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Volume 27, No.3 Pages 280 - 281

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

BL40B2への液体試料交換用アーム駆動機構の導入
Articulated Arm for Liquid Sample Replacement at BL40B2

太田 昇 OHTA Noboru

(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室 Scattering and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI

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SPring-8

 

 SPring-8 BL40B2はX線小角散乱法[1][1] Th. Zemb, P. Lindner: Neutron, X-rays and Light. Scattering Methods Applied to Soft Condensed Matter (2002) Elsevier.が利用できるビームラインである。主にソフトマテリアルが対象とされる。液体を試料とした散乱実験は供用初期から実施されている手法[2][2] M. Hirai et. al.: J. Synchrotron Rad. 9 (2002) 202-205.のひとつであるが、最近では本ビームラインの半数近くを占める実験法として展開されている。この手法では、水などの溶媒に粒子などを分散させた溶液を対象とし、分散体からの構造情報を取得する。回折斑点やデバイリングを得る回折実験と異なり、本手法では溶液の散乱プロファイルから埋もれた分散体の情報を掘り起こすことになるが、事前に溶媒の散乱を取得して、溶液データの差分処理を行う必要がある。しかしながら、溶媒と溶液の散乱を取得するときに、それぞれ異なるキャピラリー管を使用すると目的の情報を取り出せない状況に陥ることがある。これは、光路長やガラスの厚さなどのキャピラリー管の個体差による違いと考えられている。同じキャピラリー管や試料セルを使い続け、内部の液体試料のみを入れ替えることが、液体試料の散乱実験で広く採用されている実験法である。
 このような液体の散乱実験において利用者の負担を軽減する目的で、液体試料交換用のアーム駆動機構(Xenocs Inc., France)が導入された(図1)。

 

図1 液体試料交換用のアーム駆動機構をビームラインに設置した様子

 

 

 この役割は、ヒトの手で行う作業を電動の駆動機構によって再現させることにある。図2には試料交換の1サイクルが模式的に表わされている。ピペッティング操作としては、(1)チップボックスから、新しいピペッティングチップ(以下チップ)にノズルをアームの動作で押し付けてそれを拾い上げる。(2)well内の液体にチップ先端を沈め、液体試料をチップに繋がった電動シリンジポンプで吸引する。(3)ファネル部に液体試料を運搬注入する。(5)イジェクターにチップを引っかけてそれを落とし使用済みとして破棄する。

 

図2 アーム駆動機構の溶液試料の交換サイクル

 

 

 アーム動作としてはこのピペッティングの他に、キャピラリー管を繰り返し使用するための洗浄・乾燥操作があり、図2(4)に示されている。2洗浄液、水、乾燥用エアの4種からシーケンスを組むことで、自動測定においてファネル部にアーム先端のノズルを押し付けたフロー洗浄・乾燥が行われる。
 図2(3)にはX線の照射による散乱測定が示されている。アーム駆動による液体注入と連動して、チャンバー内に横たわるキャピラリー管に液柱状の試料が吸引されてくる。このとき液柱が適切なX線照射領域に画像認識で自動停止するので、利用者は特別な注意を払わなくても続くX線照射に移行できる。X線照射時、X線ダメージを低減するために液柱を振動させながら撮像するオシレーションモードと液柱を動かさない固定モードの選択が必要である。
 前述の1サイクルを基本とする自動測定を繰り返すための試料数および量の情報を提示したい。このシステムにおける試料の収納については、96 well PCRプレート(1 wellあたり最大容量0.2 ml)を1度に2セット指定温度(例えば25℃)で保管でき、1試料1測定とするならば192試料の連続測定が可能となる。直径1.1 mmキャピラリー管を使用した場合、溶液の標準量は10 μlであるが、キャピラリー管を太くしたり、測定時のオシレーションモードを使用したりすることで使用量が増加する。なお、試料と同じ数の192個の使い捨てチップはチップボックスに配列され、試料ごとに付け替えられる。測定後の液体試料は洗浄液と共に廃液タンクに保管されるため、測定後の液体試料を回収できないことに注意が必要である。
 連続測定を行うためには、PCRプレートのwell番号ごとに測定モード、X線照射時間および撮像回数のテキストベースのリストを作成する。目安としては、露光時間を100秒間1回に設定した場合、処理時間は1サイクルあたり5分程度であった。
 この液体試料交換用のアーム駆動機構については2022B期から本手法の一般課題の募集が開始された。現在のところSPring-8に来所いただいた上での自動連続測定あるいは実験ホールからのマニュアル操作測定に限られることに留意いただきたい。

 

 

 

参考文献
[1] Th. Zemb, P. Lindner: Neutron, X-rays and Light. Scattering Methods Applied to Soft Condensed Matter (2002) Elsevier.
[2] M. Hirai et. al.: J. Synchrotron Rad. 9 (2002) 202-205.

 

 

 

太田 昇 OHTA Noboru
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : noboru_o@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794