ページトップへ戻る

Volume 29, No.3 Pages 205 - 208

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第24回SPring-8夏の学校を終えて
The 24th SPring-8 Summer School

木下 豊彦 KINOSHITA Toyohiko

SPring-8夏の学校実行委員会 委員長 Chair of SPring-8 Summer School Executive Committee

Download PDF (1.80 MB)
SPring-8 SACLA

 

夏の学校の概要
 「第24回SPring-8夏の学校」は2024年7月7日(日)~7月10日(水)の4日間の日程で、全国26校から84名の学生の参加を得て、放射光普及棟およびSPring-8蓄積リング棟を会場として開校されました。この夏の学校は、SPring-8サイトに施設を持つ各機関とこれらの機関と連携大学院協定を持つ大学、SPring-8サイトにビームラインを持ち、そこで教育を行っている大学など(理化学研究所 放射光科学研究センター、日本原子力研究開発機構 物質科学研究センター、量子科学技術研究開発機構 関西光量子科学研究所、兵庫県立大学理学部・大学院理学研究科、関西学院大学理学部・工学部・生命環境学部・大学院理工学研究科、岡山大学、大阪大学光科学連携センター・蛋白質研究所・核物理研究センター、茨城大学大学院理工学研究科、東京大学シンクロトロン放射光連携研究機構、島根大学、(公財)高輝度光科学研究センター(JASRI))が主催して、ビームタイムや講師を供出し合って行ったものです。校長は兵庫県立大学教授の田中義人先生にお願いしました。実行委員会は主催団体のスタッフで構成され、事務局はJASRI利用推進部が行いました。なお、主催大学の中には夏の学校への参加を講義として単位認定しているところもあります。

 

写真1 講義風景

 

 

カリキュラムについて
 夏の学校では通例として、初日に3講義、2日目に4講義を行い、その後の2日間に各自が希望するテーマのビームラインにおいて実習を行っています。また、SACLAとSPring-8の実験ホールの見学、さらにはSPring-8蓄積リングの電磁石や挿入光源の見学を行いました。今年の実施スケジュールは以下の通りでした。

 

第24回SPring-8夏の学校 日程表 − 2024年7月7日(日)~10日(水)

 

 

