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Volume 27, No.2 Pages 116 - 122

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第14回放射光装置技術国際会議(SRI2021)報告
The 14th International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation (SRI2021) Report

上杉 健太朗 UESUGI Kentaro[1]、保井 晃 YASUI Akira[2]、湯本 博勝 YUMOTO Hirokatsu[3]、中嶋 享 NAKAJIMA Kyo[4]

[1](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室 Scattering and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光推進室 Spectroscopy Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[3](公財)高輝度光科学研究センター ビームライン技術推進室 Beamline Division, JASRI、[4](公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 XFEL Utilization Division, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 2022年3月28日~4月1日の期間、ドイツのDeutsches Elektronen-Synchrotron(DESY)主催にて第14回放射光装置技術国際会議(SRI2021)[1][1] https://www.sri2021.eu/が開催された。従来は3年ごとの開催であるが、前回のSRI2018以降新型コロナウイルス感染症の影響で半年程延期されてしまった。また、告知当初は現地とオンラインのハイブリッド開催とのことで、筆者も久しぶりのドイツ訪問かと期待したが、感染拡大の影響によりすべてオンライン化となった。口頭発表はZoomシステムを使用し、ポスターはgather.townを使用した。参加者数は1,200名以上(20ヵ国)。発表数は、Key note talk 3件、Plenary talk 11件、口頭発表260件、ポスター発表400件のエントリーとなっており、SRI2018[2][2] https://www.conf.tw/site/page.aspx?pid=901&sid=1157&lang=enよりも若干増加している。
 図1にタイムテーブルを示した。オンライン開催のためサイトツアーなどが省かれており、全体的に圧縮された印象がある。特に口頭発表は9つのパラレルセッションのため、若干不便かもしれない。ポスター発表は4つに分けられ、それぞれがmorningとeveningの2回開催となっている。発表者はどちらか好きな方(あるいは両方)をコアタイムに設定できる。これはおそらく時差に配慮したものであろう。また、時差および多数のパラレルセッションに配慮したためか、会議後に講演の録画を視聴することが可能となっている(2週間の期間限定)。これもまた面白い試みである。

 

図1 タイムテーブル。時間は中央ヨーロッパ夏時間(CEST)であり、日本との時差は7時間。

 

 

図2 gather.townによるポスターセッションの様子。自分のキャラクターを作成し、カーソルを使用して会場内を移動させる。濃い茶色のポスターゾーンに入り、キーボード操作をすると画面上にポスターが映し出される。また、キャラクター同士が近づくと自動的に画面が開き近づいた相手の顔が見えるようになる(カメラをオンにしている場合)。

 

 口頭発表は次の14のセッションが開催された。
・Spectroscopies and Time Resolved Spectroscopies
・Facility updates and new facilities: Synchrotron Radiation
・X-ray Optics
・Imaging, Coherence and Scanning
・Crystallography and Structural Biology
・Beamline Innovation
・Beam and Optics Diagnostics
・Diffraction and Scattering for Material Science
・Novel Lattices and ID's
・FEL: New Facilities and Scientific Opportunities
・Detectors
・Sample Environment & Delivery Systems
・Data, Automation & Remote Access
・New Opportunities in High-Pressure Research
 Opening sessionでは4名の来賓の方からの挨拶があった。40年ぶりにハンブルグでのSRI開催を祝いつつ、放射光・XFELともども様々な研究分野に対する重要なツールであることから、今後も強力に研究開発を推進していくことが期待されていた。その一方、現在進行中のウクライナ問題に関しては異口同音に強い口調でロシアを非難していた。

 

 

