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Volume 27, No.3 Pages 286 - 289

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

利用系活動報告
放射光利用研究基盤センター 構造生物学推進室 相関構造解析チーム
Activity Reports – Integrated Structural Analysis Team, Structural Biology Division

熊坂 崇 KUMASAKA Takashi

(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 構造生物学推進室 Structural Biology Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 本年(2022年)4月、タンパク質結晶解析推進室は新たに3名のスタッフを迎えるとともに構造生物学推進室と改称し、合わせて当チームの名称も結晶解析チームを改め新しくなった。名称の変更は、これまでの活動を一新して新たな目標に進むことを反映したものである。そこで本稿では活動目標を含めた今後の取り組みについて紹介したい。

 

 

2. 生物学における相関構造解析
 生命活動において重要な役割を担うタンパク質は、アミノ酸が脱水縮合した高分子であり、その機能発現のために複雑な高次構造をとって折りたたまれる。このタンパク質の立体構造は生命科学や医薬品開発の基盤となる重要な情報であり、構造と機能の相関を探求する構造生物学として分子科学的なメカニズムを明らかにしてきた。一方で、生命科学分野全体としては、各タンパク質に関するアミノ酸配列から立体構造、発現や病理、さらには酵素反応機構や分子間相互作用に基づく活性化機序とそのキネティクスなど、さまざまな側面について情報が集積され、分子ネットワークからなる複雑系である細胞の記述が進められている。
 このように生命科学研究のさまざまな分析手法が進展し、生体構成分子の研究が網羅的に進められていく中で、分子を総合的に解析する意義がさらに高まってきている。当室ではもう一つのチームである測定技術開発チームが、放射光における結晶回折測定技術に関する支援や高性能化に取り組んでいる。しかし、構造生物学研究が多様化し、タンパク質結晶解析だけの取り組みでは目的とする情報を得るのに不十分な事例も増えている。このような現下の状況を鑑みると、利用者にとって試料準備が困難であっても、多面的に構造解析を支援していく活動の必要性が高まっていると感じている。
 これらのニーズに対応するため、構造生物学推進室 相関構造解析チームでは共用ビームラインBL41XU・BL45XUや理研ビームラインBL26B1の利用支援にとどまらず、透過型クライオ電子顕微鏡(CryoTEM)による単粒子解析や結晶試料調製環境の整備と支援に活動の場を広げて、総合的な構造生物学研究の支援を目指している。以降は、これらの共用施設の運用と、相関構造解析に資する技術開発について述べる。また、外部資金活動を担うJASRI研究プロジェクト推進室 生命科学・創薬支援基盤グループと密接に連携しているため本稿でも触れ、SPring-8サイトとしての構造生物学の支援の取り組みを紹介したい。

 

 