ビームライン実習について
 実習は28ビームラインで行われました。実習のテーマと使用したビームラインおよび担当者(敬称略)は以下の通りです。

BL01B1 “その場”XAFS計測
(加藤和男・片山真祥(JASRI)・伊奈稔哲(JASRI/関西学院大学))
BL02B1 単結晶構造解析の入門
(野上由夫(岡山大学)・中村唯我・一栁光平(JASRI))
BL02B2 粉末X線構造解析の基礎
(河口彰吾・小林慎太郎・森祐紀(JASRI))
BL04B1 大容量高圧プレスと白色X線を用いたX線回折実験
(肥後祐司(JASRI/茨城大学)・柿澤翔・辻野典秀(JASRI))
BL04B2 高エネルギーX線を用いたガラス・液体の構造解析
(尾原幸治・廣井慧(島根大学/JASRI)・山田大貴・下野聖矢(JASRI))
BL07LSU タイコグラフィによる軟X線顕微イメージング
(木村隆志(東京大学))
BL08W コンプトン散乱イメージング
(辻成希(JASRI))
BL10XU ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧X線回折実験
(河口沙織・門林宏和(JASRI))
BL11XU 共鳴非弾性X線散乱・X線発光分光による白金微粒子酸化還元のオペランド計測
(石井賢司(QST)・松村大樹(JAEA))
BL13XU サブミクロン集光放射光ビームによる局所領域回折実験
(隅谷和嗣(JASRI))
BL14B2 XAFS分析の基礎
(大渕博宣・渡辺剛(JASRI))
BL17SU 光電子顕微鏡~ナノ分解能で見る元素分布と磁気構造~
(濵本諭(理研)・菅大暉(JASRI/理研))
BL19B2 粉末X線回折
(大坂恵一・赤田圭史・池田理(JASRI))
BL20XU 放射光X線イメージングと基礎データ解析
(上椙真之・佐田侑樹(JASRI)・竹内晃久(JASRI/島根大学))
BL22XU X線回折法を利用した金属材料応力・ひずみ評価
(菖蒲敬久・冨永亜希(JAEA))
BL25SU 軟X線光電子分光を用いた電子状態解析
(山神光平(JASRI)・横谷尚睦(岡山大学))
BL26B1 単結晶回折(タンパク質)
(上野剛(理研)・河村高志(JASRI))
BL29XU X線ライトシート顕微鏡実験
(香村芳樹・高野秀和・Sierra Dean(理研))
BL31LEP GeV光ビームの生成と物質との相互作用
(石川貴嗣・水谷圭吾・小早川亮・桂川仁志・田中慎太郎・橋本敏和(大阪大学))
BL35XU 放射光核共鳴散乱測定 -原子核脱励起過程の観察-
(依田芳卓・永澤延元(JASRI))
BL37XU 走査型顕微分光法の基礎
(新田清文・関澤央輝(JASRI))
BL38B1 BioSAXSによるタンパク質分子の溶液構造解析
(関口博史・長尾聡(JASRI))
BL41XU 単結晶回折(タンパク質)
(坂井直樹・水野伸宏(JASRI)・山下栄樹(大阪大学蛋白質研究所)・山口峻英(茨城大学))
BL43IR 赤外顕微分光による組成分布と電子状態の解析
(森脇太郎・池本夕佳(JASRI))
BL43LXU X線非弾性散乱による原子振動測定
(石川大介・福井宏之・萬條太駿(JASRI))
BL44B2 全散乱計測における誤差解析
(加藤健一(理研))
BL44XU 単結晶回折(タンパク質)
(櫻井啓介(大阪大学)・山口峻英(茨城大学))
BL46XU 硬X線光電子分光
(安野聡・Seo Okkyun・髙木康多(JASRI))

 

写真2 実習風景

 

 

 ここ数年は、新型コロナウイルス対策として、かつて行っていた懇親会やバーベキューは実施しませんでしたが、これまでのアンケート結果からも要望の強かったイベントであり、今年は実施することができました。今回参加された学生の多くは、大学時代、新型コロナの影響でリモートによる講義受講を余儀なくされ、サークル活動なども制限されていた世代になります。今回の企画が、いろいろな人との交流の初めての経験である参加者もおり、このような研究者や他大学の仲間との交流が意義深いものになったという声が多く聞かれました。
 講義や実習でも多くの質問が出され、例年以上に積極的な参加者が多かったように感じました。

 

 

謝辞
 熱意のこもったわかりやすい講義をしていただいた講師の先生方、2日間にわたる実習を熱心に指導していただいた実習担当の皆様、わかりやすい説明で参加者の興味を引きつけてくださった見学引率者の皆様、SPring-8蓄積リング放射光発生装置の見学を可能にしていただいたJASRI加速器部門の方々、SACLAの見学にご尽力いただいた理研およびJASRI関係者の方々に感謝いたします。また、事務局としてご努力いただいたJASRI事務局担当者の方々にも感謝したいと思います。

 

 

 

木下 豊彦 KINOSHITA Toyohiko
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0803 ext. 3219
e-mail : toyohiko@spring8.or.jp

 

 

 

 

第24回SPring-8夏の学校に参加して

 

 

東京大学大学院 理学系研究科
佐藤 美彩希

 

 

