Volume 03, No.6 Pages 19 - 22
2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
挿入光源の現状
Current Status of the SPring-8 Insertion Devices
1.はじめに
SPring-8の供用開始から1年が経過し、各実験グループからはさまざまな成果が得られ始めている。一方、この間にも続々と新たなビームラインが建設されており、また、蓄積リングの試験調整運転時には4台であった挿入光源も、今夏新たに設置された5台を含めて16台となった。最終的には38台が設置される予定であるから、半分近くが埋まったことになる。
SPring-8では標準型の挿入光源として、周期長32㎜の真空封止アンジュレータを採用しており、全16台中9台がこのタイプである。残りの7台のうち3台は他のタイプの真空封止アンジュレータであり、4台は磁石が真空外にあるタイプである。(表1参照)これらの挿入光源のうち、BL24XU、BL25SU、及びBL27SUの各ビームライン用の挿入光源はいずれも特殊な構造をしており、SPring-8で初めて採用されたアンジュレータである。いずれのビームラインにおいても光源評価が進みつつあり、興味深い結果が得られている。本稿ではこれらの光源評価の結果について報告する。
Fig.1 Measured and calculated spectra obtained from the BL25SU undulator in the case that both gap1(upstream-undulator gap) and gap2 (downstreamundulator gap) are set at 52.6mm.The interference pattern can be seen.
表1 各挿入光源ビームラインと光源の種類
2.BL25SU(ツインヘリカルアンジュレータ)
BL25SU用(軟X線固体分光ビームライン)では、ヘリカルアンジュレータを2台タンデムに並べ、5台のキッカーマグネットを用いて、10Hz程度での左右円偏光のスイッチングを目指している。2台のアンジュレータがタンデムに並んでいるため、これらを同時に同じギャップに設定した場合、各々から放出された光が干渉することによりエネルギースペクトルに変化が現れるのではないか、ということがビームラインの試験調整運転当初から指摘されていたが、5月頃行ったスペクトル測定で、初めてこのような現象が確認された。この時のスペクトルをFig.1に示す。ギャップは上下流とも52.6㎜に設定し、また、スペクトル測定は、分光後の光を集光するM3と呼ばれるミラーで流れる電流を測定することにより行われた。同図に、磁場測定の結果から予測されるスペクトルの計算値も示す。メインピーク、サブピークの各エネルギーが計算値とよく一致していることがわかる。
このように、磁場測定の結果から得られる計算値と実測値とがよく一致することがわかったため、干渉効果がより鮮明に現れるギャップを計算したところ、46㎜付近で強め合う効果、57㎜付近で弱め合う効果がもっとも大きくなることがわかった。Fig.2、3に各々のギャップでの実測値と計算値を示す。Fig.2ではちょうどピークエネルギーにおいて強め合う条件で干渉していることがわかる。これは、周期数12の2台のアンジュレータが、見かけ上、周期数24の1台のアンジュレータとなっていることを意味する。Fig.3ではピークエネルギーにおいて弱め合う条件で干渉し、このためピークが2つに割れてしまっている。
Fig.2 (a) Same as Fig.1,but in the case that gap1 =100 mm and gap2 = 45 mm. (b) Same as Fig.1, but in the case that both gap1 and gap2 are equal to 45 mm.Due to interference, the flux density at the peak energyis enhanced. In this case, the two undulators having the number of periods of 12 should be looked upon as an undulator having that of 24.
Fig.3 (a) Same as Fig.1,but in the case that gap1 =100 mm and the gap2 = 57 mm. (b) Same as Fig.1,but in the case that both gap1 and gap2 are equal to 57mm. The situation is opposite to Fig.2. The flux density at the peak energy is degraded due to interference.
3.BL24XUとBL27SU(8の字アンジュレータ)
BL24XU(兵庫県ビームライン)とBL27SU(軟X線光化学ビームライン)の光源には、8の字アンジュレータと呼ばれる新しい挿入光源が採用されたが、それぞれの目的は異なっている。BL24XUでは、水平・垂直の両偏光を同時に取り出すため、及び硬X線対応とするために周期長26㎜の真空封止8の字アンジュレータ、またBL27SUでは、軟X線(>100eV)の直線偏光を取り出すために周期長100㎜の8の字アンジュレータを採用した。
これらの2台の8の字アンジュレータは今年(1998年)の冬期シャットダウン中に蓄積リングに設置された後、4月末に初めてギャップが閉められ、フロントエンドに設置された蛍光板で放射光が確認された。Fig.4にその時の写真を示す。BL24XU及びBL27SUで、形状が左右逆になっているのは、8の字に回る方向が逆であるためであるが、このことに特に意味があるわけではない。
放射光確認後、BL24XUでは光学ハッチBに放射光を導入し、ヘリウムによるトムソン散乱をSSDで検出することによりエネルギースペクトルが測定された。測定結果の一例(ギャップ10.5㎜)とスペクトルの計算結果をFig.5に示す。3.5次光あたりまでピークが確認できる。 BL27SUでは、フロントエンドに設置してあるXYスリット+光電子モニター、及びXBPMを改造したプロファイラにより、パワーの空間分布が測定された。測定結果の一例(ギャップ50㎜)と計算結果をFig.6に示す。
Fig.4 (a) Radiation pattern from BL24XU undulator. (b)Same as (a),but from BL27SU undulator.
Fig.5 Measured and calculated spectra obtained from BL24XU undulator at the gap of 10.5mm.Higher harmonics up to 3.5th can be seen.
Fig.6 Measured and calculated spatial distribution of the power density from BL27SU undulator at the gap of 50 mm.
4.今後の予定
BL25SUでは、当初の目的である左右円偏光のスイッチングを実現するためのキッカーマグネット5台の設置、およびそれに付随する真空チャンバーの改造(セラミックチャンバーの導入)が冬期シャットダウン中に予定されている。また、BL27SUでは、BL24XUで行われたようなSSDによるエネルギースペクトル測定、及びXeガスの共鳴吸収・脱励起イオンのTOF収率測定による光源評価実験が行われる予定である。
本稿は、BL24XU、25SU、27SUにおいて最近行われた光源評価に関する実験を、挿入光源グループがまとめるという形式で作成されました。本稿における測定データは、斎藤裕児氏(原研・BL25SU)、篭島靖氏(姫工大・BL24XU)、大橋治彦氏(JASRI・BL27SU)、大浦正樹氏(理研・FE)から提供していただいたものです。関係諸氏に感謝の意を表します。
田中 隆次 TANAKA Takashi
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 ビームライン部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町三原323-3
TEL:07915-8-2809 FAX:07915-8-2810
e-mail:ztanaka@spring8.or.jp
北村 英男 KITAMURA Hideo
本務先:理化学研究所・播磨研究所 大型放射光研究開発グループ
〒679-5143 兵庫県佐用郡三日月町三原323-3
TEL:07915-8-2808 FAX:07915-8-2810
e-mail:kitamura@spring8.or.jp