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Volume 14, No.3 Pages 240 - 241

5. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTERS FROM SPring-8 USERS

近未来の利用者懇談会の役割
Key Roles of SPring-8 Users Society in the Near Future

坂井 信彦   Nobuhiko Sakai

会長 兵庫県立大学名誉教授   President Professor Emeritus of University of Hyogo

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 「桃栗三年柿八年、梅は酸いとて十八年」という諺のごとく、供用開始から十年を経過したSPring-8は、桃、栗そして柿の実をたわわに付けました。これからわれわれ利用者懇談会が果たすべきことはそれらに滋養を絶やすことなく、そして強い品種に改良して、より滋味甘味に富んだ果実を実らせる努力です。また病虫害から守る努力です。そして酸い梅(粋のある梅)を実らせる楽しみでありましょう。

 会則にもとづくSPring-8利用者懇談会の活動事項は、

1. SPring-8施設の高度化および利用促進に関する事項

2. SPring-8利用計画の検討に関する事項

3. SPring-8の利用に関する会員相互の情報交換や要望のとりまとめ等、利用の円滑化に関する事項

4. シンポジウムおよび各種学術的会合の開催

5. その他、本会の目的達成に必要と認められた事項

です。これまで利用者懇談会はSPring-8施設の設計段階、建設期、利用期を通して常に上記の事項を果たすべく努力してきました。そのことは菊田初代会長の寄稿に的確に記されています。これからの懇談会の活動は、会則に沿った方針であることに変わることはありませんが、近未来にあっては各研究会の描く将来展望を具体化する努力が最も求められています。言うまでもありませんが、その努力は利用者が引き続きすぐれた成果を挙げるための基盤そのものです。寄稿のなかから、組織としての懇談会に求められている事項を列記してみます。

①研究会ごとの個別の将来展望を基礎として、全体計画を策定していく。その際、高度化し高性能な機器の導入や光源の仕様の大幅なグレードアップが求められる。そのためにかなりの資金を要するので、計画の必要性を関係方面に広く理解してもらう努力をする。

②放射光科学の非専門家を、SPring-8の新たなユーザーとして開拓すること。併せて、ユーザーフレンドリーなシステム(課題申請およびその審査方法を含む)の検討・提言をする。

③SPring-8内部スタッフと利用研究者の自由な意見交換をする。

④研究会相互の意見交換、(ことに理論と実験)およびコンピューターソフト開発を含む実験技術研究会を開催する。

⑤放射光研究者・技術者人材育成へ協力する。

 いずれの項目も容易な内容ではなく、JASRIや理化学研究所の責任ある方々にご理解願い、進めて行くことになります。これらを立案、具体化、実行するには企画力もさることながら時間的にも担当者の負担は大きく、利用者懇談会としてはこれを幹事会にすべてを委ねることは無理と思われます。具体的な活動には利用促進委員会が中心となって推進することが求められるでしょう。その際、個々の項目に合わせたワーキンググループを幹事会と利用促進委員会とで新たに構成するなどして、作業の効率化を図ることがよいと思われます。従来どちらかというと受身の姿勢である評議員や利用促進委員が積極的に利用者懇談会の活動に参画することが求められると思います。

 多くの研究会からの将来展望には、3Sに要約される到達目標があります。Sharper, Smaller and more Speedyです。具体的にはSharpはマイクロビーム、高精度エネルギー分解能や高精度空間・時間分解能など、Smallは微細試料形状、極限条件など、Speedyは測定時間の短縮や迅速な結果の把握などです。あるいは社会への還元も含まれるかと思われます。これら3Sには併せて偏光や短パルス性を具備します。このような要望の具体化には計画案が浮上しているSPring-8蓄積リング改造が重要な役割を果たすと考えられます。この計画は現在建設中のXFELの線形加速器からの超短パルス超高輝度電子ビームを蓄積リングへも入射可能として、さらにリングの電磁石などの性能や配置を改造して現状のX線のエミッタンスを一段と高めることを目指しています。利用者を交えた検討が近日中に始まると思われ、この計画案に向けて具体を練り上げることは近未来の利用者懇談会にとって最重要課題となるでしょう。その検討に際しては、現状の装備を最大限に使い切った実績が大切になります。現状の限界を見極めることが真に有用な装置を新たに設計する際に不可欠なことは、最先端の研究者が常に語るところです。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794