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Volume 26, No.3 Pages 324 - 328

4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

専用ビームラインにおける評価・審査の結果について
Review Results of Contract Beamlines

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 SPring-8に設置されている専用ビームラインは、登録施設利用促進機関であるJASRIの専用施設審査委員会において、「放射光専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に基づき、評価・審査等を実施し、その評価・審査の結果は、SPring-8選定委員会に諮った後に通知・公表されます。
 以下の2機関3本の専用ビームラインについては、2021年6月に専用施設審査委員会(以下、本委員会という)で評価・審査を実施し、その評価審査の結果を2021年8月に開催しましたSPring-8選定委員会に諮り、承認されましたので以下、報告します。

 

 

中間評価
・サンビームBMビームライン(BL16B2)
・サンビームIDビームライン(BL16XU)
 (設置者:産業用専用ビームライン建設利用共同体)

事後評価
・広エネルギー帯域先端材料解析ビームライン(BL15XU)
 (設置者:国立研究開発法人物質・材料研究機構)

 

 

 産業用専用ビームライン建設利用共同体が設置したサンビームBMビームライン(BL16B2)およびサンビームIDビームライン(BL16XU)は、同時期に設置され上記共同体により運用されている専用ビームラインです。前回の審査結果から6年間で契約を更新し、3年が経過したことから、本委員会で中間評価を実施しました。評価結果は、ともに今後の運用を「継続」することとなりました。
 国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)が設置した広エネルギー帯域先端材料解析ビームライン(BL15XU)は、設置者からの契約解除の申し出により、2021年9月末で撤退することが決定したことから、本委員会で事後評価を実施しました。事後評価の結果は、当初の設置目的を十分に達成した専用ビームラインであると評価されました。

 

 評価・審査結果の詳細については、以下、各施設の報告書を参照ください。

 

 

サンビームBM・IDビームライン(BL16B2・BL16XU)
中間評価報告書

 

 「サンビーム」は、産業界でSPring-8による高度な材料評価手法が必要と考えた13社が「産業用専用ビームライン建設利用共同体」(以下、共同体)として集まり、挿入光源のビームラインBL16XUと偏向電磁石光源のビームラインBL16B2の2本の専用ビームラインを1998年に建設し、1999年より利用している。このビームラインの目的は、SPring-8を活用した材料評価技術を参加各社が活用し、各社の技術課題の解決に貢献させることにある。従って、サンビームでは限られた手法でチャンピオンデータを生み出すというよりもむしろ、複数の汎用的手法を準備し、これらの中から各社が自由に選択して活用することを設計思想として整備されてきた。
 現在の第三期契約期間(2018年4月~2024年3月)では、「製品化・実用化とその成果の発信を行いながら様々な社会問題の解決と豊かな社会の実現に貢献する」という目標設定の上で、2018年5月に承認された計画に基づいて、設備面、運営面を改善しながら進めて来られ、産業利用成果が着実に得られていることが全体概要として報告された。2017年10月に実施された本第三期の計画審査においては、「施設運用は順調で機器整備は計画通りだが、中間評価で指摘された利用成果の情報発信強化の取り組みに特段の進捗がなく、また成果専有と成果非専有を適切に判断して実施する必要がある」との指摘があったために実施計画を再提出される経緯があったが、第三期前半は第二期に対して、成果公開発信数も成果専有利用時間も大幅に増加すると共に製品開発や事業に対する貢献が報告され、取り組みが格段に進んだことが見受けられ、専用施設審査委員会(以下、本委員会)は第三期後半も当該ビームラインの設置と運用を「継続」することを勧告することが妥当であると判断した。
 以下、共同体から本委員会に提出された「サンビームID/BM中間評価報告書」と2021年6月1日に開催された委員会での報告および討議に基づき、以下の点についてその評価と提言を記す。

 

