Volume 28, No.4 Pages 382 - 386
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第7回SPring-8秋の学校を終えて
The 7th SPring-8 Autumn School
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事(秋の学校担当)/(国)日本原子力研究開発機構 物質科学研究センター Materials Sciences Research Center, Japan Atomic Energy Agency
秋の学校概要
2023年度の第7回SPring-8秋の学校が、9月10日(日)~9月13日(水)の4日間の日程で開催されました。大きなトラブルもなく無事に終了したことを報告すると共に、多くの関係者のお力添えをいただきましたことに感謝申し上げます。
第7回SPring-8秋の学校は、SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)と高輝度光科学研究センター(JASRI)が主催し、理化学研究所放射光科学研究センター、兵庫県立大学理学部/大学院理学研究科、関西学院大学理学部/工学部/生命環境学部/大学院理工学研究科、岡山大学からの共催をいただき、関係諸機関の後援を受けて実施されました。校長にはSPRUC会長の西堀英治先生(筑波大学教授)が就任し、事務局はJASRI利用推進部に担当いただきました。共催大学においては、SPring-8秋の学校を大学/大学院の単位として認定しているところもあります。
SPring-8秋の学校の目的は、幅広い観点からのSPring-8ユーザーおよび放射光科学に関わる人材の発掘です。SPring-8では夏の学校も開かれ、毎年多くの方が参加しています。夏の学校との最大の違いは、SPring-8秋の学校では放射線業務従事者登録が必要ないということです。これにより、放射光に興味を持つ方であれば、どなたでも気軽に参加できます。今回の参加者におかれましても、大学3回生の方もいれば社会人経験が豊富な方もおり、多様な方に対して放射光を学ぶ実践的な場を提供する機会となっております。
秋の学校のもう1つの特徴は、SPRUCが主催団体に入っており、SPRUCの研究会および評議員の皆様からグループ講習のテーマおよび講師の推薦を受けていることです。今回も多くのSPRUCメンバーの方々から講師として秋の学校にご協力いただき、放射光の幅広い分野を網羅した魅力的なグループ講習が行われました。遠方からご協力いただいた方もおられ、講師をお引き受けくださった皆様に深く感謝申し上げます。
参加申込者は79名を数え、その後一部キャンセルが生じたものの、最終的に23校11社から76名の参加を得ました。内訳は次の通りです。学生61名(研究生1名、学部3年生9名、学部4年生26名、博士課程前期(修士)1年15名、博士課程前期(修士)2年6名、博士課程後期1年2名、博士課程後期2年2名)、社会人15名(企業12名、大学2名、研究機関1名)。男性58名、女性18名。放射線業務従事者登録のない方は55名でした。
カリキュラムについて
カリキュラムは、表1に詳細を示すように1日目に3講義、2日目に3講義の基礎講義を行い、3日目と4日目の2日間で4テーマのグループ講習を行いました。基礎講義に関して、1つの講義が講師の体調不良により休講となりました。グループ講習に関しては、参加者は以下の「グループ講習について」で示す16テーマから希望する4テーマを選択し、受講しました。また、2日目には、SPring-8およびSACLAの見学が行われました。SACLAの実験ステーションを見学することは秋の学校においては初めての試みでした。参加者間の交流を促すため、2日目に自己紹介の時間を設けると共に、3日目にはSPring-8食堂にて懇親会を実施しました。昨年度までの3年間は、コロナ禍のため懇親会の実施を断念していましたが、本年度は懇親会を開催することができました。
表1 第7回SPring-8秋の学校日程表
基礎講義について
基礎講義の内容と担当者は以下の通りです。講義内容はどれも工夫されたもので、私自身改めて勉強するところが多く、参加者の皆様にとっても有意義な講義であったと思われます。講義後の質疑は非常に活発で、参加者の秋の学校への意気込みが強く伝わってきました。
