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Volume 29, No.4 Pages 326 - 330

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第8回SPring-8 秋の学校を終えて
The 8th SPring-8 Autumn School

松村 大樹 MATSUMURA Daiju

SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事(秋の学校担当)/(国研)日本原子力研究開発機構 物質科学研究センター Materials Sciences Research Center, Japan Atomic Energy Agency

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SPring-8

 

1. 秋の学校概要
 2024年度の第8回SPring-8秋の学校が、9月1日(日)~9月4日(水)の4日間の日程で開催されました。台風接近のため、1日目と2日目を急遽ハイブリッド形式にするなど、参加者・講師・事務局の皆様はそれぞれ大変なご苦労をされたことと思います。そのような中においても、大きなトラブルなく無事に秋の学校を終えることができましたのは、関係者全ての方のお力によるものと考えております。皆様に深く感謝いたします。
 第8回SPring-8秋の学校は、SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)と高輝度光科学研究センター(JASRI)が主催し、理化学研究所放射光科学研究センター、兵庫県立大学理学部/大学院理学研究科、関西学院大学理学部/工学部/生命環境学部/大学院理工学研究科、岡山大学からの共催をいただき、関係諸機関の後援を受けて実施されました。校長にはSPRUC会長の藤原明比古先生(関西学院大学教授)が就任し、事務局はJASRI利用推進部に担当いただきました。事務局の皆様は、ハイブリッド形式への変更や参加者の日程変更に伴う多大な業務を確実に実行されました。
 SPring-8秋の学校の目的は、幅広い観点からのSPring-8ユーザーおよび放射光科学に関わる人材の発掘です。SPring-8では夏の学校も開かれ、毎年多くの参加者を数えていますが、夏の学校との最大の違いは、SPring-8秋の学校では放射線業務従事者登録が必要ないことです。放射線業務従事者登録はSPring-8で実験するにあたり、最初に乗り越えなければならない関門ですが、秋の学校は疑似的な放射光実習を行うということから、登録のない方にも門戸を開いています。これにより、放射光に興味を持つ方であれば、どなたでも参加することが可能です。今回の参加者におかれましても、大学2回生の方から社会人経験が豊富な方まで、多様な方が参加しており、幅広く放射光を学ぶ機会を提供する場となっております。
 秋の学校のもう一つの特徴は、SPRUCが主催団体に入っており、SPRUCの研究会および評議員の皆様からグループ講習のテーマおよび講師の推薦を受けていることです。基礎講義の座学において放射光の基礎を学び、グループ講習にて疑似的な放射光利用を体験するというメニューは、秋の学校の根幹をなすものです。今回の秋の学校でも多くのSPRUCメンバーの方々に講師として秋の学校にご協力いただき、放射光の幅広い分野を網羅した魅力的な基礎講義およびグループ講習が行われました。講師をお引き受けくださった皆様に深く感謝申し上げます。
 定員の80名に近い人数の参加申込をいただいたものの、台風接近等により参加をキャンセルされた方も多くいらしたため、最終的な参加者は67名となりました。交通の問題により日程変更を余儀なくされる方も多い中、SPring-8現地にこれだけの方が集まっていただいたことは、大変ありがたく感じております。

 

 

2. カリキュラムについて
 カリキュラムは表1に詳細を示すように、1日目に3講義、2日目に4講義の基礎講義を行い、3日目と4日目の2日間で4テーマのグループ講習を行いました。グループ講習に関しては、参加者は19テーマの中から希望に応じて割り振られた4テーマを受講しました。グループ講習のテーマ数は秋の学校の歴代で最多となりました。多くの講師の方の参画に感謝いたします。参加者も放射光利用の幅広さを感じることができたのではないかと思います。2日目のお昼には、SPring-8およびSACLAの見学も行われました。また、参加者間の交流を促進するための自己紹介の時間を3日目のグループ講習の後に設けました。これは、元々1日目の最後に実施する予定でしたが、1日目はまだ来所している方が少なく、参加者全員が現地に到着された3日目に急遽行ったものです。同様に、1日目夜に懇親会を計画していましたが、こちらは中止となり、3日目に満を持してSPring-8食堂にて懇親会を実施しました。コロナ禍での秋の学校では懇親会の実施を断念しており、昨年度から復活しておりましたが、今年度も開催することができ、安心しました。研究交流施設での二次会も盛況でした。

 

表1 第8回SPring-8秋の学校日程表

 

 

3. 基礎講義について
 基礎講義の内容と担当者は以下の通りです。講義内容はどれも工夫されたもので、私はここ数年聴講しておりますが、毎回新しい気づきがあり、改めて勉強できたと感じ、個人的にも大変ありがたい経験です。参加者の皆様にとっても有意義な講義であったと思われます。秋の学校では毎年参加者の熱意が高く、今年度も講義後の質疑は非常に活発で、秋の学校への意気込みが強く伝わってきました。

 

基礎講義1. 放射光発生の基礎
橋本智(兵庫県立大学)

