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Volume 14, No.3 Pages 236 - 237

5. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTERS FROM SPring-8 USERS

SPring-8の将来
Future Perspectives of SPring-8

センター長 石川 哲也  Tetsuya Ishikawa

理化学研究所放射光科学総合研究センター Director, RIKEN SPring-8 Center

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近未来:X線自由電子レーザー

 平成17年に日本原子力研究所(当時)がSPring-8の施設者の立場から退いて以来、理化学研究所(理研)は単独の施設者として施設の将来に重大な責任を負うことになった。それに先立ち、理研は次世代放射光の一つとしてのX線自由電子レーザーに注目し、研究開発を進めてきたところである。平成17年度に独自技術を駆使した自己増幅自発放射(Self-Amplified Spontaneous Emission, SASE)方式のコンパクト自由電子レーザープロトタイプの建設を行い、極端紫外領域でのレーザー発振を確認することにより、開発された独自技術がX線領域の自由電子レーザー建設を可能とするものであることが証明された。平成18年からはじまった、国の第三期科学技術基本計画の中で、「X線自由電子レーザー」は国家基幹技術として推進することとされ、平成22年度の完成を目指し、五年計画で整備が進められている。

 X線自由電子レーザーは、尖頭輝度が現在のSPring-8アンジュレータX線の109倍、パルス幅が10-3の10 fs以下の空間的にフルコヒーレントなX線を発生する光源となり、現在のSPring-8とは相補的な利用が期待される。また、ユーザー層も現在のSPring-8ユーザーとは異なる分野の方々が参入することが予想される。一方で、SPring-8と同じく「共用法」のもとでの共用施設と位置づけられるので、利用の仕組みは現在のSPring-8での共用と同様なものとなろう。新しいユーザーが入ってきた場合、利用者懇談会としてどのように対応するのか検討をお願いしたい。

 

 

中未来:SPring-8大改修

 理研では播磨研究所を高エネルギーフォトンサイエンス分野での世界一のインフラストラクチャーを国内外の研究者に提供する場と位置づけ、SPring-8およびX線自由電子レーザーの整備・高度化を行っていく予定である。共用開始以来11年余を経過したSPring-8は、依然世界最高エネルギーの放射光施設の地位を保ち続けてはいるものの、この間の技術的進歩は目覚しく、世界の各地で多数の、より高性能放射光光源計画が策定され、それらの整備が開始されるに至っている。SPring-8でも、理研とJASRIで作ったSPring-8高度化検討委員会で議論を進め、2019年に大改修を行うことを前提に作業を開始した。大改修の結果に責任を持ちうる40歳代前半の研究者を中心とした作業チームを結成して、議論を始めている。

 幸いなことにX線自由電子レーザー建設により、低エミッタンス線型加速器が新たに手に入り、そこからの電子ビームをSPring-8蓄積リングに導くビームトランスポートの建設も予算化された。この入射器を用い、かつ蓄積リングのラティスを改造することにより、究極の蓄積リング光源を目指すことが、次期大改修の目的である。現状での見積もりでは現時点でのERLで到達可能な光源性能を凌駕する蓄積リング光源が建設可能という結論が得られている。

 大改修は、ほぼ一年間のシャットダウンを伴うため、利用者の皆様の十分な理解を得て進めることが非常に重要であると認識している。作業チームでは、一年のシャットダウンが、その後の一、二年で取り戻せ、それ以降は毎年最低でも大改修前の200%以上の効率で研究が進むような案を検討しているので、是非ご理解とご協力をお願いしたい。聞けばESRFでは、シャットダウンを忌避して本格的な大改修計画がつぶれ、中途半端なパープルブックに落ち着いたということである。逆に言えば、次回の大改修を成功させることは、世界を圧倒的に引き離す絶好のチャンスとなりうる。

 

 

遠未来:次世代X線自由電子レーザー

 技術の進展速度が、現状程度と仮定すれば、おそらく2030〜2040年頃に、X線自由電子レーザーの大改修が必要になるものと予想される。もとより、その時どのような技術が利用可能か現時点では皆目見当もつかないが、皆が2030年代中盤にXFEL大改修を行うことを共通認識としてもっておくことが、非常に重要だと思われる。

 

 

 以上、SPring-8の将来を展望してみたが、容易に予想されるように利用者懇談会の役割は益々増大するはずなので、さらに一層の発展を祈念したい。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794