Volume 29, No.2 Page 130
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
2021B期 採択長期利用課題の事後評価について -1-
Post-Project Review of Long-term Proposals Starting in 2021B -1-
2021B期に採択された長期利用課題について、2023A期に2年間の実施期間が終了したことを受け、第75回SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会(2023年12月19日開催)による事後評価が行われました。
事後評価は、長期利用分科会が実験責任者に対しヒアリングを行った後、評価を行うという形式で実施し、SPring-8利用研究課題審査委員会で評価結果を取りまとめました。以下に評価を受けた課題の評価結果を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」に実験責任者による紹介記事を掲載しています。
なお、2021B期に採択された長期利用課題2課題のうち1課題の評価結果は2024年夏号に掲載する予定です。
- 課題 -
課題名 | 超高圧下における鉄合金の特性とコアの軽元素組成の制約 |
実験責任者(所属) | 廣瀬 敬(東京大学) |
採択時課題番号 | 2021B0181 |
ビームライン | BL10XU |
利用期間/配分総シフト | 2021B~2023A/168シフト |
[評価結果]
本長期利用課題では、地球コアにおける軽元素の化学組成の制約を目的として、ダイヤモンドアンビルセルを用いた超高圧高温環境下でのX線回折実験等が実施された。目標達成のために(1)液体鉄合金の密度、(2)液体鉄合金の縦波速度、(3)液体鉄合金の状態図、(4)固体鉄と鉄-水素合金の密度、(5)固体鉄と鉄-水素合金の縦波速度、(6)液体金属から固体鉄への軽元素の分配、(7)金属-シリケイト間の軽元素の分配の7つの研究テーマが設定された。実験の結果、(1)液体鉄-水素合金の密度を102 GPa・3820 Kまで決定して状態方程式を構築し、(3)鉄-水素系状態図が共融系であることを解明するとともに、熱力学モデルによって状態図を330 GPaへ外挿し、(6)水素の内核(固体)/外核(液体)の分配を見積もることに成功した。また、(7)金属-シリケイト間の炭素の分配係数が水素濃度に大きく影響を受けることを発見した。(2)および(5)の一部については本課題とは別にX線非弾性散乱(BL43LXU)を用いて進められている。(4)については、200 GPa以上での固体FeHの加熱には成功しなかったが、既存データを用いて状態方程式を報告した。これら一連の研究により、地球コアを形成する鉄、ニッケル、硫黄、シリコン、炭素の組成に加えて、あらたに酸素と水素の組成に関して、これまでにない狭い範囲に制限することに成功し、地球コアの主要な軽元素が酸素と水素であることを突き止めるなど、本課題の目標を達成したと言える。さらに、当初目標を超えて得られたいくつかの知見は、従来の仮説では説明できないものがあり、当該分野にて新しい研究テーマを提示するものと期待される。
以上のように、本課題は地球コアの理解に向けた重要な成果を創出し、地球惑星科学の発展に貢献すると考えられ、この点を高く評価する。また、評価実施時点で本課題から2本の論文が出版されており、投稿済みの数本の論文と合わせて、成果発表に関しても十分なレベルにあると言える。課題代表者のメディア等での情報発信は活発であるが、一方で、本課題に関する個々の論文についてのプレスリリースがない点は残念である。地球コアという一般にもアピールしやすい研究であるので、今後出版される論文に関しては積極的なプレスリリースを期待したい。
[成果リスト]
(査読付き論文)
[1] SPring-8 publication ID = 44608
K. Oka et al.: "Melting Experiments on Fe-O-H and Fe-H: Evidence for Eutectic Melting in Fe-FeH and Implications for Hydrogen in the Core" Geophysical Research Letters 49 (2022) e2022GL099420.