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Volume 29, No.3 Pages 262 - 268

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

専用ビームラインにおける評価・審査の結果について
Review Results of Contract Beamlines

登録施設利用促進機関 (公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 Registered Institution for Facilities Use Promotion, User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 専用施設審査委員会において、大阪大学核物理研究センター、株式会社豊田中央研究所及び大阪大学蛋白質研究所の各専用ビームラインについて、2024年5月に中間評価、利用状況評価・次期計画審査及び延長評価を行い、それらの結果を2024年7月開催のSPring-8選定委員会に諮り、承認されましたので報告いたします。

 

 

中間評価
・レーザー電子光IIビームライン(BL31LEP)
 (設置者:大阪大学核物理研究センター)

利用状況評価・次期計画審査
・豊田ビームライン(BL33XU)
 (設置者:株式会社豊田中央研究所)

延長評価
・生体超分子複合体構造解析ビームライン(BL44XU)
 (設置者:大阪大学蛋白質研究所)

 

 

 詳細は、以下に示す各施設の評価報告書をご覧ください。

 

 

レーザー電子光IIビームライン(BL31LEP)
中間評価報告書

 

 レーザー電子光IIビームライン(BL31LEP)は、国立大学法人大阪大学核物理研究センター(RCNP)が、BL33LEPに続いてSPring-8に設置した2本目の専用ビームラインであり、その研究の目的は、物質の基本粒子であるバリオン及びメソンの構造とそれらの間に働く力を、その構成要素であるクォーク・グルーオンのレベルで理解することである。RCNPが標榜するクォーク核物理の開拓を目指して、10-14-10-15 mスケールでのクォーク原子核の世界を観測する第2のビームラインを建設するLEPS2プロジェクトは、2006年度より検討開始、2010年から建設に入り、2014年度から物理実験が行われている。
 RNCPからBL31LEPの利用継続の申し出があり、専用施設審査委員会(本委員会)に「レーザー電子光ビームラインII(BL31LEP)利用状況等報告書」、並びに「レーザー電子光ビームラインII(BL31LEP)次期計画書」が提出された。2020年7月28日に第31回専用施設審査委員会を開催し、そこでの報告及び討議により中間評価後の利用状況及び提出された次期計画の妥当性について審査した。その結果、次期計画のための再契約は妥当であると判断した。なお、次期計画は10年間として提案されているが、ビームライン自身の進捗に加えSPring-8の次期計画の進捗に応じた見直し等が必要と考えられることから契約期間は6年とし、3年後を目途に中間評価を行うことが勧告された。
 今回、この勧告を受けて2024年5月9日の第39回専用施設審査委員会において中間評価を行った。RNCPより提出された「レーザー電子光ビームラインII(BL31LEP)中間報告」及び口頭によるプレゼンテーションにもとづき、「装置の構成と性能」、「施設運用及び利用体制」、「研究課題、内容、成果」及び「今後の計画」の4項目について評価を行い、本委員会では第2期後半における本ビームラインの設置と運用の「継続」を勧告することと判断した。
 本委員会での報告及び討議に基づき、以下の点についてその評価と提言を記す。

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 SPring-8の長直線部をレーザー・電子相互作用領域として使用し、高強度のGeVガンマ線を生成する、世界的にもユニークなビームラインと位置付けることができる。このビームラインにおいて、電磁カロリーメータBGOeggやソレノイド・スペクトロメータとの組み合わせにより他所では実施不可能な実験データを生み出すことが可能である。
 しかしながら、2020年7月に正式に策定された第2期前半(2020-2024年)の実験計画は、複数の装置整備の顕著な遅れ(PWO電磁カロリーメータ組込によるトラブル、266 nmのパルスレーザーの実験導入への遅れ、TPCの故障対応や性能に問題があるBEPCモジュールの交換等)により甚大な影響を受けた。その結果、第2期前半に優先して行う計画であったソレノイド・スペクトロメータを用いたの探索実験が、現時点でも実施されていない深刻な事態を招いた。

