Volume 29, No.2 Pages 104 - 107
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体第13回研究発表会
The 13th Conference on Consortium of Advanced Softmaterial Beamline (FSBL)
1. はじめに
フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体(FSBL)は第13回研究発表会を2024年1月9日~10日の2日間に亘り、名古屋工業大学4号館講堂およびZoomにて開催した。
FSBLは、ソフトマターの分野で日本を代表する企業と大学によって、放射光利用によるソフトマターの研究開発の発展を目指して結成された連合体である。(国研)理化学研究所と(公財)高輝度光科学研究センターの多大なご協力のもと大型放射光施設SPring-8のBL03XUに、日本で初めてのソフトマター研究開発専用ビームラインを設置した。2010年4月より利用を開始し、2019年9月に第1期の活動を終了した。現在、FSBLは2019年10月より第2期となり、活動を継続させている。これらの活動により創出された研究成果を、広く一般に発表するとともに、参加メンバー間での情報を共有し、さらに効果的かつ高度な成果を創出するため、年に1回研究発表会を開催している。
今回の第13回研究発表会より、全15グループの研究発表を行うこととし、2日間での開催とした。また、高分子研究の最先端を紹介いただく特別講演も2件実施した。
以下にその概要を示す。
2. 開会の挨拶
FSBLの小島優子代表(三菱ケミカル)より、研究発表会の開会が宣言され、4名の来賓よりご挨拶を頂戴した。
まず、文部科学省科学技術・学術政策局研究環境課の稲田剛毅課長より、産学連携での新たな取り組みで多くの成果が創出されており、またこれらの取り組みをより発展させ、今後整備が予定されているSPring-8-IIへのアップグレードと共に、画期的な成果創出により社会全体への貢献が期待されているなど、ご挨拶を頂いた。続いて(国研)理化学研究所放射光科学研究センターの石川哲也センター長より、SPring-8-IIへのアップグレードと共に、2025年度からのFSBL第3期の新たな運営体制への変革により、社会へインパクトのある活動に期待が寄せられていることなど、ご挨拶を頂いた。さらに、(公財)高輝度光化学研究センターの雨宮慶幸理事長より、FSBL設立から現在まで様々な活動を行ってきたが、今後運営体制を変革することにより、多くの成果創出が期待されることなど、ご挨拶を頂いた。最後に、FSBL企画戦略アドバイザーで(一社)光科学イノベーションセンターの高田昌樹理事長より、供用開始を目前に控えているナノテラスや他の施設との協力を推進し、更なる発展を期待している旨、ご挨拶を頂いた。
引き続きFSBL運営委員会の秋葉勇委員長(北九州市立大学)より、FSBLの概要、沿革、最近の活動についての紹介を行った。これまでの活動をベースに、2025年度からの第3期FSBLへ向けて、さらに発展的な活動をするため、メンバー一丸となって取り組む決意が述べられた。
3. 講演会第1部
FSBLの小池淳一郎副代表(DIC)を座長とし、研究発表会講演会第1部を開始した。
まず特別講演として、東京大学物性研究所極限コヒーレント光科学研究センターの原田慈久教授より「ソフトマターの機能を界面水から探る軟X線発光分光」についてのご講演を頂いた。ご講演では、種々のソフトマター界面における水の水素結合構造と材料機能の関係に焦点を当てた3つの研究事例が紹介された。軟X線発光分光が、ソフトマターの機能に対する界面水の役割を解明する強力なツールとなることが期待されており、FSBLでの今後の研究活動に大きな影響をもたらすご講演となった。
写真1 特別講演① 原田慈久教授
引き続き、住友化学グループの山口大輔氏より「逆空間の三次元測定による構造解析~一軸延伸ポリプロピレンの結晶配向分布~」、DICグループの田村雄児氏より「アイオノマーの液中構造の解析」についての報告が行われた。
写真2 FSBLメンバーの発表(DICグループ)
4. 講演会第2部
FSBL広報委員会の宮﨑司委員(京都大学)を座長とし、講演会第2部を開始した。
「SPring-8-II計画の概要と理研ビームラインについて」と題し、理化学研究所放射光科学研究センターの矢橋牧名グループディレクターより、SPring-8-IIの計画概要と、FSBL第3期からの利用に際して、SPring-8で整備予定である検出器等についてご紹介頂いた。今後も引き続き最新情報を共有頂く予定である。
引き続き、4つのFSBLメンバーグループより、研究発表が行われた。
住友ゴムグループの増井友美氏より「X線光子相関分光法による動的変形下でのゴム中のフィラーの運動解析II」、関西学院大学グループの高橋功教授より「機能性高分子膜の配向における溶媒効果」、東洋紡グループの上野聡教授(広島大学)より「パーム油含有マーガリンに発生する粗大結晶成長メカニズムの解明」、三菱ケミカルグループの濱本博己氏より「高剪断流動場における高分子ミセルの構造解析」の報告が行われた。
研究発表会第1日目のプログラムは以上となり、FSBL運営委員会の高原淳第二代委員長(九州大学)より、FSBLの将来への発展を祈念する旨閉会の挨拶を述べ、FSBL運営委員会の藤原明比古副委員長(関西学院大学)より1日目閉会を宣言した。
5. 懇親会
1日目のプログラム終了後、コロナ禍により開催を控えていた懇親会を4年ぶりに、名古屋工業大学学生会館にて開催した。
57名の参加者となり、FSBLメンバー間のみならず、施設側の参加者との交流も活発に行うことができた。
