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Volume 27, No.1 Pages 30 - 34

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第5回SPring-8秋の学校を終えて
The 5th SPring-8 Autumn School

松村 大樹 MATSUMURA Daiju

SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事(秋の学校担当)/(国)日本原子力研究開発機構 物質科学研究センター Materials Sciences Research Center, Japan Atomic Energy Agency

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SPring-8

 

秋の学校概要
 2021年度の第5回SPring-8秋の学校が、12月19日(日)~12月22日(水)の4日間の日程で開催されました。秋の学校は当初9月上旬での開催を予定しており、8月上旬に参加募集を〆切った段階において80名を超える多くの方からの申込をいただいておりました。しかしながら、夏になってから新型コロナウイルスの感染者が徐々に増加していき、8月16日にはSPring-8を含む地域がまん延防止等重点措置対象区域に指定されたと共に、秋の学校の開催日程には緊急事態宣言対象区域になる見込みとなった事もあり、8月17日に関係者の方々に秋の学校の開催延期を連絡いたしました。12月に変更された新しい日程では、共催大学以外からの追加募集は行わず、当初の日程で応募いただいた申込者の方に新しい日程での参加案内を行いました。30名を超える申込者が、新たな日程では都合が合わずにやむなく参加をキャンセルされました。参加申込された皆様には、日程が延期になった事に伴い、多くのご不便をお掛けしました事をお詫び申し上げます。また、基礎講義及びグループ講習の講師の皆様におかれましては、日程が延期になったにも関わらず、新しい日程でも大変多くの方にご協力いただき、改めて感謝申し上げます。他にも多くの関係者のお力添えをいただきました。
 第5回SPring-8秋の学校は、SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)と高輝度光科学研究センター(JASRI)が主催し、理化学研究所放射光科学研究センター、兵庫県立大学理学部/大学院理学研究科、関西学院大学理学部/工学部/生命環境学部/大学院理工学研究科、岡山大学からの共催をいただき、関係諸機関の後援を受けて行われました。校長にはSPRUC会長の木村昭夫先生(広島大学教授)が就任し、事務局はJASRI利用推進部にご担当いただきました。共催大学においては、SPring-8秋の学校を大学/大学院の単位として認定しております。
 SPring-8秋の学校が目的とするところは、幅広い観点からのSPring-8ユーザー及び今後の放射光科学に関わる人材の発掘であります。SPring-8では夏の学校も開かれ、毎年多くの参加者を数えておりますが、夏の学校との最大の違いは、SPring-8秋の学校では放射線業務従事者登録が必要ない事です。そのため、今回の参加者におかれましても、大学1年生の方もいれば社会人経験10年以上の方もおり、多様な方に対して放射光を学ぶ機会を提供する場となっております。
 秋の学校のもう1つの特徴は、SPRUCが主催団体に入っており、SPRUCの評議員や各研究会からグループ講習のテーマ及び講師の推薦を受けている事です。今回も多くのSPRUCの皆様から講師としてご協力いただき、バリエーション豊富で魅力的なグループ講習が行われました。遠方からお出でになった講師の方も多く、講師の皆様には深く感謝申し上げます。
 最終的に、18校12社から59名の参加を得ました。内訳は次の通りです。学生45名(学部1年生1名、学部3年生11名、学部4年生17名、博士課程前期(修士)1年12名、博士課程前期(修士)2年3名、博士課程後期2年1名)、社会人14名(企業9名、大学教員3名、国研等2名)。男性43名、女性16名。放射線業務従事者登録のない方は35名でした。

 

図1 講義風景

 

 

カリキュラムについて
 カリキュラムは、1日目に3講座、2日目に4講座の基礎講義を行い、3日目と4日目の2日間で4テーマのグループ講習を行いました。グループ講習に関しては、参加者は以下の「グループ講習について」で示す18テーマから希望する4テーマを選択し、受講しました。また、2日目には、SPring-8実験ホール及びSACLA外部の見学が行われました。コロナ禍である状況を鑑み、昨年度と同様に懇親会は中止としました。参加者の交流を深めるため、1日目の最後に自己紹介の時間を設けました。

 

第5回SPring-8秋の学校 日程表

 

 

基礎講義について
 基礎講義内容と担当者は以下の通りです。どの講義も工夫が凝らされており、参加者にとって有意義な講義であったと思われます。参加者からの講義後の質問がとても活発で多くあり、時間が大幅に押してしまいました。参加者の熱量をこちらが見誤っていた次第でした。来年度の開催においては質問の時間をより長く確保する所存です。

基礎講義1. 放射光発生の基礎
正木満博(高輝度光科学研究センター)

