ページトップへ戻る

Volume 26, No.4 Pages 386 - 387

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

「第7回大型実験施設とスーパーコンピュータの連携利用シンポジウム」報告
Report on the 7th Symposium for Cooperative Use of Quantum Beam Facilities and Super Computer

筒井 智嗣 TSUTSUI Satoshi

(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室 Diffraction and Scattering Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI

Download PDF (343.51 KB)
SPring-8

 

1. はじめに
 2021年9月14日に、公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)、一般財団法人総合科学研究機構(CROSS)及び一般財団法人高度情報科学技術研究機構(RIST)の主催で、「第7回大型実験施設とスーパーコンピュータの連携利用シンポジウム」が開催された。本シンポジウムは、大型実験施設であるSPring-8/SACLA及びJ-PARC、スーパーコンピュータである「富岳」の登録機関である上記の3登録機関で、実験による実証と計算によるシミュレーションの連携利用による新たな利用成果の創出を目的として一昨年まで毎年再開されてきた。
 2年ぶりに開催された本シンポジウムは、幾つかの点で初めての試みを取り入れて開催することになった。一つは昨今のコロナ禍による講演者及び参加者の感染症拡大防止という観点から採用されたオンライン開催となったこと、もう一つは外部機関の先生方に企画委員としてプログラム選定の段階から参画いただいたことである。今回初めて採用した企画委員会には、秋光純先生(岡山大学)、岸根順一郎先生(放送大学)、遠山貴巳先生(東京理科大学)、中島多朗先生(東京大学)、廣井善二先生(東京大学)、山室修先生(東京大学)に参画していただき、3登録機関の代表とともにシンポジウムのテーマ選定と講演者の選定を行った。
 企画委員会では、今回のシンポジウムでは従来と異なり、敢えて特定のテーマを設定せずに開催することとし、計算機を用いた連携利用を促進するという観点で少し理論研究に重きを置いた以下のようなプログラム編成となった。
・開会挨拶

雨宮 慶幸(JASRI)
柴山 充弘(CROSS)

・各施設の利用状況と三機関の利用促進活動について

木下 豊彦(JASRI)
鈴木 淳市(CROSS)
須永 泰弘(RIST)

・シンポジウムの趣旨説明

秋光 純(岡山大学)

・放射光実験の横断利用による原子ダイナミクスの研究

筒井 智嗣(JASRI)

・X線とレーザーを組み合わせたスピンダイナミクス研究

和達 大樹(兵庫県立大学)

・量子ビームの非弾性散乱実験と連携した強相関電子系の理論研究

遠山 貴巳(東京理科大学)

・中性子散乱と放射光X線散乱によるトポロジカル磁気秩序の研究

中島 多朗(東京大学)

・計算と実験の協奏による生体高分子の作る溶液中での高次構造とそのダイナミクス解析の挑戦

杉山 正明(京都大学)

・超高圧下のミュオンスピン回転・共鳴測定と室温水素化物超伝導

有田 亮太郎(東京大学)

・ガラス転移からアクティブマターまで ~非平衡ソフトマター理論の最前線~

宮崎 州正(名古屋大学)

・パネル・ディスカッション「新しいサイエンスへ向けて」

・閉会挨拶

田島 保英(RIST)

 

 

2. 会議報告
 第1セッションでは、主に放射光X線及び自由電子レーザーの利用もしくはその利用による実証に関する講演が行われた。1件目は筆者自身が、熱電材料を主たるテーマとして放射光の横断的利用、放射光と中性子との連携利用のメリットと最近の熱電材料におけるフォノンに関する講演を行った。2件目は、兵庫県立大学の和達大樹先生による放射光X線と実験室光源のレーザー、自由電子レーザーを利用した遷移金属磁性体における外場によるスピン反転制御、その観測としてのスピンダイナミクスに関する講演が行われた。3件目は東京理科大学の遠山貴巳先生による放射光X線や中性子を用いた非弾性散乱スペクトルの解釈に向けた理論計算、及び自由電子レーザーを用いた短寿命の電子系励起状態に関する理論計算に関する講演が行われた。
 第2セッションでは、主に中性子の利用に関する講演が行われた。1件目は東京大学の中島多朗先生が、近年精力的な研究が進められている磁気スキルミオンの種々の問題について中性子と放射光を利用した磁気構造に関する研究に関する講演が行われた。2件目は京都大学の杉山正明先生より、中性子散乱における水素の同位体効果を効果的に利用した生体高分子の溶液散乱やその解析に基づく生体時計に関わる高分子のダイナミクスに関する講演が行われた。
 第3セッションでは、理論に関する講演が行われた。1件目は東京大学の有田亮太郎先生より、最近圧力下で室温に近い超伝導転移温度を有する化合物における超伝導発現機構を微視的に理解するプローブとして水素様の振舞いを示すミューオンをプローブとする研究指針、強い量子効果のもとでのフォノンに関する理論計算に関する講演が行われた。2件目は名古屋大学の宮崎州正先生より、ガラスと非平衡状態に関する2つのテーマについて、ガラス転移の定義における問題点及び、非平衡状態と同時に扱う問題設定からお話しいただいた後、当該分野の理論研究の最前線についての講演が行われた。
 最後のパネル・ディスカッションでは、東京理科大学の遠山先生、東京大学の山室先生と筆者がモデレータとなり、各セッションの講演者である和達、中島、杉山、有田、宮崎各先生をパネラーとして行った。議論は、2つのテーマで行った。一つは大型実験施設とスーパーコンピュータのサイエンスベースでの先端利用に向けてのテーマとして励起状態及び非平衡状態について議論し、もう一つは実験施設と計算機の連携利用に向けてのテーマとしてモデリング及びシミュレーションについて議論した。

 

 

3. おわりに
 本シンポジウムでは、固体物理を中心とした大型実験施設やスーパーコンピュータの連携利用による課題解決を念頭に置いたご講演を企画委員会の先生方が推薦する第一線で活躍されている先生方にご講演をいただいた。また、これまでのシンポジウムの参加者の2倍近い222人の方々にご参加いただいた。オンラインで出張を伴わない参加が可能となったことが要因の一つとして考えられる。おかげさまでシンポジウムを盛会のうちに終えることができた。実行委員の一人として感謝申し上げたい。一方で、初めてのオンライン開催の課題として、講演に対する質疑応答やパネル・ディスカッションの進め方について手探りの部分がぬぐえず、活発な議論を進めるための準備が必ずしも十分ではなかったことは反省点である。コロナ禍が収束し、従来の対面方式による開催も期待されるが、今後連携利用を推進及び成果の創出に結びつくシンポジウムとなるように今後の開催方法やテーマの選定方法を検討したい。

 

 

 

筒井 智嗣 TSUTSUI Satoshi
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0802
e-mail : satoshi@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794