3. ビームラインの運用
 当チームのビームライン運用に関する最も主要な活動は、特にBL45XUにおける自動測定の実施である。理化学研究所放射光科学研究センター(理研RSC)の平田邦生博士らによって開発が進められてきた自動測定ソフトウェアZOO[1][1] K. Hirata et al.: Acta Cryst. D75 (2019) 138-150. (https://doi.org/10.1107/S2059798318017795)は、ビームラインに設置した回折計や検出器、サンプル交換ロボットを結合して制御し、X線による試料のプレスキャンによって、微小な単結晶の空間配置を検出し、微小ビームによってそれらの回折像を最適条件で取得する。利用者は試料を自分のラボで凍結して、ドライシッパーにて液体窒素温度でSPring-8まで輸送すれば、スタッフによる試料の装置への搭載を除き、自動で測定が行われる。さらにソフトウェアKAMO[2][2] K. Yamashita et al.: Acta Cryst. D74 (2018) 441-449. (https://doi.org/10.1107/S2059798318004576)は回折像から構造因子振幅を自動で計算する。
 このように、利用者は施設を訪れることなく回折データを取得することができるため、来所が前提であった実験とは大きく利用方法が変化している。従来は試料を多数準備して1回のまとまったビームタイムで測定を行っていたが、実験機会を増やしてフィードバックの周期を短くできるよう、2時間単位での運用を行っている。また、自動測定では1試料あたりの時間が短いために頻繁な試料交換が必要であるが、現時点で試料交換装置の最大試料搭載数は128個で、半日強の連続運転が終わると人手での作業が必要となっている。このため、測定技術開発チームと連携して、大容量の試料を扱う自動ストッカーの構築とその運用の準備を急いでいる。
 さらに、自動測定の実施に伴い、試料の授受、結果の転送、データのコピーなどユーザーとビームラインの間で発生するやりとりは著しく増大している。当チームでは測定技術開発チームおよび情報技術推進室と連携して実験内容のデータベース化とユーザーインタフェースの開発を行っており、円滑かつ正確な自動測定実施のための利用システムの高度化を進めている。
 一方、後述する構造生物学におけるCryoTEMの利用の拡大は、結晶解析の意義を相対的に低下させている事実は否めない。しかし、CryoTEMは結晶解析の完全上位互換ではなく、相補的に利用すべきものである。結晶構造解析の優位性のひとつはXFELにおけるシリアルフェムト秒結晶解析(SFX)法の成功に代表されるように、室温など活性温度での測定やそれに基づく分子の運動性など動的性質の解明に有効である。自動化の整備が一巡しつつある中、測定技術開発チームではこれらの測定の整備をはじめているが、タンパク質の動的性質は試料調製や測定時の試料環境にも深く関わっていることから、本チームとして開発にも関与していく。また、創薬研究における標的タンパク質と薬剤の複合体の解析において、迅速な測定ができる放射光結晶解析は、試料を選ぶがコスト的にも優れた方法である。BL45XUでは自動測定を用いることで1日あたり200種の化合物複合体の結晶から回折データを取得できることから、結晶を用いた化合物スクリーニングなど、一貫して創薬研究に資することができるパイプラインの構築を進めている。
 このように、自動測定をはじめとして多様化する利用法に対応して、課題の採択ルールやシフトの配分方法、さらには放射光利用の知識を強くは求めない使用方法に配慮した普及啓発活動も当チームの業務の一つとなっている。特に、創薬研究を代表とする成果専有利用とアカデミアが主体の成果非専有利用では、求める利用方法も異なっている。さらに、来所がないことは、利用者と施設スタッフの情報の交換にも大きな障害になりつつある。従来、当チームではWebページ(http://stbio.spring8.or.jp/)の充実にも時間を割いてきたが、利用者の声を聞くとともに、運用面への反映もこれまで以上に取り組んでいく。

 

 

4. CryoTEMの運用
 Science誌に「分解能革命」と題された総説記事[3][3] W. Kühlbrandt: Science 343 (2014) 1443-1444. (https://doi.org/10.1126/science.1251652)が発表された2014年以降、世界的にCryoTEMの設置台数や共用施設の数が大幅に増加し、この方法で解析されたタンパク質構造数が飛躍的に増え、EMDBやPDBなどのデータベースへの登録が進んでいる。海外では2008年頃の英国によるCryoTEMの整備を皮切りに、2015年頃からは放射光施設であるDiamond Light SourceやESRFでの共用利用がはじまった。
 日本では、日本医療研究開発機構(AMED)の支援事業などにより導入が進められてきた。SPring-8でも準備を進めてきたが、2021B期より共用CryoTEMの利用が可能となっている。詳細については、SPring-8 UIサイトの「クライオ電子顕微鏡の共用について」(https://user.spring8.or.jp/?p=40753)をご参照いただきたい。本装置の運用の特徴としては、以下の点が挙げられる。1)構造生物学分野の対象となるビームラインの付帯設備として運用し、2)放射光ビームラインとCryoTEMの両方を利用した研究を対象とする。3)年5回程度の利用希望調査によりマシンタイム配分を実施し、4)利用は3シフト単位(午前10時~翌日午前10時)で、5)利用前講習の受講が必須となっている。
 なお、原則として構造生物学における単粒子解析に用いるものであり、試料の装置への装填は施設スタッフに任されている。今やタンパク質結晶解析のビームラインでは自動測定が当たり前となっており、利用者にとっては違和感はないかもしれない。
 現在SPring-8キャンパスには4台のCryoTEMが設置されており、共用の装置は図1に示す2台であるが、今後残る2台についても部分的な共用が検討されている。