 私は現在の研究で、ダイヤモンドアンビルセルを用いた、低温高圧その場でのX線回折実験(XRD)を行っております。昨年の12月に高エネルギー加速器研究機構(KEK)のフォトンファクトリー(PF)にて、初めて放射光を用いた実験をした際、研究室のX線では測定できないデータを得ることができ、私にとって放射光は大きな存在となったのですが、実際に放射光がどのように生み出され、どのような恩恵をその他の測定手法に対してもたらしているのか、全くわかっていませんでした。そこで、放射光の発生原理から、放射光を用いた様々な実験手法について学ぶことができる良い機会だと考え、この夏の学校に参加させていただくことに決めました。
 今回の夏の学校では、1、2日目は講義、3、4日目は各ビームラインでの実習がメインで行われ、2、3日目にそれぞれSACLA、蓄積リングの見学がありました。1日目は放射光の発生原理やビームライン、検出器についての講義ということで、私が今まで受けたことがないようなお話を聞くことができました。特に、私はほぼXRDしかまともに測定したことがないのですが、そこで使用したことがない検出器について少しでも知ることができたのが印象深かったです。また、具体的に放射光がリング内でどのように作られているのか、専門の方から直接教えていただけたというのは非常にありがたかったです。講義を通し放射光発生についてのイメージをつかんだ後に、3日目のリング見学で実物を見られたということで、この見学が意義深いものになったと感じました。数年後SPring-8-IIになるときに、現在の磁石たちは新しいものに入れ替わってしまうということで、名残惜しさを感じながら写真を撮りつつ見学をしました。2日目には、名前は知っていたが測定原理を全く理解していなかった実験手法について学ぶことができたのでよかったです。特に、SPring-8と言えばSACLAという方が多いと思いますが、自由電子レーザーについての講義は印象的でした。私の実験で使用することはなく、失礼ながら今まで可愛い名前だなという感想しかなかったのですが、どれだけ偉大な技術であるのかについて知ることができたので、大変面白かったです。自分が普段測定しているXRDについての講義も、理解できていなかった部分を明白にすることができ、とてもためになりました。
 3、4日目の実習では、各自希望したビームラインにて実習を行いました。私はBL25SUにて軟X線を用いたX線光電子分光(XPS)を、BL02B1にて単結晶XRDを行いました。前者では、XPSの測定原理から解析方法まで体験を通して知ることができ、とても面白かったです。他の参加者と協力して、ディスカッションしながら課題を進めることができたことがとても印象に残っています。後者では、普段自分が行っている実験とは少し違った条件での測定ということで、単結晶XRDについての理解をより深めることができました。両方の実習において、研究でXRDを行っている“仲間”の参加者に複数会うことができ、話ができたことが嬉しかったです。学会で再会することができたらいいなと思います。
 上記のように、カリキュラムから多くのことを学ぶことができましたが、私にとってのさらに貴重な時間は、懇親会やBBQでした。参加前は、他の参加者とうまく交流できるか心配で仕方がなかったのですが、勇気を持って参加することで、多種多様な大学、研究分野の方々と交流し仲良くなることができました。学部4年から同じ研究室に所属していたこともあり、自分が所属する研究室以外の学生と交流する機会が今までほとんどなかったので、自分が知らなかった研究についてたくさん知ることができたのが楽しかったです。場所は違っても自分と同じように研究をしている同世代がたくさんいるとわかり、心強くも思えましたし、もっと私も頑張らなくてはいけないという刺激ももらいました。この文章を書きながら涙が出そうになる程の、忘れられない思い出です。一生懸命準備してくださった実行委員会の方々に、心から感謝いたします。
 長くなりましたが、今回の夏の学校を通し、ここには書ききれないほど多くのことを学ぶことができました。きっと私だけではなく、全参加者が感じていることかと思います。第24回SPring-8夏の学校を運営してくださった実行委員会の皆様、わかりやすい講義を提供してくださった講師の皆様、面白い実習をしてくださったビームライン実習担当の皆様、関わっていただいた皆様に深くお礼申し上げます。今感じている余韻を忘れずに、より一層研究、勉強に対し努力して参ります。ありがとうございました。

 

 

写真3 見学風景

 

写真4 記念写真

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794