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Volume 26, No.4 Pages 388 - 396

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SPring-8シンポジウム2021報告
SPring-8 Symposium 2021 Report

西堀 英治 NISHIBORI Eiji[1]、横谷 尚睦 YOKOYA Takayoshi[2]

[1]SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事/筑波大学 数理物質系 Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba、[2]岡山大学 異分野基礎科学研究所 Research Institute for Interdisciplinary Science, Okayama University

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SPring-8 SACLA

 

はじめに
 去る9月17日(金)、18日(土)に、SPring-8シンポジウム2021が、SPring-8ユーザー協同体(以下、SPRUC)、高輝度光科学研究センター(以下、JASRI)、理化学研究所(以下、理研)の三者の主催により開催されました。第10回目となった本年度のシンポジウムは、学術界のみならず、産業界の研究者や技術者の参加により、変化する社会にどのように対応していくかではなく、むしろ新たなSPring-8の将来像を描き、そこからのバックキャスティングによる現在と将来の利用について議論ができることを期待し、「SPring-8将来像からのバックキャスティング」と題し、オンラインで2日間開催されました。講演者でSPring-8への来所が可能な方はSPring-8普及棟大講堂に集まり講演する形をとりました(写真1)。質問はチャットを経由して受け取り、座長が講演者に伝えるようにしました。開催方式の検討と当日の運営についてはSPRUC庶務幹事の奈良先端科学技術大学院大学の松下智裕教授にご尽力いただきました。

 

写真1 当日のSPring-8普及棟大講堂

 

 

セッションI オープニング
 オープニングセッションでは、木村昭夫SPRUC会長(写真2)より開会の挨拶がありました。続いて、台風のため急遽オンライン参加となった理研の小寺秀俊理事から挨拶がありました。今回は、接続の都合で画面なし音声のみの挨拶となりました。JASRIの雨宮慶幸理事長(写真3)より、現地での挨拶がありました。最後に、文部科学省 科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 古田裕志課長から来賓挨拶をいただきました。来賓挨拶も、接続がうまくいかなかったため音声のみとなりました。それぞれの方々の挨拶の中で、8月にSPring-8、SACLAで行われたグリーンファシリティ宣言が大きく取り上げられ、SDGsの中でのSPring-8およびSPRUCの役割を強く認識させられました。

 

写真2 SPRUC木村会長 写真3 JASRI雨宮理事長

 

 

セッションII 施設報告
 セッションIIでは、施設報告として、理研とJASRIから、理研放射光科学研究センター 物理・化学系ビームライン 基盤グループ 矢橋牧名グループディレクター(GD)(写真4)、JASRI 光源基盤部門 後藤俊治部門長(写真5)、JASRI 放射光利用研究基盤センター 坂田修身副センター長(写真6)、理研 城地保昌博士(写真7)による講演が行われました。矢橋GDからは、「近況と展望」と題した講演が行われました。SACLA入射が完全に実現したことを述べられた後、施設内で進められている改修状況について説明がありました。HAX-PESの立ち上げ状況がビームライン基幹部から計測コンポーネントだけでなく、制御システムまで含めて進められていることが紹介されました。続けてBL35XU、BL20B2など共用ビームライン(BL)の高度化の状況が紹介されました。その後に、BL05XUの高エネルギーテストの状況について説明がありました。また、DXデータインフラの改編の説明がありました。ユーザーがリアルタイムで参加するか?しないか?で場合分けをし、そのそれぞれの場合について説明がありました。それ以外の高度化として試料準備のDX化の粉末回折の例が紹介されました。検出器の高度化としてSPring-8で開発されたCITIUSの紹介がありました。施設のグリーン化・老朽化対策の最後として、SPring-8-IIのアップデートについても触れ講演を終わられました。
 後藤部門長からは、「利用制度について」と題した講演が行われました。最初に国の中間評価の指摘に基づき検討が始まった利用制度の検討状況の背景と目的について説明がありました。検討状況は共用BLから始めていること、課金ルールを変えない形で進められているとのことでした。2022A期より随時受付の緊急・特別課題、随時受付で1時間単位利用のテストユース課題、大学院生提案型課題(長期型)が設定されることが報告されました。2021年8月のSPring-8選定委員会で了承されたとのことです。2022B期以降として、長期有償利用課題の新設と課題募集の頻度を年6回にすることを検討しているとのことでした。今後の検討課題は、入口課金の拡張があるとして、競争的資金以外への課金や海外ユーザーへの課金などが検討されているとの話がありました。
 坂田副センター長からは、「回折散乱BL再編の現状」と題した講演が行われました。最初に再編のねらいとして基盤的な分析装置群の高性能化や産学連携のさらなる促進を目指しているとの説明がありました。次に、研究会からのレスポンスと要望として、各研究会から出された要望が紹介されました。続けて、2022A期以降のBL13XUのハッチと装置の配置について説明がありました。4つのハッチに6軸回折計、回折計測汎用フレーム、高分解能粉末PDF回折計、ナノビーム回折計が設置されるとの説明がありました。その後、高分解能粉末PDF回折計の詳細について機能、スペックの説明がありました。また、6軸回折計、回折計測汎用フレームについても簡単な説明がありました。最後にこれらのBLは年6回の課題募集を計画しているとの話がありました。
 城地保昌博士からは、「SPring-8データセンター構想」と題した講演が行われました。まず、モチベーションとして解析律速の解消についての説明がありました。データは大量にとれるようになったが、解析に時間がかかっている。その解消が目的であるとの説明がありました。解析律速の原因と対策として、データセンターの設置により並列解析を促進し時間の短縮を目指すとのことでした。データセンターに求められる機能として、実験中にデータの質が確認できること、SPring-8外の研究者と円滑に情報共有できること、外部の計算機資源(富岳など)とシームレスに接続できること、データが管理できることが重要だと考えているとの報告がありました。数値性能についてもCPU数、GPU数、ストレージなどの具体的な数値が示されました。また、SPring-8の共用実験ネットワークの再編が進められていることについても説明がありました。情報はhttps://dncom.spring8.or.jp/で紹介されるとのことでした。