写真3 懇親会
6. 講演会第3部
研究発表会2日目は、FSBL運営委員会の秋葉勇委員長(北九州市立大学)より開会宣言を行い、講演会第3部から開始した。
FSBL広報委員会の蟹江澄志委員(東北大学)を座長とし、3つのFSBLメンバーグループより研究発表が行われた。
クラレグループの鳥飼直也教授(三重大学)より「水/プロピレングリコールを分散媒とする親水性フュームドシリカ粒子凝集状態とせん断増粘挙動」、帝人グループの大川侑久氏より「異なる昇温速度で硬化させたエポキシ樹脂のX線光子相関分光法によるダイナミクス評価」、横浜ゴムグループの西辻祥太郎助教(山形大学)より「時分割超小角X線散乱法を用いたSBR中silicaの分散状態に関する研究」についての報告が行われた。
引き続き、2017年度よりグループの枠組みを超えた先進研究を目指すプログラムであるアドバンスチャレンジ課題の実績として「小角/広角X線散乱マッピング測定に基づく高分子材料の疲労試験過程における破壊機構の評価」と題し、2021A期に実施した研究内容について、FSBL学術メンバーの小椎尾謙准教授(九州大学)より報告が行われた。
休憩をはさみ特別講演として、(一財)総合科学研究機構(CROSS)中性子科学センターの柴山充弘センター長より「放射光と中性子の発展的な利用に向けて」と題し、ご講演を頂いた。「放射光と中性子」はどちらも量子ビームとして物質の構造解析や物性研究には欠くべからざるツールとして定着しており、それぞれの特徴を活かした発展的な利用について量子ビーム施設とユーザーの関係のあり方、ユーザーに期待すること、さらには将来展望について、ご講演頂いた。今後のFSBLの活動において、「放射光と中性子」の相補利用は重要な位置づけであり、さらにナノテラスの供用開始やSPring-8-IIへのアップグレードと共に、利用の幅を広げるための重要なご講演であった。
写真4 特別講演② 柴山充弘センター長
7. 講演会第4部
FSBL広報委員会の鳥飼直也委員(三重大学)を座長とし、3つのFSBLメンバーグループより研究発表が行われた。
東レグループの石川透氏より「力学特性の向上に向けた炭素繊維内部の結晶子の応力下歪み状態の解析」、デンソーグループの岡本泰志氏より「X線光子相関分光法によるAl/エポキシ樹脂接合部のダイナミクス評価」、ブリヂストングループの北村祐二氏より「加硫天然ゴムの二軸伸長にともなう結晶化の広角X線回折による研究」の報告が行われた。
8. ポスター発表
FSBLメンバー15グループと2022年度に実施したアドバンスチャレンジ課題を合わせて21件のポスター発表が行われた。
ポスター発表は現地会場でのみの実施とし、発表者は2組に分かれ、ポスター発表時間を前半と後半に分けて開催した。
写真5 ポスター発表
9. 講演会第5部
引き続き、FSBL広報委員会の西辻祥太郎委員(山形大学)を座長とし、3つのFSBLメンバーグループより研究発表が行われた。
住友ベークライトグループの松本拓也講師(神戸大学)より「ポリブチレンナフタレートの応力誘起結晶転移の温度依存性」、三井化学グループの岸本瑞樹氏より「アイソタクチックポリプロピレンの結晶相とメゾ相の空間的相関」、旭化成グループの岩間立洋氏より「非溶媒誘起相分離過程の紡糸in-situ SAXS解析~凝固浴中での凝固過程の解明~」の報告が行われた。
以上を以て、すべての発表が終了した。
写真6 FSBLメンバーの発表(旭化成)
10. 総括
FSBL堀江賞選定委員会・産学連携将来高度化委員会の田代孝二委員長(豊田工業大学名誉教授)は、FSBL設立の理念を再認識し、真摯に研究に取り組み、引き続き活発な活動がFSBLで実施されるとともに、多くの成果が創出されることを祈念する旨、総括の言葉を述べた。
11. 閉会の挨拶
FSBL学術諮問委員会の西敏夫委員(東京大学・東京工業大学名誉教授)は、FSBL第3期の発足を控え、メンバー間での結束を固め、施設側と密に連携し、新たな産学連携の形でより先端的な研究の実施と成果創出を期待する旨、閉会の挨拶を述べた。
12. まとめ
今回は、名古屋工業大学4号館講堂とZoomでのハイブリッド開催とし、現地参加者74名、オンライン参加者96名、合計170名となり、FSBLの活動を広く多くの方々に報告することができた。
また、ハイブリッド開催としたこと、質疑応答の時間を10分と多めにとったこと、懇親会を現地で開催したことにより、活発な議論を行うことができ、さらにFSBLメンバー間での情報交換や今後の活動についての意見交換を行うこともできた。
謝辞
FSBL第13回研究発表会は、下記の14団体より協賛を頂いた。深く感謝申し上げる次第である。
・(国研)理化学研究所 放射光科学研究センター
・(公財)高輝度光科学研究センター
・(一財)光科学イノベーションセンター
・(一財)総合科学研究機構 中性子科学センター
・(公社)高分子学会
・(一社)繊維学会
・(一社)日本ゴム協会
・(公社)日本化学会
・日本中性子科学会
・日本放射光学会
・産業用専用ビームライン建設利用共同体(サンビーム共同体)
・京都大学産官学連携本部電気自動車用革新型蓄電池開発(京大ビームライン)
・(株)豊田中央研究所(豊田ビームライン)
・(公財)ひょうご科学技術協会(兵庫県ビームライン)
今回会場として名古屋工業大学4号館講堂をお借りし、山本研究室のスタッフ・学生の皆様のご協力により、開催することができました。ご協力に深謝いたします。
フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
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