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Volume 28, No.1 Pages 48 - 51

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

フロンティアソフトマター開発専用ビームライン第12回研究発表会
The 12th Conference on Consortium of Advanced Softmaterial Beamline (FSBL)

小島 優子 KOJIMA Yuko、竹中 幹人 TAKENAKA Mikihito

フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体 Advanced Softmaterial Beamline (FSBL)

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SPring-8

 

1. はじめに
 フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体(FSBL)は第12回研究発表会を2023年1月10日~11日の2日間に亘り開催した。
 FSBLは、ソフトマターの分野で日本を代表する企業と大学によって、放射光利用によるソフトマターの研究開発の発展を目指して結成された連合体である。(国研)理化学研究所と(公財)高輝度光科学研究センターの多大なご協力のもと大型放射光施設SPring-8のBL03XUに、日本で初めてのソフトマター研究開発専用ビームラインを設置した。2010年4月より供用を開始し、2019年9月に第1期の活動を終了した。現在、FSBLは2019年10月より第2期となり、活動を継続させている。これらの活動により創出された研究成果を、広く一般に発表するとともに、参加メンバー間での情報を共有し、さらに効果的かつ高度な成果を輩出するため、年に1回研究発表会を開催している。
 今回の第12回研究発表会より、全15グループの研究発表を行うこととし、2日間での開催とした。また、高分子研究の最先端研究の紹介頂く特別講演も2件実施した。
 以下にその概要を示す。

 

 

2. 開会の挨拶
 FSBL代表 小島優子(三菱ケミカル)より、研究発表会の開会が宣言され、4名の来賓よりご挨拶を頂戴した。
 まず、文部科学省 科学技術・学術政策局 研究環境課 古田裕志課長より、産学連携での新たな取り組みで多くの成果が創出されており、またこれらの取り組みが竣工間近のナノテラスをはじめとした多くの研究機関や大学、企業などに多大な影響を及ぼしており、さらなる成果創出が期待されているなど、ご挨拶の言葉を頂いた。続いて(国研)理化学研究所 放射光科学研究センター 石川哲也センター長より、第1期の10年間で特徴のある有意義な成果が多く創出されてきたが、今後の更なる飛躍のためにも、新たな運営体制への変革も検討されており、今後のFSBLの活動に多くの期待が寄せられていることなど、ご挨拶の言葉を頂いた。さらに、(公財)高輝度光科学研究センター 雨宮慶幸理事長より、設立~運用開始から12年が経過し、様々な状況を乗り越え前進し、今後も新たな取り組みを行うことにより、多くの成果創出が期待されることなど、ご挨拶の言葉を頂いた。最後に、FSBL企画戦略アドバイザーで(一社)光科学イノベーションセンター 高田昌樹理事長より、FSBL設立に多大な功績を頂いた故堀江一之初代学術諮問委員長の理念と希望を引き継ぎ、更なる発展を期待している旨、挨拶のお言葉を頂いた。
 引き続きFSBL運営委員会委員長 竹中幹人(京都大学)より、FSBLの概要、沿革、最近の活動についての紹介を行った。
 最近の大きなトピックスとしては、2020年度に実施されたハイスループット化により、より効率的なビームライン運用が可能となり、より効率的に高度な実験を実施することが可能となった。また、ビームラインサポート体制の見直し及び安全管理体制を強化したことにより、安全管理の徹底だけでなくビームライン整備に関する要望などをユーザーから集めることができ、随時改善することができている。これらを踏まえ2022年12月に実施されたFSBL第2期中間評価においても、FSBL参画メンバー一丸となり報告書類を完成させた事などが報告された。

 

 

3. 講演会第1部
 FSBL副代表 小池淳一郎(DIC)を座長とし、研究発表会講演会第1部を開始した。
 まず特別講演として、九州大学 ネガティブエミッションテクノロジー研究センター 高原淳特任教授より「高分子材料の環境劣化とマイクロプラスチック」についての講演を頂いた。ご講演では、マイクロプラスチックの形成過程と高分子劣化機構を解明し、劣化の制御可能な新しい高分子材料を創る試みに関する研究のご紹介を頂いた(写真1)。
 引き続き、旭化成グループより「非溶媒誘起相分離過程の紡糸in-situ SAXS解析」、関西学院大学グループより「BL03XUの授業活用による人材育成の実践」についての報告が行われた。

 

写真1 高原淳教授 特別講演。

 

 

4. 講演会第2部
 FSBL広報委員 田口健(広島大学)を座長とし、2017年度よりグループの枠組みを超えた先進研究を目指すプログラムであるアドバンスチャレンジ課題の2021年度実施実績を代表して、東京大学大学院 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 加部泰三助教より、「多糖誘導体であるカードランプロピオネートの溶融紡糸過程における結晶構造形成」の研究紹介が行われた。
 引き続き、4つのFSBLメンバーグループより、研究発表が行われた。
 住友ベークライトグループより「電子材料用ネットワークポリマーの高次構造解析」、ブリヂストングループより「天然ゴムを平面伸長した際の亀裂周辺でのマイクロビーム広角X線回折マッピング」、三菱ケミカルグループより「直鎖状エチレン系アイオノマーの構造解析」、東レグループより「Poly(ethylene terephthalate)繊維延伸時の構造形成と延伸繊維の引張強度」の報告が行われた(写真2)。
 研究発表会第1日目のプログラムは以上となり、FSBL運営委員会副委員長 秋葉勇(北九州市立大学)より、1日目の閉会の挨拶を行った。

 

写真2 FSBLメンバーの発表(住友ベークライト)。

 

 