 

写真4 理研 矢橋GD 写真5 JASRI後藤部門長
写真6 JASRI坂田副センター長 写真7 理研 城地氏

 

 

セッションIII SPring-8の将来像
 セッションIIIでは、SPring-8の将来像と題して3件の講演がありました。初めに、関西学院大学の水木純一郎教授(写真8)から、「持続可能な社会実現に欠かせないSPring-8」と題した講演が行われました。最初に事業仕分けと日本の半導体産業を挙げ、バックキャストの重要性が述べられました。将来像として、SPring-8から毎年100名以上の博士取得者が生まれることが掲げられました。SPring-8-大学連携をGGSと名付け、そのあり方についての説明がありました。キーワードはグローバル化であり放射光の国際性を利用した活動の例の説明がありました。最後に、持続可能な社会実現に欠かせない人材を輩出するSPring-8と講演をまとめられました。
 次に、名古屋大学の唯美津木教授(写真9)より、「物質科学の発展に資するSPring-8での計測の将来像」と題した講演が行われました。最初に複数の分野の融合がサイエンスを生み出すということを述べられました。物質科学者として計測を物質開発にフィードバックすることの重要性が様々な例を使って丁寧に述べられました。その後、ご自身の触媒の最先端可視化研究の成果が示されました。最後に1.オンリーワンの研究開発を実現する場、2.社会研究開発の基盤ツールを提供する場としてSPring-8の将来像を設定されました。
 最後に、物質・材料研究機構の石井真史博士(写真10)より、「データサイエンスにおけるSPring-8の役割」と題した講演が行われました。昔はSPring-8、現在はNIMSでデータプラットフォームセンターにいる立場からの講演であるとの話がありました。最初にマテリアルズ・インフォマティクスの中のデータ利用のあり方について説明がありました。「データ流通」、「データ統合」の説明があり、概念としてのOntologyやSchemaの説明がありました。その次に、XAFSのデータベースとしてMDR XAFS DBの説明がありました。Ontologyの例を述べ、我々の現時点の状況について述べられました。最後に将来像として放射光を計測の中で機械接続と可能な形で体系化すること、データをつなげデータサイエンスでの利用を促進すること、知識基盤を作り、データの信頼性を高めることを述べ、まとめられました。

 

写真8 関西学院大学 水木氏 写真9 名古屋大学 唯氏 写真10 物質・材料研究機構 石井氏

 

 

