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Volume 26, No.4 Page 411

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

2016年度指定パートナーユーザー事後評価報告
Post-Project Review of Partner Users Designated in FY2016

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 パートナーユーザー制度は、SPring-8の共同利用ビームラインの更なる高度化および優れた成果の創出を推進するために、2014年度より運用しています。パートナーユーザー(以下「PU」という)は、公募・審査を経て指定されます。
 PUの事後評価は、PU審査委員会において、あらかじめ提出されたPU活動終了報告書に基づいたPUによる発表と質疑応答により行われます。事後評価の着目点は、PUとしての(1)目標達成度、(2)活動成果(装置整備・高度化への協力、科学技術的価値および波及効果、ユーザー開拓および支援、情報発信)です。今回は、2016年度指定のPU1名(指定期間:2016年4月1日から2020年3月31日まで)について、事後評価(2021年6月16日開催)を行いました。
 以下にPU審査委員会がとりまとめた評価結果等を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」にPUによる紹介記事を掲載しています。

 

 

1. 佐々木 孝彦(東北大学)
(1)実施内容
研究テーマ:強相関電子系分子性物質の赤外顕微イメージング分光による電荷ダイナミクスの研究
高度化:赤外ビームラインの整備と先導的活用
利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

 

(2)ビームライン:BL43IR

 

(3)評価コメント
 本PU課題は、BL43IRの赤外顕微ステーションと磁気光学ステーションの高度化および装置整備を行い、利用者支援と利用者開拓を行うとともに、申請者による強相関電子系分子性物質の研究を進展させることを目的として実施された。
 赤外顕微ステーションに対しては、偏光子の光路挿入位置変更と回転機構の剛性化をはじめとする複数の高度化への協力を行い、微小試料について安定的に再現性のよい実験ができるようにした。磁気光学ステーションに対しては、長期的に稼働休止状態にあった本ステーションの再整備、調整、改良を行った。その結果、遠赤外から近赤外光領域でも実験に必要な光強度が得られるようになり、ユーザー利用が可能なレベルに整備を完了した。これらの高度化および整備は、ビームライン担当者と協力しつつ、申請者の有する技術や専門的知見を投入して達成されたものであり、高く評価される。
 高度化に関連した利用実験の成果として、赤外顕微ステーションを利用した強相関電子系分子性物質の研究では、「電荷ガラス」状態の発見・解明、ダイマーモット/電荷秩序「量子臨界」の検証、π-d相互作用を伴う電子ドープされた電荷秩序状態、強相関電子系金属状態の乱れによるソフトギャップ絶縁体化について重要な研究成果が創出された。いずれも放射光赤外の局所顕微分光の特徴が生かされた利用実験による成果である。磁気光学ステーションについては、利用実験成果としての論文発表には至っていないが、黒燐のランダウ準位の観測など、ステーションの特徴を生かした研究成果が出始めており、今後の研究が期待される。
 ユーザー支援および開拓に関して、支援数および新規ユーザーの獲得については大きな成果を出すには至らなかったものの、使用法についての標準化やマニュアル整備などにより利用者が自律的に研究を行える環境を整備するなど、申請者の努力は十分に認められる。
 結論として、ユーザー支援および開拓に関しては当初の予想を超えるものではなかったが、ビームラインの特徴を生かしたステーション整備と高度化を達成し、それを用いて分野を先導する研究成果を創出しており、PU課題として十分評価される。

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794