Volume 29, No.4 Pages 331 - 338
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
SPring-8 シンポジウム2024 報告
SPring-8 Symposium 2024 Report
[1]SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)/(国研)物質・材料研究機構 マテリアル基盤研究センター 光電子分光グループ Center for Basic Research on Materials, National Institute for Materials Science、[2](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室 Research and Utilization Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[3]近畿大学 理工学部 理学科 化学コース Faculty of Science and Engineering, Kindai University、[4]熊本大学 理学部 理学科 物理学コース Department of Physics, Kumamoto University、[5]九州大学 理学研究院 化学部門 Department of Chemistry, Kyushu University
1. はじめに
去る9月5日(木)、6日(金)に、SPring-8シンポジウム2024が、SPring-8ユーザー協同体(以下、SPRUC)、理化学研究所 放射光科学研究センター(以下、理研)、高輝度光科学研究センター(以下、JASRI)、九州大学の主催により開催されました。SPring-8は供用開始から四半世紀以上、SACLAは12年が経過しましたが、近年の材料開発競争が激化している状況下でSPring-8/SACLAの果たす役割は益々大きくなってきていると考えられます。第13回目となった本年度のシンポジウムでは、最先端の測定から通常の測定までSPring-8の全てを、機能性材料の高度化にどのように活かしていくのか、また、今後出てくるであろう課題に対してどのように新しい測定技術を生み出していくかについての議論を行うことで、次世代の放射光科学の将来ビジョンや新しいサイエンスのあり方を描いて行くことを期待し、「SDGs実現に向けた放射光・FEL」をテーマとしました。台風の影響も懸念されましたが当日は好天に恵まれ、基本的には対面形式により九州大学医学部百年講堂、大ホール・中ホールで2日間開催し、現地に参加されない会員には、講演をオンラインで配信しました。開催方式の検討と当日の運営については、九州大学の山内美穂氏とSPRUC利用幹事である熊本大学の水牧仁一朗氏にご尽力いただきました。
2. セッションI オープニング
オープニングセッションでは、藤原明比古SPRUC会長(写真1)より開会の挨拶がありました。続いて、ホスト機関として九州大学シンクロトロン光利用研究センターの徳永信センター長(写真2)からの挨拶がありました。次に、理研の永井雅規理事(写真3)、JASRIの雨宮慶幸理事長(写真4)より挨拶があり、最後に、文部科学省科学技術・学術政策局研究環境課の野田浩絵課長(写真5)から来賓挨拶をいただきました。
それぞれの方々の挨拶の中で、特にSPring-8-IIへの強い期待の声が多く寄せられていることが取り上げられており、社会の中におけるSPring-8への関心の高さを実感しました。また、本年度のシンポジウムのテーマとなっているSDGsの実現に関しては、幅広い分野での放射光利用、AI活用による計測のDX化、施設の省エネルギー運転、次世代を担う人材育成など、多面的な視野からのSDGsが提示されており、SPring-8およびSPRUCの果たすべき役割について強く認識させられました。
写真1 SPRUC 藤原明比古会長 (関西学院大学) |
写真2 九州大学 シンクロトロン光利用研究センター 徳永信センター長 |
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写真3 理研 永井雅規理事 |
写真4 JASRI 雨宮慶幸理事長 |
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写真5 文部科学省 科学技術・学術政策局研究環境課 野田浩絵課長 |
3. セッションII 施設報告