 

図1 共用CryoTEM装置。(左)EM01CT: JEOL CRYO ARM 300(JEM-Z300FSC)、(右)EM02CT: JEOL CRYO ARM 200(JEM-Z200FSC)。

 

 

5. 幅広い支援への取り組み
 以上のようにタンパク質結晶解析においては、自動測定が放射光利用の知識を求めない使用方法を拓いたのみならず、結晶構造解析法全体の発展により、測定後の解析に関しても利用者に高い専門性が不要になってきている。かつては結晶学における位相問題もタンパク質構造解析では大きな障壁であったが、今や試料調製こそが最大の問題である。もちろんこれらの領域においても進歩は起きている。
 当室の業務は放射光の利用支援とその支援基盤の高度化であるが、利用者の中には測定試料の調製や測定そのものも支援して欲しいと考えている向きもあるだろう。結晶の調製に関しては、蓄積リング棟に結晶化ロボット、結晶観察装置やアコースティック分注装置を整備しており、実験課題を持っている方は利用できるようにしている(図2)。この装置をビームラインの結晶化プレート回折計と連携して用いることで、創薬研究への応用も可能となっている[4][4] H. Okumura & N. Sakai et al.: Acta Cryst. F78 (2022) 241-25. (https://doi.org/10.1107/S2053230X22005283)。結晶化が難しい試料については、前項で述べたCryoTEMによって、性状や構造解析を行うことができる。

 

図2 試料準備室(BL45XU外側室)

 

 

 結晶化やCryoTEM測定のためのタンパク質溶液試料調製からの構造解析支援については、技術相談を行うとともに、必要や実現性に応じて、研究プロジェクト推進室 生命科学・創薬支援基盤グループにて対応する。このグループは前述のAMEDが実施する生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS; https://binds.jp/)のもとで運用しており、最先端の生命科学・創薬研究を推進するための高度な研究支援を実施する。なお、散乱・イメージング推進室との連携で、本事業のもとでSPring-8でのbioSAXSに関する支援も実施されている。

 

 

6. まとめ
 以上、当チームの活動について述べてきた。同じ室にある測定技術開発チームと業務分担の線引きはわかりにくく映るかもしれないが、ビームラインの測定技術基盤のハード面を中心に扱う測定技術開発チームに対し、当チームはビームラインに付帯的な技術として位置づけられるCryoTEMや試料調製を中心として扱い、利用者との連携にも深く関わっている。今後も引き続き、SPring-8キャンパスにおける構造生物学に関する総合的な支援を目指すため、測定技術開発チームとともに、JASRIおよび理研の関係するグループ、特に理研RSC生物系ビームライン基盤グループとの連携も強化していく。なお、当室へのお問い合わせはstbio@spring8.or.jpまでご連絡ください。

 

 

 

参考文献
[1] K. Hirata et al.: Acta Cryst. D75 (2019) 138-150. (https://doi.org/10.1107/S2059798318017795)
[2] K. Yamashita et al.: Acta Cryst. D74 (2018) 441-449. (https://doi.org/10.1107/S2059798318004576)
[3] W. Kühlbrandt: Science 343 (2014) 1443-1444. (https://doi.org/10.1126/science.1251652)
[4] H. Okumura & N. Sakai et al.: Acta Cryst. F78 (2022) 241-25. (https://doi.org/10.1107/S2053230X22005283)

 

 

 

熊坂 崇 KUMASAKA Takashi
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 構造生物学推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : kumasaka@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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