基礎講義1. 放射光発生の基礎
正木満博(高輝度光科学研究センター)
基礎講義2. ビームライン
~光源と実験ステーションを繋ぐもの~
仙波泰徳(高輝度光科学研究センター)
基礎講義3. X線検出器の基礎
今井康彦(高輝度光科学研究センター/理化学研究所)
基礎講義5. X線イメージング
篭島靖(兵庫県立大学)
基礎講義6. X線回折入門
高橋功(関西学院大学)
基礎講義7. XAFSの基礎
田渕雅夫(名古屋大学)
写真1 講義風景
写真2 見学風景
グループ講習について
グループ講習のテーマと担当者は以下の通りです。多くの皆様の協力により、16テーマを準備することができました。秋の学校は放射線業務従事者登録が必要ない代わりに、放射光そのものを利用しての講習はできず、実際の実験装置やデータに対して疑似的測定や解析を進める形になります。基礎講義とは異なり体や手を動かしての講習になり、多くの参加者に取って刺激的な時間になったと思われます。
1. 単結晶構造解析
橋爪大輔(理化学研究所CEMS)
足立精宏(理化学研究所CEMS)
2. 粉末X線回折によるその場観測の実際
漆原大典(名古屋工業大学)
岡研吾(近畿大学)
3. タンパク質結晶構造解析
水島恒裕(兵庫県立大学)
河村高志(高輝度光科学研究センター)
4. 小角X線散乱
増永啓康(高輝度光科学研究センター)
関口博史(高輝度光科学研究センター)
5. 放射光を利用した応力・ひずみ計測
菖蒲敬久(日本原子力研究開発機構)
冨永亜希(日本原子力研究開発機構)
6. X線回折・散乱を用いた薄膜構造評価
小金澤智之(高輝度光科学研究センター)
7. X線吸収分光法
渡邊稔樹(京都大学)
伊奈稔哲(高輝度光科学研究センター)
片山真祥(高輝度光科学研究センター)
加藤和男(高輝度光科学研究センター)
8. 赤外分光分析
池本夕佳(高輝度光科学研究センター)
岡村英一(徳島大学)
9. 光電子分光(HAXPES)
保井晃(高輝度光科学研究センター)
高木康多(高輝度光科学研究センター)
10. 高圧力の発生と高圧下の物質科学
太田健二(東京工業大学)
11. ドーパント原子配列解析
松下智裕(奈良先端科学技術大学院大学)
12. 放射光軟X線光電子分光による表面化学反応の“その場”観察
吉越章隆(日本原子力研究開発機構)
津田泰孝(日本原子力研究開発機構)
13. 放射光X線イメージングの概要と基礎
上杉健太朗(高輝度光科学研究センター)
14. ナノビームX線を用いた局所X線回折
隅谷和嗣(高輝度光科学研究センター)
15. X線発光分光法
松村大樹(日本原子力研究開発機構)
石井賢司(量子科学技術研究開発機構)
16. PDF法を用いたガラスの構造解析
廣井慧(島根大学)
山田大貴(高輝度光科学研究センター)
下野聖矢(高輝度光科学研究センター)
写真3 グループ講習風景
まとめ
多くの参加申込をいただき、最終的に76名の参加を得てSPring-8秋の学校を開催いたしました。大きなトラブルなく、無事に秋の学校を終えることができました。
秋の学校では必須ではないもののレポート課題を設定しております。原稿執筆時点では〆切前ですが、既に多くの参加者から返信をいただいており、参加者の意欲の高さに感心しています。講師の方には添削のご負担をおかけしますが、参加者の一層の充実のため、宜しくお願い申し上げます。
これまでのアンケートでは、グループ講習の満足度が比較的高いという結果が得られています。そのため、当初の秋の学校では3コマだったグループ講習を、ここ数年では4コマで実施しています。今回の参加者からのアンケート結果においても、グループ講習の満足度はとても高く、多くの参加者が有意義な時間を過ごしたものと評価しております。一方、グループ講習の講師の方からは負担の大きさに関する指摘が挙がっており、これらのバランスを考えて実施していく必要があります。先に記しました通り、グループ講習のテーマ・講師はSPRUC研究会および評議員の皆様からの推薦を受けており、グループ講習は秋の学校の最も重要な項目です。参加者・講師のどちらの満足度も高くなる形を目指して、今後も最適な秋の学校の形を実行委員一同考えて参ります。