2. Spectroscopies and Time Resolved Spectroscopies
 本セッションでは、主に非弾性X線散乱とX線吸収分光(XAS)、光電子分光、および、それらの時間分解測定について、4日間で計28件の発表があった。今回の主催がDESYであったこともあり、PETLA IIIでの開発・研究の成果発表が大きな割合を占めていた。
 H. Gretarsson氏(DESY)は、PETLA IIIのP01ビームラインに構築したテンダーX線領域の共鳴非弾性散乱(RIXS)計測装置について紹介した。現状、Ru L3端(2.84 keV)やU M5(3.55 keV)端を含むエネルギー領域での測定が可能である。SrRu2O6に対して、Ru L3端でのRIXS測定の例を紹介した。マグノン分散が150 meVの分解能で観測できること、また分散から最近接Ruスピン間のハイゼンベルグ相互作用が65 meVとの解析結果を示していた。更なる高エネルギー分解能化を実現する“RIXS Spectrograph”が現在コミッショニング中であることを紹介した。モンテルミラーとGe(111)の非対称反射の組み合わせによる分光器を利用することで、これまでのローランドタイプの分光器のエネルギー分解能の限界を超えることができること、また、その分光器と非対称反射の高エネルギー分解能モノクロメータを組み合わせることで、35 meV以下のエネルギー分解能でRu L端のRIXS測定が可能であるとのことであった。
 本セッションの光電子分光関係では、差動排気型アナライザーを利用した準大気圧測定の講演が5件と目立った。その中で、P. Loemker氏(Stockholm University)は、PETLA III P22ビームラインのPOLARISエンドステーションで開発中である、大気圧を超える圧力での硬X線光電子分光(HAXPES)計測技術について紹介した。このエンドステーションでは、1気圧以上の雰囲気下での触媒反応研究が常時利用できる。さらに、PETLA IVでは10気圧を超える圧力でのHAXPES測定を可能にするとのことであった。スリットで細分化したビームを試料に照射するとともに、アナライザー先端のアパーチャー部もマルチスリット構造にすることで、チャンバー圧力を向上させるとともに効率よく光電子をアナライザーに取り込むことを考えていた。
 O. Mueller氏(Stanford Linear Accelerator Center: SLAC)は、Stanford Synchrotron Radiation Lightsourceで展開されているXAS計測のリモート制御技術について紹介した。彼らは“WebXAS”という名前のWebブラウザベースのユーザインタフェース(UI)を開発した。そのソフトウェアから試料やイオンチェンバーのガス、検出器などを操作できる。さらに、試料に関してはロボットにより自動的に試料交換が行われる。ただし、試料位置および、ビームライン条件の自動最適化に関しては今後の開発事項である。測定データはSFTPによる読み込み専用アクセスで取得できるとのことであった。紹介されたUIは非常に作り込まれており、メイン画面から測定に用いる各機器へ直感的にアクセスでき制御できるなど、使いやすそうな印象を持った。今後、リモート測定を実現していく上で非常に参考になった。

 

 

