Volume 27, No.3 Pages 227 - 228
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
2019A期 採択長期利用課題の事後評価について – 2 –
Post-Project Review of Long-term Proposals Starting in 2019A -2-
2019A期に採択された長期利用課題について、2021A期に2年間の実施期間が終了したことを受け、第69回SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会(2021年6月22日開催)による事後評価が行われました。
事後評価は、長期利用分科会が実験責任者に対しヒアリングを行った後、評価を行うという形式で実施し、SPring-8利用研究課題審査委員会で評価結果を取りまとめました。以下に評価を受けた課題の評価結果を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」に実験責任者による紹介記事を掲載しています。
なお、2019A期に採択された長期利用課題3課題のうち1課題の評価結果は2022春号に掲載、もう1課題の評価結果は次号以降に掲載する予定です。
課題名 | はやぶさ2サンプルのX線CTを用いた初期分析:技術開発、分析手法評価と分析 |
実験責任者(所属) | 𡈽山 明(立命館大学) |
採択時課題番号 | 2019A0165, 2019A0166 |
ビームライン | BL20XU, BL47XU |
利用期間/配分総シフト | 2019A~2021A/168シフト |
[評価結果]
本長期利用課題は、2014年12月に打ち上げられたはやぶさ2探査機により小惑星リュウグウから回収される試料の初期分析およびそれに備えた準備を行う目的で実施されたものである。期間前半では、初期分析の準備として、非破壊X線CTや試料の取り扱い方法、迅速なデータ解析法などの技術開発が進められるとともに、模擬物質を用いたリハーサルが行われた。その後、2020年12月に試料が地球に届けられたことを受けて、配分された実際のはやぶさ2試料に対し、それらの開発された手法が適用された。
リュウグウからの試料の分析は現在もなお進行中であるが、小惑星リュウグウの成因を説明する新しい太陽系形成論を支持する結果が得られるなど、大きな成果が生まれつつある。それに加え、事前準備の段階で得られた高分解能広視野CTや走査・結像X線CT(SIXM)などの手法や解析技術の開発は、それ自体が重要な成果であるとともに、地上由来の物質による試料汚染を防止するために開発された大気遮断分析システムは、燃料電池のような嫌気性試料の分析など、他分野への波及効果も期待できる。さらに、リハーサルとして実施した炭素質コンドライト模擬試料の計測においても、一定の学術的な成果を挙げ、論文発表に至っている。このように、はやぶさ2探査機の試料評価への準備が前半2年間でほぼ達成され、本番のはやぶさ2試料の分析にも成功したと評価される。このような一連の成果は、明確な研究目的がユーザー側と施設側で共有されたことによって可能になったものであると考えられる。
以上のことから、本課題は、小惑星の成因や進化の理解につながる学術的成果が得られているとともに、基礎的研究分野及び基盤的技術開発分野への大きな貢献もなされており、長期利用課題として期待通りの成果を挙げたものと判断される。
[成果リスト]
(査読付き論文)
[1] SPring-8 publication ID = 39568
M. Matsumoto et al.: "Discovery of Fossil Asteroidal Ice in Primitive Meteorite Acfer 094" Science Advances 5 (2019) eaax5078.
[2] SPring-8 publication ID = 39585
M. Uesugi et al.: "Development of a Sample Holder for Synchrotron Radiation-based Computed Tomography and Diffraction Analysis of Extraterrestrial Materials" Review of Scientific Instruments 91 (2020) 035107.
[3] SPring-8 publication ID = 41954
A. Tsuchiyama et al.: "Discovery of Primitive CO2-bearing Fluid in an Aqueously Altered Carbonaceous Chondrite" Science Advances 7 (2021) eabg9707.
[4] SPring-8 publication ID = 41955
Z. Dionnet et al.: "Combining IR and X-ray Microtomography Data Sets: Application to Itokawa Particles and to Paris Meteorite" Meteoritics and Planetary Science 55 (2020) 1645-1664.
[5] SPring-8 publication ID = 43233
M. Matsumoto et al.: "Three-dimensional Microstructure and Mineralogy of a Cosmic Symplectite in the Acfer 094 Carbonaceous Chondrite: Implication for its Origin" Geochimica et Cosmochimica Acta 323 (2022) 220-241.
[6] SPring-8 publication ID = 43847
T. Noguchi et al.: "Mineralogy of Fine-grained Matrix, Fine-grained Rim, Chondrule Rim, and Altered Mesostasis of a Chondrule in Asuka 12169, One of the Least Altered CM Chondrites" Polar Science 29 (2021) 100727.