セッションIIでは、施設報告として、JASRI放射光利用研究基盤センター坂田修身センター長(写真6)、理研 物理・化学系ビームライン基盤グループ矢橋牧名グループディレクター(GD)兼JASRI XFEL利用研究推進室室長(写真7)、JASRI利用推進部 木村滋部長(写真8)による講演が行われました。
まず矢橋GDから、SPring-8-IIに向けたタイムテーブルが提示され、今後の高度化開発ビームラインの整備や利用制度改正、新しい利用制度に向けた議論が進められていくことの説明と、このセッションにおける3名の講演内容の大まかな説明がありました。
続いて、坂田センター長から「SPring-8/SACLAの現状」と題した講演が行われ、2024B期における専用ビームライン(BL)や理研BLの共用拡大、2025Bからの利用料の再定義、そして成果準公開利用制度の導入に関する報告がありました。また、2023年11月にはNanoTerasuとSPring-8の合同シンポジウムが開催され、SPring-8の利用ニーズに応えるためのアンケート調査が実施された結果、多くの期待が寄せられていることも明らかにされました。SPring-8とSACLAの運転実績についても報告があり、SPring-8は年間4,436時間の運転時間、ビームライン利用率99.4%という非常に高い数字が達成されたとの説明がありました。SACLAもここ数年年間6,000時間以上の安定した運転時間を確保しており、高い信頼性と運用効率が示されました。さらに、SPring-8-II計画に向けては、NanoTerasuとの役割分担を考慮しながら、高エネルギーX線領域への集中やオペランド技術の高度化に注力する旨の報告がありました。BL再編については、具体例としてBL39XUでの発光分光やBL40XUのSAXS専用化、BL05XUからBL15XUへの装置移設、高エネルギーX線回折散乱の整備、BL04B2でのPDF測定のハイスループット化の紹介、ユーザーニーズに応える形で実施されたBL46XUでのHAXPESプローブ侵入深度の拡大や、BL45XUの自動測定の安定化の紹介がありました。
矢橋GDによる「SPring-8-IIに向けて」の講演では、SPring-8-II計画の進捗状況についての報告がありました。SPring-8-IIは、硬X線領域で世界最高クラスの輝度を実現する第4世代放射光源として計画されており、施設全体の大幅なグリーン化を進めるという方針も示されました。これを実現するために、省エネ技術として6 GeV-8 GeVでのID技術、偏向部の永久磁石技術、既存入射器の廃止などが挙げられました。また、学術利用、産業利用、そして国の重要課題に対応する戦略的利用の3つの軸を中心に利用促進が図られ、利用料の位置付けや内容の改正についても触れられました。従来の運営費補填分に加え、施設の高度化推進費を新たに加えた二階建て方式の利用料体系が導入されることで、SPring-8の持続的な高度化とDX運用強化を図るとの説明がありました。さらに、学術利用を促進するためにSACLA/SPring-8基盤開発プログラムが立ち上げられ、学生や若手研究者が試行錯誤できる場として一部ビームラインの活用も検討されています。
木村部長からは「SPring-8利用制度改正について」と題した講演があり、利用制度改正の背景とその内容についての説明がありました。まず、国の科学技術・学術審議会や量子ビーム利用推進小委員会などからの提言を受け、理研・JASRIが利用制度改正タスクフォースを設置し、その改正案が第40回SPring-8選定委員会で承認されたことが報告されました。主な改正点として、利用料収入の再定義と料金体系の改正が挙げられ、施設運営費を回収する「運営費回収方式」に加え、施設が提供するサービスに対する対価としての受益者負担を導入する新たな料金制度が整備される旨の報告がありました。また、企業ユーザーの成果の公開方法としてプレスリリース、学会発表、特許申請などを選択可能にし、社会・産業界でのSPring-8の認知度向上を目指す目的で成果準公開利用制度(プロモーション利用試行版)を導入するとの報告がありました。さらに、消耗品実費負担が改定され、諸経費の高騰やユーザーサービス拡充、実験の自動化・オートメーションを含むDXの運用費用の増加に伴う利用料金改定の説明がありました。定額料金は10,720円/シフトが12,400円/シフトに引き上げられ、従量分料金については、従来のヘリウム料金に加え、試料調製サービス(粉末キャピラリ充填1,000円/個、XAFSペレット作製600円/個)が新たに導入されることが報告されました。
写真6 JASRI 坂田修身センター長 |
