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Volume 26, No.4 Pages 448 - 449

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

BL20B2への多層膜分光器の導入
Installing a Multilayer Monochromator at BL20B2

上杉 健太朗 UESUGI Kentaro、星野 真人 HOSHINO Masato

(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室 Scattering and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI

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SPring-8

 

 SPring-8 BL20B2は光源から中尺ビームライン実験施設内にあるエンドステーションまで215 mの中尺ビームラインである[1][1] S. Goto, K. Takeshita, Y. Suzuki, H. Ohashi, Y. Asano, H. Kimura, T. Matsushita, N. Yagi, M. Isshiki, H. Yamazaki, Y. Yoneda, K. Umetani and T. Ishikawa: "Construction and commissioning of a 215-m-long beamline at SPring-8" Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 467-468 (2001) 682-685.。主にX線マイクロCTや位相計測といったX線イメージング実験を実施している。いくつかの実験では高速度撮影や高空間分解能測定が求められ、建設当初からX線画像検出器の高効率化や高速化を進めてきた。これにより、2000年頃と比較してX線マイクロCTであれば撮影速度で約50倍、データ生成量では200倍の高速化が達成された。しかしながらこれらの開発が限界に近づき、さらなる高速化や高分解能化には、より高い光束密度のX線が必要ということが明らかになった。これを受け、2020年度に40 keVと110 keVの出力が可能な多層膜分光器が導入された。これは、従来のシリコンの二結晶分光器よりも100倍以上の光束密度を実現し、大面積高分解能イメージングや高速度撮影を実施するためのものである。40 keVは、主に血管造影や材料破壊の高速現象をとらえること、110 keVは電子デバイスや比較的大きな化石などの高精細画像を得ることを目的としている。
 図1に多層膜分光器導入前後の光学ハッチのレイアウトを示している。SPring-8標準型二結晶分光器(DCM)はそのまま残し、従来通りの実験も実施可能としている。多層膜分光器はその前後に配置させ、実験ハッチではDCMと同じ位置(床から1430 mmの高さ)をビームが通るようにしている。多層膜はW/B4CをSi基板上に塗布したものを使用している。これにより光源から45 mの実験ハッチ1において、40 keVで1.35 × 1012 ph/mm2/sec、110 keVでは6.86 × 1010 ph/mm2/secの光束密度を実現し、それぞれシリコンの分光器よりも数百倍の光束密度となった。また、多層膜分光器の上流側には金属製の水冷フィルターを設置し、多層膜分光器への熱負荷低減及び全反射による低エネルギー成分の除去をさせている。

 

図1 多層膜設置前後の光学ハッチレイアウト(光源基盤部門提供)。

 

 

 現在光学ハッチには、TCスリット(TC1 slit1)・水冷フィルター・多層膜分光器・シリコン二結晶分光器・下流シャッター(Downstream Shutter, DSS)が設置されている。これらのうちDSSを除く機器は新しい制御システムであるBL-774により制御されている。BL-774に関しては、BL-USER-LAN上のPCからWebベースのブラウザアクセスを主として用いている。またxml-rpcベースでの制御も可能となっているため、python等の言語を用い、容易に制御可能である。
 広い面積かつ高い光束密度のビームを利用したデモンストレーションとして、実験ハッチ1において高速度撮影を実施した。試料はヒューズで、所定のタイミングで過電流を流す回路に接続している。図2には過電流によるヒューズ溶断の瞬間を示した。エネルギーは40 keV、実効画素サイズは3 μm/pixelである。撮影は5 kHzから60 kHzまで数段階の速度で行った。画像検出器のカメラはフォトロン製SA-Zを用いており、20 kHzまでは1024 × 1024画素での撮影が可能である。

 

図2 ヒューズ溶断の瞬間。50 μsec毎に撮影。各画像の視野幅は3 mm。

 

 

 この多層膜分光器および一連のシステムは2021Bから利用可能となっている。光源基盤部門の小山博士らによる本光学系の詳細報告および、担当者からのいくつかの試行実験事例報告を、2022年1月開催の放射光学会[2][2] http://www.jssrr.jp/jsr2022/や2022年3月開催のSRI[3][3] https://www.sri2021.eu/で予定している。kHz以上の速度での高速X線イメージングや高エネルギー・高精細X線イメージングを希望されている読者諸氏は、ぜひとも担当者にコンタクトしていただきたい。

 

 

 

参考文献
[1] S. Goto, K. Takeshita, Y. Suzuki, H. Ohashi, Y. Asano, H. Kimura, T. Matsushita, N. Yagi, M. Isshiki, H. Yamazaki, Y. Yoneda, K. Umetani and T. Ishikawa: "Construction and commissioning of a 215-m-long beamline at SPring-8" Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 467-468 (2001) 682-685.
[2] http://www.jssrr.jp/jsr2022/
[3] https://www.sri2021.eu/

 

 

 

上杉 健太朗 UESUGI Kentaro
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : ueken@spring8.or.jp

 

星野 真人 HOSHINO Masato
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : hoshino@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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