セッションIV パネルディスカッション
 セッションIVでは、今回で5回目となる「パネルディスカッション」が行われました。木村会長を司会者とし、パネリストとして、石川哲也氏(理研 放射光科学研究センター)(写真11)、矢橋牧名氏、唯美津木氏、栗栖源嗣氏(大阪大学)(写真12)、雨宮理事長、鈴木宏輔氏(群馬大学)(写真13)、高山裕貴氏(兵庫県立大学)(写真14)、冨田夏希氏(大阪大学)(写真15)、水木純一郎氏、石井真史氏が会場およびオンラインで参加しました(写真16)。当パネルディスカッションのテーマは、「SPring-8将来像からのバックキャスティング」です。最初に、司会の木村会長よりセッションIIIを振り返り将来像の設定の話がありました。次に、矢橋氏より、「2050年の社会とSPring-8」と題し、将来像のピン止め係としての話題提供がありました。2050年の理由としてグリーンファシリティ宣言と、SPring-8-IIの賞味期限が2050年に対応するとの説明があり、4つのシナリオが示されました。シナリオ1は、2050年はSPring-8-IIになっているというpositiveなものでした。シナリオ2は、SPring-8はIIにはならず、SPring-8のままかろうじて稼働中というものでした。シナリオ3は、国家群の1国となりSPring-8は稼働中、シナリオ4はSPring-8が2050年にはなくなっているというものでした。この発表に続き、唯氏よりスライドを使った科学技術イノベーション白書の扉絵が示されました。その後、人財、技術、環境を繋ぐSPring-8という将来像が説明されました。次に、生命科学分野の重要性が木村会長より述べられ、栗栖氏より、「生命科学研究における構造生物学の位置づけから考えてみた」と題して将来像と考えが述べられました。次に現在の構造生物学の位置づけが示され、それに続けて将来の構造生物学の予想が示されました。将来の構造生物学は、Google Earthの細胞版のようなものであることなど分かりやすい絵を使った30年後の未来像が示されました。現在何をすべきかについては、データ科学の進歩によるたんぱく質の折り畳みが予測できた例や、データイメージの公開によるCOVID-19の構造解析の進展などが示されました。雨宮理事長から唯氏、栗栖氏に質問があった後、若手研究者として、鈴木氏、冨田氏、高山氏が講演に対する意見を述べました。物質科学のデータに関して石井氏が意見を述べた後、唯氏から石井氏へ現状の問題点が何か?についての質問がありました。続けて、木村会長より今日の発表の中から大学院生の長期利用課題についての話があり、JASRI 木下豊彦利用推進部長より、新しい大学院生提案型課題の詳細についての説明がありました。その後、水木氏よりご自身の構想について詳細な説明がありました。また、石川センター長からも人材育成へのコメントがありました。最後に木村会長が議論をまとめたところ、東北大学高田氏よりSPring-8が宣言したカーボンニュートラルについての進め方についての質問が石川センター長に向けてありました。以上のように意見をまとめる形ではなく様々な方向に議論が進みどちらかといえば考え方の多様性が示された形で終了しました。

 

写真11 理研 石川センター長 写真12 大阪大学 栗栖氏
写真13 群馬大学 鈴木氏 写真14 兵庫県立大学 高山氏
写真15 大阪大学 冨田氏 写真16 パネルディスカッション会場の様子

 

 

