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Volume 29, No.4 Pages 347 - 349

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第10回大型実験施設とスーパーコンピュータとの連携利用シンポジウム報告
Report on the 10th Symposium for Cooperative Use of Quantum Beam Facilities and Super Computer

筒井 智嗣 TSUTSUI Satoshi

公益財団法人高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室 Industrial Application and Partnership Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 9月12日に東京・秋葉原のUDXカンファレンスとオンラインのハイブリッド形式にて開催した「大型実験施設とスーパーコンピュータとの連携シンポジウム」について報告する。本シンポジウムは、放射光施設SPring-8及びNanoTerasuの登録機関であるJASRI、中性子施設J-PARC MLFの登録機関であるCROSSと富岳をはじめとする大型計算機に関する登録機関であるRISTの3者が主催者として開催された。2014年以降、コロナ禍の2020年を除いて毎年開催し、今回で10回目の開催となった。
 今回のシンポジウムでは、高圧下・高圧物性の新展開をテーマに8名の講師の先生方に講演を行っていただいた。当日のプログラムは以下の通りである。

 

第1セッション:施設と登録機関の現状
座長:杉本 正吾(RIST)
〇開会挨拶 雨宮 慶幸(JASRI)
横溝 英明(CROSS)
野田 浩絵(文部科学省)
 
〇施設と登録機関の紹介
SPring-8・NanoTerasu/JASRI 木村 滋(JASRI)
J-PARC/CROSS 松浦 直人(CROSS)
「富岳」、HPCI/RIST 吉澤 香奈子(RIST)
 
第2セッション:高圧誘起超伝導の現状
座長:吉澤 香奈子(RIST)
「高圧誘起超伝導体MnPにおける磁気構造の圧力依存性の研究」 松田 雅昌(オークリッジ国立研究所)
「高圧力を用いた超伝導の研究」 清水 克哉(大阪大学)
「シミュレーションから見えてきた硫化水素高圧相H3Sにおける
 電子状態の特異性」
明石 遼介(量子科学技術研究開発機構)
 
第3セッション:高圧下での物質合成とその評価
座長:上床 美也(CROSS)
「LPSO型Mg合金の高圧下での相分離とその熱力学的解釈」 松下 正史(愛媛大学)
「亜臨界水によるケミカルリサイクルでの中性子利用」 中田 克(東レリサーチセンター)
 
第4セッション:地球惑星科学への応用
座長:肥後 祐司(JASRI)
「第一原理計算による地球惑星内部における含水物質の研究」 土屋 旬(愛媛大学)
「地震発生場の高温高圧環境下における岩石破壊プロセス:
 高エネルギー・高フラックスX線を用いたその場観察実験」
大内 智博(愛媛大学)
・高圧中性子回折実験の最近の発展と氷多形研究への応用 小松 一生(東京大学)
 
〇講演終了の挨拶 田島 保英(RIST)
(オンライン参加者はここで終了)
 
第5セッション:講演者との意見交換・利用相談・情報交換・ポスター展示(会場のみ)
座長:吉見 一慶(東大物性研)
ポスター発表
〇DxMT、ISSP
・文部科学省データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト(DxMT)データ連携部会中核機関の取り組み
・物性研究所 共同利用スパコン関連事業の取り組み
〇CROSS
・PLANETの概要と最近の研究成果
・中性子を用いた超臨界水反応過程の観察
・利用推進部活動報告
・J-PARC中性子産業利用BL(茨城県BL)の特徴と利用
〇JASRI
・施設と登録機関の紹介
・SPring-8における高圧実験ステーション
〇RIST
・「富岳」を中核とするHPCIシステム
・「富岳」を中核とするHPCIシステムにおける利用支援
 
〇閉会挨拶 山下 幸二(RIST)

 

 