写真7 理研・JASRI 矢橋牧名GD |
写真8 JASRI 木村滋部長 |
4. セッションIII SDGs実現に向けた放射光・FEL-1
セッションIIIでは、「SDGs実現に向けた放射光・FEL-1」として、東京エレクトロン株式会社の長坂恵一氏(写真9)と大阪大学の酒井朗氏(写真10)による講演が行われ、半導体材料分野における放射光の活用と期待について紹介されました。
長坂恵一氏は、「半導体製造装置メーカーとしてのSDGs実現に向けた取組み~放射光測定技術の活用と期待~」と題した講演を行いました。長坂氏は、半導体市場が今後も成長を続ける中で、製造装置メーカーにおける独占化の課題に言及し、設計製造市場においても巻き返しが必要であると述べました。半導体製造プロセスは、ウェーハ製造からマスク、エッチング、洗浄まで600~800もの多様な工程に対応しており、ムーアの法則が現在も継続していることが紹介されました。特に微細化技術が重要であり、性能、生産性、経済性の両立が求められています。集積密度はこの2年で倍増しており、今後も微細化の要求は続くと予想されます。微細化は2次元から3次元へと拡張され、これが次世代デバイスにおける環境負荷の軽減を製造技術の観点からも支えることが説明されました。さらに、半導体開発における放射光の期待や要望として、材料・膜質・構造、内部構造、材料プロセスの影響、反応状態、不良解析、微小領域、ナノスケールといったキーワードが挙げられました。放射光技術を用いることで、ナノレベルでの材質や構造、状態を詳細に把握できることが、デバイス製造や装置技術の確立を加速する要因となると期待されています。また、薄膜、微細モジュール、結晶、積層状態などの深部構造を非破壊で評価することで、これまで見えなかった情報を得ることができ、技術開発のスピードアップが可能となることが強調されました。加えて、放射光測定に対する期待として、大気中や真空環境下でのプロセスやオペランド観察に対応できる測定技術が、半導体分野においても身近で使いやすいものになることへの期待について述べられました。さらに、計測だけでなく解析技術も重要であり、統一した相談窓口やワンストップサービス、迅速な分析と技術サポートへの期待も示されました。
引き続き、酒井朗氏より「ナノビームX線回折で観る半導体材料・デバイスの微細構造」と題した講演が行われました。酒井氏は、半導体材料における構造評価において、局所構造が全体に与える影響を把握するため、デバイスの微小領域に対する非破壊解析のニーズが高まっていることを強調されました。具体例として、FinFETに対するナノビームX線回折を用いた局所構造解析を紹介し、集光ビームを使うことで、TEMと比較して深さ方向の評価が可能になり、一軸歪みのストレスが緩和された状態を観察できることが示されました。半導体材料やデバイス構造の評価に求められる要件として、高空間分解能、マルチスケール、3次元、非破壊、定量的、そして時間分解の特性が挙げられ、これらに対応するナノビームX線回折の有効性が強調されました。さらに、今後の展望として、精度の高い組成傾斜を深さ方向の3次元マップに基づいたトモグラフィックマッピングや、電場下でのオペランド計測を実現するためには、さらなる光源の高輝度化や装置の高分解能化が期待されることが報告されました。
写真9 東京エレクトロン(株) 長坂恵一氏 |
写真10 大阪大学 酒井朗氏 |
5. セッションIV パネルディスカッション
セッションIVでは、今回で8回目となる「パネルディスカッション」が行われました(写真11)。パネリストとして、理研・JASRIの矢橋牧名氏(写真7)、東京エレクトロン(株)の長坂恵一氏(写真9)、大阪大学の酒井朗氏(写真10)、九州大学の戸田裕之氏(写真18)、東北大学の高山裕貴氏(写真12)、物質・材料研究機構の永村直佳氏(写真13)、JASRIの池本夕佳氏(写真14)をお招きしました。モデレーターは熊本大学の水牧仁一朗氏(写真15)がつとめました。
本パネルディスカッションのテーマは、「SPring-8-IIのポテンシャルを活用し尽くす計測・分析手法と新たな利用の仕組みについて」であり、最初に、水牧仁一朗氏よりSPring-8-IIが材料の高機能高性能化に資するために、SPring-8-IIを活用し尽くすためには、どのような計測手法が必要でどのような新規な利用の仕組みが必要かとの問いかけが行われました。
この問いかけに対してまず、長坂恵一氏より機能性材料、特に半導体の機能の高度化を行うための分析技術として、放射光測定に期待される性能やデバイス動作中のオペランド測定や様々な測定での分析といったハードに関する面と、利用方法などのソフトに関する面についての要望を話していただきました。