基礎講義2. ビームライン
~光源と実験ステーションを繋ぐもの~
山崎裕史(高輝度光科学研究センター)

基礎講義3. X線自由電子レーザー入門
久保田雄也(理化学研究所)

基礎講義4. XAFSの基礎
田渕雅夫(名古屋大学)

基礎講義5. X線イメージング
篭島靖(兵庫県立大学)

基礎講義6. X線検出器の基礎
今井康彦(高輝度光科学研究センター)

基礎講義7. 回折・散乱の基礎と構造解析への応用
藤原明比古(関西学院大学)

 

写真1 講義風景

 

写真2 見学風景

 

 

4. グループ講習について
 グループ講習のテーマと担当者は以下の通りです。19テーマも開催することができたことは、多くの講師の方の協力の証です。秋の学校は放射線業務従事者登録が必要ない代わりに、放射光そのものを利用しての講習はできないのですが、実際の実験装置やデータに対して疑似的測定や解析を学ぶことができます。体や手を動かして実習を行うことで、参加者は刺激的な時間を過ごしたものと感じています。

 

1. 単結晶構造解析
橋爪大輔(理化学研究所CEMS)
足立精宏(理化学研究所CEMS)

2. 放射光粉末X線回折によるその場観測の実際
岡研吾(近畿大学)
加藤大地(京都大学)

3. タンパク質結晶構造解析
水島恒裕(兵庫県立大学)
河村高志(高輝度光科学研究センター)

4. 小角X線散乱
増永啓康(高輝度光科学研究センター)
関口博史(高輝度光科学研究センター)

5. 放射光を利用した応力・ひずみ計測
菖蒲敬久(日本原子力研究開発機構)
冨永亜希(日本原子力研究開発機構)

6. X線回折・散乱を用いた薄膜構造評価
小金澤智之(高輝度光科学研究センター)

7. X線吸収分光法
朝倉博行(近畿大学)
田中淳皓(近畿大学)
中谷勇希(大阪大学)

8. 赤外分光分析
池本夕佳(高輝度光科学研究センター)
森脇太郎(高輝度光科学研究センター)
岡村英一(徳島大学)

9. 光電子分光(HAXPES)
保井晃(高輝度光科学研究センター)
高木康多(高輝度光科学研究センター)

10. 高圧力の発生技術と高圧物質科学
新名良介(明治大学)

11. ドーパント原子配列解析
松下智裕(奈良先端科学技術大学院大学)

12. 放射光軟X線光電子分光による表面化学反応の“その場”観察
吉越章隆(日本原子力研究開発機構)
津田泰孝(日本原子力研究開発機構)

13. 放射光X線イメージングの概要と基礎
上杉健太朗(高輝度光科学研究センター)

14. GeV光ビームの生成と物質との相互作用
水谷圭吾・石川貴嗣・小早川亮・桂川仁志・田中慎太郎・橋本敏和(大阪大学)

15. X線発光分光法
松村大樹(日本原子力研究開発機構)
石井賢司(量子科学技術研究開発機構)

16. 二体分布関数法(PDF)
尾原幸治(島根大学)
山田大貴(高輝度光科学研究センター)
下野聖矢(高輝度光科学研究センター)

17. ブラッグコヒーレント回折イメージング法
大和田謙二(量子科学技術研究開発機構)
押目典宏(量子科学技術研究開発機構)

18. 放射線生物学の基礎
小西輝昭(量子科学技術研究開発機構)
城鮎美(量子科学技術研究開発機構)

19. 放射光X線トポグラフィーによるパワー半導体単結晶の欠陥観察
姚永昭(三重大学)
梶原堅太郎(高輝度光科学研究センター)

 

写真3 グループ講習風景

 

 

5. まとめ
 台風接近に伴う交通機関の混乱の中、67名の方にSPring-8秋の学校に参加いただき、大きなトラブルなく、無事に秋の学校を終えることができました。参加者も、講師の皆様も、事務局の方々も、大変な状況の中で秋の学校に力を注いでいただき、深く感謝いたします。
 毎年の秋の学校のアンケート結果からは、基礎講義・グループ講習共に、参加者の満足度がとても高いことを読み取っております。一方、講師の方からの負担の大きさに関する指摘も承っており、実行委員会としては、参加者・講師双方にとって有意義な学校にすべく、今後も実施形態の検討を進めたく思っております。
 グループ講習のテーマ・講師は、SPRUC研究会および評議員の皆様からの推薦を受けております。SPRUCはSPring-8秋の学校の主催機関であり、今後秋の学校をどのように発展させていくか、会員の皆様の忌憚のないご意見を賜ることができれば幸いです。
 SPring-8秋の学校を実施するにあたり、講師の皆様を始め、多くの関係者の方々の多大なお力をいただきました。深く感謝申し上げます。より良い秋の学校にしていくことができるよう、今後とも御指導どうぞ宜しくお願いいたします。

 

 

 