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 世界に同様の施設のないLEPの利用を適切に進めるにあたり、Q-PACによる国際的な課題審査に基づく利用体制はある程度評価できる。その一方で、2020年の7月に正式に策定された第2期前半の実験計画の、現時点での大幅な遅れは、実験装置群の高度化に於けるマネージメントが適切に機能してきたのかという疑問を抱かせる。
 この中間評価の4年間は、コロナ禍やウクライナ戦争の影響により、海外からの実験参加者が激減したため、20名程度のコアメンバーで、実験施設の維持、管理、高度化、利用実験、データ解析を実施し、人的リソースが極端に欠乏していたようである。一方で、他のSPring-8のビームラインでは、コロナ禍、ウクライナ戦争に於ける人流の制限はともに限定的であった。BL31LEPにおいても、別の要因がなければ、海外からの実験参加者数が今後回復し、人的リソースの窮状が緩和されていくものと期待される。
 BL33LEPの実験的運用が基本的に終わり、本ビームラインに人的リソースが集約したこと、マニュアル整備、ガイドライン作成、安全点検、教育の実施などが行われ、安全面を含む運用に一定の改善が諮られたことから、ビームアボートの回数や深刻なシステム/機器の故障件数には大幅な改善が見られた。装置の点検・維持管理、使用者教育なども含め、引き続き改善を進めて欲しい。

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 BGOegg測定器において、期待通りの性能が発揮され、中性メソンに関する新たなデータが得られている。η'メソンの生成について今後新しい研究プログラムが広がる可能性も高まっている。
 ソレノイド測定器の整備は大幅に遅れているが、設計性能に達成したソレノイド測定器がフル稼働できれば、というK中間子が原子核内部でどう束縛されているかという研究に寄与することが期待されるが、結果が示されていないので、今後の解析に期待する。
 2020年から2024年にかけては、全般的に、実験装置の高度化の遅れが実験の進展を妨げたようである。この期間での成果が、Physical Review C 3本、NIMA 1本、Review of Scientific Instruments 1本の計5本の原著論文に止まったのはそれが主な理由である。

4. 「今後の計画」に対する評価
 本評価部会に提出された「今後の計画」は、SPring‑8の高度化(SPring-8-II)がますます現実的なものとなる中で、予算化も順調に進められようとしている現状を鑑みるに、SPring-8での運転が2027年の夏に終了し、新しい蓄積リングSPring-8-IIによる運転再開が2028年度末から開始されるというシナリオを現実のものとして再検討されることを提言する。
 BL31LEPの長直線部には、放射減衰を促進するDamping Wigglerの設置が予定されており、レーザーの打ち込みとLEPの取り出しはその時点ではできない状況にある。これらの検討の開始は、少なくともSPring-8-IIの運転が軌道に乗った後、早くても2030年以降になるであろう。Wigglerからの放射パワーを除去する装置が、長直線部下流側に多数設置されるため、検討の結果LEPを取り出せない可能性も少なくない。
 SPring-8-II移行後のBL31LEPの実験再開の目処が立たないため、2024年から2027年夏までの約4年間では、最大限、成果を刈り取ることを考えて行く必要があろう。(1)7.5 mm厚の銅標的に10 MHzの高強度レーザー電子光を照射し、原子核中でのη'メソンの崩壊による質量変化の研究、(2)反応でのの研究、(3)反応でのを含む核子共鳴やペンタクォーク状態の研究、(4)反応でのの性質及び生成機構の研究を行うことが現状計画されているが、これらの実験を成功させるための戦術を十分に検討すべきである。具体的には、BL31LEP施設のプロモーターであるRCNPが、ソレノイド検出器とBGO検出器を合わせた検出器系全体として、現場で安定に動作しうる性能を先ずはっきりとさせ、これとマッチした測定装置によって行える実験に絞って、今後4年間の現実的な運転計画を策定し、国際的なレビューを経て運転計画を最終化して実験ユーザーに示すべきである。
 SPring-8-II以降、この場所で実験を続けていくべきか、国内外の新しい実験場所を探して拠点を移していくべきか、2027年夏までの約4年間で、効率的で戦略的な物理実験の実施と並行し、この分野の関係者は将来の方向性を真剣に議論すべきであろう。

以 上

 

 

豊田ビームライン(BL33XU)契約期間満了に伴う
利用状況評価・次期計画審査報告書

 

【概要】

 提出された豊田ビームライン(BL33XU)の利用状況等報告書・次期計画書と口頭による報告発表にもとづき、ビームラインとステーションの構成と性能、施設運用及び利用体制、利用成果、さらに次期計画の4項目について5月9日に開催した第39回専用施設審査委員会で評価・審査を行った。その結果、計画に基づいた特徴ある機器整備・開発が適切に行われ成果も認められることから再契約は妥当であると判断する。以下、項目ごとの評価・審査結果の詳細を記載する。