基礎講義2. ビームライン
~光源と実験ステーションを繋ぐもの~
仙波泰徳(高輝度光科学研究センター)

基礎講義3. X線検出器の基礎
上杉健太朗(高輝度光科学研究センター)

基礎講義4. X線自由電子レーザー入門
久保田雄也(理化学研究所)

基礎講義5. X線イメージング
篭島靖(兵庫県立大学)

基礎講義6. X線回折入門
高橋功(関西学院大学)

基礎講義7. XAFSの基礎
伊奈稔哲(高輝度光科学研究センター)

 

 

グループ講習について
 グループ講習のテーマと担当者は以下の通りです。多くの皆様のご協力により、18テーマを準備する事ができました。秋の学校は放射線業務従事者登録が必要ない代わりに、放射光そのものを利用しての講習はできないのですが、実際の装置やデータを手に取って疑似的測定や解析を進める事で、多くの参加者にとって刺激的な講習になったと思われます。

1. 単結晶構造解析
橋爪大輔(理化学研究所CEMS)
足立精宏(理化学研究所CEMS)

2. 粉末X線回折によるその場観測の実際
下野聖矢(防衛大学校)
中平夕貴(東京都立大学)

3. タンパク質結晶構造解析
水島恒裕(兵庫県立大学)
河村高志(高輝度光科学研究センター)

4. 小角X線散乱
増永啓康(高輝度光科学研究センター)
関口博史(高輝度光科学研究センター)

5. PDF法を用いたガラスの構造解析
尾原幸治(高輝度光科学研究センター)
山田大貴(高輝度光科学研究センター)
廣井慧(高輝度光科学研究センター)

6. 応力・ひずみ解析
菖蒲敬久(日本原子力研究開発機構)
冨永亜希(日本原子力研究開発機構)
城鮎美(量子科学技術研究開発機構)

7. X線回折・散乱を用いた薄膜構造評価
小金澤智之(高輝度光科学研究センター)

8. X線吸収分光法
細川三郎(京都工芸繊維大学)
別府孝介(龍谷大学)
伊奈稔哲(高輝度光科学研究センター)

9. 軟X線オペランド計測の最前線
原田慈久(東京大学)
木村隆志(東京大学)

10. 赤外分光分析
池本夕佳(高輝度光科学研究センター)
岡村英一(徳島大学)

11. 光電子分光(HAXPES)
保井晃(高輝度光科学研究センター)
高木康多(高輝度光科学研究センター)

12. メスバウアー分光入門
藤原孝将(量子科学技術研究開発機構)

13. 結像型X線顕微鏡による顕微CT
高山裕貴(兵庫県立大学)

14. 高圧力の発生と高圧下の物質科学
石松直樹(広島大学)
町田晃彦(量子科学技術研究開発機構)

15. ドーパント原子配列解析
松下智裕(奈良先端科学技術大学院大学)

16. GeV光ビームの生成とサブアトミック科学
與曽井優(大阪大学)
村松憲仁(東北大学)

17. ソフト界面の構造解析
谷田肇(日本原子力研究開発機構)
矢野陽子(近畿大学)
西直哉(京都大学)

18. (磁気)コンプトン散乱測定
小泉昭久(兵庫県立大学)
辻成希(高輝度光科学研究センター)

 

 昨年度に続きコロナ禍での秋の学校の開催となり、時期もそれまでの9月から12月に延期しての開催となりましたが、多くの参加申込をいただき、最終的に59名の参加を得て開催する事ができました。当日も大きなトラブルはなく、参加後に体調を崩された報告も受けておらず、無事に秋の学校を終える事ができました。
 昨年度からの変更点として、グループ講習をそれまでの3テーマから4テーマ選択できるようにしました。これまでのアンケート結果を見ても、グループ講習の満足度が高く、参加者により多くのグループ講習を体験できるようにしたものです。今回の参加者のアンケート結果を見ると、グループ講習の満足度はとても高いものでした。一方、グループ講習の講師の方の負担とはバランスをとらなければならないと考えております。先に記しました通り、グループ講習のテーマ・講師はSPRUC研究会からの推薦を受けています。参加者・講師のどちらの満足度も高くなる形を目指して、今後ともグループ講習の形を考えていきたいと思います。
 SPRUCはSPring-8秋の学校の主催機関であります。今後秋の学校をどのように発展させていくか、会員の皆様の忌憚のないご意見を賜る事ができれば幸いです。
 SPring-8秋の学校を実施するにあたりまして、講師の皆様を始めとして、多くの関係者の方々に大変お世話になりました。深く感謝申し上げます。より良い秋の学校にしていく事ができるよう、今後ともご指導の程どうぞよろしくお願いいたします。