松村 大樹 MATSUMURA Daiju
(国研)日本原子力研究開発機構
物質科学研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0975
e-mail : daiju@spring8.or.jp

 

 

 

 

第8回 SPring-8秋の学校に参加して

 

 

東京藝術大学 大学院美術研究科
文化財保存学専攻 保存科学研究室 修士1年

仏山 明彦

 

 

 私は、東京藝術大学の大学院で、文化財保存学(保存科学)を専攻しています。文化財保存学とは、国宝や重要文化財、美術館・博物館の収蔵品をはじめとして、寺社・仏閣などの建造物、ひいては石碑や古墳などの遺物や遺跡まで、幅広く文化財を修復・保存し、後世に伝えていくための研究をする分野です。ひとくちに文化財保存学といっても、たとえば伝統技術を習得して文化財の修復作業に直接あたる保存修復家と、文化財の材料に関する情報を自然科学的な手法により収集し、保存の糸口を探る保存科学者とでは、その専門性は大きく異なります。文化財保存学は、専門家の出身分野も芸術系から人文系、化学系や工学系まで、ほかに類を見ないほど多様で、文理の垣根を超えた極めて学際的な分野です。文化財の分析には長らくX線透過画像や蛍光X線法(XRF)をはじめとする研究室規模の分析機器が用いられてきましたが、近年では、SPring-8など最先端の施設とも連携して調査が行われるようになり、特に金属文化財について、これまで解明が難しかった内部構造や製造方法などの解明が可能となりました。こうした中で、実際にSPring-8を見学し、専門家の先生方の講義を聞いて知見を深め、その文化財分野への応用を考える絶好の機会と思い、秋の学校への参加を決めました。
 今年の秋の学校は、例年通り4日間の日程でしたが、台風10号の影響を受け、初日、2日目がハイブリッドでの開催となりました。私は2日目に東京から移動し、幸いにもその日の午後のSPring-8の見学から現地で参加することができました。台風に伴う日程の調整をはじめとして、オンライン講義の設営、道中で講義が視聴できない場合のために講義の録画を配信いただくなど、事務局の皆様のあたたかいご配慮により、快適に移動と受講を両立できました。秋の学校開催前からの事務局の皆様の迅速かつ丁寧なご対応に、改めて感謝申し上げます。
 1、2日目の基礎講義では、校長先生をはじめとした専門家の先生方にわかりやすくご講義いただき、人類の科学技術の粋であるSPring-8の基本的な構造から、細かい構成部品の役割、どのようにして分析精度を上げるか、といった専門的な内容まで、大変よく理解することができました。先生方にとっては常識中の常識に違いない内容から丁寧に教えていただけたため、物理が苦手な私のような人間でも、脱落せずに講義についていくことができました。2日目の午後には、実際にSPring-8をぐるりと歩いて見学する機会をいただき、一周1.4 kmという規模と、その円周上に様々な分析装置が所狭しと並ぶ、SF映画に出てくる科学基地のような、ロマンに溢れた光景に圧倒されました。そんな科学技術の結晶のような施設の中で、研究者の方々が自転車に乗って往来する姿はとてもシュールな光景で、印象に残っています。2時間ほどの見学の中で、SPring-8を利用した研究の内容やこれから新たに設置される分析機器についてなど、SPring-8のスペックを学ぶだけにとどまらない様々な内容をご説明いただき、とても貴重な時間となりました。3、4日目には、SPring-8の分析器を使って得られたデータを扱う演習に参加させていただき、実際にSPring-8を利用した際に得られる情報やその処理、データの吟味について、具体的なイメージを得ることができました。少人数の演習だったため、講師の方々との距離が近く質問もしやすく、とても有意義な演習でした。
 3日目の夜には、台風で中止になってしまった1日目の懇親会の分も、と盛大な懇親会が催され、美味しい料理を囲みながら、様々な研究分野の参加者の方々とお話ができました。同世代の学生の皆さんが生き生きと自分の研究について語り、議論を交わす様子は、自分が今後研究を進めていくうえで大きな励みになりました。ただ、やはり学生の皆さんは文化財保存分野についてほとんどご存知なく、業界の裾野を広げていくためにも、知名度を上げるための積極的な発信をしていかなければ、と文化財分野の課題を感じた夜でもありました。
 総じて、秋の学校の4日間は非常に有意義なものとなりました。SPring-8に関する基礎から応用に至る幅広い知見はもちろん、実際にSPring-8で研究されている先生方の貴重なお話、様々な分野の学生や社会人の方々との交流の機会まで、秋の学校に参加しなければ得られない、とても刺激的で貴重な経験となりました。このような場を設けてくださった秋の学校事務局の皆様、SPring-8の職員の皆様、そして貴重な講義を担当してくださった講師の先生方に、改めて深く感謝申し上げます。来年以降も秋の学校が開催され、多くの学生や社会人の方々にとって貴重な学びと交流の機会となることを願っております。

 

写真4 集合写真(中央管理棟前にて撮影)

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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