【ビームラインとステーションの構成と性能】
 第2期にあたる今期は、持続可能な社会の実現に貢献するための新たなチャレンジとしてトヨタ自動車が2015年に掲げた「トヨタ環境チャレンジ2050」をもとに、自動車の電動化を進めるためのモーター、電池、パワーコントロールユニット等のコア技術開発に貢献することを目標とし、分析技術開発として(1)非破壊3D構造解析の飛躍、(2)オペランド解析技術の深化、(3)AI利用によるデータ解析の3つに主に取り組み、代表的な成果として以下の報告があった。
(1)自動車を構成する部品の機械的信頼性を評価するための非破壊観察技術として、第1期で同ビームラインで開発された走査型3DXRD技術の高度化に取り組み、小型回転スパイラルスリットを活用することで測定対象の拡大(複数の結晶層の結晶組織観察の実現)を達成。
(2)国内外でも特徴的な技術開発として、リチウム電池開発で重要となる軽元素の化学状態に効果的なX線ラマン分光(XRS)測定技術の多次元化に取り組み、化学状態の空間分布を評価可能なイメージングXRS測定技術の開発を達成。
(3)放射光分析技術で得られたデータをプロセスに展開するためにAIを活用した高度のデータ解析に取り組み、ディープラーニングを活用したラミノグラフィー像のアーティファクト除去技術の開発を達成。
 これらのことから、6年という短い期間にも関わらず、計画的なビームライン運用と整備により、当初の計画目標を達成する技術開発成果が得られていると考える。

【施設運用及び利用体制】
 第1期に引き続いて本第2期も、(株)豊田中央研究所(以下、豊田中研)1社専用のビームラインとして、社内の設備と同等に位置付けられて運用や安全体制が管理され、常駐者も配置された安定的な運用が進められた。また、トヨタグループ各社のニーズは豊田中研への委託業務または共同研究として対応し、グループ会社全体の研究開発に貢献した。
 特にこの第2期から、課題募集・選定等の運用に関して同社の研究企画・推進室が加わることにより全社目線での研究課題の募集や選定が可能になった。さらに、柔軟かつ効率的なビームタイム運用を実現しており、成果非専有課題による論文発表の拡大と応用研究目的の成果専有課題の増加をバランスよく実現する成果につながっていると思われる。
 また、安全管理体制については全ての実験課題に対して実験責任者の他に安全担当者を配置して、期初にはRA(リスクアセスメント)活動を行い、毎回の実験開始時にKY(危険予知)活動をおこなう1時間の安全活動時間を設けるなど、徹底した模範的な体制を構築している。

【利用成果】
 第2期の特筆するべき成果として、①オペランドX線イメージングによる燃料電池のガス拡散層内部の水輸送現象の解明、②オペランドXAFSによる三元排ガス触媒の酸素貯蔵材の特性解明、という成果を挙げ、①は燃料電池車の高性能化に、②はガソリンエンジン車及びハイブリッド/プラグインハイブリッド車の排ガス触媒の高度化に貢献している。また、これらの成果の発表論文は学術界からも高く評価され、①は化学工学会技術賞等を受賞し、②は自動車技術会論文賞を受賞している。さらに他にも、Li電池や触媒のメカニズム解明研究において、第1期から同ビームラインで開発・整備されてきたオペランドXAFS測定技術やそれをXRDと組み合わせてマルチモーダル化したオペランドXRD/XAFS測定技術の応用成果、XRS測定技術開発成果などが、高いインパクトファクターの学術誌に掲載される等、学術論文成果について質/量の両面で向上した。
 このように産業成果だけでなく学術的成果についてもバランスよく成果を上げている点は、前項の「施設運用及び利用体制」で言及した社内ニーズに合わせた柔軟かつ効率的なビームタイム運用を実現していることに起因しているとも考えられ、高く評価できる。また、①の燃料電池のガス拡散層内部の水輸送現象の解明では、中性子イメージングも併用した量子ビーム相補活用の成果であり、中間評価における意見で述べられた他の分析技術との相補活用成果への期待にも対応できている点は評価に値する。