それに対して、酒井朗氏より、分析の重要な測定方法の一つであるX線回折の立場から、半導体材料・デバイスの構造評価解析の方向性について、「デバイス全体を俯瞰した上での局所的な構造を評価することが、デバイスをシステムとして高機能化するには必要不可欠な考え方で、それを実現するためにはより小さいプローブサイズ・高いビームの平行度が重要な要素である」と述べられました。
次に永村直佳氏より、デバイス・機能性材料の機能の高度化には構造だけでなく電子状態も重要であることをご指摘いただきました。空間分解を行い材料の各点での分光スペクトルを測定する顕微分光の果たす役割は、現状限定されているが、次々世代へのデバイスの基礎的研究においては重要であると述べられました。また電子状態のオペランド測定はデバイス性能評価に非常に役立つとご教示いただきました。
高山裕貴氏より、先端的な放射光測定であるコヒーレント回折イメージング/タイコグラフィーをご紹介いただき、社会課題解決に重要な実材料の非破壊観察を行い、その内部構造を可視化することの重要性をご教示いただきました。また輝度が100倍になるSPring-8-IIの性能を用いればシングルナノメートル分解能の達成や計測高速化による多数試料の比較解析の重要性について説明いただきました。
戸田裕之氏より、投影型CT・結像型CT・細束X線を用いたX線回折測定を用いることで、金属材料の破壊現象を空間・時間を軸に材料の変化を詳細に追うことができることを示していただきました。これらの複数の測定を一つの試料に対して行い、それらのデータを全て解析するマルチモーダルな測定解析を行うことの重要性をご教示いただきました。
矢橋牧名氏からは、SPring-8-IIの輝度が現状の100倍になることから実質的なマシンタイムの増加に伴い、そのマシンタイム利用は従来の学術利用に加えて、半導体戦略や国土強靭化を行うための戦略的利用や更なる産業利用が行うことができるため、利用の類型化を明確化し、従来とは一線を画す利用制度構築が可能となるとのご説明をいただきました。またこの制度は固定化されるものではなく、放射光利用ユーザーの意見を反映し、より良いものとする、とも述べられました。
SPRUC藤原会長よりSPring-8-IIの実現が社会課題解決に大きな役割を果たすとの意見が示され、また今年度から試験的利用が始まっているNanoTerasu相互利用による相乗効果についても報告がありました。議論の中でSPring-8-IIの利用に関してだけではなく、NanoTerasuとの協同的利用に関しても話題が及びました。一つの課題申請で複数(SPring-8-IIとNanoTerasu)のビームラインを利用できるかについては、ユーザーの要望がどれくらいあるかにもよるが、利用できる可能性があることを池本夕佳氏に回答をいただきました。
本パネルディスカッションは今後のSPring-8-IIの実現による放射光分野の発展を期待させるものとなりました。
写真11 パネルディスカッション | ||
写真12 東北大学 高山裕貴氏 |
写真13 物質・材料研究機構 永村直佳氏 |
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写真14 JASRI 池本夕佳氏 |
写真15 熊本大学 水牧仁一朗氏 |
6. セッションV SDGs実現に向けた放射光・FEL-2
セッションVは、SDGs実現を志向した各種の材料の分析と応用について、九州大学の山内美穂氏(写真16)、小椎尾謙氏(写真17)、戸田裕之氏(写真18)、大阪大学の白土優氏(写真19)の4名のご講演者に講演を依頼しました。
山内美穂氏からは、銅触媒による電解CO2還元によるメタンやエチレンへの選択的な変換の発表がありました。In-situ XAFS測定を用いて、銅触媒の酸化状態や構造の違いがメタンやエチレンなど生成物の選択性に影響を与えているという結果が示されました。
小椎尾謙氏からは、小角散乱を用いたブロック共重合体のミクロ構造とその変化についての発表がありました。ポリマーの一軸伸長、二軸伸長によるアフィン変形からせん断に至る過程における、bcc格子状のポリスチレンドメインの構造変化の分析結果が示されました。
戸田裕之氏からは、X線トモグラフィ、X線CT、XRDスキャンを組み合わせた機械工学分野における金属材料の相当塑性歪分布の分析などについて講演がありました。アルミニウムと鉄に関して、せん断の歪や結晶粒界のひずみの可視化や、析出物のナノ粒子に水素がたまる機構などが示されました。