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 サンビームではこれまで毎年1,000万円程度の小規模な設備改造に加えて5年に1回程度1~2億円程度の大型設備改造を実行することを継続し、共同体各社の解析ニーズの高度化・多様化に対応してきた。第三期は設備の償却期間を考えて2019年度までに大型設備改造を完了して活用を開始した。必ずしも先端技術ではないが、測定試料周辺の技術を含め、独自の創意工夫を図りつつ整備してきたことは、この共同体の目的に合致した取り組みと言える。次に詳細について見解を述べる。
 BL16XUの共焦点X線顕微鏡では、空間分解能タイプと高収量タイプの2種類のスパイラルスリットを用意することで分析目的に応じた選択を可能にするとともに、高エネルギー対応の大型二次元検出器の導入により感度向上が実現し、材料内部の非破壊評価を短時間で可能としている。分光マイクロX線CT装置では空間3軸とエネルギー軸によりミクロ領域の化学状態分析を可能としている。
 BL16B2のノイズフリーX線イメージングでは、視野を従来の2倍に拡大すると共に低ノイズ化も実現することで、大型試料の観察を可能にした。また、利用頻度が高かった16素子検出器の老朽化の対策として、25素子SSDを導入し、より希薄な試料への拡大適用が可能となった。また、大気非暴露実験装置も導入し実験の能率を上げるなど、学術のビームラインとは異なり、企業が抱える現実の課題に対応し、成果を出すために必要な機器整備が行われていることが特徴と感じられた。専用ビームラインの設置目的にあった整備が進められていることが認められる。

 

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 この共同体は業種の異なる13社が共同して運営する稀な利用体制であるが、第二期から引き続き、安全衛生、利用計画及び装置ごとにサブグループを設置する等の工夫で共同運営が円滑に行われている。安全に対しては以前からも評価が高いが、SPring-8全体の中でも模範にすべき取り組みであると思われる。しかしそれ以上に、新規設備立ち上げや装置調整等のサブグループ活動を通して放射光を活用する人材が育成されていることが重要であると考えられる。サンビームを経験した研究者が他機関や他施設へ異動し活躍されている例もあり、この共同体の活動が、放射光技術分野を支える重要な機関となっていることを再認識した。
 2017年10月に実施された計画審査において、各社平等での利用・運営の原則は理解するものの、共同体としての一層の成果創出のために利用・運営方法を工夫し、最適なビームタイムの配分を検討するようにとの意見が出されていたが、「緊急利用枠」を各社成果創出度に応じてビームラインを配分する制度を導入し、活用されている状況が報告され、運営法が改善されビームラインの活用が進んでいることが評価できる。
 オープンイノベーションの推進に関しては、共同体外のアカデミア等との連携については連携機関数が増加しているものの、成果への貢献があまり進んでいるとは言い難い状況であったが、光ビームプラットフォームに参画しているJASRIやSAGA-LSなど他の放射光施設とも協力して標準化に関する活動を進める等、努力は認められる。上述のようにサンビーム各社の中で人材育成と専門技術の蓄積・向上を進められている状況であるから、連携するアカデミアに対しても一層高度な技術を有し、かつ積極的な姿勢がなければ良好な関係が築けないと思われ、産学連携はサンビームだけではなく産学全体の課題であろう。その他、サンビームの抱えるニーズや課題は随時施設側と共有し、着実に解決を図っていくよう要望する。

 