3. X線光学素子関連
 L. Alianelli氏(Diamond Light Source: DLS)より、Diamondのアップグレード後の光源性能と、それに対応した光学素子の設計例が示された。例えば、I04 MXビームラインでは、Ru/B4C多層膜分光器やSi二結晶分光器(DCM)を用い、13 keVにおいてフラックスが20~25倍増強され、Beレンズによる集光と組み合わせることで、1 μmビームは720倍にフラックス密度が向上する。I14 Nanoprobeビームラインでは、12 keVにおいて60倍のフラックス向上と、< 30 nmの新しいナノビームの導入が計画されている。
 L. Ducotte氏(ESRF)より、ESRFのDCMの設計と評価結果が示された。高いビーム位置精度と安定性を得るために、高い機器の剛性と熱的安定性を特に意識し新しい設計コンセプトに基づいて開発された。メトロロジーフレームを基準とした変位センサをDCMステージ構成に組み込むことで第一結晶と第二結晶間の平行度をアクティブに補正することができる配置とし、インライン計測によるリアルタイム構成法が示された。約10~70度のブラッグ角において、ロール0.04 μrad(rms)、ピッチ0.02 μrad(rms)の2結晶間の相対関係が補正された。ID21ビームラインにおいて実装され、< 17 Wの熱負荷下ではあるが、10~75度の角度範囲で、ダイレクトビームの出射位置が10 μm(DCMから約11 m下流で観察)の安定性、走査型X線顕微鏡においてブラッグ角が36~52度(3.35~2.5 keV)のスキャンにおいて、100 nm以下の集光ビーム位置ずれ(ピッチ< 0.42 μrad、ロール< 1.1 μrad相当)が達成された。
 J. Sutter氏(DLS)より、高速形状計測と高速電源を用いた高速形状フィードバックシステムを搭載したバイモルフミラーが報告された。ミラー基板の両サイドに圧電素子を貼り付けた構造とすることで、従来の圧電素子積層型のバイモルフ構造に見られるスロードリフトが回避できる。10秒程度で0.5 μrad(rms)の精度で高速形状変化し、集光サイズの調整ができることを示した。
 T. Inoue氏(大阪大学)は、advanced KB配置、アダプティブ集光光学系を用いたsub-5 nm集光システムを報告した。形状可変ミラーは0.5 nmPVの精度で調整でき、集光波面を60 radから1.2 rad PVに改善した。さらに、4.3 nm集光ビームを与える波面精度を、7時間の安定性を持って可能であることを示した。
 S. Bajt氏(DESY)より、Extreme focusing of X-raysの題名で招待講演が行われた。Ptychographic X-ray Speckle Tracking法を用いることで波面回復し、1.1 λ × 0.91 λの波面精度が示され、これにより交差配置Multilayer Laue Lens(MLLs)で4.3 nm × 4.5 nm集光サイズが計算されることを示した。さらに位相プレートによる波面修正や、apochromatic lensとMLLを組み合わせた色収差補正による3 nm集光への将来展望と計算結果が示された。
 C. David氏(Paul Scherrer Institute: PSI)から、XFELのための屈折X線光学素子について招待講演が行われた。ダイヤモンドゾーンプレート、スペクトル計測時に使用するダイヤモンドビームスプリッタ、集光波面のロンキーテスト用のダイヤモンドグレーチング、split-and-delay line用のダイヤモンドグレーチング、ビームsplitと集光を同時に行うゾーンプレートなど数多くのアプリケーションが紹介された。
 J. Yamada氏(理化学研究所:理研)より、SACLAの1022 W/cm2の超高強度集光を達成したWolter III型の交差配置光学系について示された。グレーチング干渉計を用いた波面計測後に、波面を修正することでλ/3からλ/15 rmsの2次元波面精度が得られた。タイコグラフィーにより、7 nm集光が達成されたことが示された。また、波面誤差の次数展開を用いた自動アラインメントシステムを実装し、さらに10時間のビーム安定性を示した。
 E. Nazaretski氏(National Synchrotron Light Source II: NSLS-II)より、NSLS-IIにおけるMLLの開発結果について示された。MEMSで作製したアライナを用いて、交差配置MLLの直交度や距離を調整する仕組みにより、13.6 keVにおいて13 nm × 14 nm集光サイズがタイコグラフィーにより示された。
 F. Seiboth氏(DESY)により、位相板を用いた波面補正を行い、集光波面誤差0.27 λから0.17 λ、ストレール比0.71から0.93への改善が得られた。また位相板を用い軌道角運動量を持つ光学渦ビーム形成の応用例を示した。
 W. Voegeli氏(東京学芸大学)により、白色ビームとSi単結晶による回折を利用した複数ビームの試料照射による高速CTが実演された。薄いSiブレードが配置された基材を双曲面状にベントすることで、マルチビームを試料に一度に照射する。例としてタングステン50 μmワイヤが、−73.5°~77.9°までの32投影像により、1 ms露光時間で再構成された。数mm3の視野において約65 μmの分解能が得られた。
 K. Yamauchi氏(大阪大学)により、Kye Note Talkが行われ、X線ミラー光学素子の開発状況が紹介された。EEM加工法と形状計測法(RADSI)を用いた、X線ミラーの1 nm(PV)精度の超精密作製法が説明された。形状可変ミラーによる波面補正システムを用いた世界初のSub-10 nmサイズを達成した7 nm集光光学系、SACLAにおける1020 W/cm2の超高密度集光光学系、Wolter III型光学系を用いた高安定な~1022 W/cm2の超高密度集光光学系などに加えて、Catalyst referred etching(CARE)と呼ばれるケミカルポリッシング法により、0.1 nmRMSの超高精度表面がSi(001)面のウェットケミカルエッチングによってステップテラス構造を持ちつつ実現でき、このX線ミラーや回折素子への応用性が紹介された。
 本稿の著者であるH. Yumoto(Japan Synchrotron Radiation Research Institute: JASRI)から、SPring-8 BL05XUにおける高熱負荷、高エネルギーX線素子の開発状況が示された。多層膜分光器を用いた100 keV、1%バンド幅、3 × 1013 photon/sの超高強度ビームと、多層膜集光ミラーによる0.3 μm光学系、デモ実験が示された。
 J. Gutekunst氏(Karlsruhe Institute of Technology: KIT)により、液体屈折レンズが提案された。ノズルから出射される液体の断面形状がX線レンズとして作用し、交差配置で2次元集光する。X線照射域の流体が流れ去ることでX線レンズへのダメージは蓄積されず、高フラックス光学系への利用が期待できる。LIGAプロセスでノズル形状を実際に製作し、液体を出射する様子がポスターで示された。エタノールやメタノール、水、リチウムのノズルからの出射形状や、X線集光特性が検討された。