セッションV 利用トピックス1
 セッションVは、利用トピックス1として4件のユーザーからの研究発表がありました。1件目は、「SPring-8放射光CTを用いたはやぶさ2サンプルの分析と準備」と題して立命館大学の𡈽山明氏(写真17)より講演がありました。はやぶさ2の2回のタッチダウンの説明から始められ、2021年6月より本格的な回収物の探索が行われているとのことでした。はやぶさ2探査機が明らかにしたC型小惑星リュウグウの特徴について、赤外スペクトルや拡大写真を使って説明がありました。研究の目標が示された後、サンプル分析のチーム構成、SPring-8の2019Aから2021Aの長期利用課題での進め方についての報告がありました。BL20XUでは吸収、回折、微分位相の3種類のCTを統合した統合CTを駆使して回収物の組成の決定を進めているとのことでした。BL47XUでは2種類の分析ナノCTにより微小粒子の分析を行っていました。一つは結像型ナノCTで、もう一つは位相像を得るSIXMです。これらの計測に最終的にはTEMを組み合わせてC型小惑星の風化プロセスを明らかにしたとのことでした。2件目として、「高圧下その場における非晶質物質の動径分布関数測定」の講演が愛媛大学の河野義生氏(写真18)より行われました。高エネルギーのX線を利用した非晶質物質の研究について技術開発も含めて進めており、その技術開発も含めた紹介を行うとの報告がありました。目標は液体-液体転移やマグマなど広い科学分野があるとのことでした。最初に実験技術の現状の到達点として、測定Q範囲のグラフが示されました。国際的には同様な開発はAPSやESRFで主に行われているとのことでした。河野氏は、APSのBLサイエンティストで高圧非晶質の研究を進めていたことがあり、その当時の成果であるSiO2の高圧構造変化(Phys. Rev. Lett. 2020)の研究が報告されました。SiO2は室温常圧の4配位が高圧で6配位に変化することが示され、さらなる高圧で配位数が増えるかどうかが地球科学の大きな問題とのことでした。現在SPring-8の基盤開発プログラムで進めている高エネルギー高圧の動径分布(PDF)解析で世界最高性能を目指しているとのことでした。BLはBL05XUで、X線エネルギーは100 KeVを利用しています。現状のデータをAPSでのデータと比較して示され、装置のQ範囲と強度が世界最高のデータが得られていました。3件目は、京都大学の奥地拓生氏により、「衝撃圧縮による惑星物質の高密度原子配列の生成過程」と題した講演が行われました。最初に、45億年前に太陽系で起こったことを地上で実験していると研究全体の説明がありました。クレータや隕石に残る45億年前の衝突の証拠に注目し衝突の研究をしているとのことでした。次に、静的圧縮との対比から衝突の対象となる衝撃圧縮の過渡現象であるがゆえの難しさについての説明がありました。SACLAで行われている高強度レーザーを使った実験についてセットアップの説明がありました。最新の成果としてカンラン石のナノ秒スケールの衝撃波の伝搬に伴う酸素層間の構造変化についての報告がありました。セッションの最後の講演として、「高エネルギーX線コンプトン散乱によるリチウム電池研究」が群馬大学の鈴木宏輔氏より発表されました。蓄電池研究に関するイントロが示された後、コンプトン散乱による研究を進めていることが述べられました。次に、コンプトン散乱のインパルス近似による原理とその特徴が示されました。研究成果として最初にLi過剰系正極材料の研究成果の報告がありました。差分コンプトンプロファイルと理論計算との比較から酸素とMnの電子軌道の状態の知見が得られたとのことでした。次に実電池を使った研究成果の報告がありました。充放電中の電子系の変化の可視化に成功していました。

 

写真17 立命館大学 𡈽山氏 写真18 愛媛大学 河野氏

 

 