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 「製品化・実用化とその成果の発信を行う」という当期の目標に対して、5件の実用化関連成果(2020年度ひょうごSPring-8賞受賞成果を含む)が報告され、さらに将来の製品化につながる研究開発成果が9件示されたことは高く評価できる。また、共同体の論文発表件数は、第二期の平均値11件に対して2018年は12件だが、共同体で各社の件数を定期的に共有する仕組みを構築した結果、2019年は34件、2020年は28件と増加している。共同体では一般の査読付き論文誌への投稿に加え、2019年よりSPring-8/SACLA利用研究成果集の活用も開始したが、全体に対する割合は3割にも満たない。2020年は年度末時点で査読中の論文が20件あったとのことで、投稿件数で見れば2020年は目標の40件を超えている実態もあることからも成果発信のアクティビティは大きく改善したと評価できる。しかしながら目標に対しては未達であるので、第三期後半も目標に向けて継続して努力して頂きたいとの意見が複数委員よりあった。一方で、目標の論文発表件数40件はSPring-8のビームラインの平均値であるとのことだが、企業利用者にアカデミアが大多数の平均値を求めることが妥当かの意見もあった。企業には新製品開発や製品の改良など、アカデミアとは異なる成果が期待されている。これに対して共同体は、新製品の開発や既存製品の改良に関する貢献を「産業利用成果」として公表する取り組みを進めていることが評価できるが、これに加え、特許にどうつなげているのかの状況が知りたいとの意見があった。こちらも産業利用で着目される視点として重要なことであるから、各参加企業の特許等の実績把握に努め、成果として情報発信して頂きたい。そのなかでも、特に製品化等に貢献した成果・技術については一般社会に向けた、プレス発表等が増えることを期待する。

 

4. 「今後の計画」に対する評価
 共同体第三期の設備面、運用面での取り組みは実績が現れて来ており、第三期後半も基本方針は継続で良いものの、論文による成果発信は実績が上がっているとは言え未達であったため、今後は目標を各社毎に設定して目標を達成しやすい体制を取られることであり、その進め方は評価できる。
 第三期終了後の計画に対しては、各社事業に一層貢献させるという視点から、基本的に現在と同様の専用ビームラインの継続案とそれとは異なる形態案の両面で検討中とのことであり、共同体から良い提案が出てくればSPring-8の産業利用を推進する良い雛形にもなり得ると委員から期待感を持って見守られている。施設側とよく情報交換をしながら、一層の成果を創出できるよう検討をお願いしたい。

以 上

 

 

広エネルギー帯域先端材料解析ビームライン(BL15XU)
専用施設事後評価報告書

 

 国立研究開発法人物質・材料研究機構(以下、NIMS)が設置している広エネルギー帯域先端材料解析ビームライン(BL15XU)について、2020年9月29日付け文書にて2021年9月30日をもって契約を解除する旨の申し入れがあり、2021年3月末をもって利用を終了したことから、契約に基づき6月1日に開催した第33回専用施設審査委員会において事後評価を行った。
 設置者であるNIMSから提出された利用状況等報告書、事前配布資料における委員からの質問等への回答、及び口頭による当日の発表にもとづき、ビームラインとステーションの構成と性能、施設運用及び利用体制、及び利用成果について、評価を行った。ビームラインとステーションについては、ビームラインの設置目的に合わせて物質・材料評価に有効なX線回折ならびに硬X線光電子分光にかかわる装置を集中的に整備し、効率的な運用が行われた。また、利用成果については、NIMS内の課題を積極的に開拓するとともに外部プロジェクトを効率的に取り込み、課題申請から解析・成果発表まできめ細やかな支援を行うことで、質・量ともにレベルが高い成果が得られていた。その結果、当初の設置目的を十分に達成した専用ビームラインであると評価された。
 以下、項目毎の評価・審査結果を記載する。

 

1. 「ビームラインとステーションの構成と性能」に対する評価
 本ビームラインは、円偏光用磁石列と水平偏光用磁石列の切り替えが可能な全長4.5 mのリボルバー型アンジュレータを光源としている。光学ハッチに二結晶分光器とその下流に切替式高分解能モノクロメータを配置することで、2.2 keVから36 keVまでの幅広いエネルギー領域において、単色X線の利用を可能にしている。測定装置としては、高分解能粉末X線回折測定装置、PDF測定装置、薄膜構造解析用6軸精密回折装置、硬X線光電子分光装置、試料自動交換・自動測定型硬X線光電子自動測定装置が整備されている。いずれも技術的には確立した実験手法であるが、ビームラインの設置目的に合致した、物質や材料の原子構造解析や電子状態解析に有効な装置群が集中的に整備されている。一方、これらの装置群で実施できない測定に対しては、共用ビームラインを相補的に利用することで選択と集中が機能し、ビームラインが効率的に運用されてきたことは評価できる。
 順調に稼働している装置は保守・点検を行い、また、少ないビームラインスタッフを疲弊させないようにビームアボート時の無人復旧システムの導入、波長変更後のビームの安定化のためにビーム安定化システム(MOSTAB)を導入するなど、効率的な運転を行うための整備も進めている。ビームタイムを有効に利用するための取り組みが継続的に行われてきたことは評価できる。