【次期計画】
 第2期に引き続き、トヨタ自動車が掲げる「トヨタ環境チャレンジ2050」の元に、自動車電動化の促進によるカーボンニュートラル(CN)の実現に加えて、2次電池のリサイクル・リユースの促進によるサーキュラーエコノミー(CE)の実現を目標とする計画として、(1)放射光X線ラマン散乱法(XRS)の飛躍、(2)マルチモーダル・マルチプローブ計測の進化、(3)高エネルギー高輝度ビームとコンプトン散乱法の開発、(4)自動・自立実験とAIの新展開、の4項目の研究開発方針を提案した。(1)、(2)、(4)は第2期の研究開発成果の発展であり、(3)は今回新規に加えられた項目である。各項目の主要な内容は下記の通りである。
 (1)、(3)はCN、CEの鍵となる、従来の分析手法では難しい電池中の軽元素のオペランド分析の実現を目指したものである。第2期で開発したXRS技術をSPring-8-IIの高輝度光源で高測定能率化してリアルタイム計測できる実用技術に高度化しようとするだけでなく、非破壊で実装置内の軽元素分布を可視化できる技術として、近年共用ビームラインで開発が進むコンプトン散乱技術の新規導入に挑戦する姿勢は評価に値する。
 (2)において、第2期に着手された放射光と中性子の量子ビーム相補活用によるマルチプローブ化の発展的取り組みには、課題解決に必要とされる多角的分析の一角としての放射光分析の位置付けを強化するものとして期待したい。
 (4)自動・自立実験によるビッグデータ取得とAI活用は、放射光を活用した研究の新たな可能性の拡大に資すると考えられ、その成果が期待できる。
 提案された10年間の設備投資スケジュールは、現在想定されるSPring-8-II計画の改造スケジュールを考慮した、実行的な計画である。さらに、運用や安全の管理については第2期までに確立した柔軟かつ効率的な体制での運用が引き続き計画されている。ただし、SPring-8-II計画を含め、今後の予定については未確定部分も多いので、これまで以上に理研、JASRI等のSPring-8内の他機関との情報交換や技術交流が重要になると思われるので、積極的に取り組んでいただきたい。
 以上のことから、第1期~第2期を通じて達成された機器整備や技術開発の成果を活かし、今後も継続的に特徴ある成果が創出されることが期待されるため、再契約が妥当であると判断する。

以 上

 

 

生体超分子複合体構造解析ビームライン(BL44XU)
延長評価報告書

 

 設置者である大阪大学蛋白質研究所から提出された利用状況等報告書、延長理由・延長計画書及び口頭による報告発表にもとづき、ビームラインとステーションの構成と性能、施設運用及び利用体制、利用成果、及び延長理由・延長計画書について、5月30日に開催した第40回専用施設審査委員会で評価・審査を行った。その結果、第3期の施設運用は概ね順調であり、機器整備もほぼ計画通りで、利用成果の公開も進んでいることから、提案のあったSPring-8-IIアップグレードのためのシャットダウン前までの延長は妥当であると判断される。
 以下、項目毎の評価・審査結果の詳細を記載する。

1. ビームラインとステーションの構成と性能
 生体超分子複合体構造解析ビームラインは挿入光源を備えるBL44XUから成る。SPring-8には蛋白質結晶回折実験が可能なビームラインが他に5本あるが、ユーザーインターフェースは理研・JASRIにて開発されたシステムが導入され、設置機器の違いはあるものの全体としてよく統一されている。一方で、それぞれが特徴的な試料を対象として棲み分けられ、実験目的に応じてビームラインを使い分けることに支障がない環境を提供している。
 そのなかで本ビームラインは設置当初より蛋白質のなかでも巨大な分子(超分子複合体)を標的とし、ビーム発散角が小さく平行度の高いビームを提供し、大面積の検出器を設置して、回折点間隔が狭くなる大きな単位格子を有する結晶に適した仕様であった。2018年の再契約時にモノクロメータの低振動化対策や縦集光ミラーの導入により高輝度化を進めるとともに、サンプル交換ロボットの大容量化とピクセルアレー検出器の導入による測定時間の飛躍的な短縮で、効率的かつ汎用的な実験にも対応する環境を実現、共同利用拠点としての機能を高めた。また、ビームストッパーや検出器傾斜架台の改良により、長格子結晶からの高精度データ取得のための高度化も進めている。今回の評価対象であるその後の第3期においては、中間評価を挟む期間において、結晶方位を任意に調整する多軸ゴニオメータを導入して長格子への対応など、従来の特色を発展させる試みも進めている。