セッションVI 利用トピックス2
 セッションVIは、利用トピックス2として4件のユーザーからの研究発表がありました。まず、「COVID-19治療への応用を目指した高親和性ACE2の開発とその構造解析」と題した講演が大阪大学の有森貴夫氏(写真19)より行われました。皆さんの関心の高いCOVID-19(SARS-CoV-2)の研究でした。ウイルスが結合する人のACE2について説明があり、その結合を阻害することが感染を止めるのに有効だという説明がありました。CoV-2、ACE2、複合体の構造が昨年2月に海外グループから報告されていたとのことでした。研究の戦略として変異株にも有効な改変ACE2の説明がありました。高親和性ACE2の開発、その治療効果、変異株への効果など多くの研究成果が示されました。その成果の一つとして、高親和性ACE2−RBD複合体のBL44XUを用いた構造解析の成果が報告されました。これが、国内第1号のSARS-CoV-2関連タンパク質の立体構造だったとのことでした。最後に、治療薬応用に向けた酵素活性を止めるという今後の課題の解決にも構造解析の結果が貢献することが示され、アミノ酸置換で酵素活性を止めた治療薬開発が進んでいるとのことでした。次に、名古屋工業大学の林好一氏(写真20)より、「SPring-8と超秩序構造科学」の講演がありました。最初に科研費学術変革領域研究(A)超秩序構造科学について、班構成、研究目的、内容についての全体的な説明がありました。超秩序構造を結晶・非晶質全ての「ボリューム」をもつ非周期秩序構造と定義し研究を進めているとのことでした。観測手法と理論、制御手法の開発による新しい学理の構築を目指していると発表がありました。ガラスの研究例やパーシステントホモロジー解析の説明がありました。林氏自身の研究として、ホログラフィーの有機物質への応用例の研究が紹介されました。さらに、タンパク質研究についてもPSIIタンパク質のホログラフィーの研究の現状が紹介されました。最後に、SPring-8で開発する装置の3種類を紹介し発表を終えられました。3件目は、名古屋大学の水口将輝氏(写真21)より、「ナノスケール実用スピンデバイス開発のための放射光利用」の発表がありました。導入としてスピントロニクスの原理や応用例について簡単な説明が行われ、スピントロニクスと磁石材料の両者の現在解決すべき課題が示されました。放射光のスピントロニクス材料の解析例としてXMCDの原理と結果が、磁石材料開発の放射光利用例として異常分散X線回折の結果が報告されました。スピントロニクス現象の解明に電界印可のホログラフィーの研究など、SPring-8の様々なBLを利用した幅広い研究が行われていることが紹介されました。後半では、SPRUCの分野融合型研究グループ「ナノデバイス科学」の体制、成果が示され、材料からデバイスまでの一貫した研究ができたとのことでした。セッション最後の講演として、「固液界面構造解明と可視化および溶液溶質相関~バックキャスティング型分野融合研究を経て~」と題した講演が関西学院大学の藤原明比古氏(写真22)により行われました。SPRUCの分野融合の研究グループが進めてきた研究を2期4年分まとめて報告すると最初に示されました。次に、SPRUC研究会とSPring-8の申請課題の関係、それらとSPRUC分野融合研究グループと「新分野創成利用課題」との関係を整理して説明されました。バックキャスティング型の説明として、実用材料の課題である腐食やメッキを含めた固液界面を最初に取り上げ、その問題を解決するために、計測法についてもSPring-8の約半分のBLを利用する多くの計測法が必要となり、それらを解決するための研究組織を最後に構築したとのことでした。回折、散乱と分光の専門家を横糸に、材料・課題を有する企業研究者を縦糸とし、それに実材料観測の大学研究者と理論研究者を加えて組織を構築したとのことでした。最初の2年間で、実用と計測科学の間の分野融合が行われたことを年表と実例を使って丁寧に説明されました。その後の2年は課題解決と新分野創成に向けた研究が進められたと説明があり、錆の形成過程の観測について発表がありました。メッキでも成果があるとのことですが、本シンポジウムの翌週の学会で発表されるとのことでした。最後に、プロジェクトの意義、波及効果として、手法、技術の課題の顕在化、新規の分野融合組織から研究会への定着化などが行えたとのことでした。今後の課題として、共通基盤と個別ノウハウの線引きや分野を融合する際のマッチングとそれを率いるリーダーシップなどが上げられました。

 

写真19 大阪大学 有森氏 写真20 名古屋工業大学 林氏
写真21 名古屋大学 水口氏 写真22 関西学院大学 藤原氏

 

 

セッションVII SPRUC総会・YSA授賞式、受賞講演
 SPRUC総会、Young Scientist Award(YSA)授賞式、受賞講演が行われました。総会では、まず、木村会長による挨拶があり、続けて、行事、予算、研究会での活動状況についての報告がありました。最後に、今後のSPRUCの活動予定が示されました。続いて、SPRUC2021 YSA授賞式が行われました。冒頭、尾嶋正治選考委員長より、10名の応募があり、計2名を受賞者としたことと、それぞれの受賞理由の紹介がありました。今回は、SACLA関係の申請があったため、審査委員にSACLA-UCの米田会長にも審査に加わっていただいたとのことでした。授賞式の後、受賞者である高山裕貴氏と冨田夏希氏による受賞講演が行われました(写真23)。高山氏は、「コヒーレントX線を用いたレンズレス時空間階層イメージング法の開発」について発表しました。大きな成果はCDIを時間分解測定に拡張したことです。BLは兵庫県BL24XUを利用し、空間分解能2次元10 nm、3次元40 nmを達成しています。独自の開発項目は構造変化の連続性を位相回復に取り込んだアルゴリズムを開発し、そのための装置開発を行ったことです。様々な形で装置の性能評価が示され、最後に今後の展開をまとめられました。冨田氏は、「GeV光子ビームを用いたハドロン質量起源の探索」について発表しました。発表は、SPring-8ユーザーではそれほど多くない素粒子・原子核分野のため、質量の起源の簡単な説明から始められました。GeV領域のガンマ線を得るためにSPring-8の電子ビームに紫外レーザー光を当てたコンプトン散乱を利用していました。GeV領域では世界唯一の光源であるとのことでした。リング棟外に設置されたLEPS2実験棟について大型の検出器が入っているなど普段ほとんど見られないSPring-8サイト内の装置の説明がありました。検出器開発の説明と研究成果を簡単に触れ、発表をまとめられました。

