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Volume 02, No.6 Pages 22 - 24

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

タンパク質結晶解析用共用ビームライン(BL41XU)の現状
Present Status of Bio-Crystallography Beamline (BL41XU)

神谷 信夫 KAMIYA Nobuo

日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム JAERI-RIKEN SPring-8 Project Team

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1.建設の経過と現状

 BL41XUは、SPring-8ビームラインの規格化・標準化を目的として、共同チームが最初に立ち上げると宣言した先行開発ビームライン2本の内のひとつである。本ビームラインは光源にアンジュレータを採用しており、共同チームはそのアンジュレータ自身も含めて、ビームラインを構成する多数の要素の規格化・標準化を進めてきた。これまでに規格化・標準化された機器には、フロントエンド素子、分光素子、集光素子、輸送チャンネル素子、冷却ユニット、真空排気ユニット、光学/実験ハッチ、制御系、インターロック系などが含まれる。これらの作業の結果、共用5本のアンジュレータビームラインの建設が平行して可能となり、そのすべてが現在順調に稼働していることから、BL41XUの先行開発ビームラインとしての役割は既に完了したものと判断できる。

 本ビームラインは、タンパク質結晶構造解析にとっては高エネルギーに属する38 keVまでの幅広いエネルギー領域に対応して、異常分散効果を最適化した重原子多重同型置換法(MIR-OAS)により、従来は繁雑な印象を拭い切れなかったタンパク質結晶構造解析を、より簡便にルーチン的に実行することを目的として建設された。タンパク質結晶構造解析は言うまでもなく、現在も発展を続ける構造生物学に立体構造的な基礎を与える中核的な研究手法である。

 ビームラインの立ち上げ作業は、7月1日、ビームラインに初めてアンジュレータ光を導入して開始された。夏のシャットダウン後、共同チームと建設グループの協力の下で、フロントエンド素子の調整と焼きだし、光学ハッチと2個の実験ハッチの放射線漏洩検査、回転傾斜型2結晶モノクロメータの調整とエネルギー較正、KB配置の2個の集光ミラー系の調整の順に進行し、現在では実験ステーション2に安定な単色集光ビームが供給されている。10月10日の供用開始後は、建設グループの手により実験ステーション2に設置した自動回折計の調整が開始されており、10月14日、卵白リゾチーム結晶からの回折像(図1参照:蓄積電流値18 mA、アンジュレータギャップ16.7 mm、フロントエンドスリット開口1 mm × 1 mm、X線エネルギー12.4 keV、振動範囲1度、露光時間1秒、カメラ距離560 mm)が大型イメージングプレート(IP)に初めて記録された(マニュアルカセットと共同チームの共通機器である大型IP読み取り装置を利用、分解能1.3 Åまで明瞭な回折点を観測できる)。

 

図1

 

 

2.今後の立ち上げ作業

 上述のとおりBL41XUの立ち上げ作業は、これまでのところおおむね順調に進行しているが、本ビームライン建設の最終目標はユーザーによる自由なエネルギー変更と、回折強度の自動測定によるタンパク質結晶構造解析のルーチン化である。

 ビームラインにおける自由なエネルギー変更を可能にするためには、加速器グループや挿入光源グループ、フロントエンドグループ、光学素子グループ、制御グループの今後の努力に依存するところが大きいが、建設グループとして達成すべき項目も多い。BL41XUの光学系は、アンジュレータ、フロントエンドスリット、モノクロメータ、鉛直方向と水平方向を独立に集光する2個のミラーから構成されている。これらの光学素子の設置条件は互いに関連しているため、建設グループによる立ち上げ作業の中で各素子の特性を個別に検討したうえで、繁雑な光学系調整を最短時間で最適化するルートの開発が必要である。またこのルートの開発は、今後予定されている新しい挿入光源の導入や、マシンスタディの進行にともなって発生するマシンパラメータの変更により光源の特性が大きく変化した場合に、その都度必要となる光学系の再設定においても必須である。

 図1に示したように、エネルギーを12 keV近くに固定したX線を利用して、マニュアルカセットに装着した大型IPに回折像を記録し、オフラインの読み取り装置で読み出して回折強度測定を行うルートについては現段階ですでに立ち上げの目処がたったと考えているが、共同利用ユーザーによるルーチン的なデータ収集を可能にするためには、建設グループによる自動回折計の使い込みと改良が不可欠である。またBL41XUでは結晶試料のクライオ冷却を必須と考えており、そのシステムの立ち上げも今後の課題である。