2. 会議報告
 本シンポジウムは、5つのセッションで構成された。第1セッションでは、主催団体であるJASRI及びCROSSの理事長からの挨拶、来賓としての文部科学省研究環境課課長の野田様からのご挨拶に引き続いて、各登録機関と施設に関する紹介が行われた。第2セッションから第4セッションまでは高圧に関わる最近の研究動向に関する学術講演が行われた(写真1、2)。最後の第5セッションは、現地開催のみであり、会場でのポスター発表や講演者と参加者の意見交換の場となった。

 

写真1 講演会場の様子

 

写真2 講演会場の様子

 

 

 第2セッションでは、圧力誘起超伝導の現状について3件の講演が行われた。最初の講演者である米国オークリッジ国立研究所の松田雅昌先生は、来日が叶わず、時差のある中でオンラインでのご講演をいただいた。強相関電子系においては、磁性と超伝導の競合・共存は長年の研究対象であり、講演ではMnPという化合物の高圧下の磁気構造を中性子回折で明らかにした結果について紹介された。2人目の大阪大学の清水先生と3人目の量子科学技術研究開発機構の明石先生の講演からは、室温超伝導で鎬を削る水素化物の超伝導に関する研究についてご講演いただいた。水素化物の研究では、実験家が発見した実験結果を理論的に説明する研究進捗だけではなく、理論的予測を実験家が放射光による構造解析も含めた実験で実証するという研究も増えているということが強く印象に残った。
 第3セッションでは、高圧下の物質合成とその評価に関する2件の講演が行われた。愛媛大学の松下先生からは、構造材料として期待されるMg合金に対して圧力で粒径を制御し、物質の機能の最適化を行った研究に関する講演が行われた。今回、唯一の企業研究者の講演となった東レリサーチセンターの中田先生からは使用済みプラスチックの超臨界処理を利用したリサイクルの過程を理解するために中性子やX線を利用した研究の紹介が行われた。
 第4セッションでは、地球惑星科学への応用に関する3件の講演が行われた。愛媛大学の土屋先生からは理論計算に基づく地球内の含水物質に関する研究、愛媛大学の大内先生からはX線CTと計算科学の融合に基づく地震発生時の岩石破壊に関する研究、東京大学の小松先生からは水素がよく見える中性子の性質を利用した高圧下での氷に関する研究成果の報告が行われた。
 第5セッションでは、登録機関の活動状況や各施設での高圧科学およびその関連分野に関する最近の成果報告に加えて、参加者と講演者との懇談・情報交流の場となった(写真3)。

 

写真3 ポスター会場の様子

 

 

3. おわりに
 本シンポジウムでは、参加者141名(現地参加:68名、オンライン参加:73名)であった。昨年同様、可能な限り多くの方に現地参加をしていただくことと講演者との活発な質疑応答を期待して、質問は現地参加者に限って実施した。今回は、海外に在住の松田先生から講演をいただくことができ、ご協力が得られる範囲で海外の方からも講演をいただく機会が得られたことは一つの収穫であった。また、今回はJASRIがNanoTerasuの登録機関となってから初めてのシンポジウム開催である。来年度は、NanoTerasu運用開始後の初めての開催となることから、本シンポジウムの運営や企画において多少の変化があると思われる。また、第5セッションのポスター発表にご協力いただいた東京大学物性研究所、DxMT、SPRUC高圧物質科学研究会、地球惑星科学研究会の皆様に感謝申し上げます。最後に、本シンポジウムの開催に際し、講師選定や講師の先生方との交渉にあたっていただいた3登録機関で構成されるプログラム委員の方々へメンバーのお名前を記して感謝を申し上げます。

 

(プログラム委員)
阿部 淳(CROSS)、上床 美也(CROSS)、佐藤 眞直(JASRI)、社本 真一(CROSS)、杉本 正吾(RIST)、筒井 智嗣(JASRI)、肥後 裕司(JASRI)、舟越 賢一(CROSS)、山下 幸二(RIST)、吉澤 加奈子(RIST)、吉見 一慶(東大物性研)

 

 

 

筒井 智嗣 TSUTSUI Satoshi
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0802
e-mail : satoshi@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794