5. 講演会第3部
 FSBL広報委員 蟹江澄志(東北大学)を座長とし、3つのFSBLメンバーグループより研究発表が行われた。
 横浜ゴムグループより「時分割超小角X線散乱法を用いた一軸伸張下におけるSBR中silicaの分散状態の変化に関する研究」、デンソーグループより「斜入射X線光子相関分光法による熱硬化エポキシ樹脂薄膜硬化過程のダイナミクス評価」、帝人グループより「pH調整したゼラチンゲルの広角及び小角X線散乱と動的粘弾性解析」についての報告が行われた。
 引き続き、ビームライン担当 増永啓康研究員((公財)高輝度光科学研究センター)より「ビームタイムの高効率化利用のための整備」と題し、2022年度に実施したビームラインの整備及び今後の計画について報告がなされた。
 休憩をはさみ特別講演として、京都大学 化学研究所 材料機能化学研究系 高分子材料設計化学研究領域 辻井敬亘教授より「濃厚ポリマーブラシのソフト&レジリエント・トライボロジー-異分野・産学連携による展開-」と題し、ご講演を頂いた。ご講演では、「濃厚ポリマーブラシ」を例に、柔軟性・強靱性(復元性)・低摩擦性(高潤滑性)を鍵として発現する「ソフト&レジリエント・トライボロジー」特性についての説明とともに、「ハードからソフトへのパラダイムシフト」を目指して産学連携で取り組んできた研究成果をご紹介頂いた(写真3)。

 

写真3 辻井敬亘教授 特別講演。

 

 

6. 講演会第4部
 FSBL広報委員 西辻祥太郎(山形大学)を座長とし、3つのFSBLメンバーグループより研究発表が行われた。
 東洋紡グループより「アイソタクチックポリプロピレンα相結晶の秩序性と融解再結晶化」、三井化学グループより「結晶性高分子のサブミクロンスケールの不均一構造の研究」、住友ゴムグループより「X線小角散乱-CT法によるフィラー充填系ゴム材料のフィラー不均一評価」の報告が行われた。

 

 

7. ポスター発表
 FSBLメンバー15グループと2021年度に実施したアドバンスチャレンジ課題を合わせて24件のポスター発表が行われた。
 ポスター発表は現地会場でのみの実施とし、発表者は2組に分かれ、ポスター発表時間を前半と後半に分けて開催した(写真4)。
 今回はオンライン参加者がポスター発表に参加できなかったため、次回以降のポスター発表の開催方法について検討する。

 

写真4 ポスター発表。

 

 

8. 講演会第5部
 引き続き、FSBL広報委員 西辻祥太郎(山形大学)を座長とし、3つのFSBLメンバーグループより研究発表が行われた。
 DICグループより「高分子電解質薄膜の調湿環境下におけるGI-SAXS/WAXS測定」、クラレグループより「表面性状が異なるフュームドシリカの混合による高分子コンポジットの粒子分散状態と粘弾性特性」、住友化学グループより「逆空間の三次元測定によるポリプロピレン成形体の構造解析手法の検討」の報告が行われた(写真5)。
 以上を以て、すべての発表が終了した。

 

写真5 FSBLメンバーの発表(住友化学)。

 

 

9. 総括
 FSBL学術諮問委員長 金谷利治(京都大学名誉教授)ならびにFSBL堀江賞選定委員会・産学連携将来高度化委員長 田代孝二(豊田工業大学名誉教授)より、既発表の論文と当該発表との関連を明らかにして発表を行うことが望ましいなどのコメントを頂戴し、引き続き活発な活動がFSBLで実施されるとともに、多くの成果が創出されることを祈念する旨、お言葉を頂いた。

 

 

10. 閉会の挨拶
 FSBL学術諮問委員 西敏夫(東京大学・東京工業大学名誉教授)より、コロナ禍やウクライナ情勢など不安定な状況が続くが、設立当初の理念を再確認し、新たな産学連携の形でより先端的な研究の実施と成果創出を期待する旨、閉会の挨拶を頂いた。

 

 

11. まとめ
 今回は、京都大学宇治おうばくプラザとZoomでのハイブリッド開催とし、現地参加者78名、オンライン参加者76名、合計154名となり、FSBLの活動を広く多くの方々に報告することができた。
 また、新型コロナウイルスの感染拡大状況を鑑み、懇親会は中止としたが、ハイブリッド開催としたこと、今回より質疑応答の時間を前回までの5分から10分に増やしたことにより、活発な議論を行うことができ、さらにFSBLメンバー間での情報交換や今後の活動についての意見交換を行うこともできた(写真6)。

 

写真6 質疑応答の様子。

 

 

謝辞
 FSBL第12回研究発表会は、下記の15団体より協賛を頂いた。深く感謝申し上げる次第である。
・(国研)理化学研究所 放射光科学研究センター
・(公財)高輝度光科学研究センター
・(一財)光科学イノベーションセンター
・(一財)総合科学研究機構 中性子科学センター
・(公社)高分子学会
・(一社)繊維学会
・(一社)日本ゴム協会
・(公社)日本化学会
・日本中性子科学会
・日本放射光学会
・産業用専用ビームライン建設利用共同体(サンビーム共同体)
・京都大学産官学連携本部電気自動車用革新型蓄電池開発(京大ビームライン)
・東京大学シンクロトロン放射光連携機構(東大ビームライン)
・(株)豊田中央研究所(豊田ビームライン)
・(公財)ひょうご科学技術協会(兵庫県ビームライン)

 今回会場として京都大学宇治おうばくプラザをお借りし、竹中研究室のスタッフ・学生の皆様のご協力により、ハイブリッド開催とすることができました。ご協力に深謝いたします。

 

 

 

小島 優子 KOJIMA Yuko
フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-1911
e-mail : fsbl@spring8.or.jp

 

竹中 幹人 TAKENAKA Mikihito
フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-1911
e-mail : fsbl@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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