 

 

4. XFELおよびデータ・オートメーション・リモートアクセス関連
4-1 XFEL関連
 “FEL: New Facilities and Scientific Opportunities”というタイトルで3つのセッションが設けられた。合計20件の講演がプログラムされ、7件はEuropean XFELに関連する発表、4件はLCLS(-II)に関連する発表であった。ここでは、Invited Talksを紹介する。
 European XFEL関連では、G. A. Geloni氏(European XFEL)が、超伝導加速器の特色を生かして開発してきた様々なXFEL技術の成果を報告した。特にSASE2におけるHard X-ray Self-Seeding(HXRSS)システムでは、2019年9月のコミッショニング開始後2021年3月までに6~18 keVの複数の光子エネルギーでテストが行われ、ユーザー実験も開始されたことを報告した。また、A. Madsen氏(European XFEL)は、European XFELに整備されたMaterials Imaging and Dynamics(MID) instrumentについて報告した。これは、散乱およびイメージングの多用途の装置であり、2019年3月に運転が開始された。MHzのX-ray Photon Correlation Spectroscopy(XPCS)やコヒーレント・フォノンの超高速X線散乱の実験結果も紹介された。さらに、U. Eichmann氏(Max-Born-Institute)は、非線形X線物理学との関連でPhoton-Recoil Imaging(PRI)について報告を行った。Stimulated X-ray Raman scattering(SXRS)において散乱中性原子を検出し、個々の原子レベルでの基本的な過程を解明するもので、European XFELで行ったNe原子での実験結果についても紹介があった。
 LCLS関連では、A. Marinelli氏(SLAC)が、ピーク・パワーがテーブル・トップのHHG光源より約6桁大きいLinac Coherent Light Source(LCLS)のアト秒XFELパルスを活用したサイエンスに関する報告を行った。LCLSで行われた、Auger-Meitner decayにおけるcoherent electron motionの測定やアト秒ポンプ・プローブ実験などを紹介した。また、D. Fritz氏(SLAC)は、超伝導RF線形加速器に代表されるLCLS-IIアップグレードについて報告した。加速管は数週間前に5.1 Kに到達し、引き続き冷却を進めるとのことであった。また、2つの新しいvariable gap undulatorは、常伝導の加速管での試運転でよい性能が達成できているとのことであった。新しく設置されたinstrumentについても紹介があった。
 また、I. Inoue氏(理研)は、XFELパルスと物質の相互作用の理解を進めるためにtransient XFEL-matter interactionを観察することができる、SACLAで開発された2つのXFELパルスを使用するX線ポンプ−X線プローブ法について報告を行った。この方法を使って測定されたダイヤモンド、酸化アルミニウム、および有機分子のXFELによるフェムト秒構造変化が紹介された。また、L. Rivkin氏(Swiss Federal Institute of Technology in Lausanne: EPFL/PSI)は、League of European Accelerator-based Photon Sources(LEAPS)について報告を行った。LEAPSは、ヨーロッパの13の放射光施設と6つのFEL施設からなる戦略的研究コンソーシアムであり、ユーザーコミュニティとともに、施設の技術的課題の向上を図っていることを紹介した。さらに、I. Nam氏(Pohang Accelerator Laboratory: PAL)は、PAL-XFELにおいてなされたHXRSSによるFELパルスの生成に関する報告を行った。光子エネルギー9.7 keVにおけるピーク輝度はこれまでで最も高い値(3.2 × 1035 photons/s/mm2/mrad2/0.1% BW)が得られ、5~11 keVにおける帯域幅は、0.2~0.5 eV(FWHM)が実現したことを紹介した。
 このように、セルフ・シードやアト秒パルス、ツイン・パルスなどをはじめとして、より高度なXFELパルスの生成とその特色を活用した利用実験が各施設で進み、なおかつ今も進められていることが実感できるセッションであった。

 