白土優氏からは、界面反強磁性スピンの電界制御と放射光ナノ磁気計測について発表がありました。X線磁気線二色性(X-ray magnetic linear dichroism; XMLD)を用い、Cr2O3などの反強磁性体の構造変化や磁気結合を観測した結果が示されました。
写真16 九州大学 山内美穂氏 |
写真17 九州大学 小椎尾謙氏 |
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写真18 九州大学 戸田裕之氏 |
写真19 大阪大学 白土優氏 |
7. セッションVI データサイエンスを用いた最先端計測解析
セッションVIでは、放射光でもデータ駆動科学が浸透してきた中、より実践的な研究例紹介に焦点を当てて、熊本大学の水牧仁一朗氏(写真15)、東京大学の岡田真人氏(写真20)、青西亨氏(写真21)、理研の初井宇記氏(写真22)による講演が行われました。冒頭、水牧仁一朗氏よりイントロダクションとして、放射光計測におけるデータ駆動科学との連携の重要性を踏まえて本セッションの趣旨説明が行われました。
引き続き岡田真人氏より「ベイズ計測とSPring-8全ビームラインベイズ化計画」と題した講演が行われました。統計学のベイズ推論を計測科学向けにコンパクトに再構成した「ベイズ計測」についての紹介から始まり、このベイズ計測を実際にSPring-8で取得した計測データに適用した、スペクトル分解や計測限界の評価などの解析例の説明がありました。今後、計測のポストプロセスとしての解析ではなく、「計測と解析の双方向相互利用」をSPring-8/JASRIで普及・促進し、日本の先端量子ビームにおける国際的アドバンテージを維持すべきとの提言がありました。
青西亨氏からは、「キルヒホッフマルコフ確率場によるリチウムイオン電池の充放電反応過程の解析」と題した講演が行われました。リチウムイオン電池のモデル電極デバイスの2次元X線吸収スペクトルマッピングデータを入力データとして、ニューラルネットワークと等価回路モデルを基にしたマルコフ確率場のエネルギー関数最小化により、電極の内部状態を推定できます。この推定結果から充放電反応中の時空間的に不均一なイオン輸送の振る舞いを説明し、合材電極内で反応領域が変調するメカニズムを明らかにするという取り組みについて解説がありました。SPring-8-IIにむけた空間3次元的なイメージング解析への期待についても言及がありました。
初井宇記氏からは、「SPring-8データセンターの運用状況について」と題した講演が行われました。SPring-8での計測に伴う出力データが飛躍的に増大していることを受けて、「ビームライン近傍での大規模データの圧縮・前処理」、「SPring-8内のオンサイトデータセンターの設置(実験中のデータ可視化・データ格納・データ流通基盤に特化)」、「量子ビーム施設間のデータ基盤の共通化」を柱に整備を進めていることが述べられました。データ増大には多数試料分析と少数試料の大量高精細分析の異なる方向性があり、後者の解決策については、具体的にBL35XUのガンマ線準弾性散乱測定やBL29XUの広視野CTなど、テラバイト級のデータ圧縮におけるSPring-8データセンターの運用例について紹介がありました。前者については、メタデータ付与やデータ共有に活用できるData Flow Serviceを試験運用しているとの説明がありました。また、Webブラウザから手軽に計算を回せるOpen On Demandも試験中ということです。
各量子ビーム施設や富岳、HPCI、国立情報学研究所などもつないだ施設横断的なデータインフラの実現を目指す構想についても報告がありました。
写真20 東京大学 岡田真人氏 |
写真21 東京大学 青西亨氏 |
写真22 理研 初井宇記氏 |
8. セッションVII ポスターセッション
ポスターセッションは、中ホールにおいて行われました(写真23)。今年度の発表件数は、SPRUC研究会37件、共用ビームライン13件、専用ビームライン8件、理研ビームライン12件、施設4件、大学院生提案型課題(長期型)6件の合計80件でした。昨年に引き続き対面での開催でした。セッションの最初から最後まで会場は盛況であり、非常に活発な議論が行われていました。
写真23 ポスターセッション |
9. セッションVIII SPRUC総会・YSA授賞式・受賞講演