2. 施設運用及び利用体制
 ビームタイムの運用において、蛋白質研究共同利用・共同研究拠点の理念に基づいた共同利用課題を受け付けており、国内外のアカデミアの利用者に広く門戸を開いている。設置者自身の研究活動として50%弱のビームタイムを利用し、50%強のビームタイムを共同利用・共同研究拠点活動を中心に設置者自身以外の外部研究者に提供している(台湾NSSRCとの連携協定枠10%、外部資金活動AMED/BINDSの利用支援10%を含む)。共同利用枠選定の課題審査において、設置当初から生体超分子複合体に関する課題の採択に有利となる制度を設け、当該領域の研究を推進している。該当する課題は、年数件程度に留まるものの、他では見られない特徴的な成果の創出にも貢献している。
 利用状況については、前回中間評価時期に比べ若干減少したものの、採択課題数は年間50-60件程度となっている。一方、産業界からの利用については、当該期間中には試料調製から構造解析を含む包括的な課題が1件実施されるに留まった。
 運用に関する組織面では、責任者である中川教授の他、SPring-8サイトに常駐するスタッフ2名(准教授1名、博士研究員1名)でビームラインでの運用を行っているが、理研及びJASRI、台湾ビームラインとの連携により、研究開発や機器設置に関する協力が得られる状況にある。以前からの指摘である体制の強化や人材育成面での貢献が引き続き望まれる。
 安全衛生面については十分配慮され、施設と連携した取り組みが行われており評価できる。

3. 利用成果
 発表論文数においては、年間50-60報程度の原著論文が発表されている。近年のクライオ電子顕微鏡の進展で超分子複合体の成果はやや減少傾向にあるものの、インパクトファクターの高い学術誌に解析高難度の超分子複合体や膜蛋白質の成果も数多く報告されている。具体的には、大阪大学蛋白質研究所内からの研究成果として、生物の光合成に関わる光化学系I、シトクロムc556、がん細胞認識抗体、多剤排出ポンプ、時計タンパク質、電位センサー蛋白質、植物塊茎形成活性化関連蛋白質など、本ビームラインの設置の目的の一つである複合体形成によって機能を発揮する蛋白質群の解析が、共同利用においては光合成関連膜蛋白質複合体やウイルス粒子などの当該ビームラインの特長を活かした成果も含まれている。
 この成果創出において、SPring-8の他の蛋白質結晶解析ビームラインと比較しても依然遜色なく、当該ビームラインの特長を活かした成果と相まって、高く評価できる。

4. 延長計画
 本ビームラインはその特徴である生体超分子複合体構造解析を掲げるなか、大型外部資金AMED-BINDSプロジェクトの予算が2017年度から導入され、中間評価時には未定であったその第2期(2022年度~)の予算も獲得し、計画の実行が進んでいる。今回の延長計画の実施内容は従来と大きな変更はなく、ビームラインとしては、引き続き多軸ゴニオメータ等の開発を進め、超分子複合体結晶からの高精度データの取得を目指して、特長をより伸ばしていく計画が堅持された。しかし、前回の中間評価時にも指摘があった通り、蛋白質結晶解析を取り巻く環境は変化を続けており、生体超分子複合体結晶構造解析は近年のクライオ電子顕微鏡法の進展により独壇場ではなくなった。ただし、申請者らから説明があった通り、蛋白質結晶解析の実施件数そのものは世界的にも減少しておらず、それらの特徴を生かした相関構造解析が進んでいることが伺える。この傾向は前述の利用成果にも見て取れる。
 こうした状況を踏まえつつ、ビームラインの特徴も活かして、従来提案されてきた動的な複合体形成に基づく分子ネットワークの理解に延長期間も取り組む。この試みは、生命科学現象を原子分子レベルから理解する次世代の構造生命科学研究を見据えた提案といえ、当該分野が取り組む課題でもある。具体例として、植物の光エネルギー変換システムや薬剤排出ポンプの分子機構、ウイルス粒子の生命環の構造生物学的な理解が挙げられたが、高分解能な結晶構造とクライオ電子顕微鏡による多型解析を進めて分子の構築・作動原理に迫る。さらに設置者である大阪大学蛋白質研究所ならではの取り組みとして、クライオ電子顕微鏡法や核磁気共鳴法など複数の手法を組み合わせたマルチスケールな相関構造解析への取り組みを発展させる。また同研究所の機能である大学共同利用施設として、これらの普及に取り組むためにワンストップ窓口を設定することも計画案として示された。世界の蛋白質研究をリードしてきた設置者が引き続きこの大きな課題に取り組まれ、後進を育成されることを期待したい。
 以上のように、全般的な取り組みは十分評価できる内容であり、提案のあったSPring-8-IIアップグレードのためのシャットダウン前までの延長は妥当と判断される。一方、その後の計画については未定とされており、運用の体制と長期計画について懸念が残る。棲み分けが進んだタンパク質結晶回折ビームラインや施設全体の運用計画への影響も考慮して、蛋白研全体としての研究方針や体制及び人材育成を含め将来構想を明確にしていただき、早期に施設側との調整を進めることを求める。

以 上

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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