 

図2 グループ講習風景

 

図3 見学風景

 

 

 

松村 大樹 MATSUMURA Daiju
(国)日本原子力研究開発機構 物質科学研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0975
e-mail : daiju@spring8.or.jp

 

 

 

 

第5回SPring-8秋の学校に参加して

 

 

日本ロレアル株式会社

リサーチ&イノベーションセンター

松藤 慎一

 

 

 私はロレアル(L'Oreal)というフランスに本社を置く化粧品会社の日本法人で、物理化学の観点から粉体や油脂並びに乳化系の新規技術をメイクアップやスキンケアに応用する研究に従事しております。化粧品という製品の特性上、機器測定にしても五感で確認し得るもの(見た目、触感、匂いなど)への評価が多いのですが、製品や処方または原料を理解する上で紫外線やX線のような人間の目では見えない光を用いて実験・解析する事も少なくありません。私自身はX線解析の専属オペレーターという訳ではないのですがデータを活用する機会も多いため、上司らの勧めもあって同僚2名と共に秋の学校に参加させていただきました。
 さて今回、秋の学校ではなく時期的には冬の学校となりましたが、晴天にも恵まれ気持ちの良い環境の中で非常に濃密な4日間を過ごす事ができました。社会人のみ参加費2万円との事ですが、講義内容から考えましてもとてもお得だったと思います。特にSPring-8内をじっくり見学できたりビームライン前でグループ講習(実習)を受けられた事はオンラインでは得られない実際に現地に来たからこそのメリットだと感じました。またビームライン毎に部品の組み合わせ方や検出器の位置、光軸合わせ、またはハンドメイドによる治具設置など様々な工夫がなされているのが垣間見れ、とても勉強になりました。
 3日目の夜には補講という形で先生方が時間を取って下さり、他の参加者の方達ともお話する事ができました。その中でSPring-8立ち上げ時のお話などを聞けた事がとても心に残っています。
 X線解析やSPring-8にご興味のある方は積極的に参加される事をお勧めします。またSPring-8のデカさをより強く体感したい方はSPring-8の外周を歩いてみられる事もお勧めします。時計回りに進みますと左手にSACLAも見えなかなか素晴らしい景観でした。
 スケジュールや講義内容は前年までのものを踏襲したものだと思います。違いはグループ講習を4つまで選べるようになった事のようです。個人的には初日の基礎講義に最も感銘を受けました。全体を通してメッセージのようなものを受けたと感じたからです。初日の3講義を私自身の言葉で言い換えますと、「放射光って何?」「ビームラインの仕組み」「検出器の特性を理解する事」になります。つまり基礎の基礎、光を発生させ、それを目的の所まで持っていき分光しサンプルに当て検出する、という簡単な話です。ですがそれら一つひとつを細かく見ていきますと理解すべき原理や種々の工夫がなされており、それらに対する理解度の深さがまさに測定結果に影響するのだと感じました。
 私がまだ社会人駆け出しの頃でロレアルに転職する以前の話ですが、当時の先輩からこのように言われた事があります。「何かを測れば何らかのデータは出てくるけど、それがどういう意味かよく考えないといけないよ」と。私は「そうですよね、よく分かります」と答えつつ内心は「何を当たり前の事を言ってるんだろうか、この人は・・」と思っておりました。しかし社会人研究者として長く勤めているうちに先輩の言いたかった事が当時よりは理解できるようになりました。時として観察目的を正しく設定し測定するのは難しい場合があります。SPring-8は素晴らしいツールです。ですがどう使いこなすかは結局私たち次第です。実際SPring-8を用いた実験においてもその目的や測定条件、結果についての議論があるのを目にする事があります。私達としましてはそうした先人たちのご経験に敬意を払いつつ各ビームラインご担当者様と都度都度よくご相談する事が肝要だと感じます。以上のような事を初日の講義を通して考えておりました。
 秋の学校に参加でき、以前よりは知識が深まったと思いますが同時に知らない事、理解できていない事が沢山ある事も知りました。いただいた資料を度々見返し続けて勉強したいと思います。
 また私の同僚らも得難い経験を得たと申しておりました。私どもだけでなく他の参加者の皆様もそれぞれ何か大きなものを得た事と思います。気付きであったり新しい友であったり。
 最後になりましたが、このような素晴らしい機会を与えていただき講師の先生方、職員の皆様、並びに秋の学校事務局の皆様に厚くお礼申し上げます。第6回も無事に開催できる事をお祈りします。また今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

図4 集合写真(放射光普及棟前にて撮影)

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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