 

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 本ビームラインは、物質・材料科学技術に関する基礎研究および基盤的研究開発等の業務を総合的に行うことにより、物質・材料科学技術の水準の向上を図るというNIMSの設立目的に沿って、物質や材料の開発を解析・評価の立場から支援することを使命として施設が運用されてきた。NIMS内の研究者に対しては、利用啓発活動や課題申請の相談会を積極的に行うことで課題の掘り起こしを行い、2012年以降はそれ以前と比較して、課題数の総数を147%に拡大させている。また、外部共用を促進し、ナノテクプラットフォーム事業や元素戦略などの大型プロジェクトを積極的に取り込んだ結果、NIMS外研究者が利用するビームタイムも175%に拡大している。ビームラインには10名+αの常駐スタッフを配し、装置利用の支援のみならず、課題申請から論文執筆に至るまで幅広くきめ細やかな利用者支援が行われている。その結果、支援を担当したスタッフが発表論文の筆頭著者になっている事例も多く見られるなど、一貫したコンセプトのもとで利用支援が行われ、多くの成果創出につなげてきた運用体制は高く評価できる。また、2012年以降、11名の博士研究員を育成して輩出するなど、人材育成の面でも顕著な貢献が行われている。
 安全衛生管理に関しては、NIMSおよびSPring-8のガイドラインに沿って対応しており、安全管理状況調査結果を見ても特に問題はみられず、模範的なビームラインの一つであると評価できる。

 

3. 「利用成果」に対する評価
 研究対象としては、電子材料、磁性材料、触媒材料、電池材料を調べた論文が多く創出されている。具体的には、ワイドギャップ半導体、有機EL素子、High-k材料、磁気抵抗変化メモリ、空気電池、合金ナノ粒子、Pbフリー誘電体などの材料開発への貢献があげられる。また薄膜回折のナノ秒時分割X線解析システムの開発、磁場中の硬X線光電子分光技術の開発など、放射光科学への貢献も認められる。ビームライン利用による原著論文数が、2012年以降はそれ以前と比較して1.83倍に向上していることは注目に値する。また、NIMS内の研究に留まらず、機構外利用者に対しても広報活動を積極的に行い、ナノテクノロジープラットフォーム事業、東工大元素戦略拠点事業による共同研究を推進し、国際的レベルの成果創出につながっていることも特筆に値する。2012年以降は年平均で46.2報の論文を創出し、論文数において、専用ビームラインでは最上位に位置している。本ビームラインの設置目的に照らして、施設利用の方向性、成果としての論文の質および量の水準は高く評価できる。

 

4. 「総合評価」
 本ビームラインは、その設置目的に沿った多くの成果を創出し、当初の設置目的を十分に達成した専用ビームラインであると高く評価できる。設置者の内部事情により契約期間を満了できなかったことは残念であるが、明確な利用目的に沿った選択と集中、利用者支援に対する一貫したコンセプトの共有など、分野の盛衰を見極めつつ多様な利用を引き出し、着実な成果の創出へと導いた運用は特筆に値する。High productionビームラインにおける運用と支援のあり方について、一つのモデルケースを示したビームラインとして、高く評価した。なお、今後BL15XUは施設者へ譲渡されることになるが、施設者と十分に協議の上、引き続き利用者が不便なく利用できる状態でビームラインを譲渡することを期待する。

以 上

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794