 本ビームラインの建設項目の内MIR-OASルーチン解析に関係するものには、38 keVまでの高エネルギーX線の利用と、自動回折計におけるIPの自動高速読み取りがある。しかしながらこれらの立ち上げ項目は、諸般の事情により来年1月以降に持ち越されている。高エネルギー対応が遅れる理由は、必要とされるスーパーミラーの納入が遅れているためである。またIPの高速読み取りの立ち上げは自動回折計のユーザー利用と両立しないため、12月下旬から 2月半ばまでの長期シャットダウン時に行う予定である。試用期間でありながらBL41XUを利用するユーザー課題は多く、その消化とこれらの立ち上げ作業の両立も今後解決すべき重要な課題のひとつである。

 この試用期間の内に実現を目指す自動回折計のIP 読み取り速度の目標は、400 mm × 500 mmの面積に対して3分程度であり、ビームラインの高輝度特性から考えてMIR-OASルーチン解析で最低限必要とされる1分以下には遠く及ばない。これは現在進めている自動回折計の建設が、共同チームにより第1フェーズと位置付けられたためである。今回の建設開始に際して共同チームは、建設グループに対して高速読み取りのR&D機で利用したCCD(430 kHz)と画像データを取り込むコンピュータ[SGI, Indy(R4000)]をIP読み取り系に流用するように指示した。誠に残念ながら、我々がビームライン建設を提案した際の目標を達成するためには、建設開始当初共同チームの約束した実験ステーション建設の第2フェーズを待たなければならない。しかし一方で、第1フェーズの建設に責任を負う我々としては、来年の3月末までの試用期間に、建設グループのメンバー各自の身銭をきってでも、可能な限りの範囲で最終目標に近づけるよう努力したいと考えている。

 

 

3.試用期間の共同利用ユーザーへのお願い

 我々は自動回折計の仕様を決定する際、第2フェーズを前提として、自動回折計とクライオ冷却装置に第1フェーズの全予算を投入した。その結果、ビームラインの立ち上げに必要な小物(ゴニオメータヘッド、実体顕微鏡、ポラロイドカセット、インキュベータ、冷蔵庫、高速のデータ転送に必要なコンピュータなど)や消耗品(ポラロイドフィルム、DAT、大型IPなど)は建設グループ内でのやり繰りにより急場を凌いでいる。

 この7月以来、ビームラインの立ち上げのために共同チームから支給された運転費用のほとんどは、光学系調整用のモニターをビームラインに3個追加し、自動回折計へのヘリウムガス供給システムと CCD読み取りに必要な窒素ガス供給システムを構築して、すでにその8割以上が「砂漠に水」の状態で消費されている。ヘリウムガスと窒素ガスは、今後のユーザー実験と自動読み取り系の立ち上げ実験に必須であることを考慮すると、ユーザーが必要とする小物(結晶方位調整ゴニオメータ、マウント用器材、小型シャーカステン、ポラロイドカセット、その他の共同利用実験に必要と思われるもの)や消耗品(ポラロイドフィルム、DAT、クライオマウント器材など)は、ユーザー各自に持ち込みをお願いすることになる。大型IPについては建設グループが現在利用しているもの(BAS-III, 13枚)が健在の内は問題にはならないが、読み取り装置のジャムが発生して損傷を受ければ、これについてもユーザー各自の持ち込みをお願いする可能性がある。いづれにしても、試用期間のビームラインの状況は各サイクル毎に激しく変化すると予想されるため、実験計画の立案に際しては、事前にビームライン担当者との連絡を密に取るようにお願いしたい。

 最後に、これまでのビームラインの立ち上げ作業には、共同チームのメンバーと、筆者とともに以下の建設グループメンバー:河野能顕(理研)、河本正秀(理研)、秋田昌岳(名大・工院)、山根隆(名大・工院)、富杉佳計(姫工大・理)、八木陽士(姫工大・理)、森本幸生(姫工大・理)、三木邦夫(京大・理院)が関与した。試用期間の終了する3月末までには、ユーザー対応を含めてさらに多くの方からの援助をお願いできればと考えている。

 

 

 

神谷 信夫 KAMIYA Nobuo

(Vol.2, No.1, P42)

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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