 

写真23 受賞講演と受賞者

 

 

セッションVIII クロージング
 クロージングセッションでは、最初に理研石川センター長より総括がありました。対面からハイブリットになったことでなくなったものを注意する必要があるとの指摘がありました。産官学の役割がgivenなのか再定義できるのかは今後の議論が必要との意見がありました。パネルディスカッションでは、将来が分野によって異なるということが分かったとのことでした。2日目の講演では、分野が広がっていくことが良く分かったと同時に、広がりをまとめるべきかより広げるかを考えていく必要があるとのことでした。最後に産業利用報告会とSPring-8シンポジウム両者を見てまだまだカバーできていない部分があり、今後の議論を進めたいとまとめられました。次に、主催機関を代表してSPRUC木村会長より閉会の挨拶がありました。会長自身の全体の感想が述べられ、バックキャスティングをキーワードに、手法開発、データサイエンス、人材育成に関する感想がシンポジウムの内容とリンクさせて述べられました。最後に参加者数が375名であったことの報告、および実行委員を始めとした関係者、参加者へのお礼の言葉がありました。

 

 

セッションIX ポスターセッション
 クロージングセッションの後、REMOを使ったポスターセッションが行われました。SPRUC研究会、共用BL、理研・専用BL、施設、パートナーユーザー、長期利用課題から合計90件を超えるポスターが掲示されました。フロアが細かく分かれているため、全体的には参加者があまり多くはなかったように感じられる部分もありました。また、今回はポスターセッションが一番最後にスケジュールされたため、参加者が減少した可能性もあります。発表の各部屋の賑わい方には大きな差が見られました。会合を活発に開いているような研究会やBL再編に関係するポスターでは8席満席で議論が進められていました。ポスターセッションでは、サイエンスより、BLの現状や装置開発、計測技術に関する情報交換が多くを占めているように見られました。講演では聞けない細かい点をじっくり議論しているようでした。REMOの操作は、ホワイトボードにポスターを貼ることができる点など操作性が良く、Zoomの画面共有に比べるとずいぶん使いやすく感じられました。対面の場合のように、ふらっと立ち寄れるような気軽さはないものの、今回のポスターセッションでも、施設とユーザーの対話という重要な機会は持てたと思われます。

 

 会議のプログラムの詳細とアブストラクトは下記Webページにて公開されています。会議システムを利用して集計した参加者数は480名、ポスターセッションの参加者数は263名でした。
http://www.spring8.or.jp/ja/science/meetings/2021/sp8sympo2021/

 

 

SPring-8シンポジウム2021プログラム
9月17日(金) <オンライン開催>
セッションI オープニング

座長:西堀 英治(SPring-8シンポジウム2021実行委員長、筑波大学)

13:00-13:05 開会挨拶
木村 昭夫(SPRUC会長、広島大学)
13:05-13:20 挨拶
小寺 秀俊(理化学研究所 理事)
雨宮 慶幸(高輝度光科学研究センター 理事長)
  来賓挨拶
古田 裕志(文部科学省 科学技術・学術政策局 研究開発基盤課長)

 

セッションII 施設報告
座長:大浦 正樹(理化学研究所)

13:20-13:50 近況と展望
矢橋 牧名(理化学研究所)
13:50-14:05 利用制度について
後藤 俊治(高輝度光科学研究センター)
14:05-14:25 回折散乱BL再編の現状
坂田 修身(高輝度光科学研究センター)
14:25-14:40 SPring-8データセンター構想
城地 保昌(理化学研究所)

