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Volume 28, No.1 Pages 54 - 55

4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

2017年度指定パートナーユーザー事後評価報告
Post-Project Review of Partner Users Designated in FY2017

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 パートナーユーザー制度は、SPring-8の共同利用ビームラインの更なる高度化および優れた成果の創出を推進するために、2014A期から2021A期まで運用され、パートナーユーザー(以下「PU」という)は、公募・審査を経て指定されました。
 PUの事後評価は、PU審査委員会において、あらかじめ提出されたPU活動終了報告書に基づいたPUによる発表と質疑応答により行われました。事後評価の着目点は、PUとしての(1)目標達成度、(2)活動成果(装置整備・高度化への協力、科学技術的価値および波及効果、ユーザー開拓および支援、情報発信)です。今回は、2017年度指定のPU2名について、事後評価(2022年6月29日開催)を行いました。
 以下にPU審査委員会がとりまとめた評価結果等を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」にPUによる紹介記事を掲載しています。


1. 大阪公立大学(三村 功次郎)
(1)実施内容

研究テーマ:強相関電子系における量子臨界現象解明のための共鳴硬X線光電子分光および発光収量X線吸収分光の複合計測技術の構築

高度化:共鳴硬X線光電子分光計測技術の基盤開発
利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL09XU

(3)指定期間:2017年4月1日~2021年3月31日

(4)評価コメント
 本PU課題は、希土類化合物など強相関電子材料を中心とした物質の電子状態研究に対して、硬X線領域で共鳴光電子分光法を利用するため開発研究である。HAXPES計測を任意の励起エネルギーで行うための光学系を中心とした整備に加えて、分光器と連動して自動でデータ収集を行うための計測ソフト、さらには、測定結果の解析環境整備までを一貫して達成することが目標に掲げられている。
 任意の励起エネルギーで光電子分光測定を行うための課題であった定置出射を実現するために、ナローギャップのチャンネルカット結晶の設計・導入などが、施設スタッフの支援のもとで第一期のPU課題期間に進められている。光学系の開発に関しては、結果的にビームライン再編で別のものに置き換わってしまったが、本PU課題での先行研究の結果は、ビームライン再編における機器設計にも活かされている。また、測定の自動化や解析ソフトの開発といった計測の利便性向上につながる整備をビームラインスタッフと連携して実施し、実用可能なレベルまで整備した点は評価できる。
 学術利用では、Eu化合物を対象とした共鳴光電子分光およびCISスペクトルからクーロン斥力を決定することに成功している。それにより、希⼟類化合物の価数揺動に起因する新奇量⼦臨界現象について理論と実験の両面からの研究が進められ、学術的にも重要な成果が得られている。実施グループが大きく、PU課題メンバーと一般利用者の区別がはっきりしないという点はあるものの、利用申請から解析まで一貫した支援が多数行われており、利用支援も着実に実施されている。新規利用者開拓については、共鳴光電子分光の利用課題数の増加が統計データから確認できる。一方で、成果発表については、期間を通じた論文発表は利用支援者を含めても2報しかなく、プレスリリースなどの普及啓発も含めて、今後の成果発信に期待したい。
 以上により、共鳴光電子分光に関わる測定から解析までの環境を一貫して整備するという当初目標は、概ね達成されたものと判断する。今後のさらなる分野拡大に期待したい。


2. 廣瀬 敬(東京工業大学)
(1)実施内容
研究テーマ:超高圧高温ダイヤモンドセル実験の新展開
高度化:極限環境下におけるX線回折複合計測技術の高度化
利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL10XU

(3)指定期間:2017年4月1日~2021年7月31日

(4)評価コメント
 本PU課題は、高圧構造物性ビームライン(BL10XU)において、アンジュレータの更新とレーザー加熱光学系の改良の2つの高度化を実施し、高温高圧下での液体の挙動を研究する環境整備を通じて、初期地球状態の解明を目指したものである。
 まず高度化では、BL10XUでの利用実験に最適化したアンジュレータを導入し、2結晶分光器への熱負荷を軽減しX線集光の安定化に成功した。これを発展させ、300 nmの高解像度3次元イメージングシステムを構築した。また、改良されたレーザー加熱光学系では以前の10~100倍程度高速に温度が計測でき、特に融解温度の正確な決定が可能となった。これらは目標の達成度は十分と評価する。
 本PU課題の高度化と並行して実施された利用実験では、新たに開発した高圧下液体の密度精密測定・解析手法を用いて高圧下液体Feの密度の決定、地球深部物質の熱伝導率の精密決定、コア・マントル物質の融解曲線の決定、コアの結晶化と軽元素組成の制約など、先駆的で重要な成果が創出されている。これに関連して出版された26の原著論文と10件の受賞とあわせて、本PUの利用実験を高く評価する。
 今回高度化されたアンジュレータやレーザー加熱光学系および様々な計測・解析技術は、BL10XUを利用する多くのユーザーが恩恵を受けており十分な波及効果が認められる。より直接的なユーザー支援の面でもPU課題に期待されるレベルに達している。一方で、ユーザー開拓や分野拡大に関する活動では、期待をやや下回った。論文発表やプレスリリースを通じた情報発信は十分と評価するが、本PU課題の研究成果は一般にも広く関心を持たれるテーマなので、より広い層に向けた積極的な情報発信を期待する。
 まとめると、ユーザー開拓・分野拡大に関しては期待をやや下回ったが、PU課題に求められる利用者支援、多くの論文発表やプレスリリースを通じた情報発信、そしてBL10XUにて実施された高度化および利用実験から多くの特筆すべき成果が得られている点を考慮して、本PU課題を高く評価する。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794