SPRUC総会、Young Scientist Award(YSA)授賞式、受賞講演が行われました。総会では、まず、藤原会長による挨拶があり、続けて、組織体制、行事、予算、研究会での活動状況についての報告がありました。次に、SPRUCでSPring-8-IIの早期実現要望を取りまとめ、要望書を文部科学省、理研、JASRIへ提出したことが報告されました。要望書はSPRUCのホームページにて公開予定です。さらに、SPRUCとNanoTerasuユーザー共同体の連携(融合)について、背景・検討事項についての説明後、審議が行われ、総会による承認が得られました。最後に、今後のSPRUCの活動予定が示されました。
続いて、13th SPRUC2024 Young Scientist Award授賞式が行われました。冒頭、中川敦史選考委員長より、9名の応募があり、今年度は特に優秀な応募者が多かったため例年より多い計3名を受賞者としたことと、それぞれの受賞理由の紹介がありました。また、多様性の観点から、女性研究者や企業在籍の研究者などの方々の積極的な応募を歓迎することにも言及がありました。授賞式の後、受賞者である高場圭章氏、橋川祥史氏、西久保匠氏による受賞講演が行われました(写真24)。
高場圭章氏は、「Two-way approach for sub-atomic molecular structure visualization with X-ray and electron crystallography」について発表しました。XFELと電子顕微鏡を組み合わせ、それぞれから得られる電子構造情報の違いを活かして低分子結晶の精密構造解析を行う分析手法を確立した研究内容について講演を行いました。
橋川祥史氏は、「放射光振動分光によるナノ閉じ込め効果の検証」について発表しました。放射光赤外分光により、フラーレンに包接された二酸化炭素分子における分子振動の摂動や回転運動の抑制、ホスト材のフラーレンの機能変調を明らかにした研究内容についての講演を行いました。
西久保匠氏は、「放射光を駆使した負熱膨張物質の多角的評価・物質設計」について発表しました。相転移型の負熱膨張率を示す物質について、SPring-8の複数のビームラインを活用した電子状態と構造のマルチスケール多角的評価から、そのメカニズムを明らかにし、安定した負熱膨張特性を持つ物質のデザインを実現したという研究内容についての講演を行いました。
写真24 13thYSA授賞式 |
10. セッションIX クロージング
クロージングセッションでは、最初に理研の石川哲也センター長より(写真25)総括がありました。放射光をめぐる環境が変化しており、放射光実験のノンエキスパートの参入が著しい昨今、本シンポジウムの形式にも改革が必要ではないかという提案がなされました。今後SPring-8-IIに向けて、より本質的な計測の追及とデータサイエンスの活用の両極を念頭に置いて、どんな新しいサイエンスができるかをよく検討していく必要があるというご意見をいただきました。また、機能補完の観点からNanoTerasu以外にも国内の様々な放射光施設との連携についても期待を寄せられました。
次に、主催機関を代表してSPRUC藤原会長より閉会の挨拶がありました。会長自身の全体の感想が述べられ、実行委員を始めとした関係者、参加者へのお礼の言葉がありました。
会議のプログラムの詳細とアブストラクトは下記Webページにて公開されています。
写真25 理研 石川哲也センター長 |
(国研)物質・材料研究機構
マテリアル基盤研究センター 光電子分光グループ
〒305-0003 茨城県つくば市桜3-13
TEL : 0298-59-2627
e-mail : NAGAMURA.Naoka@nims.go.jp
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : take@spring8.or.jp
近畿大学
理工学部 理学科 化学コース
〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1
TEL : 06-4307-5099
e-mail : sugimoto@chem.kindai.ac.jp
熊本大学
理学部 理学科 物理学コース
〒860-8555 熊本県中央区黒髪2-39-1
TEL : 096-342-3066(709)
e-mail : mizumaki@kumamoto-u.ac.jp
九州大学
理学研究院 化学部門
〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡744
TEL : 092-802-4141
e-mail : mtok@chem.kyushu-univ.jp