 

セッションIII SPring-8の将来像
座長:木村 昭夫(SPRUC会長、広島大学)

15:00-15:15 持続可能な社会実現に欠かせないSPring-8
水木 純一郎(関西学院大学)
15:15-15:30 物質科学の発展に資するSPring-8での計測の将来像
唯 美津木(名古屋大学)
15:30-15:45 データサイエンスにおけるSPring-8の役割
石井 真史(物質・材料研究機構)

 

セッションIV パネルディスカッション
司会(モデレータ):木村 昭夫(SPRUC会長、広島大学)

15:50-17:30 「SPring-8将来像からのバックキャスティング」
パネリスト:雨宮 慶幸(高輝度光科学研究センター)
石川 哲也(理化学研究所)
矢橋 牧名(理化学研究所)
石井 真史(物質・材料研究機構)
水木 純一郎(関西学院大学)
鈴木 宏輔(群馬大学)
高山 裕貴(兵庫県立大学)
冨田 夏希(大阪大学)
唯 美津木(名古屋大学)
栗栖 源嗣(大阪大学)

 

9月18日(土) <オンライン開催>
セッションV 利用トピックス1

座長:河村 直己(高輝度光科学研究センター)

9:30- 9:50 SPring-8放射光CTを用いたはやぶさ2サンプルの分析と準備
𡈽山 明(立命館大学)
上椙 真之(高輝度光科学研究センター)
松本 恵(東北大学)
9:50-10:10 高圧下その場における非晶質物質の動径分布関数測定
河野 義生(愛媛大学)
10:10-10:30 衝撃圧縮による惑星物質の高密度原子配列の生成過程
奥地 拓生(京都大学)
10:30-10:50 高エネルギーX線コンプトン散乱によるリチウム電池研究
鈴木 宏輔(群馬大学)

 

セッションVI 利用トピックス2
座長:田中 義人(兵庫県立大学)

10:55-11:15 COVID-19治療への応用を目指した高親和性ACE2の開発とその構造解析
有森 貴夫(大阪大学 蛋白質研究所)
11:15-11:35 SPring-8と超秩序構造科学
林 好一(名古屋工業大学)
11:35-11:55 ナノスケール実用スピンデバイス開発のための放射光利用
水口 将輝(名古屋大学)
11:55-12:15 固液界面構造解明と可視化および溶液溶質相関
~バックキャスティング型分野融合研究を経て~

藤原 明比古(関西学院大学)

 

セッションVII SPRUC総会・YSA授賞式、受賞講演
司会:藤原 秀紀(SPRUC企画幹事、大阪大学)

13:00-13:20 SPRUC活動報告、2020年度決算・2021年度予算報告等
13:20-13:30 SPRUC2021 Young Scientist Award授賞式
13:30-13:45 Young Scientist Award受賞講演1
コヒーレントX線を用いたレンズレス時空間階層イメージング法の開発

高山 裕貴(兵庫県立大学)
13:45-14:00 Young Scientist Award受賞講演2
GeV光子ビームを用いたハドロン質量起源の探索

冨田 夏希(大阪大学 核物理研究センター)

 

セッションVIII クロージング
座長:田中 義人(SPring-8シンポジウム2021PG委員長、兵庫県立大学)

14:10-14:15 総括
石川 哲也(理化学研究所 放射光科学研究センター長)
14:15-14:20 閉会挨拶
木村 昭夫(SPRUC会長、広島大学)
14:20-14:30 ポスターセッションの参加方法説明
(REMO Conferenceサイトへの接続方法と閲覧について)

 

セッションIX ポスターセッション

(REMO Conferenceサイト公開時間 9/18 9:30~17:00)

14:30-16:30 SPRUC研究会、共用BL、理研・専用BL、施設、パートナーユーザー、長期利用課題

 

 

 

西堀 英治 NISHIBORI Eiji
筑波大学 数理物質系
〒305-8571 茨城県つくば市天王台1-1-1
TEL : 029-853-6118
e-mail : nishibori.eiji.ga@u.tsukuba.ac.jp

 

横谷 尚睦 YOKOYA Takayoshi
岡山大学 異分野基礎科学研究所
〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3丁目1-1
TEL : 086-251-7897
e-mail : yokoya@cc.okayama-u.ac.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794