Volume 29, No.3 Pages 216 - 217
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
2021B期 採択長期利用課題の事後評価について -2-
Post-Project Review of Long-term Proposals Starting in 2021B -2-
2021B期に採択された長期利用課題について、2023A期に2年間の実施期間が終了したことを受け、第75回SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会(2023年12月19日開催)による事後評価が行われました。
事後評価は、長期利用分科会が実験責任者に対しヒアリングを行った後、評価を行うという形式で実施し、SPring-8利用研究課題審査委員会で評価結果を取りまとめました。以下に評価を受けた課題の評価結果を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」に実験責任者による紹介記事を掲載しています。
なお、2021B期に採択された長期利用課題2課題のうち1課題の評価結果は2024年春号に掲載済みです。
課題名 | はやぶさ2リターンサンプルのX線CTを用いた初期分析と詳細分析 |
実験責任者(所属) | 松本 恵(東北大学) |
採択時課題番号 | 2021B0185 |
ビームライン | BL47XU, BL20XU |
利用期間/配分総シフト | 2021B~2023A/150シフト |
[評価結果]
本長期利用課題は、はやぶさ2探査機が小惑星リュウグウから2020年12月に持ち帰った試料に対して、複数の放射光X線CT手法を組み合わせ、マルチスケールの非破壊三次元分析を実施したものである。BL20XUでは30 keV以上の高エネルギーX線を用い、広視野CT、XRD-CT、局所高分解能CTによる粒径100 μm以上の粒子の分析が行われた。一方、BL47XUでは、7-8 keVの比較的低エネルギーのX線を用いたdual-energy tomography(DET)、scanning imaging X-ray microscopy(SIXM)による粒径の小さい試料中の鉱物相の同定や分布の解析が行われた。これらを通じ、水質変成にともなう二次鉱物形成過程や有機物の再配置、彗星塵衝突等、宇宙空間におけるリュウグウの形成や進化プロセスの解明につながる多くの成果が得られた。その中には、宇宙空間からの回収試料の分析によって初めて明らかになった知見も含まれる。
このように本課題においては、社会的にも関心の高いはやぶさ2プロジェクトの成果の一角をなす重要な実験が行われ、当初目的としていた研究内容が十分に達成されている。その研究展開は、タイムリーに集中的な研究を実施し、科学的価値が非常に高い成果を挙げたという点で、長期利用課題のねらいに的確に沿ったものである。本研究の波及効果は、太陽系内の物質科学や生命の起源などに関わる研究等、惑星科学の範囲にとどまらず、希少試料の取り扱いや、顕微分析に先行する非破壊三次元解析による予備測定分析など、貴重な微小試料の分析手法のモデルとして、材料科学など他分野への展開も大いに期待されるところである。一連の成果は、非常に影響力のある雑誌に多数論文として掲載されているほか、プレスリリースや報道も行われており、情報発信の点では十分である。また、国際共同研究を通じて、SPring-8とその分析能力の国際的な存在感を高めることにもつながっている。
以上により、本課題は、大きな国際共同研究の枠組みの中で相応の役割を果たすとともに、独立した研究課題としても十分な成果が得られていると認められる。長期利用課題として大きな意義があったと評価される。
[成果リスト]
(査読付き論文)
[1] SPring-8 publication ID = 45386
M. Ito et al.: "A Pristine Record of Outer Solar System Materials from Asteroid Ryugu's Returned Sample" Nature Astronomy 6 (2022) 1163-1171.
[2] SPring-8 publication ID = 45389
T. Yokoyama et al.: "Samples Returned from the Asteroid Ryugu are Similar to Ivuna-type Carbonaceous Meteorites" Science 379 (2022) abn7850.
[3] SPring-8 publication ID = 45497
T. Nakamura et al.: "Formation and Evolution of Carbonaceous Asteroid Ryugu: Direct Evidence from Returned Samples" Science 379 (2022) abn8671.
[4] SPring-8 publication ID = 45499
T. Noguchi et al.: "A Dehydrated Space-weathered Skin Cloaking the Hydrated Interior of Ryugu" Nature Astronomy 7 (2023) 170-181.
[5] SPring-8 publication ID = 46156
D. Nakashima et al.: "Development of Preparation Methods of Polished Sections of Returned Samples from Asteroid Ryugu by the Hayabusa2 Spacecraft" Meteoritics and Planetary Science. (2023) Online published 3 Jul. 2023.
[6] SPring-8 publication ID = 46157
Z. Dionnet et al.: "Three-dimensional Multiscale Assembly of Phyllosilicates, Organics, and Carbonates in Small Ryugu Fragments" Meteoritics and Planetary Science (2023) Online published 2 Sep. 2023.
[7] SPring-8 publication ID = 46159
T. Noguchi et al.: "Mineralogy and Petrology of Fine-grained Samples Recovered from the Asteroid (162173) Ryugu" Meteoritics and Planetary Science (2023) Online published 22 Nov. 2023.
[8] SPring-8 publication ID = 46837
M. Matsumoto et al.: "Microstructural and Chemical Features of Impact Melts on Ryugu Particle Surfaces: Records of Interplanetary Dust Hit on Ssteroid Ryugu" Science Advances 10 (2024) eadi7203.