Volume 29, No.4 Pages 315 - 316
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
The 15th International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation (SRI 2024)
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 構造生物学推進室 Structural Biology Division, Center for Synchrotron Radiation Research JASRI
1. はじめに
The 15th International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation(SRI 2024)は、シンクロトロン放射光・X線自由電子レーザーに関連した施設の高性能化や利用技術、装置開発などに関する国際会議である。2018年の13thは、台湾・台北で開催された。2021年の14thは、Deutsches Elektronen-Synchrotron(DESY)がホストであったが、コロナ禍の影響によりオンライン開催であった。今回は2021年に続いてDESYがオンサイトで実施した。
15thSRI2024は、2024年8月26日(月)~30日(金)の期間に、ドイツ・ハンブルクのCongress Center Hamburg(CCH)で開催された(図1)。参加者は1,200人以上、トークセッション273件、ポスター541件であった。また、次回は2027年ブラジルでの開催が決定した(図2)。
図1 SRI2024会場のCCH
図2 クロージングセッション
開催期間中のMXビームラインの高性能化に関する発表について、2. タンパク質結晶の自動測定、リモート測定、3. 時分割構造解析のための技術開発、の項目に分けて報告する。
2. タンパク質結晶の自動測定、リモート測定
DESY、European XFELのサイトツアーは、初日の8月26日に実施された。European XFELのツアーはバス移動の都合があり、短時間で複数のビームラインを見学したのみであった。一方DESYでは、夕方のレセプションの開始時間まで自動測定を実施している複数のProtein Crystallographyビームラインを見学できた。装置の概要については既に論文などで発表されている情報を得ていたが、ビームラインの担当者へ装置について実物を見ながら質問できたのは有意義であった。担当者であるDr. Ishkhan Gorgisyanはポスター[Overview of automation routines at the BioMAX beamline at MAX IV Laboratory]でも自動測定について発表しており、結晶のセンタリング、結晶の位置決定をX線のスキャンで行う方式と機械学習を用いた画像ベースのセンタリング方法の現状でのメリットデメリットについて議論できた。
Micro Symposiumにおいては、Diamond Light SourceのDr. Ralf Flaigは[Dose Aware Data Collection on the Variable and Microfocus Macromolecular Crystallography Beamline I04 at Diamond Light Source]のタイトルで発表しており、高強度なマイクロフォーカスX線からのデータ収集において、放射線損傷を最適化し、最短時間でデータ収集するために、RADDOSE-3Dを使用して測定条件を算出して提案するGUIを開発していた。また、SLAC National Accelerator LaboratoryのDr. Aina Cohenの発表[Next Generation Remote-access for Crystallographic Studies of Protein Structure and Dynamics]では、従来実施されているcryogenic crystallographyのリモート測定のみでなく、non-cryogenic crystallographyの実験もリモート測定を可能とするための技術として、試料運搬も考慮した試料ハンドリングの機器を開発していた。
図3 European XFELの建物
3. 時分割構造解析のための技術開発
Micro Symposiumにおいて、ポール・シェラー研究所(PSI)のDr. Florian Dworkowskiは、[Closing the Gap - Integrated Time-Resolved Crystallography at the SwissFEL and Swiss Light Source]のタイトルで、SLSでの様々なnon-cryogenic crystallographyのための技術開発について発表された。時分割構造解析をFELで実施できるビームタイムが少ないことが、新たなユーザー利用の障壁となっていることを問題として挙げていた。放射光での時分割測定環境が導入されることで、この問題は緩和されると期待でき、さらにFELでの時分割実験から拡張したミリ秒から秒単位とこれまでよりも遅い領域での時分割構造解析が可能となることで、適応する試料が増えることをメリットとして挙げていた。また、実験成果を効率的に取得するための重要な要素として、凍結結晶と異なり環境変化に弱い非凍結結晶のオンサイトでの試料調整環境の設備とサポートを挙げていた。
European Molecular Biology LaboratoryのDr. Shibom Basuは、[European Molecular Biology Laboratory ID29 SMX- A universal Time-Resolved Crystallography Beamline]のタイトルで、Extremely Brilliant Source(EBS)にアップグレードされた欧州シンクロトロン施設ESRFの時分割Serial Synchrotron Crystallography(TR-SSX)専用ビームラインID29について発表していた。ID29ではマルチレイヤーモノクロメータを導入して1015 photons/secのX線を利用可能とし、チョッパーシステムで蓄積リングの基準周波数に同期した10µsのパルスX線を生成することで、<100µs時分割領域を可能とするSSXデータ収集システムが構築されていた。
MAX IV LaboratoryのDr. Thomas Ursbyは、[MicroMAX–Time-resolved crystallography at MAX IV]のタイトルで、第4世代蓄積リングのMAX IVのタンパク質結晶からのダイナミクス研究を目的としたMicroMAXビームラインについて発表された。MicroMAXは、従来の凍結結晶からのデータ収集とTR-SSXやフローインジェクターなどのnon-cryogenic crystallographyを切り替えて実施可能なビームラインとして設計されており、実験に合わせて回折計上のコンポーネントを切り替えて実験が可能であるとのことであった。
これらの新設、更新されたMXビームラインでは、1 kHz以上での読み出しが可能な検出器を組み合わせ、時分割測定用のシステムを構築していた。回折計の試料周辺のコンポーネントは、実験の種類に合わせて入れ替え可能な設計としており、FELで開発された装置のみでなく、新たな装置の導入も進められていた。これらの内容は、我々が放射光を利用した時分割測定のシステムを構築し、ビームラインを高性能化するために参考となった。
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