実験や、大型の実験装置等の持ち込みが可能になると思われる。
 実験装置に関してはこれまでのところ第1ハッチに設置したXAFS測定装置を中心に立ち上げを行ってきた。高さが固定された定盤上に試料前4象限スリット、計測機器および試料周辺機器が設置されている。ミラーの視射角に応じて光の高さが変わるが、すべての機器は自動zステージ上に乗っており、光軸の高さに応じて実験ハッチの外から機器の高さを光軸にあわせることが可能である。標準的な測定方法はイオンチャンバーを利用した透過XAFSである。イオンチャンバーは6.5cm、17cm、31cmのものが用意されている。蛍光XAFS測定には単素子Ge検出器、Lytle検出器、およびSiドリフト検出器が用意されている。測定ソフトウェアには、SPring-8内の代表的なXAFS測定ビームラインであるBL01B1で実績のあるJASRI谷田氏により作成されたソフトウェアを本ビームライン用に修正したものを使用している。これにより、本ビームラインで測定方法を習得されたユーザーはBL01B1等他のXAFS測定ビームラインに容易に移行可能である。 図5は調整期間中に測定したCuおよびSnフォイルを使用して各元素のK吸収端での透過XAFSスペクトルを示したものである。今後、蛍光測定も行えるよう整備する予定である。




図5 BL19B2で得られた(a)Cu K吸収端および(b)Sn K吸収端のEXAFSスペクトル


 X線反射率測定は、上記XAFS測定装置が乗っている定盤上にθ−2θゴニオメーターを設置して行い、9月から立ち上げを行っていく予定である。また、このゴニオメーターを使用することで、全反射蛍光XAFS等高度な測定にも対応可能である。
 上記すべてのステージ、ゴニオメーター類はユーザーPCからパルスモーターコントローラーを介して制御することが可能であり、制御ソフトにより試料を移動させながら放射光の吸収量や散乱量をモニターして適切なセッティングを行うことが可能である。
 蛍光X線分析装置、多軸回折計、粉末回折計についても9月からのマシンタイム中に順次立ち上げ・調整を行っていく予定である。


4.おわりに
 以上述べてきたように、本ビームラインの立ち上げではモノクロメーターのΔθ1軸の不調により、立ち上げ・調整が遅れているが、8〜30keVの領域で透過XAFS測定が行えるまでになった。9月からのマシンタイムでは、モノクロメーターの可変傾斜の調整を行い、Si(111)、Si(511)結晶での分光も行う予定である。さらに、XAFS以外の実験装置においても、順次立ち上げを行っていく予定である。今年度中には一部実験装置の試験的供用の開始を目指している。
 最後になりましたが、本ビームラインの仕様決定・建設・立ち上げにご尽力いただいた多くのSPrimg-8利用系スタッフの皆様に深く感謝いたします。



参考文献
[1]後藤俊治 他:「平成12年度整備共用ビームラインの概要」SPring-8利用者情報 Vol. 5, No. 2 (2000)100-103.




岡島 敏浩 OKAJIMA  Toshihiro
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用研究促進部門Ⅰ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0832 FAX:0791-58-0830
e-mail:okajima@spring8.or.jp


本間 徹生 HONMA  Tetsuo
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用研究促進部門Ⅰ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0832 FAX:0791-58-0830
e-mail:honma@spring8.or.jp

梶原 堅太郎 KAJIWARA  Kentaro
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用研究促進部門Ⅰ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0832 FAX:0791-58-0830
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北野 彰子 KITANO  Akiko
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用研究促進部門Ⅰ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0832 FAX:0791-58-0830
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池本 夕佳 IKEMOTO  Yuka
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用研究促進部門Ⅰ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0832 FAX:0791-58-0830
e-mail:ikemoto@spring8.or.jp


佐藤 真直 SATO  Masugu
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用研究促進部門Ⅰ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
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廣沢 一郎 HIROSAWA  Ichiro
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用研究促進部門Ⅰ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0832 FAX:0791-58-0830
e-mail:hirosawa@spring8.or.jp


小寺 賢 KOTERA  Masaru
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伊藤 真義 ITO  Masayoshi
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用研究促進部門Ⅱ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
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e-mail:mito@spring8.or.jp


竹下 邦和 TAKESHITA  Kunikazu
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 ビームライン・技術部門
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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