4-2 データ・オートメーション・リモートアクセス関連
 “Data, Automation & Remote Access”というタイトルで2つのセッションが設けられた。ヨーロッパ、米国、アジアの広範な地域の施設における取り組みを中心に合計14件の講演がプログラムされた。まず、Invited Talksについて紹介する。
 米国からは、S. Leemann氏(Lawrence Berkeley National Laboratory: LBNL)が、Advanced Light Source(ALS)で行われている機械学習に基づくビームサイズの安定化の取り組みについて報告した。ビームサイズの安定性0.2 μm rms(0.4%)を実現した、オンラインでの再学習を取り入れたニューラル・ネットワークによるフィード・フォワード補正について紹介をした。また、D. Olds氏(Brookhaven National Laboratory: BNL)は、NSLS-IIにおける、リモート操作や自動化の進展に伴って期待が高まる機械学習や人工知能を採用した新しい方法による取り組みについて具体的な事例を報告した。ビームライン制御ソフトウェアBlueskyを用いたAI支援のアライメントの事例などが紹介された。さらに、M. Rakitin氏(BNL)は、NSLS-IIにおいて最近更新されたネットワークやコンピューティング基盤と、そこでのBlueskyや次世代のデータ・アクセス・サービス Tiledなどのソフトウェアについて紹介した。C. Yoon氏(SLAC)は、LCLS、特にLCLS-IIに向けて、高スループットでデータの可変性に対応しつつも高速なフィードバックも可能にするデータ解析パイプラインの取り組みについて報告した。
 ヨーロッパからはJ. Wojdyla氏(PSI)が、Swiss Light Source(SLS)のMacromolecular Crystallography(MX)ビームラインにおける全自動のデータ収集について報告した。Smart Digital User(SDU)と呼ばれる新たなソフトウェアを開発して、標準的なビームサイズにおけるスループットとして1時間あたり12~20サンプルを達成したことが報告された。また、L. Dunnett氏(DLS)は、DLSで行われている創薬研究のためのフラグメント・スクリーニング・プログラム XChemに関して報告した。現在使用しているビームラインI04-1と、Diamond-IIへのアップグレードに向けて2023年からの建設が計画されているビームラインK04における高スループット化の取り組みも紹介した。
 アジアからは、A. Sepe氏(Shanghai Synchrotron Radiation Facility: SSRF)が、SSRFに設置されたBig Data Science Center(BDSC)に関する報告を行った。このセンターは実験ユーザーのために常時運用されていて、ビッグデータのリアルタイム解析やAIの活用などによってSSRFにおける科学的な生産性が促進されていることが報告された。
 なお、このセッションでは国内から2件の発表があった。T. Hiraki氏(理研)は、開発が進められている高速X線イメージング検出器CITIUSにおいて、最大の構成では約1.4 TB/秒のピーク・データ・レートがあるものの、統計情報を失うことのない圧縮アルゴリズムを前処理と組み合わせて画像データに適用することにより、約0.01 TB/秒にまで削減することが可能であることなどを報告した。また、本稿の著者であるK. Nakajima(JASRI/理研)からは、SPring-8の将来のビームライン実験に向けて開発が行われているビームライン機器制御プラットフォームBL-774について報告した。特に、頑健性と柔軟性の双方に配慮した開発フローと具体的な実践事例に関する紹介を行った。
 これらのセッションでは、放射光・XFEL施設が直面している課題には、ある程度共通したものがあることが改めて示された。そして、データフローやデータ解析、機器の制御などの段階において、機械学習やAIの採用、ロボットやFPGAの活用といった多様な取り組みが、類似はしているものの、各施設の特色を反映しつつ進んでいることを知ることができるものであった。

 

