Volume 27, No.3 Page 226
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
2018A期 採択長期利用課題の事後評価について – 4 –
Post-Project Review of Long-term Proposals Starting in 2018A -4-
2018A期に採択された長期利用課題について、2019B期に2年間の実施期間が終了したことを受け、第69、70回SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会(2021年6月22日、30日開催)による事後評価が行われました。
事後評価は、長期利用分科会が実験責任者に対しヒアリングを行った後、評価を行うという形式で実施し、SPring-8利用研究課題審査委員会で評価結果を取りまとめました。以下に評価を受けた課題の評価結果を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」に実験責任者による紹介記事を掲載しています。
なお、2018A期に採択された長期利用課題8課題のうち7課題の評価結果は、「SPring-8/SACLA利用者情報」Vol.26 No.2・No.3・No.4(2021年春号・夏号・秋号)に掲載済です。
課題名 | ゲノム編集ツールCRISPR-Casヌクレアーゼの構造解析 |
実験責任者(所属) | 濡木 理(東京大学) |
採択時課題番号 | 2018A0153 |
ビームライン | BL41XU |
利用期間/実施総シフト | 2018A~2019B/16シフト |
[評価結果]
本長期利用課題では、遺伝子工学や遺伝子医療において今後中心的な役割を担うと考えられているゲノム編集技術の中心的な役割を担う酵素であるCRISPR-Casヌクレアーゼの結晶構造解析が実施された。本酵素を高度なツールとして実用化していくためには、小型でかつ標的となる塩基配列(以下、PAMと称する)の任意性を有する酵素が求められている。このため、その構造情報から酵素機能を理解するとともに、新たな機能の創出を目指した。具体的には、多種の酵素のPAM認識機構を明らかにするため、3種の酵素の構造を決定し、認識残基を解明するとともに、これらの変異体を作成してPAMの任意性を高める機能改変に成功した。さらに、別のカテゴリーに属する酵素1種についても、構造の解明に成功し、酵素の作動機構の多様性を明らかにした。
これらの成果は現時点でいずれも基礎研究の段階にあるが、さらなる発展により生物学分野への大きな波及効果が期待できる。ゲノム編集技術の開発は競争の激しい研究領域であるが、こうした状況下、2年間で目標を十分に達成して、論文や講演での成果発表や各種メディアでの情報発信を行うとともに、さらには本技術に基づくベンチャー企業の上場にもつながっている。
以上の通り、各項目において十分な進捗が認められ、本長期利用課題の実施は成果創出に意義があったと認められる。
[成果リスト]
(査読付き論文)
[1] SPring-8 publication ID = 42833
S. Yamaguchi et al.: "Crystal Structure of Drosophila Piwi" Nature Communications 11 (2020) 858.
[2] SPring-8 publication ID = 42834
S. Hirano et al.: "Structural Basis for the Promiscuous PAM Recognition by Corynebacterium diphtheriae Cas9" Nature Communications 10 (2019) 1968.
[3] SPring-8 publication ID = 42835
S. Akichika et al.: "Cap-specific Terminal N6-methylation of RNA by an RNA Polymerase II–associated Methyltransferase" Science 363 (2019) eaav0080.
[4] SPring-8 publication ID = 42836
H. Nishimasu et al.: "Engineered CRISPR-Cas9 Nuclease with Expanded Targeting Space" Science 361 (2018) 1259-1262.