SPRUCはSPring-8秋の学校の主催機関であります。今後秋の学校をどのように発展させていくか、会員の皆様の忌憚のないご意見を賜ることができれば幸いです。
SPring-8秋の学校を実施するにあたりまして、基礎講義およびグループ講習の講師の皆様を始めとして、多くの関係者の方々に大変お世話になりました。深く感謝申し上げます。より良い秋の学校にしていくことができるよう、今後とも御指導をどうぞ宜しくお願いいたします。
(国)日本原子力研究開発機構 物質科学研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0975
e-mail : daiju@spring8.or.jp
第7回SPring-8秋の学校に参加して
国立研究開発法人産業技術総合研究所
山本 大樹
私は国立研究開発法人産業技術総合研究所の電池技術研究部門において、電池研究に従事しております。2年半前に産総研に赴任してから2度ほどSPring-8にて放射光を使って実験を行う機会がありましたが、目の前の実験を進めるだけでは理解が難しい部分が多いと感じており、SPring-8や放射光、X線を用いた測定について体系的に学べるということで、秋の学校に参加させていただくことにしました。
2023年度の秋の学校は4日間の日程で開催されました。そのうち基礎講義が2日(間に蓄積リングやSACLAの見学あり)、グループ講習が2日というスケジュールでしたが、大変密度の濃い充実した時間となりました。体系的に学べるように座学・見学・実践のカリキュラムが順を追って組まれており、理解がしやすかったです。
基礎講義では、放射光の発生原理からビームラインの構成、放射光を使った代表的な分析手法等についてご講義いただきました。学部生の参加者も少なくないということもあって、専門家でなくても理解できるように講師の先生方が工夫をされていて、それでいて内容は深くて濃かったです。今まで曖昧だった放射光に対する理解をより明瞭にすることができました。一般的なラボでの測定との比較も交えながら放射光を使った測定の利点をご説明いただけたので、放射光を使わない方であっても有益になるような講義だったと思います。見学では、講義を踏まえて話を伺いながら蓄積リングを一周しました。講義で学んだものを実際に見ることができて理解をより深めることができました。見学しながら、どのようなビームラインがあるかや、蓄積リング内の様々な仕様や工夫(例えばハッチに書かれた色付きの線の色の意味や、一部のビームラインでアルミホイルが巻かれている理由など)についても教えていただき、ユーザーでただ一部のビームラインを利用するだけでは知ることのできない情報を様々聞くことができました。蓄積リングだけでなくSACLAの実験ステーションも見せていただきましたが、(秋の学校でSACLAを見学するのは今回が初めてだったそうです)、日本の放射光測定技術の高さには大変驚かされました。グループ講習では、少人数での開催だったということもあって、細かい質問もしやすい雰囲気だったのがありがたかったです。その測定の座学とビームラインの見学をして、データの解析も実際に手を動かして行いました。ご担当いただいた講師の先生方は、その対象の測定の専門家でも放射光を使った分析の専門家でもあるので、前日までの基礎講義のときの疑問も含めて、様々な質問をして解消することができました。何をお伺いしてもわかりやすくお答えいただけて、その知識の広さと深さには大変驚かされました。参加させていただいた4つの講習のどれも大変有意義で、他のグループ講習も受けてみたいと思うほどでした。
大変充実した時間を過ごさせていただき、秋の学校に参加させていただいて大変良かったと思っております。講師の先生方、SPring-8の職員の方、ならびに秋の学校事務局の皆様に、この場をお借りして感謝申し上げます。社会人の方の中には、4日間という時間をとることが難しい方もいらっしゃるとは思いますが、それに見合う素晴らしい機会だと思うので、是非参加してみてはと思います。今年はコロナ禍前以来という懇親会も開催され、様々な分野の方と交流することもできました。今後、学生からも社会人からもより一層参加者が増えて交流も活発になり、秋の学校や日本の放射光を使った分析がさらに発展することを祈念しています。
写真4 集合写真(放射光普及棟前にて撮影)