5. Imaging, Coherence and Scanning
 A. Pacareanu氏(ESRF)によるPlenary talkは、“Hard X-ray bioimaging at the nanoscale”というタイトルで行われ、ESRF ID16Aで運用されているnano-holotomographyによる研究成果を中心に発表された。P. Cloetens氏(ESRF)らが20年以上取り組んでいるholotomographyは高いコントラストのCT像を得られる特徴があり、K-B mirrorによる拡大投影光学系と組み合わせることで、nano-holotomographyとなった。マウス脳のCT像は透過電顕(TEM)によるTEM-CTに近い描像を示していた。光学素子や試料がすべて真空中に配置され1試料あたり2.5時間の計測時間を必要とするため、静的な観察に特化しているといえる。しかし、nanotomography装置としては非常に高い性能を有していることがわかる。データ解析に関しては、他の施設と同様にノイズ除去やセグメンテーションにおいて機械学習化に取り組んでいるとのことであった。拡大投影型の利点を生かし、試料サイズや空間分解能の調整は比較的行いやすいものの、2 k画素では不十分なケースも出てきており、検出器の高精細化(まずは6 k検出器)を検討しているとのことであった。
 P. Cloetens氏からは、nano-holotomography装置の詳細について発表があった。装置としてはCryo-TEMを強く意識した作りになっており、試料作製からクライオリンクシステムが構成されており、計測時の試料位置まで大気非暴露かつ110 Kを維持したまま輸送と計測ができるようになっている。選択可能なエネルギーは17 keVと33.6 keVの2種類で、K-Bミラーによる焦点サイズは25~35 nmとのことである。現状の懸念点としては、ミラーへのダメージを避けるために、フルパワービームを投入できておらず、その1/10の1.2 × 1012 ph/s程度での実験となっていることである。
 M. Holler氏(PSI)らはSLS-cSAXSビームラインにおいて、PtycographyとLaminographyを組み合わせたシステムの開発を行った。空間分解能は19 nm程度を達成しており、ICチップの回路をきれいに描出している様子が示された。ただ、使用エネルギーが6.2 keVとかなり低いため、試料厚みを20 μm程度にすることが必要とのこと。ここは若干物足りなさを感じた。
 M. Stampanoni氏(PSI)からはSLS2.0に伴うTOMCATのアップグレードに関する発表があった。これまでの研究成果も示され、1000 CT/sの超高速度撮影やマルチスケール計測など目覚ましいものがあるが、これらの実験をさらに性能を上げていこうとしている。具体的にはS-TOMCATとI-TOMCATと2本のビームラインに分割展開する。S-TOMCATでは5 TのSuperbendを光源とし、high throughputとhigh energyを、I-TOMCATではundulator光源を導入し、nanotomographyとhigh-speed tomographyを実施する。2022年夏に分光器を入れ替え、コミッショニングを開始するとのことであった。また、アップグレードに際して、80 keV程度までを視野に入れた計算をしていることが印象に残った。
 A. Stevenson氏(Australian Nuclear Science and Technology Organisation: ANSTO)から、Australian Synchrotronに新設されるマイクロCT(MCT)ビームラインに関する進捗報告があった。分光器なし・多層膜分光器(ΔE/Eは3%程度)・1回反射の全反射ミラーの3パターンを実験に応じて選択可能になるとのことである。エネルギー範囲は8~40 keVで、ビームサイズは32 m地点にて64 mm × 9.6 mm程度になる。CTの技術としては、吸収・propagation baseの位相計測・タルボ干渉計を利用した位相計測・FZPによるX線顕微鏡光学系を使用したナノCT計測が採用予定である。2022年中にユーザー利用を開始する。

 

 

6. おわりに
 Closing sessionは、R. Feidenhans'l氏とE. Weckert氏により進行された。まずは、Awardの発表である。Awardは2件。Kai-Siegbahn-PrizeはY. Chen氏が受賞し、“Visualize and Control Electronic Structures of Topological Quantum Materials”というタイトルで受賞記念講演を行った。FELs of Europe AwardはJ. Rouzxel氏が受賞し、“Ultrafast X-ray Spectroscopies and Diffractions”というタイトルで受賞記念講演を行った。Poster Awardは、S. Matsumura氏(Engineering/technical result)・M. Hoock氏(Scientific result)・J. Gutekunst氏(Scientific/technical result)ら3名が受賞した。
 次回のSRI2024は、ハンブルグでの開催と決定された。2024年8月26日~30日の日程である。もともと第1回のSRIが1982年にハンブルグで開催され、今回はちょうど40年ぶりに開催というタイミングであったが、残念ながらオンラインでの実施となってしまった。今度こそ“in person”という意気込みが感じられた。

 

 

 

参考文献
[1] https://www.sri2021.eu/
[2] https://www.conf.tw/site/page.aspx?pid=901&sid=1157&lang=en

 

 

 

上杉 健太朗 UESUGI Kentaro
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0802 ext 3928
e-mail : ueken@spring8.or.jp

 

保井 晃 YASUI Akira
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 分光推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : a-yasui@spring8.or.jp

 

湯本 博勝 YUMOTO Hirokatsu
(公財)高輝度光科学研究センター ビームライン技術推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0831
e-mail : yumoto@spring8.or.jp

 

中嶋 享 NAKAJIMA Kyo
(公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0992
e-mail : kyo.nakajima@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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