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Volume 26, No.3 Page 250

理事長室から 待った無しの「2050年カーボンニュートラル」 -IPCC報告書を読んで-
Message from President Urgent “Carbon Neutrality by 2050” – What IPCC Report Suggests –

雨宮 慶幸 AMEMIYA Yoshiyuki

(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 IPCC1)の第6次評価報告書が8月9日に公表された。「人間の活動のせいで、地球が温暖化しているのは疑いの余地はなく、熱波や豪雨、干ばつなどの気候危機は続く。危機を和らげるのは、我々の選択にかかっている。」今回の報告書では、温暖化の影響について「疑いの余地はない」と言い切り、世界で起きている熱波や大雨などの極端現象に関して、「人間の影響が認められる。」と明記されている。温暖化の原因が人間活動である可能性を「90%以上」とした2007年の第4次評価報告書に対して、懐疑論も一部にはあったが、こうした見解を一蹴して「疑いの余地はない」と断言している。最近毎年のように日本で起きるゲリラ豪雨・記録的大雨、頻発する熱波によるカナダ・米国カリフォルニア・ギリシャ・イタリア・トルコでの大規模な山火事、トルコ・ドイツ・ベルギー・中国での大洪水等々、最近は予測と矛盾しない気候危機が実際に起きていて、そのこともあり、今回の報告書に極めて大きな衝撃を受けた。
 報告書によれば、現在の大気中CO2濃度は410 ppmで、過去200万年のどの時期よりも高く、この半世紀の気温上昇は少なくとも過去2000年で最も早い。夏の北極の海氷面積は過去1000年で最小になり、20世紀以降の海面上昇も過去3000年で経験したことのない速度で進んでいる。現在の世界の平均気温は、産業革命から約1.1°C上昇。最近10年の平均気温は、直近で最も暖かかった6500年前より高い、という。その頃は、日本付近で海面上昇が進み、今より2~3 m高く、関東平野の奥深くまで海が入り込んだ縄文海進が起きた頃に相当する。東大本郷の弥生キャンパスで弥生時代の貝塚が発見されたことを思い出した。このまま行けば、東大キャンパスは海岸に位置するようになるのか?等々、身近に色々と考えさせられた。報告書によれば、人類は今まで経験したことのない環境変化の只中にあり、それが何世代にもわたって続く。変わってしまった気候システムのいくつかは元に戻すことはできない。しかし、温暖化を抑制することで、その変化を遅らせたり、止めたりすることはできる、という。そのための方策が、2015年の温暖化対策の国際ルール「パリ協定」で掲げた目標である、産業革命前からの温度上昇を2°C以下、もしくは、島国への影響を最小限にするには1.5°C以下に抑えること。
 我が国では温暖化抑制に向けて、2030年までに排出量を2013年度比46%減らす目標と2050年の実質排出ゼロを目指す「2050年カーボンニュートラル」を掲げている。報告書は人類への厳戒警報であり、今、私たちは国境・国益を超えた「人類という意識」を明確に持ち、強い意志を持って対策を進めていく必要がある。特に、科学技術の進歩によって引き起こされた気候危機に対しては、科学技術に携わる科学者・研究者の知恵と力を結集して解決する責任がある。とりわけ、解決のための手段と知見を提供できる放射光科学に携わる我々研究者の果たすべき役割は大きいと考える。待った無しの「2050年カーボンニュートラル」に向けて、SPring-8/SACLAにおいて「グリーンファシリティ宣言」を行うべく、今、準備を進めているところである。

 

1)Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794